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神獣の遣い

ブクマ・評価・いいねなどいつもありがとうございます。読んでいただけるだけでありがたいです。お楽しみ頂けると幸いです。

「で、あとはどうしたらいいんですか?」

「武闘大会目当てなら登録だけはしておけ」

「ああ、はい」


確かにやたらと言われたな。武闘大会は国営事業らしく受付は城の近くに特別会場が設置されているらしい。あまり弱すぎる人が来ては人数が多くなりすぎてしまうので銀級以上は問題無く本戦に出場でき、そうでない場合は予選から出場する必要があるそうだ。


「俺たちは誰も関係ないですね」

「誰が出場するんだ?」

「はい」

「私は出ないよ」

「…出る」

「私は数多く見学してみたいな。力試しはまた今度でいい」


出場確定は俺とトワの2人だった。個々人で任せてはいたけど、一旦様子を見てみる方が上回ったようだ。


「リセルはともかくコトシュさんも見学ですか?」

「出場して何かを得られることもあるだろうが、そういうのは2人に任せるよ。私では対応するだけに必死になって終わりそうだ。何より普段相手をしてもらっているトワの方が強いのだしな」

「それはそうですね。だから見学して数多く見て学ぶと?」

「ああ。多数対多数が多かったからな。個の力で圧倒し決する戦いなど私の知識には無かった。予選から私は見てくるつもりだ」

「分かりました」


心の中でロイーグさんの方を見てエールを捧げる。


(王都のお祭りには一人で参加のようです。がんばってください)


うるさいと聞こえてきそうな顔をしていた。声は無くてもついて来てはいたからね。


「私は見学でいいや。手加減難しそうだし」

「俺みたいに『手加減』のスキル取得してなかったか?」

「持ってるけど、イレブンの『人が死なないようになるだけで思い切り殴り飛ばす』みたいな戦い方見てたらスキルに頼るだけは心配になるだけ」

「それは失礼しました。というか俺の戦い方だけでよく分かったな」

「表情と声に出てるよ。隠しきれてないからね」


そうだったのか。まあバレても気にしないから良いけど。


「俺今年は出場するのやめておこうと思ったけど少しは可能性あるかな」

「どっちにしても当たった時点て負け確定の博打だよ」

「ですよねぇ。今年は金級クラスの出場者が多いからなぁ」

「そうなんですか?ついでにそのあたりも聞いていいですか?」


ネマさんとボナソンはこれから俺たちの結果をまとめて報告するらしいが、会話は合わせてくれたのか武闘大会のことだ。しかもそこそこに聞き捨てならないセリフが飛び出してきた。


「あたしよりもこいつに聞きな」


ネマさんが親指で隣に立つボナソンを指す。大きな手で頭をガリガリとかきながらボナソンが言葉を改めて挨拶してくる。


「確実に俺よりも強い冒険者にはこっちが敬語を使わせてもらうよ。イレブンさん」

「いや、それはちょっとどうかと」


断ろうとしたが、強いことは良いことだ!を地でいっているらしいボナソンに押し切られてしまった。元から俺の方が言葉遣いは悪かったけれどどうにもならないので受け入れることにした。


「金級はいつもだったら3人も出れば良い方なんだ。あまり出過ぎても試合が圧倒的に決まってしまうからね。でも今年はここにいるだけでほぼ金級クラスだろう?」

「まあそうですね」


俺とトワとボナソンで例年の人数を埋めることになる。


「既に受付が終わったので言うなら剣姫と銀級最強がめちゃくちゃ鍛え直して出場するらしいんだ」

「デテゴとサティさん!?」

「知り合いなのかい?」

「ユーフラシアですごくお世話になったんだ。しばらく行ってなかったとはいえそんなことになってたんだ」

「本人たちはまだ来てないんだけどね。冒険者組合の職員だってこともあって出場申し込みを代行したんだよ」


本人でなくても出来るんだな。出来れば本人が望ましいけれどってやつかな。


「ボナソンはどうするんだ?」

「まあもう少し余裕はあるから様子を見てから決めるよ。一応いつも準優勝や3位なんて取ってる人間だからね。事情が無い限り欠場は喜ばれないよ」

「それって自分の意思と関係なく出場が決まっているようなものじゃ…」

「本当にイヤだったらやめておくよ。あまりに無様な結果を晒すくらいなら出場しない方が良いのは確かだからね」


実力者として人気を集めているなら多少は気を使わないといけないのだろうな。実力を見極められない一般人からするとあっさり負けるのは問題なのかもしれない。さっきみたいに相手が弱く見えるような勝ち方はやめておくことにしよう。トワにも後で注意しておかないとな。


