ダドーは膝をつく
久々の三人称視点です。うまくざまあも表現できていれば嬉しいな。
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イレブンからの依頼を目の前で達成報告をされてから5日後、ダドーは父親に呼び出されていた。一昨日まで領地の視察でいなかったが、昨日帰ってきている。一緒にクッキーを食べながらくつろいで話をした。
本当は冒険者組合から謹慎を言い渡されているが、誤魔化して自ら休養を取っているのだと話していた。しかし、冒険者としての活動がもう少しで出来そうになるところのため機嫌は良かったのだが、呼び出される理由が分からない。
「パ――、父上のことだからぼくを激励してくださるのかもしれないな。」
気に障る平民らしき冒険者に達成不可能な依頼を4つ突き付け、パーティを解散させて女を取り上げ、見事な馬車を始めとした物品を取り上げ、男は奴隷同然に扱うことをダドーは考えていた。が、見事にそれは打破される。
あくまで一般人であれば達成不可能依頼だったが、イレブンたちにとっては余裕で達成できる依頼だったことに気づくはずもない。ダドーにとっては精々運が良かったくらいにしか考えていなかった。それも可能ならもう一度考えてやっても良いかもしれないと考えている。
「ミスリルが手に入ったおかげで装備品の質は何段も上がる。ぼくの伝説がこれでまた彩られようとしているのだ!」
思わず踊ってしまったが、使用人たちはすれ違う時は端に寄って頭を下げているので気にするほどでもない。むしろぼくがダンスを見せてやったことに膝をついて感謝すべきだ。今日は機嫌が良いから許してやるけどなんて考えている。
お金は少々使ってしまったが大量に物はあるのだ。売ってしまえば元は取れるはずだ。どの品も珍しいことには変わりない。
(何よりも良かったのはロイヤルハニーの味を覚えてしまった事だな。あれはうまい!つい食べすぎてしまうほどだ。ロイヤルハニーだけは売るのではなくてぼくだけが食べるようにした方が良いな。ぼくにのみ相応しいものだ)
いくらでも食べられるため朝も昼も夜も寝る前にもコックや使用人に命じてクッキーを出すように伝えている。依頼達成を悔しく思っていた心を一番癒してくれたのはこのクッキーかもしれない。
(奴らがどう手に入れたのかは知らないけど手段があるなら奪ってしまうのが良いかもしれないな。なぜだかしばらく依頼を出してはいけないと横暴を言われているから制限が無くなればもう一度頼んでやっても良いな。ビガリヴァ家のぼくに二度も依頼されるなんてきっと泣いて喜ぶことだろう)
まさに自分に都合の良いようにしか考えていないダドーにまず最初の鉄槌が下される。
「なんてことをしてくれたのだ、この馬鹿者!!」
「なんですか、父上。いくらぼくでも詳しく話してもらわねば分からないことはあります」
「お前はまさか自分がとんでもないことを仕出かしたことに気が付いていないのか!?」
ビガリヴァ公爵は父として致命的な教育の失敗をしていることをここでようやく気が付いた。今まで何でも許してきたことがこんなにも致命的な失敗に陥るとは考えもしなかったのだ。
これからどれだけの金策をしていけば良いのか手が震える思いだというのに目の前の息子は何も理解していない。もしや、今まで聞いていた話が全て嘘なのではないかと思えてくる。
実際全てがダドーが誤魔化した嘘だ。そこだけは天才的な能力を発揮していた。使用人ももしバラしたとしても当主である公爵がいないときに必ず報復をされる。まだ子どもの内なら良かったが、成人も超えたダドーの嘘をばらせばどれだけの嘘が芋づる式に暴かれることになるか分からない。比例して報復も大きくなっていく。
そう考えるとたかが一使用人に出来ることはない。全員が口を噤んで誰も侯爵本人に真実を告げることは無かった。それが公爵とダドーにとって最悪のタイミングで露見したに過ぎない。それが誰にとっても不幸であったことは言うまでも無いが。
「貴様、自分がどれだけ使ったのか分かっているのか!?」
「え、え~っと」
どの依頼も金額自体はそこまで高価でも無かった。ダドーは必死に思い出してみる。食材が金貨10枚、ミスリルは金貨50枚、木炭に至っては銀貨5枚と破格だし、ロイヤルハニーも金貨1枚だ。そこまで思い返して胸を張って返答する。
「占めて金貨60枚と銀貨5枚です」
それを聞いたビガリヴァ公爵は頭を抱えてしまう。そしてダドーには聞こえないほどの小声で破滅だと繰り返す。一頻り呟くことで頭がマヒすると正確な金額をダドーに告げる。
「金貨1103枚と銀貨25枚だ」
「は?」
「だから金貨1103枚と銀貨25枚だと言っている。今回お前が勝手に使った金額は金貨1103枚と銀貨25枚だ」
「な、なんですって!?」
それがとんでもなく常識外れの金額であることはダドーにも分かった。よく思い返してみるとダドーが思っていたよりも10倍や20倍多く納品したと言っていた。失敗を笑いたかったから頭に残らなかったが、確かにそれくらいの金額になっていてもおかしくない。しかし物は買うだけではなく売るという行為が出来る。売ってしまえばどうということは無いはずだ。
