馬車改造、新造?
お楽しみ頂けると幸いです。
手に入れたのはよくある幌馬車だ。まずは普通に馬車に乗ってみることになった。俺が引っ張ってロイーグさんが御者席だ。
「そんなに重くは無いですね」
「本当なら馬が最低二頭で曳くもんだぞ。ここまで運んできてたら今更だが」
ロイーグさんがいる方向から何か聞こえたが流すことにした。買った場所から町の外まで運んだのだから正しく今更なのだ。
レベルを上げたら大型の馬車を曳いて行商する人がいてもおかしくないな。盗賊にも手を出したらヤバいと思わせられるだろう。俺はアイテムボックスのおかげで馬車を曳く必要もないし、盗賊はむしろ狩りに行くので少し違うな。
「揺れます?」
「思ったほどは揺れないな。機構自体は触らなくても済みそうだ。後で確認はしておくが」
「お願いします」
そこまで揺れないタイプだった!見えないところでも不思議と現代技術は反映されているらしい。
しかしこの幌馬車、前後に入り口があるのはいいけど割と狭い。俺たち一行は結構大所帯だ。誰か1人もしくは2人が御者で外に出ているとしても少なくても3人は中に入ることになるし、糸太郎は天井でもいいらしいが福来もいる。あとはフレンドビーたちの巣だな。
よって、そこそこ広くないといけない。ロイーグさんも降りたことだし。さて、じゃあさっそくやってみますかね。
「待て待て。今何をしようとした」
ロイーグさんに肩を掴まれて止められてしまった。
「空間魔法を使って四輪みたいに広げようかと」
「中を覗かれたらおかしいとバレるからやめておけ」
「そうか。検問の時とかに覗かれるのか」
四輪はバレない距離で降りてたから無かったけど、他の商人たちはチェックされてたな。外から覗かれるくらいだったけど。
「俺もお前もこの国の常識には詳しくないが、節度は守っておくべきだろう」
「分かりました」
「だが、改造というのは悪くない!元から色々と持っているんだ。移動中に困らないで済むような物だけ設置しておけば良いだろう。さて、やるか」
「了解です!」
こうして(本当ならヤバいんだけど、皆がそれなりにズレてるから誰も気づかず任せてはいけない2人の)改造が始まった。
「まず物理的に狭いのは物理的に広く出来ないか?」
「出来ます。外装と壁面を一旦外して床板は魔法で持ってる端材を接ぎましょう」
「端材って言うけど例のダンジョンで手に入れた果実の生っていた木だろう?」
「まあ、余りですよ。木材としても有能らしいんで使います」
アイテムボックスから使えそうなものを出していく。使うかは分からないけど爪とか牙も出しておくか。外装や内装に使えそうだし、あとは毛皮か。
「壁面が足りないのは?」
「サイズ指定してくれたら切るんでお願いできます?」
「あいよ~」
人の乗る部分はこうして大きくなった。
「内装はこだわっておいた方が楽じゃないか?」
「ずっと座ってるわけですもんね」
「この毛皮も触ってる分には手触りがいいな。四輪の中に積んでるソファも張り替えます?」
「リセルの嬢ちゃんを呼んで来い」
「ラジャ!」
移動中の食事やら、俺が使う用のスキルポーションを作りだめしてくれていたリセルを連れて来た。
「私も考えてたんですよね。今のソファも座り心地は悪くないけど新しく素材があれば出来なくはないなって」
「いいタイミングだと思ってだから作ってくれないか?」
「分かりました。私も使う物ですし任せてください」
頭を過った言葉を打ち払う。このままにしていたらいけないな。何か考えておくか。
変にバタバタ動いてしまったのを不思議そうな顔で見ているリセルとロイーグさんの目に気が付いた。誤魔化すようにして材料を出してあるところを指して言っておく。
「た、助かるよ。材料はそのあたりにあるやつ適当に使ってくれていいから」
「溜め込んだね。じゃあ早速やってみようかな。まあ料理も調薬もいつでも出来るからね」
「助かってます。ありがとう」
こんな言葉だけでリセルに色々とやってもらっているのは申し訳ないな。やりがい搾取にならないように気を付けなくては。
気にせずに笑ってくれているリセルに少しでも感謝が伝われば良いのだが。
「どういたしまして」
無邪気に笑ってくれるだけでありがたい。
「手ェ動かせ!」
ロイーグさんがたぶんやつ当たりで怒ってきたので、作業に戻ろう。
「「は~い」」
「一旦向こうの片づけしてくるね」
「お~ぅ」
料理も途中だったらしい。キリのいいところがどこかは分からないが、すぐに戻ってくるだろう。さて、その間に一人寂しい人の相手になろう。
「コトシュさんは気軽に打ち解けてくれないからなぁ」
「相談乗りましょうか?」
「いらん!」
内装に関しては一旦リセルに任せることにした。単純に床張りだとしんどいから座るものがあってもいいし、大きくなってしまったら四輪に積んでしまえばいい。
リセルが来る前に次の改造部分へと手を伸ばそう。
「こうなると支える部分が不釣り合いだな」
「大きくすれば良いんですかね。バランスの問題ですか?」
「というよりもこの金属部分には木材部分が載らないぞ」
少し調子に乗り過ぎてしまったようだ。どうするかを考えていたら、ロイーグさんが素晴らしい案を出してきた。
「参考に新しく作り上げてしまえば良いだけだ。ついでに俺らの知っている技術でも注ぎこんでおこうか」
「さすがです!」
馬車が快適に過ごせる技術の遥か上のものを作り上げているのだ。今更出し惜しみをしてどうする、という結論になった。だから全力を出すことになった!
