行方不明騒動の後始末
お楽しみ頂けると幸いです。
「戻りましたよ」
「「遅い!!」」
リセルとロイーグさんに同じタイミングで叫ばれてしまった。
「嬢ちゃんには悪いが先に言わせてもらうぞ」
「どうぞ!」
「お前なぁ、目的が達成できたんならその時点ですぐに報告はいれろ!しかも報告も中途半端だしよ!残ってる側からすれば余りにも遅いと心配するだろうが」
「あれは状況的にしょうがないですよ。送った連絡だけでは不足……してたから怒られてるんですよね」
怒りの表情を浮かべて腕組みをする二人は頷く。俺もフェンリル様に説教できる身分ではなかったようだ。
だからと言ってあの神獣と大精霊の前にみんなを晒すのはダメだと判断した結果だ。言い訳はさせてほしい。
「送った話だけど氷の神獣と大精霊がやってきたんだ。コカトリスよりも厄介な状況を何とかしてくれていて…」
自分でも思うが言い訳だと思う内容だが、がんばってあったことを伝えた。コカトリスが森の魔物や森に入った人間たちを石化させていたこと、そのコカトリス自体が正人類統制教会なる組織に仕掛けられたことだったことや花粉が危険なゴンゴルの花のことを思い出しながら話した。
それをわざわざ教えに来たのかという男の話になり、そいつから情報を抜いた後で魔力の使用を呪魔法で禁止して放置したこと、前後に氷の神獣と大精霊と知り合ったこと、大精霊の方は一応の義理は果たしたが神獣に約束したあれこれも含めて話を伝えた。
割とボリュームがある内容だったため噛み砕くのに時間がかかった二人は当初の怒りは治めてくれた。
「それでも料理なら私を呼んでくれても良かったんじゃない?神獣ならなおさら!」
「圧がすごかったんだよ。人に会いなれていないというか。俺だってずっと話してて結構疲れたんだぜ?」
数値の上では問題無いが精神的にはもうへとへとだ。今日はもう何もしたくないとジェスチャーで見せる。納得は…まだしていないな。
「まだ何度か行かないといけないと思って楔は刺してきた。タッツの町の人にも協力してもらう以上目印や道の整備は必要だからな。次に行くときに連れて行くよ。会えるかどうかは期待するなよ」
「むぅ…。何かしらの縁はあるだろうからそれでいいよ。会えるのを楽しみにしとく」
「はいはい」
リセルはたぶん何とかなった。問題は俺の話を聞いて難しい顔をしているロイーグさんだ。
「危険な植物だっけか、ゴンゴルの花とやらは何か特徴を書いたメモは無いのか、あとは絵に描いたとか」
「……特徴は言えますけど、絵は描く前に燃やしました」
「………あとは呪魔法はかけたらしいけど男は本当に放置で大丈夫か?そいつ自体が意外としぶとかったらどうする?」
「……ひ弱だと判断して放置でいいかと」
「イレブンに比べたら皆ひ弱に見えるよね」
「リセルの嬢ちゃんの言うとおりだな」
「「「……………………」」」
「ははは……、はぁ…」
しばしの無言の後、もう一度森の中に行くことになった。男はガッツリ拘束して回収して確保、まだ目が覚めてなくて良かった。逃げられて探すのは面倒だったし。
ゴンゴルの花は探したけど見つからなかった(さすが神獣!)ので思い出しながら俺が描くことになった。絵心もセンスも無いのに。花の色が濃い灰色だったからそれだけでもヒントにはなるかな。鑑定のためにじっくり見ておいて良かった。
「う~ん、たしかに凄い存在がいた気配は残ってるね。スーちゃんやサーちゃんみたいな感じがする」
「そりゃそうだ。朱雀みたいに弱ってるわけじゃない本調子の神獣と大精霊だったからな。季節の変わり目には勝てない、というよりも自然の流れに身を任せる感じだったか」
「次は会わせてね」
「わかってる」
ある程度は朱雀から話は聞けたものの、出会った神獣の数が少ないと情報は話してくれないみたいだからな。四神じゃないとダメと言われつつもフェンリル様から聞けるなら聞きたいんだろうな。
ロイーグさんは気絶させた男から何か新しい知見は得られないかと考えているみたいだ。素直に話すように出来ないことはないけど、素直に話す以外何もできなくなるからなぁ。話す以外の使い道を突っ込まれたときに元に戻せないのは困る。ずっと面倒を見るつもりも無いし。無理矢理素直にさせるか。方法が無いわけじゃないし。
考えていたことを話すとドン引きしながらもう少し穏便な方法を探すからお前は一旦手を出すなと言われた。解せぬ。
もう一度周囲に問題が無いかどうかを確認して現地視察を終えると広げていた荷物やら全て回収して撤収した。
石像にさせられていた人たちは現場で治癒しようとしても現状や帰りの説明が大変なためタッツにもどってから治癒するという判断になっていた。欠けているところが無いかをしっかりとチェックしてくれていたらしい。
空間接続でタッツまで戻ると半日くらい経過していたが、コトシュさん指導の下、トワがバイスたちの相手をしていたようでボッコボコにしていた。