ちなみに金貨100枚でイレブンの元いた世界の1億円に相当する。ダドーが使った金額は物品だけで11億325万だ。それだけの金額を勝手に使って許される子どもがいるなら見てみたいものである。
「しかも物の代金だけで、だ」
「他にもまだ何かあるというのですか!?」
公爵はなぜ自分は我が子を、こんなに自分にとって迷惑しかばら撒かないものを大事にしてきたのかと後悔の念が湧いてきた。しかしもう遅い。散々お金や権力でダドーが起こしてきた迷惑行為や時に犯罪まがいの行為を握り潰してきたのは彼である。
その被害者たちからすればこれは天罰にしか思わないだろう。今まで散々振りかざしてきた暴力がたった一度返されただけだ。彼らが貴族である限りまだ溜飲が下がった程度にしか思わない者はたくさんいることだろう。
「冒険者組合に置き場所として借りている借地代も、我が家まで運び込むのに使った輸送費も、大量にある食材が痛まないようにする代金も全て含めるとまだまだかかるだろう」
「そんなものに金がかかるというのですかっ!!」
公爵の眩暈は止まらない。
「しかもだ。食材に関しては教会から炊き出しの打診を受けている。武闘大会前後は治安が良くなることを受けてスラムに人が集まってくるからな。教会の炊き出しも多くならざるを得ない。裏には他の貴族たちの後押しもあるようだからな、公爵家というメンツもあって断ることは出来ない。言うなれば無料提供だ」
ここで言う教会はまともなこの国の宗教をまとめるとても『まともな』教会だ。どこかの邪獣人を作り出すような狂った教会ではない。
「断ることは?」
「出来るわけが無いと言っただろう!!こんなにも大量に手に入れたことはとっくに知られている!それに量が量だ。無料提供したところで腐る前に我が家だけでどうにかできる量ではない。我が家は料理を出すレストランでも無いのになぜこんなにも仕入れたのだ!?」
「あ……」
ボンボン息子らしく、どれくらいの量が一日に人が食べる量かをダドーは把握していなかった。あればあるだけ引き取って公爵家のみんなで食べれば良いと思っていた。ゆえにイレブンが出してきた全てを引き取ると言ったのだ。その時は断るということをプライドが許さなかったのも理由だが。
そして追い込まれたダドーは起死回生と思っている一言を告げる。ここでどうにかならなかったら何もかもが崩れ落ちるという予感を抱えながら。
「ミ、ミスリルなら売れるのではないですか!ぼくも少しは使ってしまいましたが、あれだけの量を全て売ればむしろ大部分がミスリルなのです!うまくさばくことが出来れば―――」
ダドーの言葉はそこで中断される。項垂れる父親を見たからだ。言葉を発することが出来ないダドーの代わりに公爵が告げる。
「既に主だった鍛冶の匠はミスリルを手に入れているそうだ。名だたる銀級以上の冒険者も既にミスリルを手に入れている。自分用の装備品として整えていない者の方が少ないようだ。今まで手に入れるのが難しいとされていた金属だ。大量に入荷されれば皆が飛びつく。そして次に必要とされるとしても少しずつしか需要は発生しない。しかも一週間以上前からミスリルは秘かに出回っていたようだな」
せめてダドーが手に入れてすぐであればまだ買い手は付いたのかもしれないがそれを言っても仕方がない。あと買ってくれそうなのは地方にいる銀級以上の冒険者が王都に来ることを祈るしかないが、先回りしてミスリルを売っている相手が見逃すとも思えない。全ての出口を塞がれているようで公爵はもう吐き気を感じることも出来ない。
だが、まだダドーは諦めない。
「ならば、ならば貴族たちに売るのはどうですか?平民どもの間に出回っているとしても貴族に、」
渡していくのはどうかと口を動かしたいが、父親が力なく首を横に振っているのを見ると言葉がどんどんなくなっていくことが分かる。
「相手がそこまで甘いと思っているのか。今や男爵家ですらミスリルの塊を持っていたよ。同じ公爵であればブルーミスリルという私も聞いたことの無いものを持っている有様だ。ただのミスリルだけを大量に抱えたところでどこにも売る先が無い。他の街に売るとしても輸送費がかかる。王都では売る先が無くても国内で見れば希少なミスリルだ。運ぶのがバレた時点で盗賊どもが群がってくるだろう。冒険者組合に保管を頼んでいるのだけが不幸中の幸いだ。盗まれる心配が無いからな。だが、いつ売り捌けるか分からない物にいつまでも金を払う訳にもいかない。ははっ。私にもどうすれば良いのか見当も付かんよ」
何だ?一体何が起こっている?この5日間の間に変化が起こっているのか?自分の足元が揺れているかのような感覚を感じてダドーは膝をついた。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。
こういう状況を作り出した仕掛けは次話で




