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勝利は勝利なんだけどなんか疲れた

ブクマ・評価・いいねなどいつもありがとうございます。読んでいただけるだけでありがたいです。お楽しみ頂けると幸いです。

「ではモルクさんとイレブンさんはこちらで向かい合うように立ってください」

「はい」

「ああ、いいだろう」


俺の一回戦の相手はモルクという。家名は省いているが装備品とか立ち振る舞いがすごく貴族っぽい。賭けでもそこまで低倍率じゃなかったし、どう見ても強くはない。ついでに俺を見る目が侮辱感に満ち満ちていてとても鬱陶しい。


「イレブンさんは最近金級冒険者になられたということですが、期待の新人と冒険者組合では太鼓判を押されています。噂ではとんでもない活躍をしたということですが詳しく聞いても!?」

「いやあ、勘弁してください」


審判さんが人懐っこい感じの笑顔で聞いてくるがやんわりとお断りしておいた。あれは貴族を大っぴらに叩き潰しているから吹聴できるようなものでもない


「対してモルクさんは実力者であるとこちらも太鼓判を押されても出場です。しかし冒険者ではないとのことですが如何でしょうか?」


何も答えずに無視をするモルク。空気に耐えられなくなった審判さんはインタビューをやめてこの日16回目となるだろう試合前の説明を始めた。審判さんが説明し始めると少し違和感があった後、モルクが話しかけてきた。同時並行で審判さんの説明も聞く。


「貴様、分かっているだろうな」

「勝敗は降参の意思を示したとき、審判が継続は不可能だと判断したとき、場外に体の一部でも着いたときとなります。よろしいですか」

「は~い」


他の人のときに何度も聞こえていたから話半分で聞くで十分だ。いや、待てよ。審判さんは俺たちのためだけに何度も何度も同じ説明をしてくれているんだ。しっかり聞いた方がいいか。


「なるほど貴族たる私への礼儀が分かっているようだな。言われずとも私への敬意を持っているようだ」

「使って良いのは武器やスキルによる攻撃のみです。禁止事項として道具の使用は認められません。特に回復アイテムに関しては使用以前に持っているだけで反則負けです」

「大丈夫です。持ってません」


正確にはアイテムボックスに入っているので持っているが、外に出さなければバレないだろう。わざわざ使わなければ良いだけだし。


「分かっているのか分かっていないのかどっちだ!?」

「ダウンして対上がれない時はテンカウントを取ります。キッチリ立ち上がって戦意を見せてください」

「はい。見せます」


ファイティングポーズでも取ればいいんだろう。今日の試合でも何度かそんな場面あったしな。そういえば負けたがっていた奴らはこのルールを逆手に取れば良かったんじゃないのか?


「では、試合が始まったらすぐに乱打戦に持ち込むぞ。うまくタイミングを合わせて私を勝たせろ。いいな」

「説明は以上です。ちゃんと聞いてもらえて良かったです。皆聞いてくれなくて辛かった」

「気持ちは分かります。俺も気を付けるんでがんばりましょうね」

「ふむ。多少変だがいいだろう」


そう言ってモルクは魔道具のスイッチを切った。モルクの声を周囲に聞かせず俺だけに届ける魔道具みたいだ。ついでに多少混乱の状態異常も付与するかのような効果が付いている。この場合第三者の審判さんの声は通すがモルクの声は俺だけにしか聞こえない。しかも俺に対しては正気を失わせるような効果がある。

なぜそんなことをするのか?推測だが仮にも俺は金級冒険者の称号を受けている。しかも前情報としては突如現れた実力不明の人物なわけだ。それでも俺に勝てば金返しだ。相撲で言うところの金星を挙げたことになる。一躍有名人になれるのは間違いない。モルクはそれ狙いなわけだな。

前情報から判断するとモルクは冒険者では無いが予選勝ち上がりでもない。何やら期待の戦力という肩書きで無理矢理挟み込まれたかのような感じだった。くじ引きは公平だったはずだから俺に当たったのは偶然のはずだ。


