4つの依頼の納品を叩きつけた(物理的にではない)
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そんな過ごし方をして1週間が経過し、物品引き渡しの日が来た。夕方になったのはギリギリまでユーフラシアで食材の宝庫で手に入れた食材であるという認定をしてもらうのに時間がかかっているからだ。引き取って持ってくるのに関してはコトシュさんたちに任せているから俺たちは待つだけだ。
既に他のものに関しては引き渡しの準備が整っている。控えめに瓶に詰めるだけで済んだのはハチミツだけ。瓶で3つほど準備してある。
その次は木炭はギリギリ持ち運べる大きさに束ねて冒険者組合の酒場スペースに積んである。置く場所代として少しだけ分けたのでまた使い心地などを教えてくれる。よければ黙っていても仕入れて使ってくれるだろう。
準備万端で待っているのだがダドーが来ない。基本的に故郷の獣人の村の特産品である木炭がアピール出来ることになったのもあってリセルの機嫌も良いが、待ち時間は長い。
「来ないね」
「来るはずだよ。来なければ依頼したのに受け取りに来なかったってことになるからな。こっちが有利になるわけだし」
本来なら昼過ぎに引き取りに来るところが、夕方前になってようやくダドーがお付きを連れて現れた。
「た、大変お待たせしました!申し訳ありません」
「いえいえ」
お付きの方は俺たちが準備万端で待っていたことを既に知っていたのか非常に申し訳なさそうにしている。ダドーの方はというとまだ余裕があるようだ。
「なんだ!何も出来ずに絶望にまみれた顔を見たかったのだが表情を隠すのが上手いようだな!」
何も出来なかったとしたら待ち時間は確かに苦痛だっただろうな。言葉から推測するに早く来れたのにわざと遅れてきたらしい。さすがやることが低俗だな。表情には出さずに木炭を確認させる。
ダドーの顔は木炭を確認して醜悪に歪む。手に入れやすい1つだけでも準備したと思ったのだろう。すぐに表情が如何にも小悪党ですと表情だけで自己紹介が済みそうな顔に変化する。
「依頼された量の5倍ほど手に入れています。フレイムウッドを倒して手に入れていますし、組合での正式鑑定を済ませているので間違いないと証明ももらってますよ」
ギリィッと音がするほど歯噛みしてお連れに確認させるが本物で間違いないことを報告されて悔しそうに歪む。
「しかし!他のものは手に入っていないようだな!違約金を払ってもらおうか!」
「ロイヤルハニーは最低限の3倍を手に入れました」
準備していた瓶をドンと3つ出す。万花たちもこんな奴のために精製するのはイヤだっただろうが、気持ちよく作って出してくれた。
「ついでにおまけです。ロイヤルハニーを使ったお勧めのお茶請けとお茶のレシピがこちらです。見本品もあるのでこちらもどうぞ」
このやり取りは密室ではない。皆の見ているところでないとダドーが何を言いだすのか分からない。遅れてきたこともあって応接室が塞がっているのだから酒場スペースの一角で行うのは仕方ないのだ。広い空間で行っているにも関わらず、クッキーとハニーティーの香りが空間に広がっている。
さすがのダドーも口を塞いでじっと受付嬢の1人に運んでもらったセットを見ている。こちらが勧める前に置かれた瞬間に手を伸ばして口に放り込む。待て、も出来ないらしい。ソウガ以下だな。
「うまいな!」
見本だったのでクッキーはすぐになくなり、ハニーティーも一気飲みで無くなってしまった。
こういうのってお茶の方がメインじゃなかったっけ。俺もくわしくないから後でザールさんかサティさんにでも聞いておこう。
「ふふん、見事だと言っておこう。気に入ったぞ!ここまでやるならば大目にみてやるのを考えたいところだが、残念ながらあと2つは出来ていないようだな、では違約金を」
「ミスリルは簡単に置いておけないので組合の鍛錬場を借りています。移動しましょう」
戯言を言い切られる前に立ち上がる。ついて来ているかも確認せずに前回使った経路を進んでいく。後ろからちょっと待てと叫ぶ声が聞こえるが、遅れて来られたせいで無駄な時間を過ごしたのはこっちだ。急いだところで意味は無いが短縮はさせてもらう。
鍛錬場に着いたダドーは言葉を失っている。ミスリルが山のように放置されているのだ。俺がアイテムボックスから出した分は無造作に積み上げた。トワがアイテムボックスから出した分はその上に積み上げているのでそこそこの高さがある。
