寒いのには理由があった
お楽しみ頂けると幸いです。
結構前から考えていたので突然出したわけではありません。念のため。普段は行き当たりばったりで考えてますけどね。今回の話に関しては割と大筋考えてから書いてます。
「わ、私に手を出したら」
「何か報復でもあるのかな?」
「そ、そうだ!どこにいようとも探し出して…」
何かを思い出したように強気に出る。相手が面倒なのでこちらの言いたいことを言ってしまおう。より強い寒風を吹き付けて強制的に口を閉じさせる。
「あんたってさ、研究者なの?それとも戦闘専門?」
俺の質問の意図が掴めないのか寒すぎてもう口を開くのも億劫なのか目だけで意味が分からないことを訴えてくる。
「自慢げに色々と詳しそうなことは話すけど戦闘タイプじゃないよね。仮にそうだとすると本気で大したことがない。それともう一つ。あんたは単独行動が許されているのか?」
少しだけ考えて周囲を確認するように目だけを動かす。既に雪が降りだしているから周囲の確認は難しいはずだ。
「周りには俺たちしかいないよ。ついさっきからかな。俺としてはね、相手がこれだけ大きく動いているならいつかたまたまとはいえバレる話なんだよ。俺が邪魔してるってことはね」
体の震えが治まらないようだ。そんなに寒いかな。まあ寒いか。
意識的に使わないように抑えていたつもりなんだけど。今は気功闘術も意識的に使用してるもんな。魔力とはまた違う生命力に根源に発するエネルギーだからより震えが来てしまうかもしれないな。
「だから俺の情報はバレても良いの。そうなるとさ、俺の実力を確かめたり、俺に手を出したらどうなるのかってのを捨て駒で確かめると思うんだよね。何が地雷かとかあわよくば取り込めないかとか。何されるとかね」
ポキッと軽い音を立てて摘まみ取る。通常なら激痛の一つも感じるのだろうが特にそう言ったことも無く、ただ生命活動がゆっくりと止まりかけていることに、眠さに立ち向かっているようだ。
「あんたの結末はもう一人の相棒が何とか伝えてくれると思うよ。だからあんたはゆっくりと終わっていけばいいと思うよ」
言い切るのよりも早くがくっと落ちてしまう。このまま放っておけばゆっくりと終わるだろうけど、こんなものじゃダメだ。
とりあえず環境が良くない。自分でやっておいてなんだが。周囲の気温を上げよう。こいつも結界で少しだけ先に隔離しておいて、安全を確保しよう。
極魔法発動のスキルは使える魔法の消費MPが上がる代わりに威力も跳ね上げてくれるスキルだが場所選ぶなぁ。軽く使用しただけで極寒地帯が出来てしまった。コカトリスたちが作った広場だけに限定していたとはいえそこそこにMPも使うし。
こっちの大陸の敵性組織の方が面倒な奴が多いや。やっぱりステータスの底上げは必要だ。久々にスキルポーション生活をやった方がいいな。リセルに手伝ってもらうのもなんだし、自分でやるか。材料集めも俺がやるんだし。
『キミ、氷に対しての適性が高いんじゃない?』
「誰だ?」
誰か何か言っただろうか?声が聞こえた気がする。敵意は感じない。敵意全開で周囲に放っていた割にはかけられた声は非常に穏やかだ。これに近い声を聞いたことがある気がするが。
「誰か何か言ったか?」
もう一度声をかけてみても反応はない。周囲を確認するが誰かがいるようには見えないし、感じない。気のせいだろうか?
『こっちは最初から気づかれないのに慣れてるけど、最初から声が聞こえるのはさすがだよ。僕は氷の大精霊だよ~』
「氷の大精霊!?どこに!?」
『ふふふ。見えはしないんだね。声は聞こえるのか。氷に関しては相性がいいからかなぁ。今は目の前だよ』
そう言われたので目の前をじっと見てみたり触れるものがあるかと手を伸ばしてみる。
『おっといきなり触らないでくれよ。びっくりするじゃないか』
「それは、ごめんなさい。火の大精霊みたいにすぐに見えたりはしないのか?」
「火の大精霊?あいつは別だね。朱雀さまが人間に封印されてから代わりをするために色々と苦労してたからね。面倒見良いから、あいつ」
大精霊にも個性があるんだな。確かにあいつは火だから熱いってよりは温かいって感じだったことを思い出す。
目の前の氷の大精霊はクールなのだろうか。精霊って気まぐれな奴もいるからそんな感じかな。まだ見えないけど。
『氷の環境が出来たから呼ばれてきたよ。もうすぐ春が来るってのにここはすごく過ごしやすいね』
「いや、快適そうにしているところ悪いがもう元に戻すつもりだ」
『なんだい、せっかちだな。ついでだから氷の神獣様も来てくださるのに』
「何だって!?」
予想の斜め上どころか垂直方向に上なことを言わなかったか。
≪紹介が遅いぞ≫
地響きと共に現れたのは高さだけでコカトリスよりも大きく、しかしものすごくキレイだとわかる狼だ。2階建ての建物よりも大きい高さから声が降ってきた。
≪春も来ているというのに、季節外れに冬を巻き起こした興味深き人間よ。我は氷狼フェンリル、氷を司る神獣だ。フェンリルと呼ぶが良い≫
「はあぁ~~~~!?」
気まぐれに使った極魔法で大精霊だけじゃなくて神獣を召喚してしまいましたか!?