「それで団体戦はどうするんだい?」

「えっと、団体戦なら出てくれるか?」


リセルに質問するとボナソンに質問していた。


「誰か詳しい人に聞きたかったんだけど5人揃ってないといけないの?」

「どうしてもじゃない限りは人数が少なくても構わないよ。1人で出場しても構わないしね。でもルールは個人戦と一緒で一気に5人と戦うことになるんだ。だとしてもイレブンさんなら大丈夫な気もするけど」

「私は出ても良いよ」

「「トワ」」


俺は自分でも分かるくらい嬉しそうな声になっているし、リセルは意外そうな感じの声だ。


「イレブンほど目立ってくれたら人が多くても陰の活動が出来そう。良い練習になる」

「もしかして個人戦も単独でその練習が出来るか試そうとしてるのか?」

「正解」


どういう動きをするのかは改めてまた練習するとして、最低複数ならば集中攻撃されることも無いだろう。


「う~ん、じゃあ仕方ないな。団体戦は私も出るよ。お祭り気分で見て過ごすつもりだったんだけどな」

「ありがとう!リセル!出てくれると思ってたよ!」


がっしと両手を握って感謝を示す。


「こんな時だけ調子いいんだから」

「俺は元からこんなだ」

「はいはい」


ちょっと手を放すのは名残惜しいが、あまりにも人目が多い。さっさと離れておく。


「じゃあ受付に行こう!」

「というかそういうことって王都に来る前にしておかないもんかね」

「行き当たりばったりなもんで」

「そういうもんかい?あたしたちは先に報告だよ」


受付付近まで戻ってきたのでここで別行動になる。俺たちは一旦武闘大会の受付をしに行くことになる。とはいえ試験を受けさせてもらったお礼は言っておくべきだろう。


「よろしくお願いします!」

「は~い。気にしないで良いよ。俺も少し天狗になってたかもしれないしね。出場するなら気持ちを引き締めていくからよろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしく」


なぜだかそんな雰囲気になったのでボナソンと握手しておく。その後は二人の会話を聞きながら組合を後にする。


「先輩~?ダドーのところは警告をまた送っておきますか?」

「そうだね。割り込みに試験受験禁止期間を破ってるわけだからね。何でもお金で済むと思ってるんだから公爵様も呆れたもんだね」


あぁ、あいつか。厄介な人間なんてどこにでもいるものなんだな。そんな感想を抱きつつ、王都の街並みへと歩き出す。


「あの~、イレブン様?私たちの王都での登録はされましたか?」

「忘れてた!すぐにやってくるよ!」


一人でみんなを連れて戻ったところでネマさんと早すぎる再会を果たし、なんとなく気まずい感じで手続きを行った。それから通常の依頼についてもネマさんが受付をやってくれることが分かったから良かったことにしておこう。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


「で、受付はどこなの?」

「王城の門を目指せばわかるって言われたぞ」


昨日は家を借りるのを優先していたので観光など皆無だったため、ゆっくりと王都を見学しながら移動する。人間5人と蜂娘が3体、福来と糸太郎にソウガがいると目立つのは当たり前だ。寄ってきた小さい子に魔物たちを触らせながら歩いていく。一番人気は手触りの良いソウガだ。今の大きさは大型犬くらいだろうか。3歳の子どもくらいならば乗れる。言い切る理由はそれくらいの大きさの福来と糸太郎が背中に乗っているからだ。


