コトシュさんとロイーグさんの本気
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いや~、しかし勝ちにいこうとするなら他にも手段はあったが仕方ない。ものすごく健闘してくれたと思うぞ。
「負けちゃったね」
「そうだな。う~ん、残念だ」
「むぅ」
口々に惜しむ声の上がる中、トワが俺に聞く。
「なんでコトシュお姉ちゃんは大剣を使わなかった?」
「殺すのが目的じゃないからだよ。大剣は威力が強すぎる」
「物騒な話してるな」
そこに入ってきたのはボナソンだ。
「関係を見ると君がリーダーということで良いのかな?」
「一応そうなります。皆に支えてもらってますが」
順番が前後したが一応挨拶代わりに握手をしておく。たぶんデテゴの方が強いな。あいつ本当に金級になるのをトコトン避けて回ってたんだな。
「なるほどな。末恐ろしい」
「それはまた後程ってことで」
「では、リーダーに試験官として伝えておこう。パーティメンバーが今の状況であるうちにもっと経験を積んで地力を鍛えるようにしてくれ」
「了解です」
魔物と戦う経験というよりは対人戦だな。飛びぬけるほどの何かがあれば良いけどコトシュさんは一応一般人だ。驚異的な速度で強くなっていても完璧じゃあない。今回のように長剣と小太刀だけしか使えない限られた状況に陥ったときに打破できるようにしておいてくれということだろう。しかし隠しているだけでその対策は済んでいるので問題は無いな。
地力を鍛えるというのは完全に賛成だ。俺とリセルのように細かな技術が無くても力押しでいけるだけのスキルやステータスを手に入れたら話が早いという言い方は最もだ。両方とも気にしながらコトシュさんには自己鍛錬を積んでもらうとしよう。
そう考えていたらトワが不機嫌さを隠さずボナソンに噛みつきに行く。止めると暴発しそうだから止めなかったという言い方も出来る。
「本当ならコトシュお姉ちゃんが勝ってた」
「そうか?だが試合だからな殺すような手段は取っちゃいけないな」
「殺さなければいい?」
ボナソンが試験官だぞ。なぜ俺に聞くのだ。
「ケガはなるべく無いに越したことは無い。それに精神的に追い込むのもダメだぞ」
なんでも良いとか言ってしまったら次のトワが何するか分からない。むしろ禁止事項として注意しておく。
「でもコトシュお姉ちゃんの渾身の一撃はこんなもんじゃない」
「それなら興味があるな。コトシュさんよ。試験の一環として見せてくれないか?」
「私は構わないが、どうする?」
コトシュさんも結構動いたというのにまだ元気だ。ボナソンに関してもまだまだ体力が残っているようでノリノリで提案してくる。どうすると聞いたのは俺に対してだ。
ここは公衆の面前で組合の職員だけでなく遠くに見学している冒険者もいる。大剣を使うということはマジックバッグを見られるということだ。そのデメリットを心配したのだろうがコトシュさんは構わないらしい。
いつかどこかでロイーグさんとコトシュさんの2人とは別行動することになると思っていた。しかし、ここでマジックバッグを持っていることを周囲に知られると別行動するのは悪手だ。大丈夫なように鍛えていたり社会的な地位を得ようとしているところではあるが、現状ではまだ微妙に不十分だ。武闘大会が終われば別とも思うが。
「えっと、急に選択することになりましたけど本当に構わないんですか?」
「ああ。このまま同行した方が私は面白いと感じているしな。強くもなれるし、まだトワが成長するまで見ていたいぞ。命を懸けるには十分だ」
それで良いのかという理由も含まれていたが、命を懸けられるって言葉は軽くない。
「ロイーグさんは?」
「俺も付いて行くで構わない。お前と一緒にいる方が色々と楽しそうなことがありそうだからな。俺の軍人時代を知らないだろうが大体のことには耐えてたんだぞ?それにな、俺たちもイヤイヤお前に付いてるわけじゃないぞ。それなりに本気だし楽しんでやってるつもりだ」
「その通りだ」
こういった話題で話し合ったことが無かったわけじゃないけど、いきなり結論を持ってくるとは。でも歓迎することには変わりない。
「…全く…悩んでた俺がバカみたいじゃないですか。今後もよろしくお願いします」
「ああ」
「こちらこそよろしく頼む」
思っていたよりも2人とも気に入ってくれていたみたいだ。まあなるようになれとも言うし、一つ爆弾を投げ入れてみましょうか。
「ではやってもらいましょうか。コトシュさんも準備をしてください。切るものは俺が準備しましょう」
