ティートの涙
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「じゃあ保護してきた2人はイレブンたち『神獣の遣い』が好意でそのまま引き取ってくれるということで良いな」
「任せてください。で、他に依頼があれば引き受けますけど?」
依頼料と内容が釣り合わない誇りある依頼で引き受けていたが、役に立つのであればいくらでもやっても良いと思ってしまった。ちょっとやる気が出て来ているのだ。しかしネマさんは首を横に振る。
「いや、急ぎの仕事はそれだけだ。あとは貴族の無茶ぶりとかが多いだけだからね。それにこれ以上大会前にお願いするのも気が引ける。また終わってから何かあればお願いするよ」
「了解です。本当に誰かが困ってるのであれば積極的に受けますから言ってくださいね」
「ああ、助かるよ。ありがとさん」
こうしてティートとセラの二人を代わりに預かることになった。最終的にどうなるかは本人の意思に任せたいところだが、8歳って小学生低学年でしょ?さすがに自分がどう生きるのかを決定するには早いと思うからただ預からせてもらうだけにしておこうかな。
放っておいたら冒険者になるとか言い出しそうだからな。はやくグレイブ村を何とかしていろんな職業をみせてあげないとな。
と、そう思ってた時期が俺にもありました。
別の日に退避していたみんなと合流してティートとセラを二人が言いだすまでは預かることが決まったことを伝えた。セラはすっかり仲良くなっているから問題無しだ。
ただ、代わりにティートの様子がおかしい。目付きが何となく鋭くなっている気がする。まるで敵を見つけたかのようだ。
「ティ「イレブンさん」っと、セラか。どうした?」
タイミング悪くセラが話しかけてきた。今まで距離がある感じだったから彼女から話しかけてきたのは珍しい。
「あの、はじめて会ったときから失礼な態度ですみませんでした。お世話になるのにこのままじゃいけないと思って」
「気にしないで良いよ。これくらいしないと信用されないだろうって思ってたし。いきなりだから信用できないのも当然だからな」
「ティート共々よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
「俺からもよろしくお願いします」
「ああ」
ティートも挨拶をして来た。相変わらず違和感は拭えないが、皆の前でとりわけセラもいる前で根掘り葉掘り聞くわけにもいかない。それは元からか。タイミングを見るしかないな。
「じゃあ戻ろうか。まだ合わせていない人たちがいるし、明日は少しおとなしめにだが歓迎会でもしよう」
いきなり環境が変化したことで起きる症状とかがあるだろうしな。せめて日中は太陽の光が浴びられるところでゆっくりと過ごせるようにしようかな。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「というわけでコトシュさんとロイーグさんに来てもらいました」
「誰に言っているんだ」
「まあ誰でもいいじゃないですか」
少しティートの相談がしたくて二人を呼んだ。
「新しく保護した2人ですがどう思いますか?」
「年齢の割にはしっかりしていると思うぞ。私たちの母国は子どもは保護すべきものという風潮があるから子どもっぽさが抜けにくいが、自分のことは自分でするし」
「そうだな。孤児院暮らしの俺たちからすると甘えてんじゃねぇってことも色々あったが、あの2人にはそういった感じが無いな」
「お二人とも孤児院で育ったんでしたっけ。忘れてました」
「気にするな。気が付けばというヤツだ」
「そうそう。寂しいと思うふれあいの記憶がねぇよ」
ぐう。話の入りを間違えてしまった。一度聞いたことを忘れずにいれる頭が欲しい。
「すいません。で、ティートの話なんですけど」
「ああ、彼か。彼を見ていると懐かしいな」
「そうですね。子どもでああなるのは悲しいところがありますけど」
二人とも俺よりも詳しくティートの表情に見覚えがあったようだ。
「何かありますよね!?あれって一体…?」
「あれは恨みの表情だ。察するに村が滅びる原因に繋がる何かを見つけたのではないか?」
「いや、ティートはそんなことは一言も言ってなかったですよ」
「俺から見ても敵を見つけたって感じの顔だなと思ったぞ。イレブンにはあまり見覚えは無いか?」
「それが、ものすごく黒い感情を発しているのは分かりまして。それで2人に相談してみたんです」
感情を見ていたら気が付いたら穏やかな彼らしい感情が一気に黒く塗りつぶされていて驚いたのだ。
「何かをするなら早くした方がいいぞ。恨みというのは厄介では上官の命令を無視して特攻をかける場合がある」
「軍人の子どもが孤児になって軍人になる。こっちだと冒険者がそれにあたっちまうのかなぁ。そんな因果は出来る限り作りたくないもんだよな」
冒険者だって死ぬときは死ぬ。そういうことが言いたいのだろうか。それはともかくティートを呼んできて4人で話をすることにした。
「ティート、話が聞きたい」
「少年、よろしくな」