当然ながら最初から俺に混乱の効果なんて無いし、俺に妨害系の魔導具の効果があるわけが無い。奴の話は半分に審判さんの話を聞いていた。両方共の受け答えが成立したのは奇跡的なことと言える。

これで審判さんの仕事は真っ当な審判の仕事だけが残る。モルクには満足感が残る。あとは俺の仕上げにかかっているわけだな。


「では本日最後の第十六試合を始めます!」


観客たちは疲れも見せずに盛り上がってくれている。期待の内訳は金級の俺がどうか使ってこともだけど銀返しも何度かあったからもしかしてを期待しているのかもしれない。


「がんばれ~!」

「やりすぎんなよ~!」

「説教は許して…」


観覧席から一部は違うが応援の声が聞こえる。あそこからモルクの妨害も見えなかっただろうからありのままの声が聞こえる。手を振って応えておく。


「では、両者構えて!」


モルクは刺突に特化した剣を抜いて構えるが、俺は何も持たないまま構えに見えるように無手のまま軽く構える。


「はじめ!!」


掛け声とともにモルクが下卑た笑いを浮かべて襲い掛かって来る。最初は乱打戦だと言っていたな。構えを解いて立ちすくむ。予定と違うと動揺が見えたが、変わらずに待つ。


「混乱が悪い方に働いたか?えぇい、知るか!食らえ!」


切っ先がいくつにも分裂したように見えたまま突進してくる。そこそこの強さであることは間違いない。自分で魔物を倒していないと身に付かない攻撃の意思が垣間見える。先日のあのバカ貴族の息子とは違うな。えっと、名前は忘れたけど。

しかし、馬鹿正直に受けるつもりも無いので立ったまま剣の横から叩いて突きの進路を変えて当たらないように調節する。


「何だと!?」


動揺しつつもそのまま突きの乱打はやめないのでそのまま回避行動を続行する。


「ちっ!貴様、まさか!?」


初撃をいなされたことで少し距離を取ったが、角度を変えて今度は切りかかって来る。同じように振り下ろす先が変わるようにそっと行き先を変えてあげる。ポイントは剣の腹をそっと押すことだ。完全に見切らないと出来ないことだけどいつ気付くかな。


「混乱が効いていない!?正常なのか!!」

「その通りだよ。なんでこんなアホみたいなことをしたのか聞いても良いかな?」


審判さんには聞こえないように小声で確認されたので応じてあげる。


「低能な平民が私と対等な口をきこうとするな!武闘大会での勝利は我ら貴族にこそふさわしいのだ。しかも貴様なんぞが金級だと明らかにおかしいだろう!その称号を私に寄越せ!」

「いや、個人に渡されているものを勝手に譲るなんて出来ないよ。自分で勝ち取ってよ」

「うるさい!だから回りくどくてもこういう形で強さの証明をしているんだろうが!」

「えっと、魔道具使って相手を妨害しようとすることが証明?」

「どんな形だろうと勝利は勝利だ!」

「そうですか。ということらしいんですけど、審判さん。この人って出場資格ありますかね?」

「は?」


深刻な顔をした審判さんが一言告げる。


「試合を止めます。モルクさん魔道具を使っていたとはどういうことですか?」

「なっ……!そんなものは使っていない!」

「その言い訳は通用しません。先程のお二人の会話は会場中に聞こえています」

「なんだとーーー!?」


渾身の叫びを決めてくれたところで最近開発した魔法を体験させてあげる。


『混乱が効いていない!?正常なのか!!』

『その通りだよ。なんでこんなアホみたいなことをしたのか聞いても良いかな?』

『「低能な平民が私と対等な口をきこうとするな!武闘大会での勝利は我ら貴族にこそふさわしいのだ。しかも貴様なんぞが金級だと明らかにおかしいだろう!その称号を私に寄越せ!』

