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4つの依頼

ブクマ・評価・いいねなどいつもありがとうございます。読んでいただけるだけでありがたいです。お楽しみ頂けると幸いです。

「俺たちに指名依頼って聞きましたけど」


一緒に来たのはパーティ登録を一緒にしたリセルとトワを連れて来ている。ネマさんの座っている受付は相変わらず人が並んでいなかったのですぐに話しかけることができた。顔を見た瞬間から渋い顔に変化したネマさんが席を立つ。


「受付で気軽に話す話でもない。場所は移動して内容について伝えるよ」


そう言って応接室に通された。やはり王都本部の応接室らしくユーフラシアたマルクトよりも置いてあるものが高そうだった。一番わかりやすいのは座るソファだね。座り心地と表面の手触りが良い。後は置いてあるものも高級品なんだろうけどそう言った方面の目利きは詳しくなるつもりが無いのでさっと見て終わりだ。


出されたお茶を一口頂いたところでネマさんが依頼書も併せて説明を始めてくれた。トワ、お茶菓子の方だけをパクパク食べるんじゃないよ。


「まず最初に言っておくが完全に嫌がらせだ。受ける理由がない」


話を始める前にすごく機嫌が悪い。どれぐらい悪いかというと金級の彼女が魔力の制御をミスって漏れ出すくらいには機嫌が悪い。その姿を見ると冷静になれるというものだ。


「何も話を聞いていない状況では断るも何も無いですよ。まずは詳しく聞かせてもらえませんか?」

「分かった。だが先に伝えておく。依頼主はビガリヴァ公爵家だ。これを聞けばどういうことか大体分かるだろう?」

「あの試験を受ける前にいた実力が伴ってないボンボン貴族の実家ですよね」

「わざわざ仕事をくれるなんて実はいい人だったってオチなのかな?」

「ンなわけあるかっ!!」

「ヒィッ!ごめんなさい!」


リセルはせめてネマさんを落ち着かせようとしたんだろうけど逆効果だった。反射で謝るくらい怒っている。


「ネマさん、落ち着いてください。まずなぜそれだけ怒っているかを教えてくれませんか?」

「ふぅぅぅーーーー。ごめんよ。ここまで冒険者を、冒険者組合を馬鹿にしているとは思わなかったんだ。この依頼断ったところで組合はあんた達を全力で守ることを約束することを先に言っておくよ」


さすがに涙目のリセルを見て冷静になってくれた。これで話が先に進みそうだ。こらトワ、お代わりをねだるんじゃないよ。搗きたてでアイテムボックスに保存していた餅でも食ってろ。


「依頼されたものは4つ。どれも武闘大会に出場目的で王都に来た冒険者に依頼するには不適当だ。ユーフラシアから来たってことやマルクトでも活動した情報を掴んだのか、その辺りで活動する必要がある依頼だ」

「何かを手に入れてくるってことですか?」

「そうだ。とりあえず依頼書を見てみろ。さっきまでのあたしみたいに怒るくらいのことは見せても良いぞ」


怒ってくれるくらいには俺たちのことを大事にしてくれているんだなと思ったので、感謝の気持ちを込めて依頼書を拝見させてもらう。横からリセルも覗きこんでいる。


1つ目は食料調達だ。武闘大会の際に食料が高騰するため公爵家で使用する分の食料を調達してくることになっている。


「でもこれだけだと普通じゃないかな。私たちに依頼するほどのことでも無いって感じはするよね。去年どうしてたんだろう」

「そこじゃないぞ、リセル。『食材の宝庫』で調達して来いって証明が必要だ」

「あ~、どこで手に入れたのかちゃんと証明してもらってくるってあれ?面倒だしイチイチやってられないよ?」

「チェックしてもらうだけでユーフラシアから派遣されている兵士の手を煩わせることになるのは確かだよな」


その辺りは人海戦術と俺たちという信頼でユーフラシアの方は何とかなるとは思うが面倒なことには変わらないよな。


「公爵家に関わるものに下手なものは食べさせられてないからって理由だよ。あと、先に言っておくけど期限は全部武闘大会の開始直前の2週間後までに揃えろってことになってるよ」

「え!?行って帰る時間だけでそれくらい時間かかっちゃうよ。普通は無理だよね?」

「だから怒ってるんだよ!最初から無理な依頼をかけておいて法外な違約金を取ろうとするか、公爵家からの依頼を失敗した冒険者ということにしたいんだよ!腐ってるんだ!あいつらは!!」