「は~い、片付けてきましたよ~って。なんですか、これは!!」
「お~、リセル。来たか」
「馬車を全部分解してどうするの!?」
「それなんだがな。ついでで申し訳ないんだが、いつでもいいから糸太郎に会ったときに幌馬車に張る布を作ってもらうように伝えておいてくれないか」
「たしかに糸太郎に任せるのが一番だと思うけど…その前に、馬車を分解しすぎてどうするのって聞いてるの!」
俺とロイーグさんは振り返って馬車を見る。そして顔を合わせる。ふっと笑い合い、肩を組んだ。
「「情熱が暴走した」」
「アホか!」
いつの間に仕込んだのか知らないが、ハリセンを両手に持ったリセルに脳天からきれいにはたかれた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「さっさとやってしまいますよ!」
「「は~い」」
リセルにはたかれた後に作業は再開したが、その日の夕食時にもうしばらく時間がかかることを全員に話した。
戦闘職のコトシュさんとトワはバイスを鍛えたり自分たちの特訓時間が増えるだけなので問題無し。糸太郎はしてもらいたいことがあるわけで一緒に来てもらい、福来は糸太郎の手伝いだ。
それから毎果の提案で天井部分を少し大きく作ることでフレンドビーたちの巣は新しく作り直すことになった。元から使っていた巣でも使えるのだが、イチイチ移動するのは面倒なのだそうだ。だからベースを作ってしまえばあとは自分たちで作ると言われて任せることにした。
イメージとしては幌馬車の天井部分に1.5階部分があって、そこが蜂の巣になっていると考えてほしい。外に出るために別の入り口も糸太郎と布の具合は張り方を工夫すれば出来るそうなので勝手に相談してやってくれるそうだ。
「で、聞きたかったんだけど」
「なんだ?」
お互いが手を休みなく動かしながら普通なら聞こえないくらい離れているが、魔法で声を届けている状態でリセルが質問を飛ばしてくる。
「これを曳く馬はどうするの?」
「最初は作ることも一瞬頭を過ったんだけどな。こいつに頼むことにするよ」
「ソウガくんか。結局は帰らなかったもんね」
「ウォン!」
新しくパーティに加入することになった元フォレストウルフのソウガだ。こいつだけが帰らずに居座った。森に家族もいるだろうに恩を返すと言わんばかりの行動だったため、テイムして面倒を見ることになった。こういうと覚悟を汚す言い方だが、まあ責任者になるってそういうことだしな。
今までの例に漏れず、進化しており今はナチュラルウルフという種族らしい。自然現象を身に纏うことが出来るそうで、今は炎を爪に宿して攻撃することが出来る。強さとしては食材の宝庫は余裕、極上の果実はまだまだ無理というところだな。
ただ、テイム初日に洗ってから分かったことだが毛並みに触るのが気持ちいい。これがモフモフの魔力か!福来でも結構満足していたのだが長毛種とまでいかなくてもそこそこの毛の長さの動物の温もりとさらさらの毛はこう理性を失わせるには十分なものがある。
周囲の目が怖くなるので隠れてしかしない。それと隠れてみんなしていることをテイムした俺はソウガから聞いている。皆同じなんだねと思う。ふふふ。それぞれの弱みを1つ握っていることは内緒だ。
「体の大きさって一番大きいのはどうなるの?」
「この馬車を、いや狼車って言うべきかな。曳くくらいなら問題無いぞ。普通の馬の2倍くらいには大きくなれるし。あとは成長次第だな」
「じゃあ良いかな。結局皆で手伝うのが一番早かったね」
「それは言わない約束だよ」
「男二人に任せていられないってことも分かったし」
「ロマンの追求くらいさせてくれよな~。ねぇ、ロイーグさん」
「お前らの会話は聞こえてないからな!」
「おっと、そうでした。作業に集中しま~す」
「了解~」
俺とリセルの周囲の話し声をお互いに周囲に聞こえるようにすることも出来るが、今は個人同士の会話だけにしていたんだった。まあこれ以上はロイーグさんの機嫌が悪くなりそうだったので切り上げることにする。
そうは言っても本気を出して取り掛かれば当初の予定よりは遅れはするものの4日かけて狼車は完成する。ソウガが曳くことを考えると四輪の出番が減るかもしれないな。今度はあっちを改造するか。案だけでもロイーグさんと出しておくことにしよう。
四輪は割り切って宿泊するためだけに使うことにしても良いしな。キャンピングカーと考えれば良いだろう。ある意味夢だったしな。
少し予定通りとはいかなかったが、これでめちゃくちゃ目立つ四輪から、一風変わったくらいの存在には変化したことだろう。
「では、今度こそ王都に向けて出発だ!」
「お~!」
お読みいただきありがとうございました。




