それぞれの立場と行動
お楽しみ頂けると幸いです。
「なぜ生きてる?」
ダニイルがなんとか言葉を絞り出して聞いていたが、考えれば分かる質問だ。
だが、俺にはそれが信じられない。あの毒薬は遅効性だったとはいえ、レベル50を超えるような冒険者もあっさり殺してしまうような巨大魔獣でさえも殺してしまう毒だぞ?仕込みさえすれば一番安全に狩りが出来るとお墨付きを付けられたものだ。当然開発者は既に消してしまっているので他に使用している奴はいない。解毒なんて出来るはずが無いのに!
「解毒薬を作れるやつと知り合いになってな。ここには来てないけど、俺の仲間として動いてくれているぞ。俺の役目はお前らの確保だ。やり返させてほしいからな」
そう言って倒れていたヘロノに蹴りを入れて言葉通り一蹴してダウンさせる。
「さて、あと3人だが抵抗するかい?」
「ワイーロ!」
「ちぃっ!!」
ダニイルは誰も切り捨てるつもりは無いと言っていたが、こうなった場合毒を手配した本人であり、唯一戦闘職としての経験がある俺が動くしかない。言われなくても分かっている。くそっ!酔いが覚めちまった。
俺が地面に何かを叩きつけると煙が湧き出る。これはまだ陽動だ。この隙にダニイルとダビドが脱出する。俺はこの霧に隠れて攻撃だ。二人が動いたのを確認すると同時に煙から飛び出す。既に隠し杖を抜いている。長剣を大きく振りかぶってデテゴへと仕掛ける。
「おっと、お前が相手をしてくれるのか。他を逃がすための囮か?」
「あぁ、そう思って構わない。お前が生きているのは俺が発注した毒が弱かったということのようだからな。責任を持って俺が片付けてやるよ」
「そうか。さっきの顔ぶれからすると俺が毒を盛られたのは、ダビドの店か。あいつの店は好きだったんだけどな」
そう言いながら何度も剣を打ち合う。全く勝てる気がしないが、それで良い。俺からすれば一瞬あれば構わない。いざというときの戦闘手段はいくつか仕込んである。すぐに街を出るからと持っておいて良かった。
「はっ。俺の持っているのが遅効性の毒だけだと思うなよ」
「とはいえ、現役の戦闘職でもないやつに攻撃を喰らう気はしないんでなぁ」
「うるせぇ!火よ!顕現せよ!『フレイムピラァ』!!」
キーワードを言うことで速攻が可能な魔法紙に魔力を注いで発動させる。言葉に反応して鍔迫り合いの最中だがデテゴの足元から火柱が巻き起こる。奴は無傷だ。詠唱に入った段階で後ろに下がりやがった。とはいえ、火柱に突入は出来ないので、迂回してすぐに攻めて来られる。
同じようにあと2回発動して完全にこちらには来れないように火の壁を作る。元からあったテーブルも焼けてしまったので部屋の中は煙で溢れている。おかげでデテゴの顔は見えないが、足元がなんとか見えているのでこれで十分だ。あとは火が消えるのを待つのみ。そこまでMPも籠めていないからすぐに消えるだろう。
火柱はしばらく存在していたが、木の天井を焼き切ると消え去り、あとに残ったのは焦げた床だ。
「あっぶねぇ。一応魔法士か。簡単に近づくのは危険かな」
「はっ!金さえあれば何でも揃うんだ、よ!風よ、吹け!『ウィンド』」
油断もあっただろうし、距離が取れて良かった。俺の本命はこれだ!
今度のは即効性のある劇毒が詰まった煙玉だ。同じように床に叩きつけると同時に風の魔法を発動させて、全てデテゴに押し付ける。ついでにヘロノまで死んでしまうが、知ったことではない。こうなった以上ダニイルも何も言わないだろう。
傷口から入り込めばそこから体内へと侵入して死ぬ。空気感染しても死ぬ。実験として魔物相手に使ってみせたが、ドロップアイテムまで毒に汚染されていたため使用禁止になった程のものだ。
念のため持っていて良かった。解毒薬を口に含むと先に逃亡したダニイルとダビドに追いつこうとその場を後にする。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「くそっ!こんなことになるとは」
「逃げ場なんてあるのか?」
「なんだよ、ダビド。その言い方は?おとなしく捕まれって言うのかよ!」
「しかし…」
逃げている最中に先程の部屋で戦闘が始まったのだろう。大きな音が何度か起こる。
(くそっ!俺の店で…!)