普通なら無理な依頼だからと怒ってくれているし、リセルも普通ならと言っている。ネマさんが怒る理由が分かったのでとりあえず依頼書を全て見てしまおう。


「ついでに言っておくけど指名依頼なら通常なら依頼主が直接説明をするもんだよ。直接受けるかどうかの確認もせずに押し付けるようにしてくるのは明らかに間違ってる。依頼として冒険者組合から突き返しても良いくらいだ」


お互いを尊重し合うという意味では顔を見せるというのは誠意の表れだろう。それも無いってことはネマさんの言う通りなのだろう。


「まあ断る必要はないんじゃないですかね」

「は?」


呆気にとられるネマさんを置いて他の依頼書を見ていく。


2つ目の依頼はミスリルゴーレム由来のミスリルか。公爵家の兵士の装備品に使うか、余れば売るらしい。そんなことを言ってバカ息子に使わせるんじゃないだろうか。


「えあうあうんえんいいえばあんおああう(メタルマウンテンに行けば何とかなる)」

「そうだけど、口に物を詰め込んで言うのはやめなさい」

「お行儀が悪いよ、トワ」

「おえん(ごめん)」


謝ってるけど反省はしてないな。とりあえずお茶を口に含みなさい。


3つ目の依頼はフレイムウッドの木炭か。聞いたことが無いな。


「これはスーちゃんの火山付近にいるフレイムウッドを倒したときに手に入る木炭だよ。良い燃料になるんだ。たぶん村の皆が狩るようになって王都にまで出回るようになったんだと思うな」

「じゃあこれは火山付近、もしくは獣人の村に行けば何とかなるな」

「あたしやるよ~」

「分かった。そうしよう」


ネマさんには聞こえないようにコソコソと段取りを組んでいく。


4つ目はロイヤルハニーか。幻のハチミツらしいが、心当たりが無くはない。


「説明が必要ならするけど、その4つ目が一番厄介だよ。金級まで上り詰めてしまったような強者にはね」

「詳しくお願いします」


意気込んで聞くと先程までの怒りとは違って困惑気味になってきている。全部受けるのがそんなに変だろうか。


「ロイヤルハニーはその名の通りハチミツだよ。でも強者ほど入手は難しいのさ。一番質の良いのはフレンドビーだけど、あれは魔物の中でも特に弱い。強くなりすぎると怯えさせてしまうからね。味が落ちちまう」


ほう、俺の知っているフレンドビーとは種族そのものが違うようだな。


「だから金級の称号を得ているあんた達が手に入れるのはトコトン難しい。しかもどこにいるのか探すところからだ。間に合うわけが無いよ!」

「了解です。ちょっと相談します」


ネマさんにそう言ってリセルと相談だ。


「俺の知っているフレンドビーとすごく違うけどどう思う?」

「むしろ強さの追求に走ってるからね。友達というよりも戦友とかいて『フレンド』と読ませるかのような感じだし」

「でもハチミツ採集はやってるのは確かだし、この2週間でどうにかなるか聞いてみたらいいか」

「というか直接聞いてみたら?ネマさんにも安心してもらうのに見せた方が早いよ」


見せても良いものか迷ったが同じ冒険者だし大丈夫だと思い直して見せることにする。


「それもそうだな。ネマさん、今から見せるのは冒険者と受付さんってことで秘密にしてもらえますか?」


冒険者として裏の手を見たからといって、偶然知り得たもの以外は黙っておくのがルールだ。何が得意で何が苦手かをペラペラと話されてしまうと簡単にバラされたくない技術が広まってしまうし、当然知られたくないことの1つや2つくらい持っているものだ。

そうでなくてもネマさんは金級冒険者として引退しているわけでも無く受付業務と兼任しているらしい。勝手にバラしたら受付としての規約にも引っかかるだろう。


確認したのはそういったレベルのことをしますよという予告と念押しの確認だ。


「分かってるよ。秘密を守るくらいは当たり前だ」

「では」


確認が取れたので空間接続を使う。


「ななななななななな」


なをいうマシーンとなってしまったネマさんは放っておく。この時間なら王都付近でいつものトレーニング中のはずだ。近くにいたフレンドビーに万花を呼んできてもらうように頼む。


「ご覧の通り、空間魔法を使うことが出来ます。一度行ったところに行くことも出来るし、特大のマジックバッグもあるので3つの依頼は今からがんばればどうにかなりますよ。4つ目のはテイムしていたのがフレンドビーの進化種なのでどうにかなります」

