薙刀との模擬戦再び
お楽しみ頂けると幸いです。
多少錯乱してはいるが区切りの良いところまで俺の忍者講義はやりきった。なんで俺は致命傷を与えてきた相手に優しく講義をしているのだろうか。
「金だけ変なんだね」
「俺も実際に使える人を見たわけじゃないからな。お金で惑わすって説もあれば、金属を使うことそのものって説もある。そうだとしても魔法が使えれば組み合わせや出来ることは色々あるさ。ただ、危険だから実際に使う前に俺に見せるように」
「わかった。それはどの程度の約束?」
とても不思議なことを言いだした。意図せずに溜息を吐きながら聞く。
「どの程度ってのはどういう意味だ?」
「コトシュお姉ちゃんが言ってた。女は秘密で飾るって。だから嘘や秘密があっても良いって」
「元軍人のくせに!子どもに何を教えてるんだ!!」
吠えたところでこの場にはいないので聞き出すことが出来ない。どこまで本気か分からないが、俺との約束だけはしっかりと結んでおこう。
「どんなものでもちゃんと見せなさい」
「1つだけ秘密はいい?攻撃用じゃないやつとかは秘密でも…。特技を全部見せてたら奥の手が出来ない」
「う~ん…」
それを言われると確かに考えどころではある。何をするにしてもバレてても構わない基本特技や威力重視の特技とか、知られてたらダメだとか色々あるものだ。味方にも秘密の方が良いって意見は一理ある。一つだけ釘を刺しておくか。
「トワが傷つくような自爆技とか味方に被害が及びそうなのはダメだぞ」
「了解。そういうのはしない」
「見せるのは自分が良く使うだろうなと思う特技とか見せてもいいと思うもので構わない。見せてくれって言うのも俺が忍者だと思うものを身に付けさせたいってだけだしな」
「分かった。………ぎょい」
さっき了解って言ってたから自分でもまだ身に付いてないんだな。
「その言葉だけどな。正しくは、御意、だからな」
「ギョイ?」
「違う違う、御意だ」
何度も発音を確かめるように言わせることにした。
「ギョイ、gyoi?御意」
「あ!今の、最後のが正しい」
「ギョイ、御意、御意…たぶんもう大丈夫」
ふと気が付くと何の練習をしているのかと思わなくもない。本人が望んでいるんだから、これはトワのため!
「よし、そんな感じで行こうか」
「分かった。これから練習しっかりとしておく」
「期待してるぞ」
「うん。そろそろ帰ってくる頃だから薙刀を見に行ってみよ?」
「わかった。じゃあ行ってみるか」
とりあえずこれでトワとの忍者談義は終了した。いや、これからが始まりかな?
クノイチの技?断固として教えませんけど何か?
☆ ★ ☆ ★ ☆
終わった後は獣人の村で薙刀を待ち受ける。休憩もそこそこに組み手やら隊列行進をしているフレンドビーたちを見る。進化した個体は同じ種類ごとに集まって訓練をしている。
先に進化した方が基本的には教える側に回っているようだ。また、まだ進化していない個体も時間内に長距離飛行を終えた場合は進化個体に混じって訓練に参加できるのは相変わらずのようだ。
以前と違っているのは進化した個体たちの方がピリピリした雰囲気を放っていることだろうか。何というか訓練にかける意気込みが以前よりも増しているようだ。
原因が何かと思っていたら、すぐに判明した。
「よ~し、帰ってきたぞ!」
「あっちだね」
トワの示した方向を見ると薙刀だ。しばらく見ていない間に万花たちと同じく一回り大きくなった。それよりも変わったのは雰囲気だ。明らかに自信に満ちている。
「薙刀、なんか雰囲気変わったなぁ」
「主!お久しぶりです」
ギブアップをしたらしいフレンドビーを数体抱えて戻ってきた薙刀は声をかけると配下にぐったりしたフレンドビーを落とさないように引き渡した。
俺の目の前に飛んでくると空中で膝をつくという妙な姿勢でホバリングする。
「不肖薙刀、己の未熟を見つめ直し、鍛えました。今の私はひと月前とは違うというところをお見せしたいくらいです」
