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裏で動いていた人

前半はまた三人称視点です。


ブクマ・評価・いいねなどいつもありがとうございます。読んでいただけるだけでありがたいです。お楽しみ頂けると幸いです。

結局は何を言っているのかまで分からないから雰囲気だけしか分からないけど、余りにもミスリルを売る先が無くて抱え込むしかないって感じかな。それならがんばった甲斐があるな。俺はそこでビガリヴァ家の親子のやり取り見るのをやめておく。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


イレブンは見るのをやめてしまったが視点はまたビガリヴァ家の親子に戻る。


「そういえばロイヤルハニーもあったのではなかったか?」


ビガリヴァ公爵が気づく。たしか希少価値は高く、今で言うと第二王女が食べたことが無く一度でいいから食べてみたいと所望していたはずだ。少量とはいえ献上すれば少しはミスリルを引き取ってくれるかもしれない。


「ダドー、最後の情けだ。お前の持っているロイヤルハニーを出せ。交渉に使うぞ」


実際のところはその線で行動するのは間違っていないが、相手はダドーだ。


「わ、わかりました。コックを呼べ!」


呼ばれてきたコックは何か間違いを起こしたのかと気が気ではない。だが、息子のこと以外では比較的常識人である公爵がいるのならまだマシだろう。少しはホッと胸を撫で下ろす。


「ぼくの預けていたロイヤルハニーを残っている分を全て返せ」

「は?ロイヤルハニーですか?あれは…」


説明しようとしていたコックを止めて公爵が割って入る。


「ロイヤルハニーは名前の通りフレンドビーの中でも女王バチになる個体が食べるように作られるものだ。王室に少しでも送っておく方が覚えもよくなる。そこから現状を打破する状況を生み出すしかないのだ。どれくらい残っている?」


何やらとてつもない期待をかけられていることを悟るコックは自分の一言で主人の期待を打ち砕いてしまうことを悟った。わずかにだが震えてしまう手を止められない。しかし、相手の表情に現れない部分を読むことに長けているのが貴族だ。息子の教育は大失敗しているが、貴族としてはまともに営んできた公爵はコックの変化を見逃さなかった。


「コックよ、まさかとは思うが……」


コックも悟る。自分の主人が自分の言うことを既に把握したことを。


「ロイヤルハニーはありません。既に全てダドー坊ちゃまが食べ尽くされました」

「何たることだ」


公爵は頭を抱えてしまう。しかし空気を読まないバカはとことん読まない。


「もう無いのか!?お前勝手に食べたんじゃないだろうな!」


ダドーだ。この場において一番口を噤むべき存在が、なぜか激怒している。


「あの味がもう二度と楽しめないだと!?なんてぼくは不幸なんだ!」

「ダドー…?」

「あれはぼくにこそふさわしかったのに。仕方がない。あの冒険者を締め上げて再度献上させましょう。父上から命じれば喜んで差し出しますよ。もしかすれば公爵家の事業として使えるかもしれません!」

「黙れ!!!」

「ヒッ!」


公爵はダドーの取引相手が誰かは知らない。ただ、ダドーはきっと嵌められているのだろう。そんな相手からフレンドビーを丸々奪い取れるわけが無い。しかも手に入れた情報としては金級冒険者として認められたばかりだがユーフラシア出身らしい。とてもでは無いが相手が悪すぎる。冒険者をしているくせにそんなことも知らないのか。

そう思い至ると公爵の頭は急速に冷えていく。息子は確かに庇護すべき対象だと考えていたが、それよりも重要なのは自分の立場だ。契約として交わされたものは今更破棄できない。逆恨みもアウトだ。金級冒険者相手に武力で対抗できるわけが無い。やり口から見ても何か冒険者らしくない。相手にするだけ損だ。ならばこれからのことを考えて損切りするしかない。


「コックよ。ロイヤルハニーは無いのだな」

「は…はい。ダドー様の要求通りに使っていては持ちませんでした」

「一体どれほど使っていたのだ?」

「1時間に1度はほしがる菓子にたっぷりと、飲み物にも入れておりました。それに食事の際にも楽しみたいとソースにも入れるように指示されておりました」

「済んだことだ。お前にはどうしようもなかっただろう。下がれ」


そして部屋にはまた2人だけが残される。しばらく公爵は考えた後に鋭くダドーを観察する。

一言で表現するならふてくされている。黙るように叱責しただけではない。ロイヤルハニーがなくなったことも関係しているだろう。しかもその頭の中には家が傾くほどの支払いをしてきたことに対する申し訳なさなど欠片も無いようだ。

思い出してみれば金貨1100枚もの支払いをして来たというのに謝罪の1つも無かった。これはもう確定で良いだろう。既に家はこの支払いのために少しばかり家格を落とさざるを得ないことは確定している。ならばその原因にも支払うべき対価があるだろう。


目を閉じて黙考する。ロイヤルハニーが無くなったことで王室に願い出る案は消え去った。それならば他の手段を探るしかないだろう。丈夫なミスリルを有効活用することが出来る場所を探す。やがて思い至る。ベルを鳴らして執事を呼ぶ。


「お呼びでしょうか」

「最近、メタルマウンテンが再稼働しているらしいな。そこに人員を送る。手配してくれ」

「かしこまりました」


このやり方は正しい。良い結果は良い道具に左右される。ミスリルを加工してミスリルのピッケルを用意すれば良質の鉱石を採掘できる。


そして次は損切りだ。


「ダドー、お前は廃嫡にする。冒険者もやめてメタルマウンテンで働いて来てくれ。せめてその肉体で損失を支払え」

「は…?え…?……ビガリヴァ家は、どうするのですか?」

「廃嫡したところで無意味だがな。ビガリヴァ家は子爵まで降爵することになった。お前のためにいきなり金貨1100枚など払えるわけもない。ゆっくりと過ごすだけなら領地も返上して年金生活でも良かろう。私の血には貴族としてやっていけるような聡明さは無かったようだし」