『いや、個人に渡されているものを勝手に譲るなんて出来ないよ。自分で勝ち取ってよ』

『うるさい!だから回りくどくてもこういう形で強さの証明をしているんだろうが!』

『えっと、魔道具使って相手を妨害しようとすることが証明?』

『どんな形だろうと勝利は勝利だ!』


「ってことで風の魔法を応用した録音と再生でした。ちなみにさっきは会場中に爆音で会話を流しておいたよ。小声だと思っていたのはキミだけさ!」


イレギュラーな形で出場をして来たということは何かしら汚い圧力でもかけられていたのだろう。しかし、せっかく出場したというのにこんなに非道なことをしたのでは同じ方法で出て来る者は二度と出ないどころか口利きをした人物にもメスが入るんじゃないだろうか。賭け金か名誉が目的かな?真っ当に目指さないから痛い目を見るんだよ。


「モルクさん。あなたには聞きたいことが色々とありますので、試合はイレブンさんの不戦敗とさせていただきます。少し来ていただけますか」


審判さんが話を終えて近づいてくる。対してモルクは自分の置かれている状況をしっかりと把握したようで怒りのためか血管から血が吹き出そうなぐらいに怒り心頭のようだ。


「ふざけるな!」

「あぶない!」


審判さんに向けて剣を一閃する。さすがに庇わないと切られていたので身を挺して審判さんを庇う。


「す、すいません」

「まあまあ気にしないでくださいよ。それにしても危ないなぁ。自分のしたことの報いなんだから大人しくしなよ」

「ふざけるなふざけるなふざけるな!!!私に生意気な口をきくなああ!!」


自信のある攻撃なんだろう。最初の刺突攻撃が来たので今度は動いて躱す。ついでに審判さんは背中に隠して移動している。


「審判さん、とりあえず完膚ない感じに叩いて俺の勝ちってことにしても良いですかね」

「イレブンさんの勝ちはもう確定してますので、どんな感じにでもしてください!」

「聞きましたからね!」


言質をとって審判さんを安全な方向に投げ、着地は風魔法で着地させると俺は攻撃に移る。ダメージ千分の一は外して殺さないようにだけ気を付けることにしよう。

怒りに我を忘れて、いや忘れたことにしたいのかもしれない。これからの彼の立場を思うとどんなことになるのか…。


「ざまあみろとしか思えないな。まあいい」


襲ってくるモルクのまずは剣を持った手を蹴り上げる。剣から手が離れた。突然の痛みと状況に処理しきれなくなったモルクは固まる。秘奥義を使うまでも無いか。


「特に技名は無いんだけどね。つけるとしたらタコ殴りかな」


まずは顔面に一撃いれる。本当なら一発だけで良かっただろうけど、俺じゃなかった場合は大変なことになっていた可能性がある。今後同じことが考える奴がいないように死なない程度にボッコボコにしよう。


~場面省略~


闘技場の舞台が割れて埋まるくらいには痛めつけたので俺がどれだけ怒っているのかは背後にいたであろう人物にも伝わっただろう。

治癒の仕方によっては深刻にダメージが残るだろうけど、出場するときの注意点であったことだし承知の上だろう。


ボロ雑巾のようになったモルクを審判さんが確認する。


「勝者!イレブン!」


ドッと観客が盛り上がり祝福してくれる。おぉ、勝者になるとこんなに称賛してもらえるのか。いや~、審判さんは複雑そうな顔をしているね。分かるよ~。モルクがどんな状態になっているか観客からは見えないようにモザイクみたいな感じにしてるからね。

殴るところも観客からあんまり見えないように速めに処理したし。見えてたとしたら上から見ているリセル達くらいなものだろう。だったら問題無し!


以上俺の一回戦でした!


本当に貴族って良いやつとイヤな奴の乖離が激しすぎるんだけど…。

お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。

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