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リセルの試験

ブクマ・評価・いいねなどいつもありがとうございます。読んでいただけるだけでありがたいです。お楽しみ頂けると幸いです。

「しかし困ったな。試験が終わるまではあまり仲良くならないようにするのが俺のやり方だったんだが」

「そうなのか?」

「仲良くなりすぎるとお互いに手心を加えてしまうことがあるだろう?俺がそういうことを気にする性格だからな。終わるまではなれ合わないようにしていたんだ」

「なるほど」


コトシュさんとトワと終わるたびに仕切り直しで話してしまったため残ったリセルと俺の試験がやりにくくなったらしい。まあボナソンは仏様みたいな人だし、気やすく話せる関係になると試験はお互いにやりにくいよな。だが、そこに空気を読まない女が一人いた。


「私気にしないからいいよ。すぐに出来るよ」


リセルがいつの間にか出してきた盾を構えてシュッシュッと素振りをしている。リセルは最初の一撃にシールドバッシュを見せることで試験をクリアすることを考えているようだ。正直それはやめた方が良いのではないだろうか。手加減出来るとは思うけど万が一がある。


「リセル、ちゃんと手加減出来るのか?」

「大丈夫だよ~。私だって時間があったんだから死なせないような力加減は出来るって」


信じたいところではあるが、もしミスをしたらそこは目を当てられない凄惨な事件現場が現れることになる。かといって俺が結界魔法で守っては意味が無い。下手に手を出すわけにもいかないと思っていると動く男が一人いた。大声で話していたつもりは無いけど聞かれてしまった。ボナソンだ。


「いくら俺でも手加減と言われて奮い立たないわけにはいかないぞ」

「ご、ごめんなさい。落ち着いてくれ」

「怒ってるわけじゃあないさ」


言葉を信じるなら怒ってはいないが、愉快な気分でもないといった感じか。いや表面に出て来てないだけでさすがに怒ってるな。外見からして年下(実際に年下だが)の俺とリセルから手加減しないと死なせてしまうとの言葉を聞かされたのだ。相応のプライドがあればカチンと来てもおかしくない。今のは俺が軽率だった。


「今から撤回されても困るぞ。俺も本気でやろうじゃないか」


そう言って自身の装備を身に付けるべく、動き出している。一応に備えてはくれるようだ。強者だという部分は信じてくれるみたいだが、どの程度上の実力の持ち主なのかまでは分からないみたいだ。


「相手もやる気出してくれたし私も気を付けるからさ、いってくるね」


準備を整えた広場の中央に向かうボナソンとウキウキしながらついていくリセルを見送る。


「大丈夫かな」

「その心配はどっちだい?」

「いや、そりゃまあ…」


ネマさんに聞かれるが、明言するのは憚られるが当然ボナソンの方だ。何かあったとき用にすぐに治癒魔法が出来るようにスタンバイしておこう。


そんな緊張状態の俺を置いて、中央に辿り着いた二人は対峙する。まずはボナソンが構えを取った後にリセルが少し離れて構えを取る。


「最初の一撃にシールドバッシュを使うのが狙いなのだろう?もしその一撃で俺を認めさせることが出来なくても、その後の俺の攻撃に耐えられれば合格は出すぞ。ただ、大きなことを言い過ぎたのはマイナス評価にさせてもらうがな」

「大丈夫だと思うよ。苦労しているとは思うけど、一人でがんばりすぎるのは良くないっていう見本にはなってもらおうと思うけど」

「何を言っているんだ?」


すいません、それはたぶん俺です。リセルさん、そこで俺の八つ当たりみたいなことをボナソンにするのはすごく申し訳ない気がするんだけど?


「まあ一旦普通のケガくらいには許してよ。そのために一応離れてやるんだから」


その一言でリセルの雰囲気が変わった。いつものふわふわした感じから獲物を仕留める直前に出す殺気だ。トワが放っていたものは所詮は人が放つ殺気だ。しかし今リセルが放っているのは獣のそれだ。神獣の獣人のポテンシャルを余すことなく発揮する勢いで動かんとしている。


「ちょ」

「スト」


どれが誰の言葉か、自分の言った言葉か分からなかったけども、その瞬間に轟音と衝撃が広がった。


ドガン!!!



