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苦労人の試験官

ブクマ・評価・いいねなどいつもありがとうございます。読んでいただけるだけでありがたいです。お楽しみ頂けると幸いです。

「あなたすごい冒険者だったのね」

「え?そうでもないですよ。まだ銀級ですし」


場所は冒険者組合、昨日ぶりのネマさんは相変わらず暇そうだったので今日も話しかけてみたら開口一番こう言われた。なんかリセルが俺とネマさんの間に割り込んでくるし、何なんだ?


「その言い方だと余裕で上を目指せるみたいな言い方ね」

「まあ余計なことさえされなければ余裕だと思います。知り合いからも強さだけなら十分だって言われてますし」


なんでも有りなら出会った段階でサティさんもどうにかできてただろうし、ユーフラシアにいたときから考えてもかなり強くなっただろうしな!レベルも百は上げたんじゃないだろうか。まあそこそこに戦えるくらいにはなったよ。ゲームには無いスキルも身に付けたし。システムに支配されたゲームと現実は少し違うけどもう順応はしたと思う。


「まあそれが言えそうなだけの経験は積んでいるってことね。それなら暫定試験受けてもらうよ」

「暫定冒険者資格試験のことですよね。そのつもりです。受けるのはこの4人です。あの男性はパーティメンバーですが頭脳労働専門なので」

「分かった。見極めのためにあたしも立ち会わせてもらう。あっちの試験場まで来な」


示された方に視線を持っていくと案内板が出ていた。とりあえずはそれに従って行けということらしい。


「じゃあ行こうか」

「いや、案内ぐらいするから」

「え?」


受付の席を飛び越えようとしている瞬間のネマさんを見てしまった。後ろの方からネマさんを怒る声がしたが、行くぞという言葉に背中のどこかを捕んで走られてしまう。進行方向が背中の方向なのでよく言えばムーンウォーク、悪く言えば誘拐でもされているかのような体勢だ。

前を向こうにもネマさんが服を掴んでいる位置が絶妙で掴まれているのをなんとかしないと前を向けない。仕方ないのでそのままだ。気を付ければ身体能力だけでついて行ける。


「また厄介なことに巻き込まれてない?」

「受付の方でここまで強烈な方に会ったことが無いよな」

「これくらいでガタガタ言うんじゃないよ!」


リセルと軽い抗議のような言葉を話すが、一言で黙らされる。この体勢くらいは余裕で受け入れろということだろうか。横暴な気がしないでもない。考えているうちに外に出ていて、どうやら試験場に到着したようだ。

珍しく王都の組合の修練場は外にあるらしい。特徴としては広めの公園くらいはある広場に見える。石畳のあるところが通路の役割で、通路で区切られている砂地になっている中で戦えということなのだろう。同じ大きさの物が8つあるが、現在は他に使っている人はいないようだ。見学席らしきところに人はいるけど今は見ているだけらしい。あっちにいる人たちの方が広場にいるやつよりは強いよな。

そう。そこには見たことのある顔があったのだ。


「貴様ら!よくもぼくの前に顔を出せたものだな!」


ダドー様とやらがいた。いや別にダドーでいいか。なぜここにいるんだ?


「あんた、あれよりは強いだろう?それを見せつけてやれば絡まれることは無くなると思うよ」


ススッと近づいて来たネマさんがこちらを見ずに教えてくれる。なるほど走って連れてこられたのはわざとだったのか。これを見せたかったの?


「あいつも同じ試験を受けるんですか?」

「冒険者組合も色々あってねぇ。本当なら断りたいんだがそうも出来なくてね」


詳しくは言えないけど面倒ごとになっているわけか。え?それを俺たちが解決するの?そしてネマさんの暴露が止まらない。


「銅級までは優秀なお付きがいれば可能なんだよ。でも銀級以上は何かある時に陣頭指揮を執ってもらうこともある。アホには授けられないってことだよ。本試験では受からないから臨時にやってるよその冒険者の試験があると『受けられるんだからぼくも良いだろう!』って何度も来るんだよ。受けさせないといつまでも居座るんだよ」

「迷惑ですね」

「ホントにな」


ネマさんも凄いなぁ。こういうとき今までの受付の方々は表情を繕っていたけど、この人は隠そうともしない。全力で侮蔑と嫌悪の表情を出している。まあ命がけの依頼が多くなってくることを考えたら道楽で邪魔してくるこいつは本当の意味での邪魔者だし仕方ないか。


