イレブンの試験
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リセルの訓練が移住組の人たちの負担になっていないことを信じることにして、ボナソンの治療を優先してもらうことにした。まあそれでも聞くだけ聞いておこう。
「で、ネマさん。この状況はどう判断されますか?」
「なんであたしに聞く?」
「え?もう一人の試験官じゃないんですか?」
すごく驚いた顔をされた。だってボナソンは明らかに物理タイプだった。世界には物理が強みじゃない冒険者だっている。魔法使いがあの試験方法で来たとしたらボナソンは無駄にダメージを食らうことになるし、よしんば耐えきったとして対物理紙装甲の魔法使いはボナソンの攻撃には耐えられない。
最初から試験官は2人いて、あのアホ(名前忘れた)のせいで先にボナソンが駆り出されていたのだろう。そこに試験官のネマさんが俺たちを連れて現れたが、俺たちは全員物理タイプのボナソンで試験を進めていたというところだ。
「よく分かったな」
「一応よく見ていれば分かると思いますよ」
「それでも大したものだ。今更自己紹介はいらないな。魔法系の試験官はあたしだ。とは言っても魔法の打ち合いなんて危険なことはしない。的を用意するからそれに対しての攻撃の様子で判断する。金級なら壊せて当たり前ってかんじだがな」
「だってよ。リセルはどうする?」
「もう一回やった方がいい?」
どうなんですかという意味でネマさんを見ると頭を押さえている。
「頭痛ですか?」
「いや、待て。リセルはさっきシールドバッシュとも言えない何かでボナソンを吹き飛ばしただろう?魔法も使えるのか?」
「どっちかというと魔法の方が得意です。ほら」
今まさに使っているだろうと指差す。攻撃魔法と治癒魔法はスキルからして違うことは分かっている。しかし、化け物みたいなシールドバッシュに規格外の治癒魔法に加えて攻撃魔法まで使えるとなると頭痛がするのが普通なのか。覚えておこう。
「普通ならどれか一つで十分にやっていけるだろうに全部一人で出来るだと?それにたしかお前の方が強いとか言われてたよな?」
「イレブン聞かれてるよ~」
聞こえてるよ!やり過ぎたんだなってことを噛みしめてるんだ。
「お前は何が出来る?」
「まあそれなりに魔法と剣を少々使えます」
「だったら魔法を見せてみな。的は用意してやる」
受付の制服を着ているネマさんが指を弾くと見学していた冒険者らしき男たちがビクッと反応した。普段何をしてるんだろうか。どこからともなく職員の制服を着た人が2人、確かに的っぽいものを持って現れた。見た感じは案山子に似ているが身に付けている装備はそこそこ性能が良さそうだ。
「魔法に対しての耐性はそこそこに高めてある。提携鍛冶師の失敗作を木の人形に括りつけただけだからな」
「あれに対して魔法で仕掛けてその様子を見て判断ってことですか?」
「そうだ」
まあリセルの手加減シールドバッシュで気絶してしまう試験官なら俺が何やっても危険だし、魔法の方で見てくれるならそれでもいいだろう。
「地味な方法から試しても良いですか?」
「方法は任せるよ。好きにしな」
「一回だけで決まらなかったら失格とかも無いですよね?」
「MPが尽きるまでやってみな。最初から全力を出す奴が多いね。失敗作とはいえ貴重なミスリルを使ったものだからね。そう簡単に破壊できると思っちゃいけないよ」
なるほど。他人の鍛えた防具での耐久実験なんてしたこと無かったしこの際やらせてもらうか。
「じゃあやってみますね」
返事を聞くことも無く、的に向き合うことにした。ミスリルはどの属性に対しても耐性があるらしいことが経験から分かっている。ミスリルで作った包丁は使えるが、熱を通しづらいからか火にかけても焼けないので鍋やフライパンには適さなかった。再度鋳つぶしたのが懐かしい。
火で焼き尽くせないか試してみよう。
水で穴が開かないか試してみよう。
風で切り裂けないか試してみよう。
土で衝撃への耐久がどの程度なのか試してみよう。
それぞれの準備をする。火球、水槍、風刃、土塊だ。水槍や土塊あたりは螺旋回転させて変に威力を上げるよりはまずはそのままぶつけてみるのが良いかな。
まず火球を的の右肩部分へと当てる。ドロッとミスリルが溶けた。失敗作だけあってあまり純度が高くないミスリルだったのかな?
