俺でも見逃しちゃったよ、、、不覚…
お楽しみ頂けると幸いです。
タッツの町の目前で戦っている人を見かけて押し寄せてきている魔物を放置するわけにはいかないだろう。曲がりなりにも銀級冒険者パーティで実力ならそう簡単には負けないくらいには強くなった。
そう思って四輪から降りて走って常識的な速度で走って近づいていくのだが、実際に向かってみるとそんなに助けが必要かという魔物がほとんどだ。
スライム、ホーンラビット、ウルフなどの入門編の魔物に続いて、ビッグホーク、絹蜘蛛、牙猪、角鹿くらいならばそのあたりの冒険者でも十分に対処できるだろうと思った。
「いや、普通に数じゃないかな。イレブンには遠距離攻撃の手札が売るほどあるから何も脅威には感じないんだろうけど」
「数が多いのは大変」
「私なんてレベルが上がらなかった時間が長いから余計に思うけど、普通は魔物が2体ってだけでも大変なんだからね」
「生存率は2倍以上に低くなる」
リセルとトワの二人から畳みかけられるように認識の変更を促される。たしかにレベルを急激に上げて危機感を感じるような状況は一瞬で脱したのと元から一対多数が基本だった俺はこの世界の一般感覚からも遠いらしい。
あまり不都合に感じていなかったが、自分の命を複数から狙われるのは危険といえば危険か。数百匹くらいならがんばったらいけると思わない?無理か。ということは、見てるだけで収束に向かうことは無さそうだな。
「これくらいなら単独行動で十分だよな」
「もちろん!」
「よゆう」
「何かあれば空に魔法を放つなりして合図を送ること。では解散!」
その言葉と共にバラけて行動を開始する。俺は後続の魔物を断つために魔物が押し寄せる方向へと、リセルは冒険者たちの負担を軽くするために人のいる方向に、トワは紛れて戦闘するのが良いと判断したのか中間くらいかな。
「リセル~、あんまり目立つなよ~」
「はいは~い。気を付けるよ~」
分かってんのかな。まあいい。自分のやることに集中しよう。
数を減らすことが目的だけどどこに冒険者がいるかも分からない状況では絨毯爆撃をかますわけにはいかない。もし生きていなくても遺品くらいは回収しなくては。よって手段は限られる。一体ずつ倒していくしかない。
「雷連鎖使えたら殲滅は出来るんだけどな。無差別に貫通していくから有効範囲にいたら一緒に真っ黒こげになるもんな」
しかも魔物であれば魔石やらドロップアイテムに変化するが、人間に向けて放てば黒焦げの死体が残るだけだ。とてもでは無いが状況が掴めていない今は使う気にはなれない。自分でも愚痴だと分かるが、天昴を抜いて切り込んでいく。
飛び込む前は存在を見つけた瞬間に逃げようとされたが、巻き込んでの転倒事故やらが発生して自滅も含めて切り倒していく。
何かの技術が必要というわけでもなく、ただ天昴を持つ手を大きく振るい、時に脚を回していくだけで少しだけ自分の周りに余裕が出来る。勇敢か無謀かは分かれるところだけども飛び掛かってくるくらいには元気な魔物は優先して切り倒した。地面に辿り着くころには魔石へと姿を変えている。
『探知』も発動させて周囲に人間らしき反応が無いことは確認して、先程決めたように一体ずつ処理していく。ここで大きくせき止めておくことで後ろの2人が処理していってくれるだろう。
「ディスガイズアントと戦闘した時が懐かしいなぁ。あの時と違うのは仲間がいること、装備が整っていること、敵があの時よりも弱いことか」
制限を解除しすぎる方が悪目立ちしそうなので現状維持で約10分ほど続ける。そして気が付くと自分の周囲には魔物が残っておらず、目の前から押し寄せてくるだけになっていた。
「じゃあ行くとしますか」
向かってくるハードブルやネイルベア、ワイズモンキーなどの少し強くなった魔物たちを同じように処理して進んでいく。
「いたな~、こんなやつら。久しぶり過ぎて忘れてた。ここからは『挑発』を使っても良いよな」