あまり横に広げたとしても他の利用者の邪魔になってしまうから気を使ったのだ。まあミスリルが気になって誰も鍛錬場を使っていないのだが。目に見える警護として組合の職員がいるしステルスビーたちが隠れて警護しているので盗まれることは無い。
俺たちの後ろに面白いものが見れそうだとついて来ている冒険者たちも余りのミスリルの量に驚いている。
「ここまでの量は見たことが無いな」
「全部集めるとこれくらいは出回っているだろうけどな」
「1つに集めるわけにはいかねぇよ」
色と輝きでこれがミスリルであると冒険者たちも太鼓判を押している。これが本物だと分からないのは見たことがないだろうダドーだけだ。
「先にお伝えしておきますが、組合の正式鑑定は終わっています。ミスリルに関しては20倍の量を納品させてもらいます」
正式にミスリルと認められたものが大量に置かれることになるなら組合の方も人手を割いて警備をしなくてはならない。現在巷を騒がせているミスリルであれば猶更だ。
地団太を踏んで悔しがるダドーは目に見えて不機嫌になる
「だが!組合で一番広い場所はここだ!食材の宝庫から手に入れた食材がないのなら!「外に置いてあります」」
言われることが何か分かっているので先に場所を告げた。先程まで赤かった顔が俺が言っていることを理解するとおかしそうに笑う。
「外、外と言ったか!?ぼくもさっき通ってきたがどこにもなかったぞ?ウソを言うのも大概にしろ!」
「いや~ダドーさんが遅れて来られたので少し場所を移動していたんですよ。先程移動が済んだと連絡が来ました。確認するときに間に合っていれば問題無いですよね」
その言葉を聞くと顔色を変えて組合の外までダドーは走って行く。先回りして外に出るとコトシュさんが一仕事終えていた。
「これでいいのか?」
「バッチリですよ」
下には地面に触れないようにシートや台を置いているが、山のように食材を積み上げても平面に広くなるのは仕方ない。先程とは別に冒険者を雇って勝手に取られることが無いように警護してもらっている。費用は冒険者組合を経由してビガリヴァ家に請求される。無茶苦茶な依頼を出しているのがビガリヴァ家であることを組合も理解してくれているからだ。冒険者たちもここまでくればマジメ半分遊び半分だ。
ダドーが組合に着いた時点でリセルには福来が作った空間接続を使ってユーフラシアに戻り、出来たところまでを持ったコトシュさんたちを呼びに行く。そうしたらまた王都に戻り組合の建物の外で準備開始だ。
手が使えないソウガ以外の手を使ってがんばって並べてもらった。最初はなんだなんだと見ていた見物人たちも唖然とするほどの食材の山が積み上がった。
「これは言われた量の10倍です。最後になりましたが、あなたは上限を決めていませんでした。だから想定以上の量を準備させてもらいました」
そしてネマさんが登場する。
「加えて組合の責任者と協議した結果、違約金が高額であることから不当に負担をかける依頼であると判断します。この件にかかった料金の全てをビガリヴァ家には支払っていただきます。つきましては、ミスリル及び食材の警護代金に場所代も請求させていただきます」
「なっ、なんだと!?」
4つの依頼全てを達成してしまっているため違約金無しだ。これは組合にもちゃんと確認している。だから後に残るのはビガリヴァ家からの支払いだ。迷惑料も含む。
「あと、全部を早く運んでもらえませんか?鍛錬場が使えないんですよ!建物の目の前に食材を置かれるのも困ります!」
依頼が終わった時点で俺たちに所有権は無い。全てビガリヴァ家でどうにかするものだ。既に察したお付きは1人を残して手配に走っているが、ダドーは顔色を様々に変えながらぐうの音も出ないようだ。
「ぼくは帰る!」
お付きに何かを囁かれて余計に地団太を踏むとドスドスと足音をさせながら帰っていく。どうやら乗って来たであろう馬車も荷物運搬用に使わざるを得ないらしい。人件費諸々考えるとすごいことになるだろうな~。
「あんた、本当に色々とやってくれるね」
ネマさんが呆れた声を出して聞いてくる。俺はみんなとハイタッチしながら首を傾げる。
「俺のブレーンが授けてくれた作戦はここからですよ」
一週間かけて仕込んだ作戦が物を言うのはここからなのだ。俺は組合に出入りする冒険者の何人かが持つミスリル製武器を見てそう言った。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




