武闘大会といえば賭けもしているらしい。あとティートの戸惑い
ブクマ・評価・いいねなどいつもありがとうございます。読んでいただけるだけでありがたいです。お楽しみ頂けると幸いです。
誤字報告頂きました。いつもありがとうございます!
本戦用のくじ引きは終了した。これから公式に誰が一位になるかという賭けも行われるらしい。一本銀貨一枚からで、出場者が賭けるのは禁止されているので俺とトワは買いに行ってはいけないそうだ。
「イレブン一択だな。全財産ぶっ込んでも良い」
「過剰期待だと思うんですけど」
「冗談だ、さすがにしねえよ。研究の材料だって特に困ってないからな。お祭りへの参加気分ってことで買っておくだけだな」
「そんなもんですかね」
自分が賭けの対象になっているのは久しぶりだ。ゲームの時もあったシステムだからな。運営主体から国家主体にシステムが使われているようだ。対抗勢力が必ず複数あってあのときは面白かったんだけどな。今回に関しては俺が初出場の未知の実力者として祭り上げられているようだ。対抗勢力になりそうなのがいないもんな。それが残念だ。
かつてのチャンピオンの気持ちで考えてしまった。前回チャンピオンは参加してないんだろうか。
「事情通とかいないのかな。去年のチャンピオンとかいないか聞いてみたいんだけど」
「それなら聞いておいた。いないらしいぞ」
「え~~。そうなんですか…」
ロイーグさんは2日目に関しては観覧席でずっと見ていたわけでは無く、ずっと外で情報収集をしていたらしい。そこで1日目を受けて有望な出場者の話と予選免除になった俺達みたいな出場者の話を一通り聞いてきたそうだ。
「前回のチャンピオンは今回は出ていないそうだ。何でも貴族の相手が面倒で逃げたらしいぞ。2位のやつもな」
「う~わ、面倒だなぁ」
「ふむ、優勝する気満々だな」
「知ってるだけで言えばトワが要注意で、その次にサティさんとデテゴだけど負けるつもりは無いんでね」
「だが、実際の一番人気はボナソンだ」
「そうなんだ」
「前回3位だからな。今年こそはリベンジだという気合で臨んでいると噂されている」
「俺とトワがいることを聞いたらイヤな顔しそうだなぁ」
今度のトワは本気でやることになるから簡単には勝てないが、当たらないからその心配は無いな。どちらにしたところで当たるのはサティさんが先なんだけど。
「それは俺には分からないがな。だからボナソンとサティアーナが当たるところが事実上の決勝戦だと言われているな」
「へ~」
「ついでに決勝戦はデテゴ対サティアーナだと言われている。同じ金級でもイレブンは急に現れたからな、実力がまだどんなものか知れ渡ってないんだろうな」
「そりゃあ王都では実質無名だからね。まあ好きに言わせればいいさ。評価されないと死ぬわけでも無いし」
「実力を見せれば分かるってところか」
「技で見せるって感じじゃないかもしれないのが申し訳ないけどね。細かいことを考えるよりも力で押す方が楽だし」
「その辺りが見せ方なんだろうけどな。まあ負けることは想像すらしてないよ。がんばってみな」
「そうしますよ」
試合は翌日からだ。ひとまず帰ることにしよう。
☆ ★ ☆ ★ ☆
【ティート視点】
ティートは不思議だった。
「リセルさん、イレブンさんが優勝するみたいな話をしてましたけど本当なんですか?」
「たぶん、最初から負けることを考えて出場する人はいないんじゃない?」
そういう感じだったかと不思議に思う。イレブンさんもロイーグさんもどう考えてもイレブンが優勝するという話をしていたように思う。
故郷の村で武闘大会の話を聞いた時、そう簡単に優勝できるものではないという話を聞いていた。普通なら一撃で大ケガをしてしまうような一撃でも決して倒れずに打ち合うような試合があるかと思えば、極たまに魔法使い同士の試合はふしぎな作品を見ているかのような気持ちになるほどきれいな試合になるらしい。これも大ケガを負うことがあるらしいが。
