ティートとセラに関係してあれこれ
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ワイバーン。
前の世界では存在しなかった架空の生物。前肢と翼が一体化している竜の亜種のような生物だ。いろんなファンタジーの世界に出演しているが、現実だと考えると恐ろしい生物になるようだ。普通の村は襲われると壊滅する生き物になるのか。
燃えた跡があることを考えると火でも吹くのだろう。それが群れで襲ってきたとなるとひとたまりも無かったのだろう。ん?
「村に護衛はいなかったのか?」
「狩人のおじさんを中心に村の男たちがかわりばんこでやってた。あと、冒険者がいたはずだけど、どうなったのかは分かんない」
一緒にやられてしまったか、逃げ出したか。現状では何も分からないな。
「村の中に誰かいないかは後で確認しておく。中を見るかどうかはもっと明日明るくなってからにしよう」
「………」
返事は無かったが、了承してくれたのだろう。暗いうちに見ても何も分からないだろうから。
従魔隊のところに戻ると大きい状態のソウガにセラが悲鳴をあげてしまった。警戒していたから仕方ないことなのだが、ソウガは見たことないくらいショボンとしている。俺たちが戻ってきたことで安全と確認して小さくなった。福来と糸太郎も加わり、従魔隊の見かけもあって2人にはなんとか受け入れられることになった。
夕食に関しては2人を加えて全員で作り、パンと具入りスープという消化に良さそうなものにした。これで無理なら果物を出そうと思ったが、2人ともしっかりと食べ終えた。温かい食べ物が久しぶりだったようでそれはすごく喜んでくれた。喜びの表情ではなかったが安心はさせられたように思う。
食事中に聞けた話は1つだけだ。森の中で食べられるものを採取するのを普段から子どもの仕事になっていたらしく、そのおかげで生き延びられたようだ。あとは洞穴の中に食料も少し隠していたらしい。そこからは嗚咽で言葉にならなかったので俺たちも一緒に食事を取った。
最後に口直しで果物ジュースを用意しようとしたらセラはリセルの服のすそを掴んで寝てしまっていた。ティートも頭をグラグラと揺らしているのでソウガを枕にあてがうとすぐに寝息を立てて寝始めた。
「リセル、ここは頼んでも良いか?」
「いいよ。皆いるしね」
「私は一緒に見に行く」
物理的に動けなくなったリセルは仕方ないとしてトワは村の中を見に行くのに同行したがった。
「あんまり気分の良いものじゃないぞ」
「冒険者をやるには死は避けて通れない。私は逃げたくない」
そう言われてしまうと俺の方が覚悟が出来てなかったんじゃないかと思わされる。罪ある人間が死ぬのは何とも思わないが、普通の生活をしていた人たちが死ぬのは何ともやりきれない。とはいえ人手があるのは助かる話だ。
「暗い状態でもちゃんと見えるよな」
「昔取った杵柄」
「年齢を疑うことを言うな」
村の中に入って確認したが、家の形をしている物が残っていない。壁や柱が焼かれてしまい、屋根も燃えカスが残っているだけだ。
残った跡を確認して見るが大きな鋭い爪で付けられたような跡だ。それにあまり足跡が残っていない。時間経過もあるかもしれないが、歩いた感じじゃない。いきなり上から着地したかのような感じがする。
言葉だけでは信じられなかったが、空を飛ぶ大きな爪を持ち火を吹く生き物がいたことだけは間違いないようだ。
いくつかの跡に入って確認してみたがすべて燃えてしまっておよそ誰かの生き残った痕跡すらは残っていなかった。
「ワイバーンって群れで人間を襲うような魔物だったか?」
「まず火を吹かない。火を吹くのはフレアワイバーン。こんなところにはいないはずの魔物」
「……似たような事件をこの前に体験してきたよな」
「した」
「明るくなってから再調査だ。人が手を下した痕跡を確認する必要がある」
☆ ★ ☆ ★ ☆
翌日朝。
二人が起きて来る前にもう一度痕跡を探すことにした。今度はソウガも連れて来て臭いを確認しておいてもらう。ここで珍しいものを見つけるというよりも特徴あるにおいを戻ってから確認できるようにだ。