「テイムしていたのは知ってたけどフレンドビーまで!?それに進化種!?」

「正確にはフレンドビーはテイムしてないんです。進化種を押さえたらついでに付いてきたって感じです」


ソファからずり落ちはしないものの完全にオーバーフローを起こしたネマさんをトワがしっかりと座り直させる。気の付くよいこだ。


「呼ばれましたか?」

「あ~、万花。いそがしいところありがとう。毎果もすまないな」

「いえいえ」

「お声がけ恐縮です」

「これが、元フレンドビー…??」


色々と聞きたそうにしているネマさんは後回しだ。


「依頼でな、ロイヤルハニーってのが必要なんだけどあるかな?」

「ロイヤルハニーですか?それならいつもお渡ししているのがそうですが?」

「は?」

「え?」

「はぁ!!?」


一番声が大きいのがネマさんである。


「あんたら、一口で銀貨一枚するっていうロイヤルハニーが食べ放題なわけ!?」


銀貨一枚ってのは大体一万円くらいだと思ってくれ。お手軽パンなら100個くらい買える値段だ。そんなものを気軽に口にしていたのか。


「知らなかったな~。私、毎日朝にお茶に入れて飲んでたよ」

「ハチミツ入りのクッキー、好き」


それよりもスキルポーションだろう。どれだけ贅沢に使っていたと思う?一本の原価がそれだけ上がっていたということだ。俺たちの秘密だから言わないけど、別の意味でも言えなくなってしまった。


「イレブン様以外にお渡しするのは少し思うところが無いわけでは無いですが」

「そこに関しては最低限で良いよ。可能な分だけ分けてくれればいいよ」

「かしこまりました」

「ネマさん、4つとも依頼受けます。ついでにビガリヴァ公爵家に痛い目を見てもらっても良いですよね」

「は、え?」


一応冒険者が貴族にケンカを売るのだ。誰かに確認は取っておきたい。


「いや、待て待て!お前ちゃんと依頼書は見てるのか!?ここだよ、ここ!!」

「一応全部見ましたけど気にするところありましたっけ?」


ネマさんの指差しているところは違約金の欄だった。チェックしたはずだがと思ってもう一度見てみる。


「分かってるか!金貨100枚だぞ!」


銀貨100枚で金貨1枚に相当するから金貨1枚で100万円だ。つまり違約金が1億ってことになる。


「高いですよね」

「そうだろうが!報酬と違約金が同じって普通はそんなこと無いんだぞ!?」

「しかし全部の依頼でそうなってるってことは冒険者組合も許可したものってことではないんですか?」

「公爵家相手にただの職員が断れるわけないだろ!?あたしが担当だったらその場で文句付けてるよ!それに…、そこは言わないでやってよ。逆らえなかった自分に落ち込んでるんだからさ」

「それは、すみませんでした」


受け取らざるを得なかったその担当者の人を思い出したのかネマさんが悲しそうに目を伏せる。冒険者に不利な依頼だっていくらでもあるんだろうな。それを受け取ってしまったら善良な人なら気に病むか。ちょっと無礼に振舞ってしまった。


しかし、静かにもしていられない。報酬と違約金の部分を見比べることにしよう。

食料に関しては成功報酬が一定量以上の納品で金貨10枚。これは物によって重さが違うから難しいところだもんな。後は量によって上乗せの報酬が発生する。違約金は金貨10枚。

ミスリルも成功報酬が100キロ以上の納品で金貨50枚。これもそれ以上に納品すれば上乗せの報酬が発生するな。違約金は金貨10枚。

木炭は安いな。成功報酬が100キロ以上の納品で銀貨5枚。上乗せの報酬はあるけど違約金の金貨10枚はやり過ぎだろう。

最後にロイヤルハニーの成功報酬は100グラムからの納品で金貨1枚だ。これだけ違約金の金貨100枚は何だろう。並べて見てみると間違いじゃないだろうかと思えてくるな。


「でも最低限ロイヤルハニーの依頼は達成できます。他のも今から走れば何とかなるんでどうにでもなります。こいつらは違約金をもらえればそれで良し、もしくは断らせれば名誉失墜と考えているんでしょ?」

「それで間違いない」

「でも冒険者の依頼の形で出してきたのが奴らの敗因です」


依頼書のある点を指摘して彼らの油断を突いて一気に地獄に突き落とす作戦について話すことにした。

お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。

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