トワの成長
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トワがストーンゴーレムを倒しているのを見た時に分かったが、大きな音を立ててアイアンゴーレムが倒れていく。残念ながらドロップアイテムは少なかったが、トワが倒せるかどうかを見るためだ。倒せただけで十分といえる。
「アイアンゴーレムくらいは余裕で倒せるんだな」
「見事に切り裂いていくね。鉄なんだけどな」
「余裕。奥の手もまだある」
倒し終わったトワがいつも通りのテンションで帰ってくる。腕力にだけ物を言わせているだけでなく装備も整えさせているし、風魔法を少しだけ切れ味を増す程度にだが短刀に纏わせているようだ。ただの鉄であるアイアンゴーレムでは躓かないようだな。
言葉通りかなりの余裕を持って倒せているからただのゴーレムでは相手にならないな。ここまで出来るなら先に進んでも良さそうだ。
「よし、苦手なはずの相手でこれだけやれるんだからもっと奥に行ってみよう。それとその魔法剣みたいなのは意識的にやっているのか?」
「うん。イレブンを参考にした。同時に色んな事をやるから自分に出来ることでやってみた」
「すごいよ~、トワちゃん!」
難度の高いことだと分かっているだけにリセルがトワを抱きしめに行く。特に抵抗もされずに無表情のままされるがままのトワだが、よく見るとあれはすこしだけ照れているな。褒められて嬉しいのか、大げさだと照れているのか、両方だな。
「じゃあミスリルを手に入れられるこゾーンまで行ってみよう。地図を作っておいて良かった」
「イレブンってマメな性格してるよね。私は地図とか作るの難しいって思っちゃうよ」
「自分のいないところでの事故を減らすためだからな。慎重にしておいてお釣りがくるなら良い意味での誤算だろう」
「イレブンは慎重すぎ」
「トワちゃん、そんなこと言っちゃだめだよ」
「そう言われるのも分かってるけどな」
「自分で言うの?」
トワの言うこともリセルの言うことも分かる。ステータスでもっと判断しても良いのだ。もしくは冒険者なのだからケガをすることに関して寛容になっても良いとも思う。
しかしこれはゲームではなく現実なのだ。ケガが行き過ぎて欠損でもしてしまうとそのまま死んでしまうかもしれない。今回のトワのミスリルゴーレム担当はその可能性が少しだけある。
欠損を治すことは俺やリセルなら出来るが、現場にいないのではどうしようもない。だから一度問題がないか確認するのだ。たとえ過保護と言われても。
「自分がやるときは何も言わせてないのが問題」
「うっ、それは私も思ってたこと。トワちゃん鋭い…」
「俺は良いんだよ。今の俺を殺せる生物なんてそれこそ神獣クラスやレイド級じゃないと思いつかないよ」
「スーちゃんはそんなことしないよ」
「分かってるよ」
殺す方法はあるにしても搦手でない限りは出来ないな。正攻法でぶつかっても勝てる気は全くしない。
「レイド級って?」
「前にサイクロプス倒してなかった?」
「倒したな。サイクロプスに代表されるような1パーティだけじゃ狩りきれないくらいに巨大で強い魔物だな。大概が大きいんだけど偶に例外もいるし、出没に関しては何が条件か分からないね」
「イレブンでも知らないことってあるんだ」
「そりゃあるさ」
何せレイド級に関しては公式のHPで確認して日時と何が出現するかを確認してたんだ。それがランダムだったから完全に気分で決めていると思われていたよ。現実になったとしたら誰に聞けばいいのかも分からない話になるな。
「強さもまちまちだし、弱点がないやつもいる。サイクロプスは分かりやすく弱点のあるやつだからどうにかなったけど古龍クラスになると苦戦はするだろうな」
普通にゲーム内で死人は出てたからな。すぐに復活は出来るけど。
「手伝いはするよ」
「同じく」
「まず出て来ないことを祈りたいよ。そろそろミスリルゴーレムが出て来るエリアだぞ」
言わなくても見た目が違うから分かるんだけどね。壁の色が少しだけ明るくなる。何とか壁を削って抽出したらミスリルが手に入るのかもしれない。効率悪すぎて誰もやらないけど。
少し進むだけでミスリルゴーレムが2体出現する。
「じゃあトワ、ここからが試験だ。1体は俺が始末してくるから自分だけで倒せ。リセルか俺が手を出した時点で失格、ミスリルの調達は俺がする」
「分かった」
「リセルちゃん、がんばって!」
リセルがミスリルゴーレムに向かうのを確認して俺もミスリルゴーレム1体に向かう。
「天昴、速攻で終わらせる」
即殺に一番適している日本刀に変化した天昴を構える。