ワイーロはどちらかといえば過激派だ。ユーフラシアにいたままだと確実に何か問題ごとを起こすだろうから一人だけで全て責任を負うように学術都市へと行かせたとダニイルが言っていた。何かあっても自己責任だ。代わりに捕まらなければ何をやっても構わないとされていた。自由にやっていたようだ。立場が投資家だが、たしかに金の匂いには敏感な男だから。やつから資金を提供されて店を大きく出来たのは確かだ。
正直俺からすれば今の立場が惜しい。いっそのこと巻き込まないでほしかったというのが本音だ。この10年で培った腕は本物だ。犯人であることがバレなければ他の街に逃げてもやり直すことが出来るだろうと考えていた。が、こんな状況になってしまうとそれすらも難しいのではないかと思う。料理人が自分の店で毒を仕込んだのだ。本当はやりたくなかったと言っても誰も信じてくれないだろう。
店との繋がりは少し残しておくつもりだったが、そこから辿って捕まってしまうことになると完全に連絡を断たなくてはならない。何度考えてもこんなはずでは…、という思いになる。
「扉だ。ここから出れば外なんだろう?誰もいないか先に出て確認しろ」
偉そうに命令してくるダニイルだって本当なら手を出さずにそのまま商人として生きれば良かったのだ。ザールは流れの商人なのにユーフラシアという国の中でも上から数えた方がはやい街にいきなり店を開ける男だ。
その男の個人的な集まりに呼ばれるくらいなのだから商人としての才覚も確かにあったはずだ。それを棒に振ってまで果たす復讐であっただろうか。ああ、でも…。
「デテゴに毒を直接盛ったのはお前だろうが!今更なんだよ!」
そうだ。冒険者なら酒にあう料理を出す評判の店をやっていれば必ず寄る店を確立してしまえば必ず来るからと経営していた店だ。そこで毒を盛ってしまった自分はもう逃げられない。
「分かった、外の様子を見るよ」
何をどう間違えてしまったのか…。そう考えて扉を開ける。
「いらっしゃ~い」
扉の外には緑色のマントを羽織った金髪の少年が立っていた。確認したところで意識は途切れた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「来た。二人か。おっと、なんか揺れてるし」
立っているのは何でもない壁の前だ。デテゴが店に押し入り、まず足止めを行う。逃げてきたものを抑えるのがイレブンの役割である。隠し通路はスキルがあれば見つけられる。まだ身に付けてないけど。だから情報を持っているものが必要だ。
そこで、待機していたわけだが。一言で言うとザールさんは怖い。デテゴは呼び捨てにしてしまう何かがあるし、メディさんは女性だから自然と敬称を付けていた。ザールさんも途中まで心の中では呼び捨てだったが、深く知ると敵に回してはいけない人だと分かる。
「なんで、地下に酒場があることや、その店に抜け道があること。その出口がここにあるなんて知ってるんだよ…」
理由はきっとザールだからだ。仮にメディさんに何か危害が及んでいたとしても恐らく自分だけで何とかした可能性が高いのだろう。だってあの人、メディさんが襲われたって聞いても反応は大きくなかったし。
予測してたか、対策がしてあったのか。余計なことをしたとは思わないが、それならそれでメディさんに一言あっても良いのではないかと思う。
戦う力が無いのは分かっているけど、他にも力の種類があるなぁと思う。あの人と知り合いになれたことが一番ラッキーかもしれないな。
「さて、とそろそろ来るかな」
壁にしか見えない扉の向こうで言い争う声がしたが、ゆっくりと開く。『索敵』で確認するが、二人。確実に弱い。制圧は余裕そうだ。
「いらっしゃ~い」
出来る限りにこやかな笑顔を心掛けて話しかける。ダニイルでは無かったので、出来る限り優しく意識を断った。首トンは初めてした。デテゴに聞いたけど手刀にうまく魔力を纏わせるのがコツなのだそうだ。力だけだと首が落ちると言われた。まあそれはどうでも良い。残るは一人。
「黒幕のダニイルさんだね。あぁ、敬称要らないか。ダニイル、友人に手を出されて不愉快だから一発殴られてくれるかな?」
権利を一番持っているのがデテゴなのは分かっていたので一発だけのつもりだ。
「断る、と言ったら」
「…断られると思っていなかった、からそこまで考えてなかった」
そう言ったら何かを地面に叩きつけた。煙が出てきたことを確認すると、緑の魔法陣が輝く紙を見せてダニイルが叫んだ。
「即効性の毒霧だよ!死ね!『ウィンド』ォ!!」
毒霧が吹き付けてきた。
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