何事もほどほどに
お楽しみ頂けると幸いです。
「灰色の花なら、見た覚えがあります!」
意外と早く見つかった。それは石化していた人たちも見たかもしれないという考えのもとで聞いてみた。
「本当ですか!どこで」
「もちろん、森の中です。珍しい花ですので覚えていました。職業柄興味を持ってしまうものですね」
自信満々で答えてくれたのは花屋のご主人ウィンさんだ。石像から元に戻る際に髪の毛が欠けてしまっていたため、つるっとした感じになってしまった。でも顔の造形が元から渋かったのもあって、今の方がカッコいい感じだ。ナイスミドルって感じだね。髪なんていずれ生えて来るものだからと笑ってくれていた。
「もし森の中で見かけたら危険な植物なのですぐに燃やしてください。それからどこにあったかをまた報告しておいてください。念のための後処理を冒険者立ち合いの元してもらうことになると思います」
呼ばれて出て行くのは念のためにしばらくは俺だと思うけどね。
「分かりました。問題ありません。これから私たちが捕まっていたところまで行ってみようとする人も増えるのでしょう?」
「社に実際にお参りしたいという人は増えるでしょうね」
「では見つけても触れないように気を付けないといけないのでしょうね」
「そうですね」
そこは実は深く考えていなかったところだ。神様でなくても神獣が実際に降り立つ予定の場所だ。御利益に預かろうとするのは当然かもしれない。
実際に存在する世界なので罰当たりなことをする人はそこまでいないと信じたいが、それだってやってみないと分からないことだから俺はノータッチにするつもりだ。
まあ悪いことを考えるやつがいたらどこかから蜂が飛んでくるかもしれないけどね。
他にも聞いてみたところ石像にされていた人たちは見たのも見てないのも半々だった。いずれも石像にされる直前に見たそうだ。広場の近く以外にも生えているわけではなさそうだ。
「こっちの方向からは探れないのかなぁ」
一人でぼそっと呟いたつもりだった。近くにいる人にまで聞かれない程度に抑えていた。
そうするとさっき話したときとは違う表情でウィンさんが近づいて来た。余りの表情に少し恐怖を感じるくらいだ。
「さっきの花ですが」
「え?」
「もう一つ違う場所で見ましたよ。見た、というのは語弊がありますが」
「ウィンさん?」
「ただ、これは内密にしていただきたいのです。どこかに記録に残ったとすると私は殺されてしまうかもしれません」
「とりあえずここじゃなくて俺のパーティしかいないところに行きましょう」
急にウィンさんが何を言いだしたのか分からなかったけれど、何か思いつめたかのようにしていることから隠すべきことだと判断した。すぐに集合の合図を出して集まってもらうことにした。
ウィンさんには俺にも秘密にしてほしいことがあるからと伝えて、空間接続から四輪まで見せた。
「これも見られたくらいでは誤魔化すことはしますが、中に入ってしまうと誤魔化しきれませんね」
「見かけよりもずっと広い?」
「自分たちだけで使う物だと思って、かな~り改造してますからね。これが国やら公的な機関にバレたら自由な生活が出来なくなります。お互いに秘密ってことで」
「……分かりました。決して他言しないことを誓います」
「お互い様ですよ」
お茶を飲んで寛いでもらっているうちに皆が戻ってきた。バイスたちにはフレンドビーたちに遊ばれているそうだ。トップ層のフレンドビーたちからすればそんなレベルだろうな。
「さて、ウィンさん教えてもらっても良いですか?」
「はい。あの灰色の花はある貴族の方に取り扱いが出来ないかと見せられたものと同じです。実際に店頭で見たときは種でしたが、咲いたらどんな花になるかと見せてもらった絵と同じです。さすがに濃い灰色の花ということでお断りしたんです。お付きの方に激高されそうになって余計に記憶に残っていたんです」
「完全に手がかりだな。それを持ってきたやつの特徴とかは覚えてないのか?」
「持って来た方は兵士でもされているのかというくらい体格は良い方だったのと、護衛も必要ないように感じましたが4人ほどお連れの方がいました。顔はあまり見えないくらいフードを深く被られていました。ただ、…偶然に貴族の方が身に付ける家紋のペンダントを見たのです」
見回してみるが誰もこの国の貴族の作法など知らない。知っているとしたら、バイスだ。連れて来るかとトワが目で聞いてくるが、保留だ。まだバイスにはこの四輪内部を見せるわけにはまだ早い。まあ見せても良いかなという気もしてるんだけど。
「その家紋がどこの家の物かは調べたんですか?」
「いえ、こうなる前は調べる時間も無く、今はどこかを知ること自体が身の危険を招くのではないかと思いまして」
「正解だろうな。ご主人、命拾いをしていると思われた方がいいな」
「コトシュさん!無駄に煽らないでください!」
