接敵コカトリス!戦闘開始!
お楽しみ頂けると幸いです。昨日予約をミスりまして2話投稿してます。リアルタイムで読んでくださっている方で未読の方がいればご確認ください。
森の中を進むことしばらく、体幹的には1時間は歩いただろうか。どこに何があるか分からないので一般的な速度で歩いていると思う。背中のリュックに入っている福来も俺の背中側を見てくれている…はずだ。最初にあったきょろきょろ見回すのに動いている感じがなくなり、呼吸しかしていないように感じるがきっと気のせいだ。寝ているみたいな気がするなんて嘘のはずだ。福来もそこまでのんきな子では無い…はずだ。何かあれば叩いて合図をくれるだろう。
「しっかし、何も無いな。いや何も無いわけじゃないんだけど」
昨日見たときは森の入り口付近で魔物の影を見たから入ってすぐに何かしら見つけられると思ったが、そううまくはいかないようだ。
見えるのは木漏れ日を受けてきらめく葉とさわさわと揺れる枝。まだまだ若い木もあるが、5人くらいで囲まないといけないくらい太い木もある。
耳をすませば水の流れる音もするから小川でもあるのだろう。道に関してはせいぜい狩人が使うくらいの道しかないのでほぼ無いも同然だ。よく観察してみないと分からないが、一応分かる。狩人もいなくなっているからこの道に沿っていく方が見つけられるかもしれない。
途中で入り口から昨日の魔物の痕跡を探す方が早いのではと思ったが、救助できる人がいるかもしれないと思って優先している。
ちらほらとリスなどの動物たちも見ることが出来る。あの魔物の群れからうまく隠れられるのだから野生動物はすごい。途中和みつつ、人命救助、人命救助と念じて諦めずに進んできている。そろそろ道が戻りだしたなというところまで来てようやく変化を見つけた。
目的の魔物かというと違っていた。ごく一般的に森に出現する魔物だ。向こうが見つけてくれたら戦闘を仕掛けてくるはずなので、それまでは観察に徹する。
観察の理由はシンプルで思った以上に魔物が少ないからだ。1時間森の中を歩いて初めて魔物を見つけたのだ。数が少なすぎる。倒さない方が良いと判断した。あいつら倒しても経験値としてもドロップとしても得る物が少ないし。
それでも一応確認はしておこうと見て驚いた。フォレストウルフの群れなので森の中で発見するのは構わないが、その内の数頭が体のどこかが石化してしまっている。
「これはようやく手がかりか?」
群れを見ていると一方向から逃げていることが分かる。それと石化している箇所を当該個体だけでなく、周囲の個体も気にしながら移動している。こういう人情みたいなものを見てしまうと次から倒しにくくなるなぁ。
戦闘になるのが嫌になったので、進行方向が重ならないように気を付けて枝の上に移動する。福来がフガッと音を出したので急いでその場を離れる。たぶんバレてないはずだ。
フォレストウルフたちから離れた後は、逃げてきた方向に移動する。そして確信を持つ。途中でより重症なフォレストウルフや牙熊などの他の魔物も見つけることが出来たからだ。
争うことなく同じ方向から逃げ続けている。違う種類の魔物が助け合ってる場を見ると何かこういたたまれない感じがしてしまう。治療しようと近づいたらどんな反応をされるんだろうか。戦闘になったとしたら滅多にしない逃走を選ぶだろうな。そのあと泣いちゃうかもしれない。
そこも切り抜けていくと森の木々が変に薙ぎ倒されている場所を発見する。遂に見つけたようだ。中心にいるのもまた群れをなす魔物だ。予想が当たっていた。
思った通りコカトリスだ。
頭は雄鶏を模しているがトサカが首の後ろまで広がっているし、嘴の鋭さは穀物を食べるための物ではないように感じる。
体の途中から生えている翼は鳥というよりも翼竜と言っても良いような大きさになっている。辛うじて羽毛に覆われているから鳥と認められるようなものだ。
大きな特徴として挙げられるのはあと2つ。まずはその足だ。食いでがありそう、じゃなかった。ものすごく太い。あれで照り焼きにすれば、でもない!まあとりにく、じゃない!とにかく!あれは蹴られると大きなダメージをくらう可能性がある。気を付けよう。
最後は尾だ。鳥と主張するための尾の他に、蛇の尾が伸びている。長いものでコカトリス自身の体の半分くらいだが、俺一人くらいなら余裕で巻き付けに使うことが出来るだろう。蛇の巻き付きは危険だと聞いたことがある。あれにも要注意だな。
総合して大きさは2メートルほどのものから一番大きいものは5メートルほどの大きさがある。これは中々の相手だ。
合計で13体ほどいるが、多少の体の大きさの違いがあるからもしかしたら親子関係の間柄もあるかもしれない。雄と雌の違いが分からないな。そして目を疑ったのは石像が何体も立てられていることだ。魔物もいれば人間のものもある。
規則正しく並べられたのとは別にそれぞれが準備している石像があるようだ。品評会らしきものでもしているつなりなのだろうか。石像にされた側からしたらたまったものではない。
新しく出品されるらしい中には人間型の石像は無い。数えてみると石像になっている人間型と行方不明の人数が一致する。違う可能性もあるが、あれは回収で確定だ。俺が引き付けて福来に肉球印の空間接続でリセル達に送るのでどうだろうか。
「福来、起きろ。…って起きてたか」
寝てないよと主張する福来を落ち着かせて福来に現状を見せながら作戦の伝達を行う。