最初は多少怖がられていたがその背中に福来と糸太郎が乗っているとなるとどうせ近づかなければならない。触るついでに毛並みに触れることで徐々に子どもが寄ってきた。福来と糸太郎からすれば街にいるときの恒例行事だが、ソウガはタッツでそんな時間もなく旅立ったため今回が初めてだ。見た目が多少怖いくらいでは子どもたちは寄ってくるぞ。慣れてくれ。毛並みがふわふわになるようにシャワーとかも嫌がらずに浴びさせる理由が出来たことが幸いだ。いつまでも嫌がったりはさせないぞ。


「ゆっくりと行くしかないね。はい」

「ありがとう。時間はあるしいいんじゃないか。……この串肉も美味いな!タレが良い!」

「今ソウガにしがみついてる子のお父さんがやってる店で買ってきたよ」


ほら、あそこと言うとロイーグさんとコトシュさんで多めに買って持ってきてくれているところだった。王都の買い食い候補に入れておこう。


「昨日も昼ご飯に食べたでしょ?」

「あ~、なんか食べたことのある味だと思った。串肉だけじゃなくて塊肉もやってるのか」

「屋台で旅行者を集めて、ちゃんとした店でランチやディナーをやってるんだって」

「なるほど」


広告媒体なんて無い世界ではとりあえず香りと味で広めて、大きな買い物をさせるための撒き餌にしているのか。でも確かにこれは美味いし巧いな。


「こういう美味しいもの出す店を一覧にまとめたら便利だろうなぁ」

「それは確かに。あとで冒険者組合にでも提案してみるか」

「それよりも前に相談する必要のあるやつがいるだろう?」

「その声は」

「デテゴ!」


声をかけられた方をリセルと振り返って見るとデテゴとサティさんが立っていた。


「よっ!久しぶり!」

「サティさんもお久しぶりです!」

「えらく人が集まってるから何かと思ったら見知った顔がいたもんでなぁ」


長らく離れていたわけでも無いので懐かしいというよりも久々に会ったなって笑うくらいのものだ。この微妙な違いは分かるかな。


「武闘大会で有力視されてるって聞いたぞ?」

「お前に触発されたんだよ。バカみたいにぶっ飛んだ力は出さないだろうから不意を打てば何とかなるんだろうけどよ。地力が無いと抵抗できないままやられちまうからな」

「色々と気を付けるけど、言うとおりだね」


一瞬で終わる戦いばかりをしていては意味が無いが、ある程度で圧勝していかないとグレイブ村のことが広まらないからな。負ける気は無いからいつ戦うことになるか次第だな。


「まあ戦ってみてのお楽しみだね」

「そういうことにしといてやるよ。で、ここにいるってことは受付でも目指してるのか?」

「そうなんだけど詳しい場所まで知らないから王城目指して歩いてる最中なんだ」

「のんびり歩きながらね」

「まあそうみたいだな。それなら出場するやつだけ連れて行ってやるよ」


ソウガの様子を見るとデテゴの申し出に乗った方が良さそうだ。ソウガと福来と糸太郎がいるところにいるといつのまにか子どもたちが寄って来てすすめなくなるのは変わらなさそうだ。


「じゃあそうしてくれる?」


同時にソウガのいる方からキュー…ンって鳴き声が聞こえた気がするけどがんばってくれ!サティさんも残ってもらってお守りをロイーグさんとコトシュさんにお願いして申し込みをしてきた。


申し込み自体は特に問題は無かった。受けたばかりとはいえなぜか金級相当の合格を受けているのを聞いてデテゴが悔しそうに笑っていたくらいだ。


俺とトワで個人戦に申し込みをして、俺とリセルとトワの3人で団体戦の申し込みをした。


「団体戦のパーティ名は決まっていますか?通例は通常のパーティ名で登録されますが」

「本当にそれでいいの?」

「ああ、これでいい」

「だから私を入れたがってたんだね」

「まあそういう言い方も出来る」


自信満々でパーティ名と3人分のメンバーの名前を書いた用紙を提出する。


「俺たちのパーティ名は『神獣の遣い』で」

大層な事件があるわけでも無くパーティ名でした。

お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。

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