思わぬ告白と思わぬ襲撃
お楽しみ頂けると幸いです。
「それであたしのところに来たのかい」
「図々しいお願いであることは分かっていますが、ぜひご教授頂けないでしょうか!」
店に入ってみるとまだメディさんは店内にいた。時間が大丈夫かだけ聞いて話をさせてもらった。そして、バチッと土下座を決めた。
技術者に対してまずは誠意を示すことが必要だと考えた。メディの薬への味付けは対価があれば技術を教えてもらうのは構わないという話ではないと思った。
この技術は彼女の優しさから生まれたものだ。病や怪我から治るだけなら味など不要だが、子どもが素直に薬を飲んでくれるなら周囲の大人も少しだけだが早く安心できる。継続的に摂取することで間違いなく治療は進む。親たちも安心を得ることが出来る素晴らしい技術ではないか。
そういった気遣いが出来る女性に対して、お金や価値あるものを渡すから教えてくれということだけを伝えるのは不誠実であると思った。
その説明に嘘が混じっていることは申し訳ないと本当に思うが、本当に話したところで信用してもらえるかというと。まず無理だ、逆に信用を無くすと考えた。
デテゴやザールに話した内容から話し、どうしても必要なポーションであることを伝えて、技術を教えてもらうことが出来ないかと話した。
「それだけ買ってくれているなら、教えるのは別に構わないよ。ただ、材料と付け加える味には親和性があるからね。どんなものでもうまくいくとは限らないよ。どんな味になっても責任持てないとも言うね」
「構いません!草と土の味がするよりかはマシになるはずです!」
「あんた、何を作ろうとしているんだい?」
「SPポーションです!」
「SPポーション!?あの意味もない激マズポーションかい!?馬鹿じゃないの!?」
「でも必要なんです!」
そこから話を聞くと製法だけはなぜか伝わっていたそうだ。ゲームの中でもおそらく一番作られたアイテムだろう。作られた個数でいうなら2位のアイテムより千倍は作られているだろう。
中魔石で作ったSPポーションはスキルポイントが10増える。王国から魔国へ進んだ時、魔王の一人と戦うことになる。負けても進むが勝ったら性能の良い武器が手に入る。それまでに作れるようになっていればほぼ確実に手に入れられる。
生産をがんばるだけで攻略の難度が限りないレベルで下がるのだ。そのイベントを抜きにしても、生産はしない主義のプレイヤーであろうとSPポーションだけは作れるようにしておけというのが常識だった。
製法だけでも伝わっていたのは意外だが、ステータス閲覧が出来るのはおそらくプレイヤーだけのスキルだ。スキルポイントが増えると分かったとしても意味の分からない話だし、おまけにクソマズイ。さっきのはがんばって飲んだから10増えているけど、これからずっとは無理。
なんとか許可を得ることが出来ればそれはマシになるのだ。ぜひお願いしたい。
「それなら条件が一つある」
「何でしょう」
「SPポーションが意味の分からないものだとしてもあれを調合できるなら作ってもらいたいものがある」
「あ…」
これからどうなるかというのが脳裏に浮かぶ。これはメディさんがどんな性格をしているかによるぞ。頼むから穏便に終わってくれよ…!
「解毒レベルの高いポーションか薬を作ってもらいたい」
「やっぱり…」
「やっぱりってどういうこと?……あんたザールの知り合いだったね。事情を知ってるのか!?そうだろ!」
「事情を全部説明するので、怒らないでくださいね」
「内容によるよ。あんたはあたしに教えを請う立場だろ」
「あの二人も恩人なんで穏便に済ませていただきたいとだけ…」
メディさん、思ったよりも、超こえぇ。いちおう五七五になったね。関係ないけど。
☆ ★ ☆ ★ ☆
メディさんには説明したよ。さっきとは違う意味で正座しながら。俺が正座の必要あったかは議論には関係ない。ことは誠意を見せて信用を勝ち取らねばならない場面なのだ。
デテゴは俺が作った高解毒薬で助かっていること、反撃のためにとりあえず最低明日まで、もしくは3日後に黒幕と思しき人物を捕らえるまでは秘密であることを話した。
ザールさんには見張りが付いている可能性があるのでいつも通りに振舞わなければいけないことを伝えた。
「既にデテゴは大丈夫なんだね」
「はい。間違いなく。解毒が出来ていないなら昨日のうちに僕に連絡が来ることになっています。でも今日一日、日も暮れたこの時間になっても何も連絡がありませんでした。僕は万が一のための戦力なので別行動です。隠せている気はしませんが、接触は最低限に抑えることになっています」
「なら構わない。いや、あいつらに問いただしたいことはあるけど。あたしが今怒っているのはザールの野郎だからね」
「そうなんですか?ザールさんとはお知り合いで?」
「一応恋人だよ」
「こっ!」
「店を持ったら結婚しようとも言われてる」
「けっ!?」
ニワトリか!