ただ痕跡を探そうにも執拗に焼かれていることだけが分かった。宿屋は特に念入りに焼かれていてティートも洞穴にいなければここで被害にあっていただろう。改めて確認したが村の建物も全てが壊された上で焼かれていることだけが分かった。
村の一番奥がセラの家、村長の家だと聞いた。そこも同じようにされている。家は焼かれているが、家の周りの木の柵は残されている。そこにもたれかかって考えているとトワに声をかけられる。
「イレブンは何を考えているの?」
「魔物がやったにしては家だけを丁寧に燃やし過ぎだ。誰の死体も残っていないのも気になる。言い方は悪いが食べ物を残さないっていう倫理観は人間だけじゃないか?フレアワイバーンが人間を食べるにしても雑に食べるような気がする」
骨が固くて食べれないからまずが振り回す、みたいな感じだと思うんだ。そうなると手や足の先が千切れてしまってそれだけが残される、みたいなことにならないだろうか。
フレアワイバーンの群れがそういうことをせずにきれいに人間を食べる群れだったと考えるよりかは現実的な考え方がある。
「フレアワイバーンの群れを使役していた何者かがいて本当に人間を食べさせたか、もしくは無事なまま村人たちを攫って行ったか」
「じゃあセラやティートの家族は生きてる?」
トワがほんの少し希望を感じたように声が明るくなる。俺もそう願いたい。
「邪獣人にするポーションがあっただろう。繋がりがあった場合は実験台にされる可能性がある」
「……そっか」
「だから2人を助けられただけ良かったと思おう。俺たちで面倒見れなくてもグレイブ村で引き取ることも出来る。王都の孤児院に入れるのでも良いしな」
「……分かった」
任せるのが嫌だから村に連れて行きたいけど。それにしてもトワが珍しく積極的だ。いつもなら甘やかされる立場だったのに二人の世話を焼こうと見えるところ、見えないところでがんばっている。年齢も近いし思うところがあるのかな。
朝食を済ませ、2人に村の中を見せた。村の中は少しだけ俺たちで掃除していたので人の手が加わっていることを違和感なく受け入れてくれた。2人がどんな様子だったかは詳しく教えない方が2人のためだと思うので内緒だ。
思った通り何か思い出になりそうなものも回収することが出来なかったが、家の一部として木材を切り出してそれぞれが持ち帰ることにした。あとは秘密基地の中にあるものは全て回収してきた。リセルが同行してマジックバッグに収納している。俺は中には入れてもらえなかった。解せぬ。
また2人が来たいと思った時にすぐに来ることが出来るように思い出の楔も村の入り口近くに埋めておいた。
帰り道は詳しい話をまずは聞く。ティートは宿屋の息子らしく家のことを手伝ったら後は自由時間で過ごして良いという生活をしていたそうだ。セラは村長のところの(おてんば)娘だそうだ。カッコの中は俺が付けた。洞穴の秘密基地づくりを言い出したのがセラだから当たっていると思う。
村だと生活に必要なこと一通りはどこの家の子でも仕込まれるそうだ。その中でもセラが興味を持ったのが料理だったらしい。村の周囲にある食べられるもので宿屋の客に受ける物は何かを研究していたそうだ。その一環で秘密基地には料理の成果物が色々あったそうだ。料理って言っても火を使わない保存食みたいなものだけどと聞いた。
事件のあった当日は熱中している間に帰るのが遅れてしまったらしい。気づいた時には日も暮れていて怒られることを覚悟して帰ろうと外に出ると村が燃えていたそうだ。
ティートの判断で洞穴の中で息を潜めていることにしたらしい。入り口を隠す用の蓋をして後はひたすらに時間が過ぎるのを待っていた。気が付くと寝てしまっていて、起きたら村が燃えてなくなっていたそうだ。誰か生き残りがいないか探しに中に戻ったそうだが、見つけることが出来ないまま二人で生活していたところに俺たちが来たってことだ。
俺たちの詳しい話をすると長くなるので武闘大会のためにユーフラシアから出てきた冒険者ということにした。
「俺たちは活動拠点をグレイブ村ってところに移そうとしているんだけど、色々あって有名にならなくちゃいけなくてな。王都に留まるか俺たちについてくるかは2人で相談して決めてくれて良いぞ。決めるまでは生活の保障はするからな」
