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イレブンとザールの仕込み

ブクマ・評価・いいねなどいつもありがとうございます。読んでいただけるだけでありがたいです。お楽しみ頂けると幸いです。

時間は納品の一週間前に遡る。


みんなでBBQを楽しんだ翌日からの一週間はザールさんと一緒に色んな所へ物を運んでいく。しばらく俺の職業は運び屋だ。


「商人として恐怖はいくつかありますが、その中でも恐怖度が高い『在庫だけ抱えてどこにも売るところが無い』ってやつを味わわせてやりましょうか」

「…了解です。ついて行きます」


俺の一番の幸運ってこの人が味方になったことかもしれないな。


まずアポイントメントが取れた貴族のところに行き、少しお話をさせてもらう。今いるのは下級貴族のうちのある男爵家らしいが、それでも冒険者組合の応接室よりも豪華なことは俺でも分かる。


「あんまりキョロキョロしていると緊張しているのが丸わかりですからね。堂々としていてください」

「すいません…」


ザールさんの横で大人しく話を聞くだけに徹することに決めた。しばらくして入って来た相手の男爵様とやらも知らない顔だし会釈した後は俺のことはいないかのように2人で話が進んでいく。話している内容は物価の話をしていたかと思えば流行りの花の話や武闘大会あがあることから再度俺が紹介されたりもする。

話がよく分からな過ぎて頭に残らない。出されたお茶とお茶菓子を遠慮なくもらった上でこれからの行動をどうするかぼーっと考えたりしていた。たった30分だったはずだが非常に長く感じた。


その後はマジックバッグに見せかけたアイテムボックスからミスリルを取り出し、塊のまま渡す。


「よ、良いのですか?」

「構いません。この後に…」


またボソボソと話し出すと二人とも熱心に話し出す。いや興奮しているのは男爵様の方だな。


「イレブン君、同じものをあと5つほど渡してもらうことは出来ますか」

「50個でもいけますけど」

「ごじゅ…!?」


男爵様が驚いているね。


「希少価値を考えてくださいね。5個で」

「了解です~」


ザールさんの身分はあくまでMZDS商会の代表だ。裏の肩書きもあるけれどそれは知っている貴族が勝手に分かってくれれば良いらしい。何をどれだけ渡していくかは相手に依る。

ここの男爵様は身分の割にいい人のようだ。渡すだけ無駄な人のところに今更行ったりはしないか。


下級貴族(といってもただの平民なら直接会うのも本来なら難しいらしいが)ならミスリルの原石だ。飾っておくだけでも自慢できるらしい。割と良い人柄の人たちと協力体制を築いていく。あとから渡した5個は味方を増やすために使ってくださいよってことらしい。

ついでにもっと大きな取引が出来る貴族の上の人を紹介してくれってことも含まれる。そんな人たち用にはまた別のものを用意してある。俺が大変なんだけど。


「では、お約束通りに」

「ええ。必ず」


午前中に同じように3件ほど梯子した後は、デテゴとサティさんに作ってもらった伝手を頼る。デテゴの組合職員という立場とサティさんの冒険者の友人関係にも当たっていくのだ。


「列を乱さずに並べ~。ちゃんとお礼を言いながら買って行けよ~」


鍛錬場にこっそりとミスリルの直売所を開く。列の整理係はデテゴがやってくれている。時々握手をお願いされているあたり有名人なのは確からしい。とは言ってもミスリルだ。販売は銀級以上の冒険者に限定しているし、銅級以下には間違って販売しないようにネマさんにスタッフをお借りしている。


「組合にもミスリルを譲ってくれないわけ?」

「ネマさんが上の許可を取って来てくれたら良いですよ」

「そう簡単に買える金額じゃないじゃない!抱えてる人数が多いんだから少しくらい気を利かせてくれないの!?」

「まあお金持ってるところから手に入れていくのは当然ですよね。先に飛びつく人は希少価値があると分かって掴める人だというだけですよね」

「命がけで取ってきたんだろうからお金は出すけど…。個人的に買っても良い?」

「余れば良いですよ」

「やった」


確実に余るのが分かっていて言っておく。嬉しそうに笑うと、絶対に取っておいてよね、と自分の仕事へと帰っていった。


同じような生活を2日も続けているとミスリルの在庫が尽きないことに難癖を付けてくる冒険者もいた。


「ミスリルだぞ!?こんな子どもに手に入れられるとは思えねぇ!偽物を掴ませて騙そうとしてるんじゃないのか!!」

「じゃあ在庫全部見せようか」


そうして出来たのが鍛錬場のミスリルの山だ。ついでに難癖を付けてきた冒険者は買い取らせたミスリルを自分の手で割ることに挑戦させて本物であることを確認させた。

銀級冒険者になり立てで買う金も借金し、割ることが出来なくて赤っ恥だった。どうやら借金でもしないと買えないことが悔しくて難癖を付けたそうだ。全部話すことになって余計に恥ずかしい思いをしていた。


本物の確認はミスリルで出来たフライパンでは肉は焼けないということで証明をした。そしていつの間にか出来た人だかり。


「「おぉ~」」

「本当に焼けないんだな」

「この肉も良い肉だよな」

「腹減ってきた。酒場戻ろうぜ」

「ミスリルのフライパンなんて酔狂なことをするガキだな」

「ん?ミスリルでフライパンなんてどうやって誰が作ったんだ…?」


俺に話の焦点が当たりそうになったところで難癖くんはまだ諦めない。


「肉も偽物ってことは?炎魔法だって嘘じゃないのか!?」


いつも使っているフライパンに変えて肉を焼く。ついでに暫定冒険者資格試験の的を借りてきて出現させていた炎魔法をそのままぶつけて威力を確認させる。的の修理代もとい発注費は難癖くんに出してもらおう。