たいへんなことになった村から連れ出してくれたイレブンがとてつもなく大きな人物であるとは思っていたが、大きなウソをつくとも思っていない。みんなの自信がどこからくるのか不思議で仕方がない。
「あ、意地悪な言い方しちゃったね。ごめんごめん。でもイレブンが勝つと思ってるよ」
「そうですか…」
どうやら自分ではよく分からないくらい何かがあることは確からしい。
「前にも言ったじゃない。イレブンはコトシュさんとロイーグさんが住んでいた国を一人で潰しちゃったんだから、そう簡単には負けたりしないよ」
「うん」
その話自体が信じられないのだが。自分たちは村を潰されて悲しかったが、国丸ごとを潰されてどう思うかというと話が大きすぎてよく分からない。
ロイーグさんはあのときに止めておかなかったらこの国があぶなかったと言っていたからイレブンさんのしたことが大きく見れば正しいことなのだと思う。
イレブンさん達はこわい人かと自問すると答えは1つだ。全くこわくない。むしろ気を使われ過ぎていて謝りたくなる。
「どうすればいいんだろう」
「とりあえずは慣れるしかないね。でも悪いことしない限りはイレブンに怒られることは無いからそこは気にしなくていいよ」
「そうじゃないんだけどな…」
リセルさんも十分ズレている気がするけど自分が言ったところで修正できるとも思えない。そうなると……、どうすればいいのだろうか?
「ティートは何を考えてるの?」
そういえば一緒にいるセラはこの状況をどう考えているのだろうか。
「セラは、どう思う?」
「どうってイレブンさんが優勝するかって話?」
「それも含めていろいろだよ」
「う~ん……」
そう言って考えてくれている。数日とはいえセラが蓄えてくれていた食糧で生き延びられた。細かい作業は自分もやっていたけどあの数日はセラのおかげだったな。
「もう考えても分からないことだらけだもの。この人たちがそう言うならそうなんじゃない?」
「え?」
「だって村が焼かれたときに私の今までの常識なんて無くなったよ。まだ今を受け入れられてないのかも」
「まあそうだよね」
死ぬ瞬間を見たわけじゃない。だからうまくいけば両親も村の大人たちも生きているのかもしれない。向こうからすると自分たちの方がいきなり消えてしまったのだろうなとも思う。
「よくお父さんが言ってたよ。生きるためには安定と冒険が必要だって。命がけで生きたんだもの。この安定をもらえる状況だけは感謝してるよ。そう信じるしかないじゃない」
「そうだね。だったら疑問に思わずにそのまま信じることにするよ」
自分が思っていたよりも幼馴染は今の状況を受け入れていた。いや受け入れるしかないと考えて実行していた。
自分たちの現在を受け入れるのは笑顔しかない。失ったと思われるものを希ってももうこの手に戻ることは無いとわかっているから。
「あれ?二人ともどこ行ったのかな?」
「あっち」
リセルさんが探してくれていて、トワちゃんがすぐに見つけてくれた。すぐに呼んでくれたので走って追いかけて行く。
「いた、はやく行くよ~」
「「は~い」」
「ほら、行こ」
「うん!」
まだ傷とも思えない傷を抱えながら走って行く。
☆ ★ ☆ ★ ☆
はい、今日から武闘大会の個人戦が始まります!昨日の夕食はカツ攻めでした。願掛けの話をしたらみんなが乗ってしまったのだ。しかし一番作っていたのは俺だという点に物申したいところだが、まあ良しとしよう。
昨日は個人戦の戦い方についてロイーグさんが集めた情報を教えてもらっていた。個人戦は割とおとなしめなのが例年のことらしい。どちらかというと団体戦の方が目立つことになるらしいのだ。
どんな戦い方にするかはその時々で違うらしいのだが、団体戦のために力を温存したり戦い方を隠していたりする人が多いらしい。先にバレると確かに面倒だよね。