「それって相手してくれって誘いだな。いいよ。相手しようじゃないか。正確に覚えてないけどひと月前に相手したステータスにするよ」
「……わかりました」
不服そうだな。でもハンデ付けないと危険だからさ。そこは諦めてくれ。俺が制限解除して本気で戦う対象にテイムした仲間は入ってないよ。
仕切り直して模擬戦の状況を作る。前と違うのは一対一である点だ。これでやらせてほしいと薙刀が言うからそうすることにした。
ハンデとして俺は武器無し、薙刀は自由としたら木の棒だけを持っている。俺が作った武器もあるけどさすがに模擬戦に使う代物ではない。
「その武器だけでいいのか?」
「何を使うかは自由で良いのでしょう?」
「まあ何をどれだけ使っても、どんな戦法で来ても文句は言わないぞ。本気で使われると危ないの以外は」
「ではまずはこれで参ります」
そう時間がかかるわけでも無いし、何度やっても良いわけだしな。とりあえず一回やってみようか。
「とりあえず話は一回やってみてからか?」
「はい!お願い致します!」
スーッと飛んでくると俺と少し離れた場所で止まる。本来なら大きさとして一対一では相手にならないが、今の薙刀ではどうだろうか。
審判役はトワがやってくれるようだ。右腕をスッと上に上げて、掛け声とともに一気に振り下ろす。
「始め!」
掛け声とともに突進してくる薙刀。確かに以前よりも速くなっているけどまだ捉えられるスピードだ。油断はしないよう捕まえにかかるが、手をかざした瞬間に目の前にいたはずの薙刀が消える。
「え?」
思わず周囲を高速で『探知』すると頭上にいることが分かる。しかし見上げた時にはいない。
……イヤ、薙刀の武器である木の棒だけが俺目掛けて落ちてくる。武器を手放したのか。どういうつもりでも当たるのはあまりよろしくない。少し動いて落下地点からずれる。
この一瞬で俺の背後に薙刀は回っている。彼女の、というよりも小さい魔物の武器はすばしっこさだ。これくらいの作戦で文句は言わない。改めて薙刀に向き合うと少しだけ顔が引きつった。
「では、文字通り二の矢と参ります」
薙刀が構えていたのは弓で木で出来ているが、矢の方も木らしい。先の部分しか見えてないけど。
言葉も短く区切って襲い掛かって来るのは速射だ。よく見ておかないとその体の大きさもあって数えられない。手元が見えないくらいの速度で撃ってくる。
一度躱せば良いというわけでは無く、移動しながらの速射のため俺も必死に体を捻って躱す。
矢は周囲で見学しているフレンドビーたちが集めている。補充されたらどうしようかと思ったがそこまではいないらしい。あくまでも俺が踏んで使い物にならないようになる前の回収のようだ。
何とか躱し続けて持っている矢が残り少ないことを確認した瞬間に薙刀の放つ闘気を感じ取る。
「おいおい。半端な武器よりも危ないだろ」
「今一歩、武の道を究めるためにお願いします!!蜂技!ハンドレッドビー!!」
一射だけのはずが、放った瞬間から枝分かれして光る矢となって文字通り百の矢となって襲い掛かって来る。後ろに下がって距離を取ると全てに意思があるのか速いもの遅いものとあるようだ。共通しているのは追尾性能があるらしいこと。
「すげぇ技を開発したな!」
「恐悦至極です」
ここまで来るとさすがに躱すじゃダメだ。手を出さないと防ぐことは出来ない。手甲の部分で捌き、弾き、躱せる分は躱して避ける。
「ふっ!ぐっ!のやろ!」
最後の一本は摘まんで受け止めた。
「ふ~。薙刀はどこだ!」
頭からコンと打撃音がする。
「一撃いただきました」
名前の通りの薙刀を持って俺の頭に後ろから一撃入れた状態で止まっている薙刀がいた。
「勝者、薙刀」
その状況を確認してトワが判定を下す。
こうなると笑いしか出て来ないな。
「いや~、負けた負けた。捌くのに必死になるわ」
