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黒幕の集い

お楽しみ頂けると幸いです。

そして2日後、デテゴのための薬を運んできた商人が帰ってきた。迎えたのはザールである。


「おかえりなさい、ダニイル君。それで――」

「申し訳ありません!」


そう言って土下座の姿勢になるダニイル。全く慌てることなくザールは彼を立たせる。そして話を次に進めるために促す。


「ダニイル君。俯いていないで顔を上げてください。説明してもらわなくては何があったか分かりません」

「は、はい。それなんですけど…。実は」


非常に言いにくそうにしているが、ダニイルは説明を始める。ちなみにダニイルはデテゴとザールがイレブンを連れて開催した食事会に参加していたまだ若手の商人である。

あの日から商談に出かけていたのだが、その商談の旅の途中で商人組合の通信で高レベルの解毒が可能な薬やポーションを可能な限り早く持って帰って来れるようにとのザールからの依頼だった。


その連絡を受けて自分も出来る限りのことを行おうと自分の知り合いにも声をかけていく。ちょうど商談に向かっていたのは薬学だけでなく様々な研究が盛んな都市である。

こちら方面に出ている知り合いは、いないことも無いだろうが一番都市に近いのはおそらく自分だ。それだけは間違いない。周辺の薬を可能な限り買い集める手配をありったけすると同時に輸送の手配をしていった。


だが、届く連絡は中々に残酷なものばかりだった。


「手配した薬が全て届かなかった……ですか。何度か届くかと希望を感じていたのですが」

「はい…。申し訳ありません。盗賊に略奪されたものもあれば、魔物に襲われて全滅してしまいました。早く届けるために警備も最低限にしたことが裏目に出てしまいました。僕が直接持って来たこれしか…」


そう言ってポーションの入った木箱を開けて見せる。


「そう…ですか。しかし、どちらにせよ、デテゴを助けるには遅すぎました」

「そ…それは、間に合わなかったということですか…?」

「はい…」

「そう…ですか…」


どちらとも話すことなく、無言の時間が過ぎる。ザールは何も言わずに立ち去ろうとするが、足を止めてダニイルに向き直る。


「折角持ってきてくれたのです。そちらの木箱に入ったポーション類は買い取っても良いでしょうか」

「は…はい。お代は不要です。僕のせい…なので」


そう言ってザールからの視線に耐えられないと、また俯く。その場にダニイルを残してザールは木箱を抱えて去って行く。

ザールが背中を見せたことでようやくダニイルは顔を上げる。見えなくなるまでその場に立ち尽くしていた。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


時間は夜、場所は目立たないある隠れ酒場の個室―


4人の男がテーブルを囲んで談笑している。3人は機嫌が良いが、残り1人も酒は飲むものの表情は冴えない。


「くっくくっ、ふはっ、死んだ!デテゴが死んだとよ!やっと僕らの恨みが果たせた。墓はもうあるんだかなぁ。ざまぁみろってんだ。潰しにでも行ってやろうかなぁ。ワイーロ、場所は分かる?」

「俺にもまだ掴めていない。デテゴが入りそうな箱は出てきてないからあの治療院だとは思うんだが、イマイチ動きが無さ過ぎて分からん。希望を叶えてやれなくて済まないな。まあお前の仕込みに仕込んだ計画が達成したことを喜ぼうぜ。よくやったよ」

「それほどでもないよ。僕だって全員が協力したからこそ成しえたことだと思っているよ。なあダビド」

「イヤイヤ。俺は飲食店をやっていただけさ。無駄に腕が上がっちまったし、店も多くなったのだけが笑い種だぜ。自分の祖父や父の無念を忘れずに突き通したお前の執念を称えるよ。