現代で言うところの自己破産だ。爵位を手放すことで得た金を支払いに充てる。手に入れたミスリルの販売先があればまだ何とかなったが、手に入れた量が凄まじい上に販売先が無い。完全に仕組まれたようで封殺されている。

これは今までの自分の行いが招いた罰だと思うことにした。報復しようものなら今度こそ命を狙われる。原因は間違いなく息子だ。この教育を間違えたのに他ならない。


「自分の何が悪かったのかを存分に反省しろ。メタルマウンテンまでの旅費としばらくの生活費くらいは出してやる。マジメに働いても底上げして銅級のお前ではアイアンゴーレムにも勝てまい。達者で生きよ。連れていけ」

「な、いや。ちょっ、まって…。は、はなせ!」


話している間に再度呼び鈴を鳴らして読んだのはかつてのダドーの護衛をしていた者たちだ。連行していく者たちが自分の連れであったことにも気が付かずダドーは連行されていく。

ビガリヴァ家の屋敷の中にある罰を受けるための部屋に数日閉じ込められた後、罪人の扱いでメタルマウンテン最寄りのマルクトまで連れて行かれる。


ダドーにあったのは親バカの庇護だけだ。しかし親の側にも被るほどの強烈な被害があった場合、それでも庇う者と切り捨てる者がいるだろう。公爵は後者だったに過ぎない。

それに気が付かずに好き放題やっていたのだから自業自得に過ぎない。無限に人の好意に甘えられるなど子どもの特権でしかない。しかし、ダドーはとっくに30歳を超えている。今のイレブンの約2倍の年齢だ。そんな奴がいるだけで色々と迷惑がかかる。


「息子というだけでかわいがっているだけではダメだったのだな……。すまない…」


息子を産んだ後が良くなく、ダドーと話すことも無く儚くなってしまった妻を想う。


「当主様、王家から登城命令です」

「分かった。養子を取って私はすぐに隠居だろうがな。子ども一人ロクに教育できぬ親は貴族でも不要だな」


そう独り言ちて部屋を出て行く。


最後まで見ているのはステルスビーだけだった。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


「さてイレブン君にバレない間に終わらせるとしましょうか」


今回の一件で一番得をしたのはザールだ。王都の貴族に堂々と顔を売ることが出来た。あまり権力と繋がり過ぎるのは良くないが今回の一件を見るに最後の手段として手を貸してくれる者がいるに越したことは無い。


「どうでしたか、デテゴ」

「王都の組合って組合長を頂点として副組合長が2人いるんだけどよ。慣例的に冒険者寄りと貴族寄りでそれぞれ副組合長が立つらしいんだ」

「無駄に派閥の形成をしてるんですね」

「そうだな。命かかってるんだから貴族のメンツとか本気で邪魔なんだが」

「まあ僕たちが言っても何の生産性もありませんから好きにしててもらいましょう」


自分たちに害を為す存在なら排除するだけだし、敵対するなら助けを求められても手を差し伸べたりはしない。今回ももう少し穏便に済ませようと思えば出来たがむしろイレブンに手を貸して完膚なき状態にしたのはザールだ。


「王族のメンツで殺されかけた俺には安全を確保するために努力するのは悪いことではないと言いたいけどな。まあ貴族寄りの副組合長が依頼書を作成していたよ。違約金のところは0が1つ多めに書かれていたわけだがな」

「その下手人はどうしたんです?」

「新進気鋭の新人金級冒険者を陥れようとしていると他の上役に証拠と一緒に突き出してきたよ。未遂で終わったとはいえ悪意を持ってやったことだ。冒険者流の禊の仕方ってもんがあるな」

「おお、怖い。一介の商人風情はこれ以上聞かないようにしますよ」

「よく言うぜ」


デテゴは最初からイレブンとダドーの揉め事から把握していた。知り合いであることはもちろんだが、冒険者組合の職員であり冒険者の先輩でもあるためイレブンが隠そうとしたって情報は入ってくる。揉め事であれば猶更だ。

ザールに連絡を取ったが、どうやってイレブンに指導するかに頭を悩ませた。そこで思いついたのがロイーグとコトシュの2人だ。同行している2人なら違和感なくアドバイスを言うことが出来る。

すぐに接触してイレブンに何か行動を起こすように伝えてもらった。結果は思った以上だった。


「ダドーはメタルマウンテンで死ぬまで借金返すために労働する。ミスリルのピッケルを使えば適当にポイントを採掘すれば使い物になる。こりゃ大変だな」

「子爵に落ちた上で隠居する父親に比べればマシでしょう」

「メタルマウンテンで相手する奴がだよ。ダドーだどれだけ他の冒険者の迷惑になっていたか。読んだだけの俺でも胸糞悪いぞ」

「そっちでしたか。まあ担当者にはくれぐれも甘やかさないように言っておいたら良いのでは?」

「そうするよ」


2人とも『これでしばらくイレブンが事件に巻き込まれなければ良いな』と思っているが、たぶん無理だということも分かっている。そういう星の元に生まれているんだろうなと思ってしまう。冒険者組合に入った瞬間、


「辛気臭ぇガキを連れてくんなって言ってるんだよ!!」

「なんだなんだ。…ってまたかよ」

「ここまでくるとすごいですね」


不機嫌な冒険者から真っ白な顔をした子どもを庇っているのはイレブンだった。

お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。

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