ザールのアドバイス
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俺が考えていたことを聞くだけ聞くとザールさんはお茶を一口飲んで一言で済ませてくれた。
「ダメですね」
「ダメですか。一時的にお金を奪ってしまえばどうにかなりませんかね」
「なりませんね」
ダドーとの衝突から依頼を引き受けて、どうしようかを伝えると文字通りの一刀両断だ。
「そもそも依頼を受けておいて相手を貶めようとするのは不可能に近いです。一度取引をして、はい終わりとはいきません。理由は分かりますか」
「………分からないです」
そう言ってお説教が始まった。予想通り商人であるせいか俺が相談もなしに無茶なことをしようとしていたことに静かに怒っている。
「まず、相手の手元に依頼された物が残っています。しかもどれも今の王都近辺では貴重性の高いものばかりです。たしかに大量に納品すれば一時的にでもビガリヴァ家の財政は心もとなくなるでしょう。しかし、売り物としての物はあるのです。少しずつでも高値で売っていけばあっという間に元の財産以上に取り戻すことが出来るでしょうね。特にミスリルはそこまでの希少品です。艦商品として貴族が欲しがっているのはあるでしょうし、鍛冶屋は今までに触れたことの無い金属だし、名のある冒険者は自分たちの装備品を一段上の装備にするために求めている人は多い。もしかすると既に取引の約束を取り付けているかもしれません。……そこまでちゃんと考えていましたか?」
「それはその……、はい、考えていませんでした」
自然と靴を脱いで床に正座する。床に直接は止められたからソファの上で正座をしている。さすがに足が痺れることも無いんだけど。
「それとこういった依頼を引き受ける時には価格が適正かどうかも考えなくてはいけません。が、それは組合の職員が間に入ったのでしょうね。適性よりも少し高めですからビガリヴァ家からお金を搾り取るという目的は果たしています」
「はい。良かったです」
見も知らぬ職員さんよ、感謝いたします。心を込めて祈る。
「ま、事が始まる前に声をかけてくれただけ良しとしましょう。いくらでもどうにかする手段はあります。この際だからデテゴとサティさんの名前も使ってしまいましょうか。あれは私からも手を回せばどうにかなるとして…」
何かを高速で考えてくれているようだ。ザールさんはポンと手を叩くと質問を投げかけられる。
「ロイヤルハニーに何か特殊な効果はありますか?」
「そうですね。疲労回復ですかね。それに栄養は非常にありますよ」
毎日食べているから良いものであることは自信をもって言える。それと口にしている物がどんな効果なのか知らないのはいかがなものかと思い直して聞いたり鑑定を使って調べたところ、知らない効果を発見した。万花たちの支えに気づかなかったのは不覚の極みだ。助けてもらっただけで十分とか言われてしまったがいつの話をしているのか。本当に最初の話だった。それだけでは申し訳ないから、フレンドビーたち全員に行きわたるように武器を作成しようと思う。心ばかりのお礼として受け取ってもらうつもりだ。
「好都合です。ではロイヤルハニーを使った簡単なお菓子の作り方を用紙にまとめられるように試作をお願いします。手軽に摘まめるもので良いですからね」
「分かりました。リセルの方が得意なんで頼んでみます」
獣人の村にいるから少し交代すれば良いだろう。
「あとは僕の方でも少し動くくらいでどうにかなるでしょう。さて、どの品も最低限よりも10倍は納品できるようにがんばりましょうか。特にミスリルは余分に手に入れられるだけ手に入れてください。4つの中で需要は一番ありますからね。……全容の把握はしてもらいたいのでそれぞれどういう風に持っていくかを伝えておきますね」
「はい!ご指導よろしくお願いします!」
素直に頭を下げるしかないが、何かザールさんは固まってしまっているようだった。少し不思議に感じて頭を上げたら苦笑していた。
「まったく、敵いませんね」
「何のことですか?」
「なんでもありません。さていつまでもその座り方をしていないでちゃんを座り直してください」
俺がちゃんと座り直すとそのまま説明に入ってくれた。
「まず食料に関してですが、健全な活動をしている団体に……」
小一時間ほどそれぞれをどういう形でビガリヴァ家の打撃に持っていくかの話をしていった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
話をしてお茶を口に含むザールさんに俺は空いた口が塞がらない。
「俺が、考えていたよりも最終的な落としどころは全部相手の痛手になってますね」
「ダドー・ビガリヴァが公爵家の権威をいいことに悪行を重ねていることは遠く離れていても耳に入ってきていました。しかも現当主が真っ当な指導を行っていないことも。僕が裏の人間として動くには十分すぎます。迷惑行為と気が付かずに国民に好き放題していたのです。ある日いきなり足元が無くなって奈落に落ちるのも回りまわっての自業自得ですよ」
ついでに王都担当の者に厳しく指導する必要がありますね、と小声で呟くザールさん。ひえぇ、聞こえてるんですけど!めっちゃ怖いんですけど!?