「了解だ」
コトシュさんは長剣と拾って来た小太刀を鞘に納めていたので、それらを一旦ロイーグさんが預かっていたマジックバッグに入れる。代わりに一番威力のある大剣を取り出す。
「「なっ!?」」
声をあげたのはボナソンとネマさんだ。マジックバッグ持ちということまでは分かっていなかったのだろう。声までは拾っていないが、見学者の方からも騒いでいる気配を受ける。
「今切ってほしいものって別に無いので、何でもいいですかね」
「鉄で良いぞ」
「じゃあそうしましょうか」
アイアンゴーレムからドロップアイテムとして手に入れる鉄塊をいくつか取り出して一番大きいものを広場に投げる。今まで手に入れた中で一番大きな塊だ。
ドスンという音を立てて着地した。リセルが土精霊に働きかけて台を作り固定してくれた。イメージは空手家が氷を割る時のイメージだと思ってくれたらいい。こういうときの連携が良いのはうちに自慢だ。ちなみにトワとロイーグさんはコトシュさんの汗を拭いて、ポーションを飲ませている。
「まさかあれを切るのか?」
「もちろん。こんなところで出来ないことはしません。コトシュさん、いけますか?」
「無論だ」
先程まで使っていた長剣が1メートルほどなら、大剣は2メートルを超える。街中で背負っていたら不審人物になるのでマジックバッグに隠している。威力はあるがまだ使いこなすまでに至っていないのでこういう時にしか使わない。普段は乱戦の中でも使えるように練習中だ。
大きく呼吸をくり返して呼吸を整えると大剣を背負って鉄塊の前まで近づくと足を止める。しっかりと構えるともう一度大きく息を吸い、途中で止める。
「ふっ!!」
ここにいる人たちならロイーグさん以外は見えていたんじゃないだろうか。間違いなく切った。
しかし威力重視で作り上げた大剣は思ったよりも鋭かったようで崩れることは無かった。
「リセル、土台解除して。固定がしっかりされすぎて落ちないみたい」
「そういうこと?分かった。じゃあ解除するね」
一瞬の内に解除されると真っ二つになった鉄塊が音を立てて転がった。
「お見事です。コトシュさん」
「これで少しは先程の負けは払しょくできたか?」
「相手は金級ですし、まだ勝てなくて仕方ないですよ?」
「む、それもそうか。しかし私だけが負けるというのもな」
ボナソンの目が怖いからあまりナチュラルに煽らないでくださいね。
「良いだろう。コトシュの試験はこれで終了だ。特例で仮銀級としておく。既定の依頼数をこなせば銀級となると思ってくれ」
「わ、昇級しましたね」
「やった~!」
「お姉ちゃんおめでとう」
「ありがとう。だがまだまだだな」
どこを目指しているのか分からないが、思いがけない昇級に満足げにコトシュさんは笑っていた。
「それであなたマジックバッグを2つも持ってるの?」
「やっぱり気になります?」
「当たり前でしょ!1つ持ってるだけで輸送力が全然違ってくるんだよ!?」
「近いし、声が大きい」
そこにコトシュがネマさん引き剥がしにやってくる。正直助かった。マジックバッグを見せたことはあったけど既に恩を感じてくれた状態だったためか普通の反応がこんなものというのを初めて目の当たりにした。ここまで興奮されるんだな。
「俺も持ってないのに…」
ボナソンが寂しそうに呟いているのでそこは触れないでおく。俺とコトシュさんだけが持っているのではなく全員が持っているとかまでは公表するつもりだったんだがどうしようかな。それと俺が作れるということは黙っておいた方がいいな。元から公表するつもりも無いし。
「運が良かったんですよ。貴重なものであるとは分かってますけど、譲るつもりも無いのであまり広めないでくださいね」
見学者がいる限り無駄だと思うけど一応言うべきことは言っておく。組合の方だけでも先に牽制しておこう。そして後から来るだろう冒険者たちについては今からの俺たちを見て判断してもらうことにしよう。申し訳ないことになるが2人には犠牲になってもらおう。
「そんなこと言ったところで言い寄ってくる冒険者たちは多いよ。コトシュさんが仮銀級だとしたら甘く見て寄ってくる奴らがいてもおかしくない」
落ち着いたネマさんが言う。冒険者も実力社会だ。引き抜きや交渉のある世界もあるのだろう。だったらよく見ておけば良い。
「今から見るものを見ても近寄って来るならそれなりに覚悟して来いってところを見せますよ」
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