☆ ★ ☆ ★ ☆
ちょっと落ち着くのに時間が必要だった。待たせるには大物な相手だけど、俺の反応はまだ穏やかだったらしい。
『大体気絶するよね。死なないように介抱するまでやってあげてるよ』
≪我らは決まった場所を持たないからな、たまに知的生命体に出会うが気を失って夢だと思われることが多いな≫
自分たちで気絶させてるんだけど介抱までしてくれるんなら良いかな。……それで良いのかな?
「えっと、それでご用件などありましたか?」
≪特には無いな≫
『いい冬があったから来たんだね。フェンリル様』
≪そうだな≫
仲良いな。本当はこういう関係なのかな。
「じゃあ質問良いですか」
≪構わぬ≫
大精霊は質問前から飽きたのか、声をあげながら広場内を飛び回っている。解除しても存在は出来るらしいけど、大精霊はちょっと暑いのが苦手らしいのでそのまま極寒にしている。結界とか色々使えて良かった。
「神獣の獣人が仲間にいるんですけどフェンリル様は関係ありますか?」
≪直接は関係ないな。見ておきたいのはあるが、本来ならここよりも北方の山にいるべき時期だ。今この場にいるのも一時的なものにすぎん≫
「そうでしたか」
フェンリルなんて話は朱雀もしてなかったもんな。これで話が1つはやく終わるかと思ったけどそういうわけでも無いのか。
≪我らはお前が気に入ったのだ。神獣の獣人に関するのは四神のみ。朱雀に会っているのなら他の三神のいる場へと赴くが良い≫
「そうさせていただきます」
『フェンリル様!目的忘れてるよ!』
≪そうであったな。いや、忘れてはおらぬぞ≫
完全に振り回されているな。目的とはなんだか知らないが、あんまり話を気軽にしてくれるタイプでもないみたいだ。嵐が過ぎ去るのを待とう。
≪先程までコカトリスがいただろう≫
「はい。いました。俺が全部倒しましたけど。あ、ダメでしたか?」
まだこの話の後に後処理が必要な男が一人転がっているんだ。あいつらの仕業なんだからフェンリルは関係ないよな?
≪いや、構わない≫
なんだ、良かった。
≪では対価を払え≫
んん??
「な、何の対価ですか?」
『フェンリル様~、言葉が足らないよ~。いつも一緒にいる僕じゃないんだから、もっとちゃんと話さないと』
≪えぇい!面倒な…!石化を引き起こす花粉は人間には毒だろう?≫
「石化を引き起こす?」
『兄さんは鑑定は使えるかい?広場の近くに咲いているあの白と黄色の花びらを見てごらんよ。場所は教えてあげるからよく聞きなよ』
「ちょ、ちょっと待って。フェンリル様、見てきますので一旦失礼しますね」
≪うむ≫
許可は得たので大精霊の声に従って見に行く。タッツの町の方角に近い場所一帯に確かに白と黄色の花弁を持つ花が確かにあった。
少し咲きかけているようだが、この花の花粉がヤバいのか?『鑑定』を使ってじっくりと観察してみる。
【ゴンゴルの花】と見える。名前がゴーゴンみたいだな。説明もよく読んでみよう。
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同種だけで隔離しなくてはいけない最上級に危険な植物。同種同士であれば問題無く受粉して育つが、石化に耐性の無い生物には危険な影響がある。特に花粉は石化の原因となる非常に強い毒性を持つ。
特に遠くに飛散するように品種改良されているため特に被害は甚大なものになる可能性がある。開発したのはハモンギット王国の所属となっているが、実際は正人類統制教会所属のボワロズン。
春を過ぎてしばらくすると花粉を飛ばすのでその時期までに対処する必要がある。花弁は花粉を飛ばすころを過ぎると甘くなる。熟した花弁と実はコカトリスの好物である。
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他にもずらずらと流れる文章はどういった効果をもたらすのか、解毒についてはどうすれば良いのかといったものだった。
ある意味幸いにも俺の魔法で解毒できるから飛散されていても大丈夫だったけど、色々を納得のいくものだ。コカトリスが留まった理由に、万が一討伐されても花には気が付かないだろうし。気づくのは甚大な被害が出てからだな。
「あ~~~~。対処方法は無いのかな。………あった」
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花が咲いている場合は花粉が既に生成されているため、ただ燃やすだけでは空気中に飛散して危険である。
必ず密閉空間にて行い、完全に焼却処分してしまうこと。なお、少々の根が残されていればそこから翌年には再度また花を咲かせるため、周囲1メートルほどの土も強い熱で消毒する必要がある。
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「めんどくさいなぁ!!」
しかし、必要な処置だ。既に咲いている花もあるからごっそりと土を抉って回収する。幸いにもコカトリスが広場にしていたおかげで大きな木が無い。木の陰に隠れて見つけそこなったということも無いだろう。
『探知』を使って探したし、フェンリル様もなぜか臭いで確認の手伝いをしてくれた。何株か見落としていたので助かった。
密封は余裕だ。結界で覆ってしまえばいい。結界に入れる時もわざわざ中の物が漏れないようにすることも出来るし。一瞬アイテムボックスに入れておくのでも良いのではないかと思ったのだ。
しかし、こんな物騒なものを持っておきたくないと凡そ全ての人に納得してもらえるだろう理由で入れるのは却下にした。燃やした後の灰は先程の男の結界に合流させておいた。ついでに治癒の処置もしてある。
さて、これで終了だな。
「あ~、疲れた。これで終わりですよね」
『違うよ~』
え?
お読みいただきありがとうございました。
10年に一度の寒波が来てるそうなので皆さん気を付けていきましょう。
あと、短編も久々に書きました。下に前のと一緒にURL載せてますのでいければぜひ。もしくは検索してみてください!




