トワの試験
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俺がかっこよく決めたところで次に試験を受けるのはトワだ。俺は言うだけ言ってすぐに端に寄る。その場に残ったのはトワとボナソンだけだ。
「あの子もそれなりに強いと思うけどそんなに言うほどか?」
ネマさんが首を傾げて質問してくる。
「さっきのコトシュの方が強いように感じたがな」
こちらはそれを聞いてとてもいい気分で笑顔になれる。
「だとすると、トワの訓練は成功してるってことだね!イレブン」
「そうだな」
「見事なものだ。姉として誇らしく思うぞ」
「俺には分からないからなんも言えねぇ」
「何を言ってるんだ?」
俺たちにとっては喜ばしい評価だがネマさんにとっては何を言っているのか分からないといった表情だ。それもそうだ。冒険者とは強さで相手を測ることが多い。強さを示すことであることが試験であるように、強くないと始まらないことが多いからだ。
その中にあってトワの在り方は珍しい。今まで生きてきた中で表舞台に出ることが無かったからな。本来なら表に出ることは無いが忍者も有名になったやつとかは全然忍んでないからな。おっと禁句だな。トワも自分の特技と折り合いをつけて忍者を選んでくれたようで嬉しい。
「弱く見せることが重要だったりもするってことですよ。見ててください」
ネマさんには向き合う2人に注目してもらう。
まず分かることはトワからボナソンに向けて敵意がバチバチだということだ。先程は向き合うと表現したが、トワはボナソンを思い切り睨みつけている。やれやれ、普段の特訓でコトシュさんが負けることだってあるのにそこまで怒るとは。
「お~い、感情を出し過ぎるのは忍者失格だぞ~」
俺が声をかけるとさすがに睨むのはやめたが、納得はしていないようだ。こればかりはあとでコトシュさんに慰めてもらうしかないな。
「コトシュさん後でお願いしますね」
「問題無い。大剣の一撃で大きな打撃を与えられることは分かっていたがそれだけで評価されるのは私が納得いかなかったんだ。トワにはそのあたりの拘りがまだ分からないのかもしれないな」
「結果を残せれば感情など関係ないという世界に生きてきたから、感情面での納得というのはトワからは遠いものなのかもしれないですね」
「うむ。しかし、そのせいでトワが納得できないと感情をむき出しにしてくれているのは嬉しいことではあるな!」
「そうですね」
今までがどうであれ、これから生きていくのに感情を出せるのは大事だと思う。隠すべきところを隠せるなら、という条件は付くけれど。
「まあ見守りましょうか」
「ああ、そうしよう」
そして準備の終わったボナソンとトワが今度こそ始めるべく向かい合った。
「待たせたね」
「別に。問題無い」
トワの装備を見て身軽さをウリにしているタイプだと見たボナソンは少しでも身軽にするために防御用に身に付けている鎧等を外していた。それこそ気持ちくらいの差にしかならないだろうが、コトシュさんよりも強い気配が無いトワに対して油断もあるのだろう。それがドツボだとも知らずに。
「最初の一撃はどう入れても良いんだよね?」
「ああ、構わないぞ。その代わり防御は取らせてもらう。綺麗に入ると致命傷なんてこともあり得てしまうからな」
「いつ行ってもいいの?」
「構わないぞ」
ボナソンは余裕たっぷりだ。トワの前情報は俺たちにくっついて来ている冒険者資格を持つ10歳の女の子だ。一応ユーフラシアとマルクトで銀級冒険者の資格を授与されているが、俺たちのおまけだと思われている可能性が高い。
コトシュさんの後に受験というのも大きいだろう。どんなパーティだって強い人や弱い人がいるものだからだ。だが1つ、勘違いをされては困る。
「じゃあ今からいくよ。でも1つだけ教えてあげる」
「なんだ?」
トワの目が氷よりも冷たく鋭く光る。
「私、コトシュお姉ちゃんより強いから」
言葉を発した瞬間トワはその場から一瞬で消え失せた。相対していたボナソンの目にはそう映っていただろう。
「な…んだと!?どこに…?」
確認するのは現在の自分の視角に入らないところ、つまりは後ろに振り返るとそこにトワは立っていた。
広場を大きく見えていた俺たちからはトワが一瞬で後ろに回ったのは見えていた。ただ見ていて面白いのはネマさんの表情だ。
「見えているはずなのに気配が薄いでしょう?」
「え…!?そ、そうだよ。そこに存在しているように感じないのはなぜ?」
「まあそれはトワの努力の成果なんで簡単には言いませんけど」
隠密とか隠形とか隠せるだけ隠れるためのスキルを使っているからだね。それに姿を見られないようにって人の視線にも敏感でよくどこを見ているのか本能的に察しているらしい。忍者って影の存在なわけだし、そういう意味では相性の良さがハンパないね。
だから強いはずのトワがコトシュさんよりも弱く見えるのは非常に喜ばしいことだ。ボナソンやネマさんみたいな普段から冒険者を見慣れている人を騙せたのは喜ばしい。
「トワは俺たちの中で人間なら3番目に強いですよ」
「あんたが一番強いとは思っていたけど、あのコトシュは二番目だと思ってたわ」
「トワもリセルも隠れるの上手いんですよね」
トワが上手になってきたのはあるけど、リセルも獣人の村で暮らしていた経験から結構隠すの上手いんだよな。
「それよりもボナソンが踊ってる感じになってますよ」
「見えてるよ」
ネマさんはどうしていいか分からないと溜め息を吐いた。トワが背後を取るのを面白がっているからだ。
「ぐっ」「ふっ」「くそっ」
先に一撃を入れるのは受験者側からという理由からその場で回転して正面にトワを捉えようとクルクル回るしかないボナソンだが、トワは一瞬で背後を取れる。
この状況で冷静さを保てるやつがいたら凄いことだ。逆に先程仏の対応をしていたときとは表情が違ってきているボナソンに申し訳なく思ってしまう。
下手に「トワ、いい加減にしろ~」なんて言おうものならボナソンのプライドを粉々にしてしまう。しかしこのままではいけないもの確かだ。チラッとコトシュさんを見る。コクンと頷いてくれた。
「トワ!延滞行為は褒められたものではない!試験官に失礼だぞ。さっさと始めるんだ!」
その声に反応したトワは背後に回ろうとしたところで足を止めてコトシュさんを見た後にまたボナソンに向き直る。分かってくれたらしい。そしてボナソンのプライドは保たれたらしい!良かった!