いやいや。ザールさんって店を持つ予定だよな。ってことは。
「結婚おめでとうございます…?」
「いいや。考え直さないといけないね。今日もあたしに『まだデテゴが危険だ』とか言いに来てたぞ。恋人のあたしに嘘を吐くなんてあの野郎……!」
指の力だけでカウンターの木の板割ってる!パッと見て戦闘職じゃないメディさんにそこまでの力があるとは思えない。ステータスを超越してるぞ!
どうしたらいいんだ!?めちゃくちゃ怒ってるよ。でも当たり前か。恋人なのに秘密にされてて怒らないはずがないよな。
生まれてからの時間と恋人がいない歴が一致する俺にはこんな時に女性になって言ったら良いのか分からない!
あれ?
「2人って10年旅してたんですよね?」
「そうだよ。その前からの付き合いさ。帰ってくるのをずっと待ってた。帰ってきたと思ったら結婚しようって言われて。でもいきなり解毒薬の話が来て、がんばったけどあたしじゃ作れなかった。絶望したよ。それなのに解決したのにしてないかのように嘘を吐かれた哀れな女さ」
あ、無理。これ無理。俺ごときが何とか出来ることじゃないわ。無理無理無理……。
「せめてお二人がメディさんを騒動に巻き込みたくなかったことだけ理解して頂けたら…」
「それも分かってるよ。いつもそうだよ。一応あたしとザールは幼馴染さ。あいつのことは言われなくても分かってる。なんか隠していることも分かってたさ。12か13くらいのときにデテゴがここに来てから3人での付き合いになったけど、怪我しそうなときはいっつもそう!」
あっか~ん。完全に余計なこと言った~~~!
「わかってるんだよ。危ないときだけだから。ザールがあたしに嘘つくのはさ」
「は、はい。絶対に害意は無いんで!もう少しだけ信じて待っていてください!」
大丈夫っぽい…?ほっと息を吐いた時、何かの予感がした。『虫の知らせ』が働いた。すぐに『索敵』を発動する。
「メディさん、戦闘って出来ないですよね」
「え?うん。あたしには調合くらいしか良いスキルが無くてね。少しなら魔力の扱いもあるけど…」
「分かりました。この家で一番安全なところは?いや、見えないところに行かれてもダメか。仕方ない」
アイテムボックスから合成糸のマントを予備も含めて2枚取り出す。この際、アイテムボックスを見られても構わない。
「これを被って窓から離れてください。静かにしてもらって、あとは指示に従ってもらえますか?」
「どういうこと?」
「何者かが襲撃しようと近づいて来ている感じがします」
驚くメディさんに再度静かにするように人差し指でポーズをすると口に手を当てて何度もコクコクを頷く。ここだけ見るとこの人もかわいいな。いや、やめとけ。もうすぐ人妻だ。
この店の正面に4人、裏に2人ほど敵意を持ったやつがいる。目的は何か分からないが、おそらくメディさんだ。無抵抗でいるわけにもいかない。
人型魔物のゴブリンやコボルド、オーガなんてのは魔物だから経験値が入る。けど本当に人間の場合は経験値入らないんだよな。手に入るものは何もない…、こともない。倒せばスキルが奪える。
あまり良いやつではないけど、スキルポイントを割り振ってまで手に入れようと思わないものからいずれ取得しようと思っているものまで。セーブ&ロードしてまで繰り返すほどではないくらいのスキルだ。
でも倒せばの範囲が戦闘の意思を奪えば良いのか、本当に殺すのかまでは分からない。たぶんステータスが見れてスキルポイント制のは俺だけだから、悩むのも俺だけの問題だけど。
(普通に考えて殺さないとスキル強奪は無理だろうな。でも自分で直接やる覚悟までは無いんだよな)
間接的はあったし結果的にってこともあったけど、自分で直接ってことは今までは無かった。たぶんいつかそんな決断することがあるんだろうけど、今すぐそんな気持ちにはならない。
捕らえるだけにしておこう。しっかりと意志だけは挫いて、殺さなければ別に何をしても良いだろうし、これからの人生が悔いるだけのものになったところで自分の責任と割り切ってもらおう。
考えながら手甲と鉢金、胸当てを出してマントも身に付ける。
「あ、メディさん。この辺りにも人は住んでますよね?」
「そうだけど、あたしがこんなだからあまり近所づきあいはしてないんだ」
「いることの確認だけ出来れば良いんですよ」
とにかくメディさんが捕まるのが最悪の敗北条件だ。裏から潰そう。
お読みいただきありがとうございました。