「やはり地力が足りないな。レベル差があると技術があろうとどうにもできない。多少無理矢理でも強くするならレベルを上げなくてはいけないな」
コトシュさんがそう言っていたが、一戦見た感じ俺もそう思う。バイスたちが疲れていることを差し引いても技術や根性でどうにかなるほどでもなさそうだ。
一度面倒を見ると言ったからにはある程度までは鍛えようと思うが、極上の果実をそう簡単に攻略するわけにもいかない。建前上は武闘大会で優勝してから始めることになっているからだ。一応秘密にしておこう。
「そうなると食材の宝庫かなぁ。倒しやすいしずっと籠っていられるし」
「あそこもそれなりの危険ダンジョンじゃないか。簡単に行って帰れるような…」
反射的にバイスが叫ぶが、俺の顔をみると何かを考え出す。
「キミにとってはそれくらいの何でもない場所ということか…」
「まあそうだな。あそこで死ぬのは寝るよりも難しいな」
「そんなにか…」
お付きの3人も倒れたまま聞いている。意識はあるからな。
「どちらにせよ、今日は終わりだ。イレブン、原因の排除は完了したのか?」
「はい。もう問題無いと思いますよ」
「なんだって!?」
今度は起き上がって話に入ろうとするバイスだったがトワに止められる。ちょっとひどいが起き上がろうとした手を払われてもう一度うつ伏せ状態に戻されている。やりすぎだよ。
「今はコトシュお姉ちゃんが話してる。静かに」
「うぐ…」
「まあそれはそれとしてだ」
トワの所業を見ていたのに何も言わないコトシュさんが俺に言う。
「きちんと報告をして来い。私はリセルやロイーグから聞くので構わない」
「了解です。でもその前に石化を解除します」
魔物たちはまた別で考えることにして、何とアイテムボックスに入ったのでそのままにしておき万が一を考えて空間接続も一体ずつ通した人間の石像を並べて解除していく。
記憶があるわけでは無いので、大概の人が解除した途端に目をつぶって叫んだ。何も起こらないことを不思議に思って目を開けるということをくり返した。
コカトリスを見たかの確認やタッツの町まで帰ってきていること、町の関係各所に説明が終わるまでは一緒に来てほしいことを了承してもらった。
助けられたのは冒険者2名と狩人1人に花屋のおじさんだけだった。まだ他にも数名いたはずだが、石像として存在していなかった。残念ながらそういうことだ。
報告はさらっとだ。バイスが何か言いたそうだが、石像から戻った人たちの証言を元に俺たち(というか主に俺)がやったことだと組合長を始め、町長らしき人たちにも伝えてくれた。
「現時点では僕の方が信用がある。顔も効くからね。面倒ごとは短く済ませることが大事なんだよ」
これからも特訓を条件にあまりやりたくないと思っていた話を俺が一度したことを元に代行してくれた。理由は俺に残った仕事が理由だ。
俺に残された仕事は2つある。フェンリル様と氷の大精霊を祀る社を建てて、二柱にとっての休憩所の建設を依頼すること。
これは説明の中にフェンリル様のおかげで防げていた部分が大きいという話をして回ることで話を通しやすくしてくれた。そして建設費用は全て俺が出した。
タッツの町の人からの分は全て維持費やお供え物を手配するのに使ってもらった。なんか色々とややこしい部分はあったらしいが、そのあたりも好きにしてくれたらいいと全部放り投げた。あの二柱も度量が広そうだし細かいことは言ってこないだろう。
もう1つは、この国にコカトリスやゴンゴルの花のような石化をまき散らす厄介者を引き込んだ本人、もしくはタッツの町に仕掛けるように仕向けた人物を探すことだ。
今から思えば魔物がタッツの町に押し寄せて来ていたことは石化が始まることに比べればまだ初期段階だ。近づくだけで石化するなら町の放棄や街道の封鎖すらあり得た話だろう。
タッツの町がある街道は王都から伸びるこの国の中でも大きな街道の一つだ。今はダコハマリのある海沿いの街道の方が栄えているが一時期は同じくらい利用されていたらしい。最近は少しって話は失礼だからやめよう。
手がかりとしては何もない。せいぜい俺がスケッチしたゴンゴルの花を見せてこれを見たことがあるかを聞いて回るしかない。
「本当に見たことがある人でないとイマイチピンと来ない絵だね」
「イレブンにも苦手分野があると思うと安心するのは俺だけか?戦闘が出来ないことを気にしなくて良くなるな」
「私、絵うまいよ」
「トワ、人には得手不得手があるのだ。あまり言ってやるな。味があると言うんだ」
「おいしいの?」
「そうではなくてだな」
「うるっせーーーーー!!花びらが灰色の花って言えばそれで伝わるんだからもう言うな!!」
叫びと共にそこそこ素早く非難する仲間たち。ロイーグさんが首の後ろをコトシュさんに掴まれたので首が閉まったのはいい気味である。コトシュさんに悪気が無いので怒るわけにもいくまい。はっはっは!
「灰色の花…」
そこに反応したのは意外な人だった。
お読みいただきありがとうございました。