その点俺は気にする必要は無いな。力押しだけでもそこそこ勝っていけるだろうし、戦い方もそこそこ色々手段を持っている。対策されているなら違う戦い方に切り替えれば良いだけだ。
目立ち過ぎると後が面倒になるから気を付けろと言われてしまったが、団体戦までいけばそうそう面倒なことにはならないと思いたい。
でも個人戦の前年チャンピオンが貴族の勧誘に辟易して今年は不参加だし、もしかすると同じ目に遭うのだろうか。ザールさんで防げない相手っているのかな。まあ優勝してからのことは優勝してから考えることにしよう。
昨日と同じ観覧席はまだ席が空いているとのことで入れてもらった。何人か座っているが、今日は相手が貴族みたいなのでティートとセラには大人しくしておくように伝えておく。
「何かあったときには周りにいる大人たちを頼るんだぞ」
「はい」
「わかりました」
ティートはロイーグさんを、セラはコトシュさんの横にそれぞれ座った。俺も出場者のところに行こうとしたらリセルが肩を叩いてきた。
「初戦がトワちゃんからだから見る気持ちが沸いてくるね」
「しかも相手はバイスのお付きのグーボンだもんな」
「どんな戦いになるのかな」
「見てのお楽しみではあるが、予想は付くな」
「聞かずに見学してるよ~。あとさ」
「何?」
「イレブンはいつ行くの?」
「今から行くよ!」
リセルに近づいてくる奴は遠慮なく威嚇するように糸太郎とソウガに指示を出して会場を見ながら出場者口を目指す。
途中で賭けの人気を確認していくが、やはり一番はボナソンで、今年こそは優勝と銘打たれている。そんなに言われるほどチャンピオンは分厚い壁だったんだなと思うと共にボナソンが慕われていることを感じさせてくれる。
その次はやっぱりサティさんだ。知っている人は知っているって感じみたい。意外だったのは3番目がデテゴだったことだ。やっぱり二つ名が銀級最強ってのはインパクトがあるらしい。
俺はその中でも5番目とほどほどの位置だった。金額によって倍率が変わるのは分かっているが、自分で賭けたくなる倍率だった。自分で賭けてはダメなのでスルーして歩いていく。
なぜ自分で賭けてはいけないかの理由だが、ちゃんとロイーグさんに聞いている。昔は禁止されていなかった時代もあったそうなのだ。ちなみにゲームでも禁止されているよ。
転機となったのは冒険者のライバル同士の争いで見栄を張って一番人気を争い合ったそうなのだ。ものすごく仲が悪かったらしく、パーティのお金や自分の装備まで借金の抵当にしてまで自分にかけていたそうだ。
これで残酷な話なのは両方ともが決勝に残れずに敗北してしまったんだ。後に残されたのは倍率をみて人気だとかけていた人たちの恨みと借金のせいで冒険者として活動を続けていけなくなった2つのパーティだ。
どうにか国軍を動かして暴動にはならなかったものの、危ないところまでいったらしい。それからは自分にかけるのは禁止で上限額もある程度決められ、賭け目的での借金も禁止された。
今でも賭けに金を貸している闇組織はあるらしいが、必要悪だな。そこまでして金を借りる奴が悪いと見なされているようだ。公式にはしなくなったというだけだいぶマシのようだ。
「ま、金の貸し借りは金額に限らず自分が責任を負える範囲にしましょうってことと賭けは周囲の迷惑を考えて、身の丈をきちんと確認して行うべきだ」
としか言いようがない。さっきのパーティ2つが最終的にどうなったかまでは知らない。そこそこ前の話だと聞いた。
さて、出場者のチェックを終えて控室に入った。個人で用意されている部屋と会場を見える位置と用意されているらしい。当然ながら様子を見たいので個人部屋には入らずにそのまま会場に入る。
「第一試合を始めます!!」
ちょうど始まるところだった。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。
さあ大枠は考えているけど中身は何も詰めてない大会が始まったぞ~。