「そうは言うがな、リセル。本当のことを言っただけだぞ」
「それでも言い方があります!」
ちょっとコトシュさんがボケているのかなという言い方をしたが、知らない方が良いというのは本当だ。こういった事態を引き起こした花だし、町中に咲いていて良い花でもない。
「とりあえず覚えている限りで良いので絵に描いてもらえますか」
「分かりました」
「これ紙とペン」
「ありがとうございます」
トワがどこからか出してきた神とペンをウィンさんに渡した。どこに持っていた!?ってツッコミが欲しかったらしく少し残念そうな顔をしているが、ウィンさんはそれどころではない。あとで俺が代わりに言っておこう。
ウィンさんは仕事が終わったら普段花をよく描くことが多いらしく、ササ―ッとウィンさんは仕上げてくれた。花が少ない時期は代わりに絵を売って生計を立てているそうだ。
「こんな感じでした」
見せてもらったのは円の下半分は小さな山でその後ろに太陽らしき丸が描かれていた。本当はもう少し何か意匠が凝ったものだと思うが、少し見ただけでここまで描いてもらえたら十分だろう。
「ありがとうございます。ここから先はウィンさんは何も知らないってことでお願いしますね」
「はい。あの、すぐに言わなくてすみませんでした」
「あまり聞かれない方が良い話でしたし、言えなくて当然ですよ。この話はここまでということで。今度絵を見させてもらいに行きますね。助かりましたよ。ありがとうございます。おじさん」
「お待ちしています。一つだけ良いですか?」
「どうぞ」
「私まだ29歳なんですよ」
しばし、沈黙が漂いどちらともなく頭を下げた。
「ありがとうございます。お兄さん」
「いえ、お役に立てたようで何よりです。ではまた」
何やかやあって情報料は受け取ってもらえなかったので、今度お邪魔した時に色々とさせてもらおうと思う。どれくらいすることになるのかはバイスにこれを見せてからだ。
トワに先導してもらってバイスの稽古場所に連れて行ってもらった。しばらくは素早いフレンドビーに攻撃を当てる訓練だそうだ。
フレンドビーたちはバイスの手足が届く範囲に留まって、バイスたちが触れようとしてくるのを避ける。触れられたら薙刀と毎果特製の特訓コース行きになる。
バイスたちは半分攻撃のような速度でも構わないので触れたら勝ちという訓練だった。いくら手の届く範囲でも鍛えられたフレンドビーたちはそう簡単には捕まらない。こっちも5体当てられなかったらコトシュさん特製の特訓コース行きだ。
「負けられない戦いがそこにはあるって感じだな」
「本気でやらないと意味無い」
「いや、そうなんだけど」
「戦場とは命の取り合いだ。トワの言う通り必死でやらない者に向上は無い。イレブンも自らに制限をかけているのは同じ理由だろう?」
「そうなんですけど、それでもあの必死な感じはやり過ぎではないかと」
「どんな内容にするかは既に伝えてあるからな。加減が分からなかったので初回は出来る限り詰め込んである」
「だからか」
お互いに必死だ。フレンドビーたちにはまだ若干の余裕はあるが、複数でかかっているので避けるスペースが少ない。下手にぶつかってお互いの邪魔をしたらそれが命取りになる可能性がある。
とはいえ、とはいえだ。
「早くバイスに見せたいんだけど。いつ終わるの?」
「あと1時間は続ける予定だ」
「なっが」
☆ ★ ☆ ★ ☆
終わるまで待った。特別特訓になったのはバイスたちの方だ。さすがに普段の訓練から身に付けた体力が違う。涙が止まらないバイスにウィンさんの絵を見せた。
「何も聞かずにこの家紋の貴族家がどの家か分かるか?」
「しくし…、え?あぁハイ。えっと」
バイスは知っているようなので、がんばって思い出してもらう。グーチョキパーのお付き3人は早速コトシュさんに新メニュー行きにされる。
「知ってそうか?」
「はい。でもどうだったかなぁ。う~ん…」
思い出そうとがんばっているようだが、なかなか出て来ないらしい。横からトワがにゅっと顔を出してくる。
「時間稼ぎは無駄。早く言え」
「はい!これはスルマウ家の家紋に近いです。おそらく間違いないかと!」
「じゃあコトシュお姉ちゃんのところへ行け。ダッシュ」
「了解しました!!」
一瞬で答えを出したバイスはトワの指示を受けてすぐに走り去っていった。
「いつの間にこんなに上下関係刷り込んだの?」
「さっきフレンドビーたちとやってた特訓をしたの。一回も触られなかった」
「あぁ、そうなのか」
それで自尊心とか何か全部バッキバキに破壊したんだな。そしてそのトワに俺も同じことが出来るから、それくらいの実力の差だと理解したんだろうな。まあ少しでも特訓のやり方を覚えておけば実力も上がるだろうしがんばってくれ。
「さて、スルマウ家か。どんな家か聞きに行ってみるか」
お読みいただきありがとうございました。