すたすた歩いてボナソンに近づいたトワは武器をスッと差し出す。ボナソンが何をするのか戸惑っていると確かに小さな声で告げた。
「武器で打ち合えば一撃。その瞬間に終わらせる」
「「終了だぁ!!!!」」
俺とボナソンの声が響いた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
トワの終わらせる発言の何が怖いって、何を終わらせるのかを言わない辺りが一番恐ろしい。今はコトシュさんがトワを正座させて説教している。
「私は自身の戦闘に足りない部分を見てもらうために試験官に正面から戦いを挑んだのだ。不足している部分を見つけることが出来て非常に納得がいった。それなのにトワ、お前がしたことは何だ!」
以前の何でも許しちゃうダメ姉のときから考えると本人のことを考えて叱るようになってくれたのは非常にありがたい。元から根が真面目な人なのでちゃんとしていればまともな人なのだ。
その間に俺がすることは詫びることだ。
「ごめんなさい。ボナソン…さん?」
「呼び捨てで構わないよ。まだ俺も22歳だが、明らかに君の方が強いだろう」
やっぱり仏だな、この人。って22歳!?
「年齢の割に体格(と顔)はしっかりとしてるんですね」
「この状況でそこかい?」
わらってくれるだけでやはり良い人だと思わざるを得ない。雑談をしているとコトシュさんに連れられてトワがしょぼんとした感じで連れられてきた。
「ほらトワ。伝えることがあるだろう」
「切り刻もうとしてごめんなさい」
「うっ、気にしてないよ。試験官だからね」
一言目がおかしいがなんとか受け入れてくれた。
「結果はどうなる?」
「明らかに金級の俺を上回る戦闘能力を見せたんだ。勝手に金級には出来ないが十分に素質があることを報告しておこう。この場で銀級であることは確約しよう」
途中でチラッとネマさんの表情を伺っていたので確認も取ったのだろう。仕方ないなって感じでネマさんもこめかみをぐにぐにと押している。
「ちなみに教えてもらえるならどのようにしてそのスピードを手に入れたのか聞いても良いか?」
「えっ…、イレブン」
トワは訓練方法を聞かれるとは思っていなかったようで、俺に話を持って来た。
「それはトワみたいなスピードを身に付けたいってことか?」
「速いに越したことは無いからね。俺が試験官をしているのはレベルを上げる以外にも訓練方法を聞いたり色々な冒険者のスタイルを学ぶためだ。これくらい利点がないとやってられないからな」
「それはまあ確かに」
今のトワがやったこともそうだし、その前のダドーに関しても俺だったらしこたま殴って一発でクビにされてそうだ。
「だが悪いな。色々と俺たちにも秘密の方法でな。パーティ外には漏らさないことにしてるんだ」
「やはりそうか。それならいい」
「すまないな」
「気にしないでくれ」
トワの大概の人の認識を超えるほどのスピードは大量のフレンドビーとの鬼ごっこで培ったものだ。急加速に急減速、そして耐えられるような肉体は昆虫なら持ち合わせているものをいつの間にかトワも身に付けていた。そんな簡単に身に付いた訳では無いけど便利な特徴で技術だ。
簡単に身に付くものでもないし、同じことをやったからといって身に付く保証もない。教えられないと結論付けている。
「で、トワも隠し玉はあるのか?」
「あるけど、見せたらダメだよね?」
「自分が身に付けた技術はここぞってところで披露するもんだからな」
「了解した」
これで納得してくれるんだから仏だ。
「ではトワの試験は終了だ。戦闘に関しては文句なく金級評価だ。しかしコトシュと同じで依頼の受注数がまだ規定数には到達していない。よって銀級の評価とする」
「ほら、トワ」
コトシュさんに背中を押して促される。何を言うか分かっているかな。
「あ、ありがとうございました」
良かった。分かってた。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