次に水球を胸のあたりへと飛ばす。当てた部分の向こう側が見えた。そこまで分厚い装甲でもなかったようだ。
風刃は左肩の部分を狙うことにした。スパンと良い音を立てて切り落とした。どこの部分を狙っても良さそうな部分が無いな。失敗作って言ってたしこんなものなのかな。
最後の土塊は腹の部分に当てた。背中の部分の装甲に当たって止まったが、腹部分は完全に破壊していた。塊だと殺傷能力が低かったか。
「なんというか。本当にミスリルですか?」
メタルマウンテンで手に入れたミスリルと比べると性能が悪い気がする。自分で鍛えた防具でも軽く耐久実験したときでもこんなに軽くは壊れなかったはずだが。振り返ったら何か悟りきった顔のネマさんがいた。
「お前もう金級で良いよ」
「この試験だけで決められるんですか?」
「決められないけどそう申請上げるんだよ!仮だとしても、上げておくから素直に上げられておけ!お前が銀級とかもはや他の銀級に迷惑がかかるわ!!」
めっちゃ怒られた。
「いいか。失敗作と言ってもあのミスリル装備は大概の魔法は無効化するくらいのことが出来るんだ!それを跡形もなく消滅させられる火球ってなんだ?あっさり切り落とした風刃て何で防げばいいんだ!あんな水槍や土塊なんて防御する手段がないわ!!」
一頻り叫ぶとくるりとこちらを向いた。
「何気なく4属性も魔法使ったけど、他にも使えるのか?」
「はい。雷と氷と、」
「いやいい。聞くだけで頭が痛い。それは隠しておいてくれ、頼むから。何でも公開しようとするんじゃない」
どの属性がつかえるかくらいは公開しても全く気にしないんだけど、そこまで言われるなら公開するのはやめておこう。氷が使えるとなると夏に酷使されるのだろうか。
「初歩の魔法みたいなのにあの威力ってなんなんだ?……あぁ、ついでに聞くが、リセルも似たようなことが出来るのか?」
「同じことは出来ませんが、やろうと思えば今のと同じくらいのことは出来るよな?」
「うん。余裕」
「あのな~、初歩の魔法っぽいのに形態をいじっただけであの威力だぞ?同じことを出来る奴がいきなり二人も現れたらトンデモないことなんだぞ!?」
「う、く、俺は…?」
ネマさんが騒いでいたらボナソンが目を覚ましたようだ。なぜか機嫌の悪いネマさんは容赦なくボナソンに蹴りを加えて言い放つ。
「起きたかボナソン。リセルの試験結果を発表しろ」
「ネマ先輩?すいません、気絶していたんですね。リセルはどこに?」
「そこだ。お前が起きるまで治癒魔法をかけ続けたのもリセルだぞ?」
「えぇ?そんなバカな」
「そんなバカなことがあり得たんだよ!」
実際に見てない分すぐには飲み込めなかったようだが、ネマさんが見たものと俺がぶっ壊した的を見て何とか納得した。
「あんたが見てない部分はあたしが確認した。その上で一応リセルはお前が試験官をやったんだ。あんたがちゃんと判定しな」
「分かりました。リセルは金級が妥当だと判断します」
「イレブンも金級が妥当だ」
「やったね!」
「ああ」
リセルとハイタッチをしておく。どんな結果になろうと人から認められるのは嬉しいものだ。そして試験の責任者として話しかけてくるのが完全にネマさんになる。
「しかし、あんたたちまだ本気じゃないね?」
「そうですね、全く本気は出してないです」
「全然です!」
リセルが言い切ったことで凹むボナソンは放っておく。
「でも本気出すのはあたしでイレブンが受け止める方がいいよね。私のシールドバッシュ受けてみる?」
「いいぜ、俺も構えるけど。特別御前試合ってことでいいですか?」
「そこまであたしたちも偉くなんかないよ。好きにしな。ここは冒険者が模擬戦をするのにも使ってるから」
許可が出たのならやってみよう。リセルは先程と同じ格好に、俺はアイテムボックスから自作のミスリルシールドを取り出す。これだけでさっきの破壊したものよりも丈夫なものだ。いろいろと規格外が過ぎると言われた気がするが流そう。
先に構えたリセルに近づきしっかりと構えを取って盾を接触させる。ドゴン!と爆音は同じだったが、衝撃を身に受けると同時に踏ん張って耐える。多少後ずさってしまったが問題無く耐えた。
「こんな感じです」
「やっぱりイレブンは吹き飛ばないか~」
「周囲の建物を気遣ったんだろ?」
「まあそれもあるけど」
俺から仕掛けるとさすがにリセルを吹き飛ばすことになるのでやらない。俺が本気を出すのは魔物相手と邪教集団みたいに死んでもいいような奴ら相手だけだ。
十分に驚いてくれているボナソンとネマさん、見学者たちには良い警告になっただろう。
「これでマジックバッグのことを話さないで言ったら聞いてもらえますかね」
「金級ってだけで十分だけど余計に間違いないだろうけどね。でもいずれバレるよ」
「そのときは相手の責任になるように暴れます」
「厄介な暫定金級冒険者が出たもんだよ」
「正式になるにはどうしたらいいんですか?」
「王都でいくつか依頼をこなしてな。そのうちに決裁が下りるし、あたしたち2人の名前で押しておくよ。先に受けた2人の分もね」
「お願いします」
こうして色々あった暫定冒険者資格試験が終了した。
「このままでは終わらせんぞ…」
1人のアホ以外は。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




