俺に致命傷を負わせたトワは忍者になりたいそうです
話の中身はお笑いですよ。お楽しみ頂けると幸いです。
「イレブン、ごめん。だから忍者教えて」
「だからの前後に関係性が無い!」
「子どもにそこまで言ったらかわいそうだって」
同じ目に遭ったのにリセルはまだ平気のようだ。立ち直りが早すぎないか?俺はとにかく恥ずかしい。親戚の子どもに彼女といちゃついているのを見られたかのような感じだ。
気にするなと言われていつまでも引きずっているのも何だか面白くない。
「忍者に関しては俺もイメージでしかないぞ?」
「それでもいい。よろしくお願いします」
トワはていねいに頭を下げてきた。まあ見られていたのは今朝の一幕だろう?だったらまあ良いだろう。レベル上げ中の休憩時に比べたらほんの少し恥ずかしいだけだ。
ならば良いだろう。イメージに凝り固まっていると自覚はあるが、何をすれば良いのかを伝えておこう。
「まずはそうだな。とにかく周囲に気取られないことだ。足音や気配、呼吸はもちろん衣擦れの音なんかも出来る限り消して自分を希薄にするんだ」
「それはもう出来る」
「ほう。あっさり言うとは自信があるのか」
「うん」
「だったら実地訓練でもしてバレないかと確認した方が良いな」
「言われると思ったから既にやったよ」
無表情でピースを決めてくるとか、中々高度なことをしてくるな。ん?なんか今変なことを聞いたような?
俺が気が付く前にリセルが痛いところを突いてくる。
「イレブン?さっき2人で手を繋いだのって周囲に誰もいないことを確認したからだよね。それをトワちゃんは知ってたよ?」
「ぐう。頼むから見られていたということを思い出させないでくれ。手を繋ぐのはまだしも隠されていたものを暴かれるのは辛い」
「今さら」
トワの一言に今度こそハッキリと『直感』がはたらいた。ガンガン鳴り響く危機感に、聞いておかないといけないという気持ちと聞いたらまた悶えることになるぞという気持ちがせめぎ合う。
結果はあっさりと聞く方向に折れる。
「トワ、いつから俺に張りついてた?」
「2週間くらい前から」
「ぐふっ!」
俺の羞恥心が致命傷だ。2週間ものあいだ、家にいる間ずっとはりつかれて気が付かなかっただって?
逆に考えれば大したものだが、事前に言ってくれ!って言われたら意味無いのか。人選を間違えた?いや、俺が察知できないんだから最高の人選だろう。
「忍者は隠れ潜む者って聞いた。一番強いイレブンから隠れられるか試した」
「ぐぅっ!気が付かなかった…」
「そもそも福来の『スキル肉球印』を見つけたのはトワだ。『隠密』を押してもらって、自前のものと二重発動しているぞ。あ、勝手に命名させてもらっているぞ。あと、まだ聞いておくことがあるだろう」
まだ俺を殺したいのか。顔だけ上げてコトシュさんとトワを視界に入れる。
「トワ、どこまでついて行ってたかイレブンに言ってやれ」
「全部。寝る時と朝は少し見てなかった。福来のところに行ったりしてたし」
「今の会話に引っかかることが無いならお前はハニートラップに弱いことになる。羞恥心くらい少しは慣れろ」
すいません。そうは言われても頭が動きません。
「……降参です」
「リセル、お前がもう少し慣れさせておけ」
「いや、まあ、はい」
なぜかリセルの歯切れが悪い。そしてまだ『直感』が働いている。なんだろうか。心を強く持てって言われている気がする。
「もう少し詳しく伝えてやるんだな。ショック死しないように」
「はい。あのね、イレブン。落ち着いて聞いてね。トワちゃんの全部ついて来てたってのは、空間接続から先もそうなの」
ん?
んんん?どういうこと?
「え?つまり?」
リセルはせめてその先は自分で考えて気が付いてほしいと、目で訴えてくる。
「この2週間の外での行動全てをトワに見られていたってこと?」
じっと見つめてきた赤い瞳は申し訳なさそうに閉じられると、コクンと頷いて俺の言うことを肯定するリセル。
子どもに見せられないあれこれは断じてしていない。ただ、食事休憩の後に手を握っていたり、膝枕してもらっていた。頭撫でられるとか、そこそこ甘えてもいた。それを全てもれなく見られていた……だと?