「でも本気で勝てたとは思いません。主は魔法もスキルもほとんど使っていませんし、ステータスに制限もかけているのでしょう?」
「まあな~。模擬戦で本気を出す奴はいないだろ」
「いつか本気を出させたいと思います!」
「薙刀、立派。だったら私も一緒にやりたい!」
俺に本気を出させることで2人が意気投合してしまった。非常に言いづらいな。
「少なくても手数を増やすことで手一杯にさせられることは分かった」
「トワさん、主には魔法やスキルがあるから同じ手は使えませんよ?」
「薙刀。これから私たちは一蓮托生。さん付けいらない」
「それは…」
許可を取るように俺の方を見てくるので、笑いながら頷く。横から見ていて分かるくらいにはトワが薙刀を輝く目で見ている。
「では、お願いします」
「やった~」
感情が少しだけ出てきたのか無表情の中にも嬉しさがにじみ出たような顔をしている。うむ。いいことだ。ついでに2人のためにももっと話を逸らしておこう。
「トワ、ついでに薙刀のところに来た目的を聞いておけよ」
「目的ですか?」
「そうだった。薙刀、アサちゃんを私と一緒に行動させたいんだけど良いかな?」
「アサというのは、アサシンビーに進化した者のことでしょうか」
分かるんだなと思っていたら薙刀は直接アサシンビーを呼び出していた。観戦していた中にいたのですぐに出てきた。
その後は俺にはよく分からないが、何やら聞き取りをしているらしい様子だ。トワも少し緊張しながら見守っている。
「分かりました。引継ぎが必要になりますが、トワと一緒の方が新しい技術を主から学ぶ機会に恵まれるのですね。でしたらどうぞ」
「やったー」
トワの喜び、短時間に2回目だ。いいぞ。このまま聞き忘れてくれ。
「時々、主との模擬戦に一緒にやりましょう。アサにも参戦してもらう形で」
「ん?うん」
思わぬ形で帰ってきたことに少し動揺するが、俺よりも動揺しているのはアサだ。自分も化け物たちの模擬戦に参加することになって震えている。これは喜びじゃないな。恐怖と絶望の方だ。負の感情の種類は悲しくも分かるようになってしまったから。
「じゃあイレブン。聞いておきたいことがある」
「私もです。主」
アサの方に注意を払っていたので二人がそれぞれ俺の服の端を掴んでいることに気が付くのが遅れた。
「先程の模擬戦はどれくらいの制限をかけていたのでしょうか」
聞かれてしまった。本気を出させることを目的にしているんだから聞くよね。
「聞いても怒らないか?」
出来るなら秘密にしておきたい。何も味方の心を折るために制限をかけているわけでは無いから。
「聞かないと目標が立てられない」
「その通りです」
目に見えての武闘派だから発言が男前だな。仕方ない。
「1割だ」
「「……え?」」
「1か月前だと3割くらいだったけど、今の俺のステータスから考えると今は1割程度に抑えてもらっている」
しばらく無音の空間が出来上がる。俺のステータスの制限を知っているのはリセルと万花・毎果くらいかな。糸太郎と福来に関しては教えても誰かに伝える手段が無いからと教えてなかったな。
この2人に教えてなかったのは何かの拍子に悪気なく言ってしまうかもしれないからだ。聞かれてなかったというのも大きい。
今回この状況で伝えたのは実感を持って伝えることで簡単には言わないようになるからじゃないかと期待したんだがどうだろうか。
「さすが…、主というわけですね…」
「並の特訓じゃダメだ。やっぱり特技全部を見せるのはしない」
どうやら特訓にかける思いがより高まったらしい?良かったと思うことにしよう。
「すぐに追いつくとは思いませんが、必ず果たします!」
「期待してて!アサもがんばろう」
そう言ってアサを引き連れて特訓に向かうことになったようだ。
でも気を付けてあげて、アサは泣きながら必死に首を振っているから。何の涙かまでは俺は知らない…。
お読みいただきありがとうございました。