「無視するな!」

「私を無視しているのはあなたですよ、ダドー様。試験を受けられないのであれば私どもとしては構いませんが!」

「何を言う!ぼくは試験を受けるぞ!父上が邪魔をしようとも何としても銀級以上の冒険者になる!それだけの実力がぼくにはあるんだ!」


レベルだけなら合格なんだろうけど、戦闘のほとんどをお付きにほとんどやってもらってるんじゃないかな。どう見ても戦闘を生業にする人の動きじゃない気がするんだけどな。


「お察しの通りあいつは完全にお膳立てされた中でしか魔物を倒したことが無いよ。レベルは少しくらい低くてもお付きの方が強いくらいさ」

「やっぱりそんな感じですよねぇ」


ネマさんの解説とじっくり見ての『鑑定』結果が一致する。


「分かるのかい?」

「なんとなくですよ。試験官はあの人だけですか?」

「そうだよ。冒険者組合本部所属の金級冒険者ボナソンさ。獲物はあの大きい金属棒さ。厄介ごとでも引き受けてくれるイイやつなのさ。大きな体の割に変幻自在の動きが特徴だよ」

「じゃあ見学させてもらいましょう。良いんでしょ?」

「構わないよ。それくらいで試験官はガタガタ言わないよ。有無を言わせない強さが金級冒険者の唯一無二の共通点だからね。ついでに言うとボナソンは頼まれると断れない性分でね。職員総出で試験官になってくれるように頼みこんだんだ」


出会ったころのコトシュさんも苦労人気質があったな。今はかなり自由人になったけど、今が本来の彼女らしいからいいんだけども。

サティさん以外の金級冒険者は初めてだな。強かったもんな。二つ名が付くほどではないみたいだけど。


では遠慮なく見せてもらおう。ボナソンは体格的にはデテゴよりもまだ大きい。得物の金属棒はどちらかというと彼用に作られたらしく太くて長いな。彼の身長と同じくらいの長さだ。使い方によっては人くらいなら余裕で殺せるだろうけど、簡単にそんなことはしないんだろうな。


試験ではある程度の実力を見るだけらしいが、受験者が未熟な場合は怪我を負うことくらいはあるらしい。ボナソンはどちらかというと軽装だ。本気の時は違うのかな。ちらりとこちらを見てきたので愛想笑いだけしておいたが、すぐに目を逸らされた。ダドーの叫びがうるさかっただけかもしれない。


「ぼくに嫉妬していつまでも合格を出さないつもりなのだろう!金級冒険者がそれで務まるとでも思っているのか!そもそもお前が金級冒険者かどうかも怪しいものだぞ!」

「では、私を試験官と認めないのであれば試験は受けられないものと判断させていただきます。お帰りください」

「何だと!それは困るぞ!」

「ではそろそろ黙ってかかってこい!!!!」


さすがに色々と平常ではやってられないのだろう。ボナソンの威圧スキルが発動していた。手加減しているのは分かるのにボナソンの迫力にダドーは気圧されている。あぶなく尻もちでもついてしまいそうなくらいだ。

しかし、ダドーは軽い威圧で腰を抜かして言葉を噤んでしまうのだから本気で戦闘には向かないな。取り返しのつかないことになる前にやめた方が良さそう。いっそ憐れだ。何が彼をそこまで駆り立てるのだろうか。


「ダドーが試験を受けに来るようになってから金級冒険者たちの依頼の消化率がいいんだ。なぜか分かるか?」

「組合にいたら試験官の役割が回ってくるから、外に出るためとかですか?」

「正解だ♪だからボナソンへの報酬は高めになっているぞ」


全く嬉しくないが、命がけの依頼よりもイヤなのは分かる。俺ももう絡まれたくないし。


見守っている間に準備が進んでいく。開始は受験者のタイミングで決めて良いらしい。合格基準は金級冒険者に認められること。細かいことはそれぞれの昇級基準を満たしてから覚えれば良いらしい。結構乱暴だ。


「いや~~~~」


ダドーはせっかくの初手を何も工夫しないまま打ち込みに行く。悲鳴と勘違いしそうな声をあげていくが、あれは気合を入れるというよりも相手の気を抜かせるためと言った方が納得してしまいそうだ。

しっかりと受け止めたボナソンは受けた勢いをそのまま回転力に変えて反撃の一手にした。


バキィィン!!


派手な音の原因はダドーの持っていた剣が折れた音だ。


「ああ~~~!?ぼくの剣が~!?ぶべらっ!!」


ついでに一撃が顔面に入って転がる。ボナソンが残心をして構えを元に戻す。イラついての一撃ではなく戦闘が始まって隙を見せたのだから当然だろう。お付きもしばらくは静かに過ごせるとか言ってるし。面と向かって諫めることは出来ないんだろうな。


お付きとボナソンが会話をしているが、お互いに労わる言葉だ。組織で働くって大変なんだなということだけは分かった。


「じゃあゴミ掃除が終わったところで次はあんた達の番だよ!」

「一番最初は誰が行く?」

「順番としては私だろう」

「では彼女からで」


最初はコトシュさんから行くことに決まった。

お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。

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