思わず目をつぶってしまった。砂埃が顔に当たってくる。音を頼りに判断すると何かがゴロゴロと転がり、何かに当たって止まる音がした。そこからは静寂だ。


ゆっくりと目を開いて周囲を確認する。


結果を見て俺はホッと胸を撫で下ろす。


ボナソンは見学席の申し訳ない程度の強度の木の柵の根元で倒れていた。おそらくは大きく吹き飛ばされた後に勢いのまま転がり、柵に当たって止まったのだろう。起き上がらないところを見ると危険な気もするが、ピクピクしていることから生きてはいる。気絶してしまっただけのようだ。なんだ、本当に手加減出来たんだな。言ってる場合じゃないか。


おそらく彼の命を救ったのは少し離れていた距離だ。直接触れていたら色々と吹き飛んでいただろう。何気に装備品をしっかりと整えていたのも良かった。リセルもこんなに飛ぶとは思っていなかったはずだし。あいつも笑顔が固い。


直接触れない方が良いとは思っていたが、予想以上の威力でなおかつ死んでいなかったのだから上出来かな?衝撃波でもおそらく十分だろうと読んでいたリセルだが、きちんと自分の力量をギリギリ把握できていた、と言っても良いのだろうか?


色んな意味でどこがシールドバッシュだと言われそうだが、金級冒険者を吹き飛ばすだけの実力は評価に値するはずだ。安心していいのか不安を抱えた方が良いのか悩みながらボナソンのところへ移動しているとリセルの方が先に到着した。そしてそのまま魔法をかけるつもりらしい。


「あ、治癒魔法まで見せるのか?」

「仲良くしてたら良いことあるよってのも見せておかないとね」


今の光景を見て前向きに仲良くしようと考えるやつはいるだろうか。


「自分のミスと認めないつもりか?」

「あ、あはは~…」

「あんたたち、何者だい?」


復習だが治癒魔法の使い手はそこまで多くない。しかもスキルのことを考えると何かを集中的に上げる方が強くなりやすい。現状リセルの先程使用したスキルの目途は立ってもそこに治癒魔法まで含まれるとなると明らかにおかしいと言えるのだ。どんな経歴の持ち主かを考えてしまうのは当然だろう。だが、


「あんまり探らないでくださいね」

「冒険者たるものその辺りは明かされるまでは探るべからずだよね」

「ご、ごめんよ」


俺とリセルでネマさんにやんわり釘を刺しておく。なぜならネマさんも隠し事をしているからだ。少し意地悪をしておく。


衝撃で多少ケガはしているが、気絶まで起こしているのだから目覚めさせないと試験結果を聞くことが出来ない。治癒魔法でそこまで出来ないはずだ。


「このままかけ続けていたらそのうち起きると思うよ。即効性が無いだけで」

「そうなのか?」

「この前発見したんだ~」

「ほう」


そう言ってじっと見ていると自分が失言したことに気が付いたのだろう。リセルの頬に汗が一筋流れた。


「誰相手だ?」

「え~??」

「ごまかすな~!」

「え~~~ん、ごめんなさ~い!」


ごまかそうとしてくるがもう頭は抑えた。口を割らせるとトワの仲間の人たち相手にシールドバッシュの練習をしていたそうだ。ケガの無い実戦訓練などはありえないから治癒魔法も使っていたらしい。


「全く…、それで絶妙な力加減か。迷惑はかけてないな?」

「大丈夫!ちゃんとお礼も渡してたし!喜んでもらえてたよ!」

「手伝ってもらっちゃダメとも言ってないけどさ」

「みんな喜んでたのは本当。イレブン、あんまりリセルを怒らないであげて」

「トワちゃ~~~~ん」


証言を追加しに来たトワの後ろに隠れるリセル。仕方ない。迷惑が掛かってないのなら俺がとやかく言うことは無い。ボナソンへの手当てを続けなさい。


「俺たちは強すぎるんだから人と訓練するときは気を付けろよ?」

「大丈夫だよ。そのあたりは」


既に1つか2つはヤバい山を越えてそうな雰囲気もあるが、ここで追及するのはやめておこう。それよりも今は大きな心配事があることに気が付いた。


「俺の試験は誰がやってくれるんだ?」


ボナソンはまだ目覚めない。

お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。

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