福来は持っているスキルを通常通りに使用するのに加えて肉球印を押すことで二重発動が出来るから隠れて活動するのに適している。別々に分かれて救助活動を優先させても大丈夫だろう。破壊活動は見かけ的にさせたくないだけだが。
作戦はこうだ。まず俺が陽動でコカトリスたちを石像から離させる。その間に福来が石像を回収していく。石化の原因がこのコカトリスどもなら攻撃されない限りは大丈夫だと思うが、念のため福来も帰還する。
空間接続で向こうに石像が届けば気が付くだろうが、何かあってはいけない。福来も帰らせる方が良いだろう。MPと魔力に差があっても同じことが出来るなら石像を治療できなくても石化しかけるのを抑えることくらいはできるはずだ。
一応福来の周囲に結界を発生させて俺は別行動を開始する。その最中も見つからないように気を付けるが、風上風下はほぼ関係ない。隠密スキルの高レベルとはそういう次元だ。戦闘行為や声を張り上げるくらい自分から目立つことをしない限りは大丈夫なはずだ。索敵が巧い魔物でもないしな。
奴らが作った広場もどきを福来のいる地点から森の中を反対側を目指して移動を開始する。
注意しながら回り込んでいる最中にもやつらの品評会もどきは続いていく。比べているのはフォレストウルフと角鹿の石像だ。もしかしなくてもフォレストウルフは先程の群れの一体かもしれない。
最終的にはフォレストウルフの方が良いとされたらしい。決め手は俺にも何となく分かる。最後まで立ち向かおうとしている姿勢はすばらしいと思う。角鹿も立ち向かおうとしているが、そこは元になったのが草食と肉食の違いがあると思う。
ある意味納得だと見ていた次の瞬間、群れの中で一番大きい個体が動いて角鹿の石像を蹴飛ばしてしまった。
「なっ!?」
慌てて隠密を再度発動させて様子を見る。バレなかったようだ。同じような反応を見せたコカトリスがほとんどだったようで、俺の気配や声も紛れてしまったようだ。
角鹿の石像だった欠片は一体のコカトリスに命中していた。代わりにフォレストウルフのことについて褒められているかのような個体がいる。両方とも作成者ということだろう。一息つきたくなるがそんな場合でもないことが分かる。
要するに作った石像を作品に見立てて、出来の良いものを残して、悪いものを壊していくってことだろう。助けるって点から考えると砕かれるのはマズい。全部拾い集めるのは不可能だ。広場の端には石の欠片が積まれている。石の捨て場なんだろう。あそこに捨てられたら拾える自信が無い。
そして、いつ人間型の石像が蹴り砕かれるのか予想が付かない。鳥頭の判断基準が何かなんて分からないからだ。
まだ完全に回り込んだわけでは無いが、あの場を乱すことが優先だと判断して飛び出した。
「鳥頭ども!全部始末してやるからこっちに来い!!」
「ケェッ!!」
「ギャ!!」
「ギャゴオオオォォォォ!!!」
俺を見つけた瞬間に全個体がけたたましい声をあげる。いや、一番デカいやつだけ声もあげてないな。じっと俺を見据えている。マジか、賢すぎないか?
とにかくまずすることは石像から全個体を引き剥がすことだ。人間型を福来が回収するまでは気づかれないようにしなくてはならない。飛び出した地点から大きく横切るように走る。
12体は俺に向かって移動を開始するが、一番大きい個体―ボスコカトリスと呼ぼう―はその場に留まっている。何なら2体ほどその場に留まるように止めてしまった。
福来、悪いけど3体残っているからこっそりと頼むぞ。
じゃあ気持ちを切り替えよう。コカトリス10体の相手をしますか。本来ならレベル80もあれば相手できる魔物だ。クリア後に戦う魔物であることは確かだし、一番大きいボスコカトリスと小さい2体がゲームの時に出現する限界だ。画面に入らないからな。
その間の大きさの奴らが10体はゲームを遥かに超える。おまけに改めて敵対して分かるのは普通のコカトリスじゃないことだ。確実にそれらよりも強い。
あれ?ゲームの時って気配なんか感じなかったよな。なんであの時よりも強いって確信をもって言えるんだ?普通のコカトリスに会ったことも無いのに?
ドスン!という音で我に返る。自慢らしい脚力を活かして一足飛びに飛び出してきた先鋒の個体が脚を振りかぶっている。さっきの音は軸足に据える脚を振り下ろした音か。
考え事は後だ。通常よりも強い奴が10体だ。油断してたらダメージも大きいかもしれない。とはいえ、まずは冷静さを奪うことが一番だ。まずは苦労して整えただろう住環境を滅茶苦茶にさせてもらう。
「立ち上がれ、『灼熱の溶岩壁』」
滅多に使うものじゃないと使用を自分で控えていた『溶岩魔法』を解禁する。魔物でも容赦なく焼き尽くすのは良いけど、自然への影響が大きいからね。でもここなら既にコカトリスたちが破壊を極めてるから俺だけが悪いわけじゃない!やってしまっても俺が生き残るのが優先だ。
止まれなかったようで溶岩壁に脚を突っ込んでくる。逆に止めようとしたことで接触する時間を伸ばしてしまったようだ。脚についた溶岩を少しでも払おうと暴れている。後続の勢いをそぐことにも成功だ。
当然俺の周囲には結界が張ってあるので、俺には影響無し。透明な結界越しに溶岩を見るのは凄いね。理科の授業の映像にどうですかね。それはさておき本気でやろうか。ロングソード状態の天昴を抜いて構えた。
お読みいただきありがとうございました。