はしゃぎすぎてしまっただからだろうか。あまり寄って来なくなった魔物を強制的に襲ってくるようにしむけて処理を続けていく。
ずかずか歩きながら、またズバズバと切りながら進むと森が見えてきた。木々の間からまだ魔物が溢れてきている。
「森があることは予想できてたけどさ」
途中から強さが上がったときに、森で出現する魔物が混じるようになったから想定はしていた。何がどこまで出てくるのか分からないが、通常森は魔物の領域だ。ここらへんで線引きをしても良いと判断して出てきた魔物だけを相手することにした。
しかし、そこからが非常に長く、2時間ほどでようやく多少見え隠れはするものの森から出てくる魔物はいなくなった。
「もう終わりかな?」
完全に気を抜いていたところで魔石やドロップアイテムが出現したことで安心する。この世界ではこれが戦闘終結を告げてくれるため気持ちの切り替えにちょうどいい。
最前線にいる俺に関してはまだ見えている魔物がこっちに向かってくるとも限らないので少しだけ緊張感を残しておくけども。
ざあっとアイテムボックスへと回収し、また一財産出来てしまったのはどうしようか。丸ごと未来のグレイブ村の村民たちに渡してしまって資金にでもしてもらおうかな。それともロイーグさんに見てもらって自由に作ってもらうのが良いかな。まあ見てもらってから決めることにするか。
未来の村民たちは何を渡しても喜びそうだしな。経験ですからって色々学んでいるのは知ってるけども。春からは農業も獣人の村で学ぶ人もいるみたいだしな。あの件でお世話していた女性冒険者の人たちも獣人の村で元気にやってるらしいし、一緒についてくる雰囲気らしいしな。人が増えるのは良いことだけどね。
「さて、帰るか―――――!?」
気を抜いたことを考え、森に背を向けたときに底知れぬ冷気を感じた。最大限の警戒をして振り返って森を注意深く観察する。
魔物が一体もいなくなっている。
先程までは多少は多少は見えていた魔物たちがいなくなっている。しかも相当隠れるのがうまいのか見えてこない。俺が制限をかけていることはあるだろうけども、そこそこ強い程度では出来ることではない。
「ちょっと制限解除で。全力で索敵するから」
小声で呟いて精霊にお願いしてみる。返事は無いけども体の感覚が変化し、感覚も研ぎ澄まされる。
「感謝」
手短に感謝を伝えて、念のため『魔眼』にもMPを注ぎこんで何が潜んでいるのかを探ってみる。
分かったのは『何か』が潜んでいたということだけ。足跡だけは見つけられた。ただ、魔物の足跡なんて注意して見たことが無いので出井は分からないが鳥の足跡に似ている。ついでに何かが引きずったかのような跡がある。
あとは今まで見たことが無かったが、魔物の残骸を見つけた。すぐに消えてしまったが、残らなくて良かった。ずっと残るとしたら刺激が強すぎる。あと何かが消えてなくなったかのような気がするんだが、気のせいだろうか。何かがあったかのような痕跡だけが残っている。
「手がかりだけが残っていて不気味過ぎるな。俺でも見逃しちゃったよ。はははー!って笑い事じゃないよなぁ…」
少なくとも分かったのは制限かけている俺を誤魔化すくらいには秀でる何かを持っているということだな。加えるなら根本の原因がこんな森の境界ギリギリまで来るとも思えない。向こうの使い捨てに出来る駒のレベルで制限がかかっている俺を誤魔化すだけの強さを持っているわけか。制限かけている俺のステータスはレベル50~60はあるはずだ。一般人とのステータス比較なんてしたこと無いけども。
原因の魔物はまたクリア後のレベルか。そうなると背後には何かまた関わり合いになりたくない何かがいるのだろうか。でも、俺たちが来なかったらタッツの町が滅びていてもおかしくなかったかもしれないな。
「武闘大会までの日数はあるかもしれないけど解決するまで残った方が良さそう」
それに今見たものも含めてみんなと情報共有に奥まで行ってみないといけないよな。何かあるかもしれないからメンバーは厳選しないといけないけども。