「よ、よろしくお願いします」
席順はコトシュさんとロイーグさんが横並びで、その正面にティートが一人で座っている。俺が離れたところで一人で見守っている。いや、一つだけ出来ることをしよう。飲み物の給仕だ。
大人二人はコーヒーだ。コトシュさんはブラックで、ロイーグさんは砂糖とミルクを入れる。ティートにはミルクティーを淹れた。俺はティートに淹れた残りをもらっておく。
俺も家族を亡くしたことはあるけど病気だ。しかもあっという間だった。誰を恨めばいいかなんて考える間もなく過ぎ去ってしまった。
ティートは明確に恨む相手がいる。そんな相手に何を言って良いか分からずコトシュさんとロイーグさんに任せた形だ。そうすると二人は他大陸の人間であることを含めて俺も知らないことも話し始めた。
生まれは違うが、戦闘で親をなくして孤児院で成長したこと、国は違うが育った上で冒険者らしきもの(軍人)になっていたことを話す。しかし、上が間違ったことをして疑問をかんじていたところに俺と縁があってここまでついてきている。
「焦らず今は出来ることをするんだ。命を救われたならまずそっちの恩を返すことが先だ。しかし、どうしても捨てきれない思いがあるなら言ってみろ」
「そうだぜ。大人は子どもの願いを偶に聞くものだからな。お前と俺たちは今がそのときっぽいぞ」
ロイーグさんが要求してきたので。もう一度コーヒーを準備する。見るとティートも大体飲んでいたのでお代わりの準備をする。ちなみに豆や茶葉の提供は獣人の村です。ちゃんと買い取ってますよ。
尋問なら飲み物を飲むと言いたいことを飲み込むらしいが、この場合の2人はティートが話し出すまでずっと待っていた。なんとなく孤児院で2人が慕われていただろうことを感じ取った。
ティートは泣きそうな表情でポツリポツリと話し出した。
「あのとき、イレブンさんに助けてもらえたから、ここにいるのは分かってます。………ですが、村に来ていた冒険者があいつだったんです。ゾルガンって呼ばれていたやつです」
あいつか~~~~~。
「俺は宿屋の息子です。一度見たお客の顔を見間違えることはありません」
「装備を外してたから見まちがえたってことも……ないか。だが、あいつがいたからどうってことも無いだろう」
2人には何があったか概要は話していたけど詳細にでは無いからな。
「俺も聞いただけなんですけど。聞いた話だと一応フレアワイバーンは亜竜種だけど金級が出動するレベルだそうですよ。群れならあいつが10人いても無駄でしょうね」
「それでも!あいつが何かをしてくれたら、誰かがだすかったがもじれないじゃないですが……!」
ティートが嗚咽交じりに吐き出す。コトシュさんが移動して横に座り背中を撫でる。俺は動き出しが一歩遅かった。その後はティートが泣き止むのを待って続きを聞く。
「どれだけ経っても自分であいつから真相を聞く気でいました。逃げ出すことは恥だと思うから勝負で勝たない限り本当のことは言わないと思ったんです」
「ははっ。イレブンを頼ろうとしない辺り、頑固だな」
ロイーグさんが茶化すのでコトシュさんが睨む。口笛吹けてないぞ。一応助け舟を出す。
「何があったかを聞くだけでも良いんじゃないのか?」
「そう言うが聞いて満足するのか、ティートは」
まずはコトシュさんから。
「あいつが逃げ出したせいで救えた命があったと考えてはいないか。ましてや何かの原因であいつが呼び込んだ可能性があるとしたらどうするんだ?正直に全部教えてくれると思っているのか」
次にロイーグさん。
「厳しい言い方をしてるけど、覚悟の問題なんだよ。イレブンに丸投げしてもいいが、それならもっと早く言っていただろう?自分でやりたいと思っているってのが危険なんだ。強くなるのは時間がかかるし大変なことだ。それに必要なのは自分が死ぬことの覚悟じゃない。誰かに悲しい思いをさせることは覚悟しているか?戦うことを仕事に選ぶってのはそういうことだぞ。一度踏み込むと色々としがらみが出来て抜け出せなくなるもんだ」
軍人ってのはあるだろうけどたぶんかなりマイルドに言ってくれてるよな。ティートもそこまでの覚悟がすぐにできるほどではなかったか。涙を流して我慢してるな
「………父ちゃんと母ちゃんが作ってた、来る人が幸せになるような宿屋を、俺も作りたい…です」
「じゃあ、イレブンに任せておけ。そのゾルガンってやつが何か後ろめたいことがあるなら泣いて謝らせるくらいのことをする男がイレブンだ」
良いことは言ってるんだろうけど、俺には少しけなされているような気がするのは気のせいかな。
「それにティートは賢いぞ。イレブンなら後先考えずに突っ込んでいくからな。考えて踏みとどまることが出来るならあいつよりも大人だ」
ねえ、コトシュさんも。あなたたちは俺をけなさないとティートの励ましが出来ないんですか?
まあ、これで一方的に因縁が出来たな。武闘大会で戦うことが出来ればそのときに、そうでなくても終わってから問い詰めてみますか。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