「後先考えずに行動するのがイレブンの習慣みたいなものだから気にしないでいいよ。遠慮なく過ごしてくれたらいいから」
「強くなりたいなら私も手伝うよ」
「トワちゃん、そういう直接的な勧誘は冒険者を選んでからね。コトシュさんたちにも言っておかないと」
「ロイーグは助手を欲しがってそう」
「ありえる…」
「ふたりとも?まずは考えさせてからって俺言ったよな?」
「「は~い」」
少し考えたあとにティートが質問をしてくる。
「なんでそんなに優しくしてくれるの?」
「ここで見捨てるのはさすがに人間として出来ないことだろう」
「ただの冒険者だったら王都に戻ったら孤児院に入れて終わりでもいいはず。宿屋に来てた冒険者にはいい人もイヤな人もいたけど、イレブンさんは特にいい人に見える」
「まあ、なんとなくだよ。偶に善いことをしたくなるってな。これが「誇りある依頼」だからって理由でも良い」
詳しく言ってしまうと、生き残りだとバレると命を狙われるか、二人が復讐に生きてしまうかもしれないと思ったからだ。
間違っていてほしいと願っているが、王都にはタッツの町を陥れようとした宰相がいる。だとすると無関係だと断じるには早い気がする。
「助けてくれてありがとう」
「気にしなくていいぞ」
帰りの狼車の中でそれぞれ言いたいことは言っておく。セラも同じような感じでリセルに感謝の言葉を贈ってくれていたらしい。
受け入れるキャパが心配だったので紹介を遅らせていたが、蜂娘たちはセラにはすぐに受け入れられた。あれか?お人形サイズだからか?
戻ったらコトシュさんとロイーグさんに紹介することになるんだが、トワの言う通りティートがロイーグさんに弟子入りしないかな。手が欲しいのは確かだから楽にはなるんだけどな。
何となくこういう出会い方をしてしまうとほっとけないんだよな。助手にならなくてもついて来てくれたらトワの元同僚たちがいるから色々と技術を教えてもらうことも出来るし、ティートも宿屋の息子として少しは役に立つことが出来るだろうしな。
「そういえばティートもセラも何歳だ?」
「おれたちはふたりとも8歳です」
「私より2コ下」
「トワちゃんがお姉さんだね」
比較的和やかな会話をしつつ、少しゆっくり目に狼車を走らせて王都へと戻る。帰りついたころには完全に夜の入り口を過ぎてしまっていた。誰かに会う予定は無かったからそれは構わないのだが、冒険者組合への報告が遅くなるのは困ったものだ。というかネマさんはいるだろうか。
「一度ネマさんがいるか見に行っておきたいんだが」
「そうだね。一言だけでも言っておく方が良いよね」
王都に入る時のティートとセラの通行税も払っておく。理由としては子どもの保護としておいた。王都に入ったらまっすぐ組合には向かわず狼車を借家に置いてくる。
その後は皆で移動だ。途中で串肉を最後の片づけと売りつくそうとしていたのを買って食べて夕食までの繋ぎにしながら組合を目指す。
そして組合に到着したが、こんな時間に来るのは初めてだった。予想以上に酒場が混雑していた。依頼を終えた冒険者がそのままここで飲み食いしていくようだ。他よりも安いのと他のパーティとの交流を楽しむらしい。
すぐにネマさんに報告したかったがあいにくと見当たらない。直接伝えたいからと他の人に聞くと席を外しているだけらしい。仕方なく待つ場所が無かったので酒場は待合場所にもなっているので食事中の冒険者の邪魔にならないように待っていた。
ネマさんが受付奥に見えた瞬間に違う場所から声をかけられる。酔っ払いだと判断した。
「なんだなんだ。酒場にガキがガキを連れて来るなんてよ」
「迷惑はかけてないでしょう。もう報告したら出ますよ」
そう言って皆に立つように話しかけ、立ち去ろうとしたとき慣れていないセラが怖々とした様子で酔っ払いの横を通るがそれがお気に召さなかったらしい。
「辛気臭ぇガキを連れてくんなって言ってるんだよ!!」
久々に頭に来た。瞬間的に精霊たちに制限を外すように頼んでいた。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