「『覚醒』、秘奥義三日月の舞」
一瞬で切り刻んでミスリルゴーレムは煙へと変化し終了させた。ついでにミスリルゴーレムのドロップアイテムを回収しておく。よく考えたら俺がドロップアイテムを手に入れやすいことから考えても俺がやる方が良いんだけどな。それはドロップアイテムを扱う限りどこを優先して行うかってだけで話は同じか。
頭を切り替えてトワの様子を確認する。これから戦闘が始まるようだ。見逃しがなくて良かった。
「ためらいが無いね」
「ミスリルゴーレムでためらう必要なんかないだろ」
「今から戦う子がいるんだからもう少し気配りってもんがね」
「始まるぞ」
「もう!聞いてよ!」
一緒に行動していた相棒がやられたからかトワを相対していたミスリルゴーレムは様子を見ていたようだが、俺が手を出さないことを理解してトワだけに集中したようだ。トワも相手が自分に集中したのを確認してから行動に出る。
まずは速度を活かして正面から切りつけるがわずかに傷をつけるのみ。人間で言うと痛みを伴わないすり傷ってところだろうか。俺が鍛えたミスリルナイフなんだけどな、やっぱり魔物の魔力が染み付いていると強度が高くなるのかな。
アイアンゴーレムのときには通用した切れ味を良くする風の魔法剣は微力すぎて通用していないようだ。
一回の攻撃でトワも相手の防御力の高さを理解したはずだが何度も攻撃して傷だけを増やしていく。
「何か考えがあると思うとして、ミスリルゴーレムの洗礼を受けているな」
「それは何?」
「アイアンゴーレムと違ってミスリルゴーレムになると一気に難度が高くなるのさ。トワだって威力の弱い魔法攻撃は全部弾かれているだろう?」
傷は多少付けていても動きに影響が出るほどではないことからそれは確かだ。
「それに、ミスリルは鉄より軽いからゴーレムの動きもより速いものになる。意図的に速く動かないと一撃をもらって大ダメージだ。この世界でミスリルが出回っていない最大の理由だな」
存在を知られていても手に入れる冒険者が少なく希少価値が高いとされている。だから手に入れたいんだろうね。無理だと踏んで依頼をかけてきているのも分かっているけどね。
さすがにスピードがトワを上回ることは無いので危なげのない動きで一撃も受けること無く躱し、攻撃を加えていく。
何度も繰り返して積み重なってダメージになっているくらいまで攻撃を加えたところでトワが距離を取る。
「魔力を高めているな」
「魔法は効かないんじゃないの?」
「考えがあるんだろう」
ミスリルゴーレムもこのままトワを放っておくことは出来なかったのだろう。何かあると分かっていても接近するしかない。
トワもミスリルゴーレムが近づいて来た瞬間を狙って溜めていた魔力を解き放つ。
「風魔法『ウインドボム』!」
かなりの衝撃を放つ一発だ。ミスリルゴーレムは直撃を受けて壁に叩きつけられる!そこからは動きがおかしい。ちなみにトワも自分で風の障壁を張っているし、俺はリセルの分も結界を張って風を防いでいる。
「これを狙っていたのか!小さい傷も壁にぶつけたときに大きな亀裂が走るようにしていたんだな」
坑道が狭くて重戦士が思い切り暴れるのに向かないという話もしていたが、そこまで覚えていたようだ。ただ壁にぶつけただけでは大きなダメージになり得ない。だから小さな傷を負わせておいて吹き飛ばして壁にぶつける。
現実になった世界でないと出来ない攻撃方法だな。あとは傷を負ったゴーレムに向かって少しずつでも傷を負わせていくことで行動の選択肢を狭めていく。
「これなら倒せる?」
心配そうな表情で聞いてくるリセル。その表情をしていることで自分でも分かっているのだろう。
「これでも倒せるとは言えない」
皹が入っただけということは切り傷が表面化しただけとしか言えない。致命傷にするにはまだ大きな一押しが必要だ。それが分かっていないトワだとも思えないのだが。倒せるまで何度も壁にぶつけるつもりなのだろうか。
それから二度ほどウインドボムで壁にぶつけた後、それまではすぐに攻撃に移っていたトワが間髪入れずに魔力ではなく闘気を練り込んでいく。そしてそれまでに何となく教えた両手で作る印を結んでいく。
「風遁!『風化風害』!」
一定範囲をリセルの風の魔力で満たしていく。その中のミスリルゴーレムが空間に溶けていくようにひび割れたところから粉になっていく。30秒ほどで跡形もなく消えてしまった。
「ミスリルゴーレム倒したよ」
目の前には誇らしげに話すトワだけが残った。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