「そうだぜ!いち早く情報を仕入れて計画を立てたその手腕は見事だったよ」

「ワイーロ!うるせぇよ!」

「そういうこと言うんじゃねぇよ。俺が学術都市に行って久々の再会なんだからよ」


計画立案者をもてはやす2人は明らかに年下であろう男に惜しみない称賛を送っている。それを受けてより機嫌が良くなっていく。下げたくもない頭を下げここまで来たのだ。

明日になればまた街を出る。この恨みを晴らすためだけに生きてきた。残党ともいうべき男も心を折ろうとしたがそこまでうまくはいかなかった。

引き際を見極められなければ反撃される可能性がある。まだ時間を置いてから判断する方が良いだろう。一度離れてから再度機を伺う。


「途中でザールの女が確保できなかった時にはどうなるかと思ったがな」

「それはヘロノがミスしたからだろう。黙ってないで何とか言えよ」

「いや、本当に申し訳なかった。閉店時間を大きく過ぎていたのに、まだ腕利きが店の中にいるとは思わなかったんだ。たしかに俺の指示が悪かったのは確かだ」


唯一のミスも一旦は見逃すと決めたのだ。いつまでもグチグチ言うのも趣味に合わない。


「もう過ぎたことを言っても仕方ないよ。まだ誰も俺たちがデテゴをやったかもつかめていないだろう。何かを掴まれる前に一度身を隠せば良いさ」

「武力に武力を当てるのは愚策、ということだな。まあ俺は気にしていない」

「あぁ!?俺だけに擦り付けるのかよ。お前が言うなら俺ももう気にしねぇよ。ダニイル」


デテゴを害した黒幕の立案者はダニイルだった。この場にいるのは全員が裏稼業を一度捨て、何かしら別の顔をこの10年で積み上げてきた。

ダニイルはまだ組織の見習い程度だったが、その身に流れる血は当時の首領の直系のものだ。年齢に合うように商人の見習いになった。他の男はそれぞれ投資家、料理人、酒場の主人と立場を隠して身を立てた。

今回のきっかけが恨みであることには間違いは無かったが、デテゴに力で対抗するのではなく搦手で行うべく考え出したものだった。


毒を手に入れてきたのはこの場にいる取り巻きその1の男、ワイーロ。ダニイルが今回向かっていた学術都市で研究者に投資し、魔物を超える強さを持つ魔獣を仕留めるためとの名目で強力な毒を開発させた。そのおかげで世間に出回る薬のレベルも上がってしまい、その妨害を行う必要が出た。

デテゴに毒を飲ませたのは取り巻きその2の男、ダビド。ユーフラシアで飲食店を大きくしたことで有名店になった。あの食事会を行った店の店長である。デテゴが一人で訪れて話し相手になるくらいには元から親しくしていた。だから自分の所属組織が潰された後もいつかの復讐のためにずっと待ち続けていた。この10年で3号店まで開店したことは密かな自慢である。

最後に人の手配を行うには荒くれ物の出入りを確認できるようにと同じくユーフラシアに留まっていたのはヘロノ。今4人が集まっている店の主人がこいつだった。


「おい、名前は呼ぶなよ。僕がデテゴを殺そうとした首謀者なんて言い方するなよ?」

「分かってるよ。奴に10年前に潰された霧の狼組の恨みが奴を殺したのさ」

「そういうことだよ。ヘロノも気にするなよ。ただ、同じことを二度繰り返すようなら許さないけど」

「わかってるさ」


返事をしたヘロノは追加の酒と食事を要求されたため、個室を出て行く。


「ヘロノだけを責めるなよ。ワイーロだって、毒と一緒に薬のレベルを上げるから僕がわざわざ回収しに行くことになったんだぞ」

「それを言われると辛いが、俺は投資だけだ。研究者の頭の中まで操作できないぞ」

「だからだよ。俺は祖父や父とは違う。俺だって商人やりながらすべてがうまくいってたわけじゃないんだ。簡単なミスで人を切ったりしない組織を作る」

「分かったよ。戻ってきたら仲間として認めることを言う…」


そこで扉をから転がり込んでくるようにヘロノが入ってくる。その異変に3人が腰を浮かすが、次に入ってきた男の顔を見て驚愕に打ちのめされる。


「おう。良い酒に料理を楽しんでたんだな。これからお前らはそんなものは食えねぇぞ」


完全武装のデテゴが現れた。

お読みいただきありがとうございました。

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他にも書いた小説です。短編だけでも時間潰しに良ければどうぞ。
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