肉もみんなで美味しく食べて、炎魔法の威力を見せたことで難癖くんも青い顔で黙っていたよ。最初から難癖なんてつけなければいいのにね。ネマさんに費用請求されて悲鳴をあげてどこかに連行されて行った。しばらくは組合の指示の元、馬車馬のように働かされるんだろうね。


案の定、イラっとして炎魔法の威力を見せてしまった事で俺にも相応の実力があることがバレてしまったので冒険者たちに声をかけられ食事にも誘われることになった。しかし。皆がそれぞれダンジョンにこもって狩りをしている時に一人だけこれ以上浮かれるのはイヤだったのでまた今度と断っておいた。


そして、3日目からは相手をする貴族が子爵を通過して伯爵になり、5日目には侯爵になった。日に2~3件だけになったのは良かったが、ミスリルを花やデフォルメした動物の形に彫らされた。これで価値が上がるのは確かだから言われるがまま彫った。何よりも考えずに作業しているだけってのは非常に楽だったし。

ついでにその日は午後からは冒険者や貴族を相手にするのではなく引き続きザールさんと今度は鍛冶屋に行くことになった。既に冒険者がミスリルを持ち込んでいたし、貴族からもじわじわとミスリルのことが広がっていたからアポはすぐに取れた。一度本気で学んでみたかったので王都一の鍛冶師には会ってみたかった。


ちなみにビガリヴァ家や繋がっている家にはばらさないようにお願いしておいたので秘密の保持に関しては効果抜群である。


だが、王都一の鍛冶師はやっぱり頑固おやじだった。


「相手にするには手の内見せてもらわないとな」


頑固おやじさんだったけど俺が鍛えたミスリル武器の色々と見せたら黙った。独学だって言ったら余計に言葉を無くした。お弟子さん達も食い入るように見てくれている。そこまでの仕上がりになっているのだろうか。照れる。


「取引をしてくれるだけでもいいんだけど、可能なら独学なので色々学びたいと思っている。王都で一番だと聞いているあなたが鎚を振るっているところを見せてくれるだけでもいい。よろしくお願いします」


色々と望み過ぎたかと思ったけど頭を下げるしか出来ないので頭を下げてお願いした。


「あ~~~……。分かった分かった。さすがに俺より上とは言わねぇが弟子よりも上であることは確かだ。独学でここまでやるなら大したもんだ。好きなだけ見ていけ」


俺が言ってもらった言葉を理解する前にザールさんが動いた。


「ありがとうございます。ついでにミスリルの商談はどなたとすれば良いでしょうか?」

「これだから商人は…。おい!商人の旦那の相手もやっとけ!」

「へいっ!!」


本格的に学ばせてもらうのはまた今度にはなるが、必ず来るようにと念を押された。それはちょっと嬉しかったりする。


そして7日目には公爵家だと言われた。当然だがビガリヴァ家ではない。俺がやることはいつも通りだ。最初にリクエストを受けると必要な道具を取り出してミスリルを加工する。何となく鍛冶師の親方とところで見た細工師をイメージすると加工がしやすかった。面倒なことを終わらせたら早く行ってみたい。自分でも意外だが物を作ったりするのは好きらしい。

あとは貴族家の爵位が上がると出てくるもてなしのレベルも上がる。俺は作業があるからマナーなど気にせずに好きなようにさせてもらった。苦笑されている雰囲気はあるが、作った物を見せれば表情が変わるので文句も無いだろう。俺にマナーを期待する者もいないだろうし。


公爵家での挨拶が終わった帰り道にザールさんと最後の打ち合わせをしておく。


「食材に関しては国教の教会に『ビガリヴァ家が大量の食料を抱えて困っている』と言付けてあります。食材を運んでいるところを見ればあとはうまくやってくれるでしょう」

「困るのはこれからですよね」

「確定事項ですから気にしないことです。木炭はリセルさん達がより質の高いものを既に開発済み、こちらはMZDS商会の商売として売り出します。長いお付き合いにさせてもらいたいですしね」

「何よりです」


ユーフラシアとMZDS商会と獣人の村が連携して栄えてくれるなら俺にとっては良いことだ。


「一番の打撃はミスリルですが、需要はこれで大幅に抑えられるでしょう。誰も高値で買おうなどとはしません」

「まあ犯罪に使われない限りは安く売っても構わないです」


最初は売り叩こうかと思っていたが、適正価格を守ることを耳が痛くなるほど叫ばれて守ることにした。だから今回は普通にゲームで売っていたときの値段だ。需要が高くなると値段も高くなるはずだがそれを無視した。

ダドーが示したのはその高値で買い取る計画だし、赤字を出さないためには更に高く売らなくてはいけない。既に手に入っているものを直近の相場よりも高い値段で買おうとするやつはいないだろう。


「これで痛い目に遭わせることは出来ますかね」

「金銭面では確実に。それでも相手の手元にミスリルやら物が残るので油断はいけません」

「分かりました」


横に並んでいたのをまっすぐと体を向けて頭を下げる。


「今回はありがとうございました」

「気にしないでください。私も王都に表の繋がりを作ることも出来ましたし、イレブン君との繋がりをアピールすることも出来ましたしね」

「俺は希望通りの結果を手に入れることが出来ました」

「むしろ私が良い繋がりをもらってありがたい限りですよ。貸し借りなど気にしないことですね」

「……了解です」


気にするなと言われたから気にしないでいいか。


そして何日か待たされた間にミスリルの販路は更に俺のところに舞い込んできて、ビガリヴァ家が売れそうなところは何もないんじゃないかとなってからダドーが引き取りに来たんだ。こっそりとビガリヴァ家での親子のやり取りを見せてくれていたステルスビーからの空間接続を見て俺はある程度は満足した。

お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。

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