「じゅ、準備期間は短いので早速動くことにします!」
俺がそう告げるとザールさんはにっこりと笑顔になる。
「はい、がんばってください。僕もたびたび王都に行くのにイレブン君の家を使わせてもらいますね」
「全く構わないです。元から武闘大会の前後で使うことは聞いてたんですから」
デテゴ達は自分たちの足で移動していたが、元から俺の空間接続で移動することは前段階として決まっていた。自由に使っても構わないかと聞かれたところで、どうぞどうぞって話だ。
「ええ、ではよろしくお願いしますね」
「任せておいてください!」
やはり相談して良かった。ゲームだったら一撃与えて一度倒してしまえば退場扱いになるが、現実には最後まで息の根を止めない限りは生き続けることになる。ステータス由来の力ではなく社会的に潰すことに関してまだ甘かったようだ。
「よ~し、はやいところトワの装備を予備まで準備して、リセルにも頼むとして木炭の量も増やさないとだな。ミスリルに関しても大量に手に入れるなら俺がある程度動く必要がある。食材に関しては疲れてても大丈夫だから後回しにするか」
ハチミツに関しては俺も応援以外に出来ることが無いのであとの3つに関して援護から狩りまでしっかりと動くことを考える。細かいことを考えるのはやはり苦手だが一度決まってしまえばガンガン動いていくに限る。
その日のうちにトワの武器を整えてメインに使う1本とそれとは劣ってしまうが他に3本ほど渡しておく。もう一度ついて行って前の物よりも切れ味が良いことを確認して一緒にミスリルゴーレムを倒していく。必要数が増えたことからある程度動きのパターンも教えておいて安全を確保しつつ効率よく倒していくことを頼んでおいた。
すぐに獣人の村に移動する。ちょうど狩りから帰ってきていたリセルにザールさんに頼まれていた簡単なお菓子の試作を頼む。
「簡単って言えば混ぜて焼くだけのクッキーかなぁ。ついでだからショウガも混ぜてより疲労回復に良いものを作ってみようか」
「それで頼む!」
「材料はここで全部揃うからしばらく村にいるね」
「分かった。リセルの代わりにフレイムウッドを倒してくるのは俺がやるから任せておいてくれ」
既にメタルマウンテンで戦闘をこなしているので準備は問題無い。既に夕方だが魔物が活性化する夜の方が狩りはやりやすい。少し休憩するだけで十分だ。魔物の強さから考えると一日~二日がんばれば必要数を整えることは出来るだろう。
「それとね。一日余分に手間をかけることになるんだけどより質の高い木炭に仕上げる方法があるんだって」
「ザールさんに聞いてたよ。感覚が鋭い獣人にしか出来ない加工だって。俺が集めてくるから可能な限り全量のうちの半分程度は質の良いものにするのも頼むよ。出来たら俺が引き取るからさ」
「うん!じゃあそうしてもらうように言っておくね」
「頼んだ!」
話が付いたらすぐに狩りへと飛び出す。レベル上げのために狩りをするのも楽しいは楽しいが目的があって行動するのはまた別だ。手に入れたい物が手に入った時はそれはそれで嬉しいしな。
近くに誰もいないところまで移動して久々に全力での『挑発』を繰り出す。何もしなければ魔物は逃げていくばかりで近寄ってきてもくれないから魔物が近づいてくるだけで珍しい。
ワサワサと枝を動かしながら近づいてくるフレイムウッドだけではなく、フレイムウルフ、フレアランプ、ファイアトータスなどの火属性の魔物も近づいてくる。獣人たちが苦手な火属性だからリセル以外では狩りの効率はまだまだ良くない。あくまで俺たちの基準でだが。
俺が手伝いに来たことで狩り重点ではなく、可能な人には木炭の加工の方に回ってもらう。
より質の良いものを同じ値段で売り出すことが出来たら?定期的により良いものが手に入ることになったら?
ビガリヴァ家には今までよりは質は良いが限りある量しか手元には無い。何か強引な手段にでも出ない限りは1つだって売り捌くことは出来ないだろう。
どちらにしたところで木炭に関しては既に春を迎えている。量が必要になるのはむしろ冬だ。夏と秋もバーベキューで使えることを広めるころにはビガリヴァ家は他の品を抱えたことで更に在庫だけ抱えて苦しい思いをしてもらおう。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