しかもリセルの方は見られていることに自覚があったから今はダメージが抑えられているが、今知った俺には間違いなく致命傷だ。あ、なんかじわじわきた。
「ごふっ!」
「本当に吐血した!」
リセルに吹きかけなかっただけ自分を褒めたい…。意識が、遠…く…。
「忍者は薬学にも精通するべきと学んだ。この丸薬を…」
「いや、さすがに今はやめておけ」
「イレブン!死なないで~~~!!」
「コトシュお姉ちゃん、イレブンは今から二度寝?」
「ここまでとは…。ちょっとやめてあげような」
そんな会話が聞こえた気がした。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「はっ!」
目を覚まして周囲を確認すると自分の部屋のベッドであることを確認する。時間を確認するとまだ昼前だ。おそらく二度寝をしてしまったんだろう。全部夢だったんだろうな、きっと。
「イレブン起きた?」
「起きたぞ」
そこにリセルが入ってくる。非常に申し訳なさそうだが、手に持っている者に目が釘付けになる。看板だ。
『気絶する前にあったことは真実です。トワは2週間張りついて、全てを見ていました』
と、書いてある。ハハハ。ドッキリにしても性格が悪すぎだろう。
いや、マジか~~~~~~~~~~。
一応こういう時の作法だろう。ベッドの上に足と一緒に頭を抱える。その間にリセルは部屋の椅子を持ってきてベッドの横に座る。
ちらっと見ると苦笑いをしている。
「教えてくれよ」
「コトシュさんからね。強いだけで油断しても困るから秘密にしてろって言われて、ね」
「鬼教官か」
「本当に言われてたらしいよ」
「想像の上過ぎる」
色々と言いたいことが頭の中を駆け回るが、油断し過ぎは確かに俺の過失だろう。トワほどの隠密がそう簡単にいるとは思わない。俺のスキルに加えて自分のスキルも重ねて二重発動だって?
俺自身も出来るのか試したいところだけど、そこまで甘くないだろうな。俺の仲間限定に使える奥の手ってところか。
「反省する。今もトワはどこかから見てたりするのか?」
「そこまでは私も知らないかな」
「ちょっと待ってくれ……、そこか!」
結界で囲むと姿が現れた。俺の視界の中にいても見つけられないとは、なんて恐ろしい。
「私もまだまだ学ぶべきことがあるね」
「その間違ったようでギリギリありそうな知識はどこから仕入れたんだ」
「なんとなくの想像」
「本当に怖いんだけど、この子」
しばし、苦笑いの時間である。まあ少しは楽しむ時間が取れたし、切り替えていこう。何かしらの手段でこっちの不意を打たれることだってあるんだ。気を付けていかないとな。
よし、もう切り替えよう。顔面をパンと叩いて気持ちを切り替える。
「おし。トワはこれから俺が鍛えてやるぞ」
「分かった。見ちゃダメな時は言って」
「そういうこと自体を言っちゃダメなの!!………言った時は見るな。それから誰かに言うのも禁止だからな」
「ぎょい」
ぎょい……、御意か。本当にどこで覚えて来るんだか。
「あと1つお願いがある」
「なんだ?出来ることなら聞くけど」
「アサシンビーのアサを私のお供に欲しい」
そんな名付けをした覚えは無いが、アサシンビーに進化したといえば俺に一撃入れてきた見込みのある当時のフレンドビーだな。
何か通じるところがあったのか、話を聞くと仲良くなっていたらしい。しかし、俺にバレるまでは隠れきれたら言おうと決めていたそうで念願かなってとのことらしい。
自分のお願いもあってがんばっていたんだな。出来ないことでも無いし俺は別に構わない。
「分かった。ただ、薙刀に聞かないとな。あいつの隊をまとめるために必要だと言われると難しいからな。良いと言ってくれるとは思うけど。一緒に行ってみるか」
「うれしい。ありがとう」
どちらにしても薙刀には会いに行こうと思っていたからな。ついでに話をすることにしよう。
「いつ帰ってくるんだろうか。俺が寝てる間に戻って来てるのかな」
「最近の薙刀は自分が終わったら隊員を励ますために最後尾に戻ってるから昼にならないと帰って来ない」
「ってことはあいつだけ、他のやつの倍は飛んでるんじゃないのか?」
「そう」
少しは思うところの変化はあったのかな。蜂の魔物に言うのはおかしいけどヒトは良いからな。
「じゃあそれまでの時間を使って少し忍者について教えることにしようか
「お願いします」
部屋でやるのもなんだからという理由と、薙刀が帰ってきたらすぐに会えるようにと獣人の村にお邪魔する。
リセルは折角来たからと久しぶりに村の様子を見て回ることにした。
俺とトワはフレンドビーたちの視線を受けながら忍者についての話をしていく。興味津々で聞いているようだな。
「と言っても俺も本物は詳しくない!あくまでもこんなことが出来たらなってだけだ」
「それも知らない私には何でもいいから情報が欲しい」
「了解だ。さっき言っていたのは隠密としての忍者だ。決して存在を知られてはいけないって意味のな。今から言うのは戦闘者としての忍者だ」
そう言って五角形を描く。木火土金水とそれぞれの頂点に書いていく。
「陰陽術の繋がりもあるけど、大きく分けるとこの5つに分別されたはずだ。魔法もある世の中とは違う発展の仕方をしているから合わないところもあるからそれは飲み込んでくれ」
「承知」
「いや、まあ、うん。いいや」
教えた覚えのない言葉を使われると少し戸惑ってしまうが、笑おうにもトワの顔は真剣だ。笑うわけにはいかない。
「じゃあ教えていくぞ。一番再現が簡単なのは火遁の術だろうな」
「火を使うからだね」
「使うときは十分気を付けてくれよ」
そう言って基本的なものだけを教えていった。練習から付き合った方が良いものもあるからちゃんと監督しよう。これ以上ずれた忍者になられても困るからな。
お読みいただきありがとうございました。