一番大事なのは仲間の安全だ。仲間を危険に晒してまで一般の人を救いたいと思うほど俺は慈悲に溢れているわけでは無い。安全を確認した上でならいくらでも遊んでよいと思うけれど。
どれだけ事情があったとしても、半分足を突っ込んでしまったのだから最後まで巻き込むことを謝らないといけないなぁ。
きちんと伝えるまでは受け入れてもらえるだろうかと堂々巡りになる考えを抱えながら戻っていく。自分が倒した魔物の魔石やドロップアイテムを回収していると途中でリセルとトワがこちらに向かって走ってきていた。どうやらタッツの町や冒険者たちも無事のようだ。
「無事だったか。そっちはどうだった?」
「ちょっと面倒なことはあったけど、大丈夫だよ。ケガ人はいたけど治してきたし、問題無し」
「私は魔物を倒してただけ。問題無し。回収する?」
「2人とも問題無いなら良かったよ。回収も頼む」
「りょう…、御意」
「あっはは。容量に余裕が無くなったら引き取るから言ってくれ。んで、リセルのちょっと面倒って何?」
俺を見つけた時の顔が心配だけではなかったので気になった。とても言いにくそうな感じで言うかどうかを戸惑っている。トワを見ると首を横に振るので何があったかは知らないらしい。ということは、
「何か助けた冒険者がらみってことか?何か言われたのか?」
「え~…とね。……の…じょって」
「小声過ぎる。もっと大きい声で言ってくれ」
「ポーションの聖女って言われたの!!!」
今度は大きすぎた。無意識に聴覚強化が発動していたようで、とても耳が痛い。キーーンとする。
「ポーションの聖女ぉ?」
「魔法使わなかったの?」
俺とトワで別の質問をする。トワは取り掛かっていた回収の手を止めての質問だ。
たしかに聖女と言われてもおかしくないくらいにリセルはきれいだし、リセルお手製のポーションの効能も高いだろう。魔法を使わなかったのは目立つところでは制限すべき魔法だし。トワには言ってなかったかな?
「治癒魔法を高度に使える人は数少ないから下手に使わない方が良いんだよ」
「知ってる人相手なら良いけど、見たことも無い人に奉仕活動だとかする理由は無いよ。神のいる世界で救ってもらえないなら何か理由があるんでしょ。早いところ自分で何とかしてくれとしか言えないよ」
「イレブン、そこまで言うと言い過ぎだよ」
神頼みって何かあったときに口癖でするくらいだよ。心底から神様が何とかしてくれるなんて思えないね。それなら世界はもっと平和だよ。この世界の神はそこそこ性格悪そうな気もするけど。
トワも治癒魔法を使わなかった理由が納得いったところで俺の質問に答えてもらおうか。
「何したんだよ」
「ケガしている人を治すのはポーションを使ってたんだよ。でも中になんだか…偉そう?な人がいて、差別するのもなんだからと思って治したら急に…」
「分かった。リセルはしばらくは単独行動は避けた方がいいな。こういう時に人相の悪い男が一人仲間に欲しいな」
だけどそんなに都合の良い人材がいるわけじゃない。移民団のリーダーなんか適任だけどこんな理由で呼びつけるわけにもいかないし。
「イレブンじゃダメなの?」
「世の中にはな。非常に残念なことだが、見た目が子どもってだけで軽く見てくるやつがいるんだよ」
「じゃあどうするの?」
こら、刃物はしまいなさい。俺も悪だくみの笑みが止まらないけど。
「それは…、どこまでならセーフかな?」
「一般に売られているポーションで治る範囲じゃないかな。私たちが自分で治してあげるんじゃないなら」
「あとは俺の感情を逆なでしないように気を付けてくれたら良いんじゃないかな」
リセルも担ぎ上げられるのはイヤなようだし、逃げてきたってことならその程度の相手ってことだろう。目立たないようにフードでも被っていてもらおうかな。
このときはそう思っていた。
お読みいただきありがとうございました。




