よ~く観る、よ~く聴く
お楽しみ頂けると幸いです。
「よし、じゃあ出ようかな」
と、そのとき入り口側と奥の方から動く気配が近づいて来ていることに気が付いた。入り口側はすぐにでも入ってくるようだ。お互いに誰かも分かっている。
「イレブンいた」
「トワと糸太郎か。表の方は問題無いか?」
「だいじょぶ」
トワ大好きなコトシュさんが糸太郎を付けているとはいえ、一人で行かせるくらいだ。本当に何も起こってないんだろうな。既に出尽くしたとも言えるかもしれない。
「じゃあとりあえず糸太郎、ここにいるやつら全員縛り上げてもらっていいか?大丈夫だと思うけど治癒した方が良い奴がいたら教えてくれ」
「ほとんどが気絶してる」
「治癒する価値がある奴なんて一人もいないと思うんだけどな。今こっちに来てる奴はどっちだと思う?」
「こんなところにいる奴に良い人いない」
「そうかもな」
トワと糸太郎は入って来たばかりだからな。俺も含めて悪党ばかりだろうな。言わないけど。
そうやって奥から出てきたやつのせいでまた一つ面倒な事態に巻き込まれることになることを直感的に理解する。
「何があった…。黒闇団は無事か?」
男が一人怯えながら出てきた。身なりは割とこぎれいな服装をしている。あまり見ない感じだがどちらかといえば贅沢品であるかのようなことだけは分かる。宝石が散りばめられているしね。
それと、この盗賊グループは黒闇団って名前なの?確かに賊頭の髪の色って黒いけどさ。でも1つ分かったことがあるな。学校なんて無くても精神的な疾患にかかるときはかかるんだな。しかも拗らせてそのまま盗賊まで落ちぶれてしまうやつまで出るとは。う~む、人間ってこわいね。
「全員縛り上げるか、不運にも死んでしまいましたけど。おっさん誰ですか?」
「なんだ!貴様は!?私を誰だと思っているんだ!私は王国貴族だぞ!」
話が通じない系の人でしたか。相手するのやめよう。遮音の練習として『風壁』をおっさんの周囲に展開してみる。俺は術者だから風壁を確認できるけど、向こう側で顔を真っ赤にして口をパクパクしているおっさんがいる。
「声が聞こえないし成功してるな。よしよし」
条件付けした魔法の発動なんて今まであんまりしたこと無かったけど、遮断系は色々と使い道がありそうだ。顔全体を覆う球形だとか色々工夫して練習してみよう。
「イレブン」
「なんだ?」
割と自分の能力に満足していた俺にトワが無表情を一切変えないまま、服の裾をひっぱってくる。
「あのおっさんの来た方向から血の臭いと死臭もする」
「この状況の解明のてがかりになるかな。とりあえずそっちに行ってみようか」
本当はあの貴族らしいおっさんを締め上げるのが一番早いことは分かっているが、あんなのと話す時間は短ければ短いほど良いに決まっている。
軽く遊んでいるうちに糸太郎の作業も済んだ。副リーダーらしき男に戦闘能力は無いので縛り上げるだけ。弓使いも反抗するか聞いたら思い切り首を横に振ったので縛り上げるだけにしておいた。
「ついでに自分たちの足で歩いて案内しな」
「はい…」
まだ意識のある盗賊2人を連れて奥の様子を見に行くことにしたが、まあひどいものだった。俺たちと戦った広場に出てきたときに賊頭にはまだ意識はあったように思うが、もしかしたら気のせいだったのかもしれない。
一人として人の形をしているものが無かった。細かい表現をすると食事が出来なくなるだろうから控えておく。あのイビルウォーソードの呪いはとんでもないものだった。もう大丈夫だと思うけど、ガッチガチに封印をかました方が良いな。
「げえぇぇ」
「お前が吐くのかよ」
弓使いが壁際で戻していた。見たんじゃないのかよと内心でツッコミを入れていると副リーダーが説明してくる。
「あいつはこの状況を見てないよ」
「一部始終を見てたのはあんたもか。簡潔に説明して。長くなったら」
「言うから!近づかないでくれ。あんたと話すだけでもヤバいんだ。こうしてるだけでも震えが止まらなくなる」
俺ってそんなに恐怖を感じさせるのかな、無意識にトワの方を見ると背伸びをして頭を撫でてくれようとしている。だが残念、背が足りない。屈んで撫でてもらう。トワもどこか満足げだ。
「よし、距離は取る。話せ」
「分かった」
まだ顔色は悪いが話し出す。
「そもそも俺たちがここに陣取ることになったのは貴族からの依頼だと聞いている。元はここでは無いところを縄張りにしていたんだ。しかしグレイブ村にあるダンジョンを攻略する話ができたらしく、その妨害をするために俺たちが動くことになったんだ。ひっ!?」
「話を続けろ」
「イレブン、顔こわい」
トワが言うほどか。両手で顔をパンッと叩いたあとにもみほぐす。
「これでいい?」
「オッケー」
親指を突き出して示してくれる。良いらしいので視線を送ると副リーダーが続きを話し出す。
「そ、それで俺も確証は無いが、指示を出してきた貴族本人か繋がりがあるのがさっきの男だ。頭が持ってたあの剣を持って来たのもあいつだ。成果を確認しに来たとか言って来たが、ついでだからと剣を渡してきたんだ。試しに頭が抜いてみたらいきなりあいつの連れていた護衛に切りかかって殺した。慌てて止めようとした奴らも切ってしまって…」
その結果がこれか。よくもまあこれだけのことをやらかしたもんだな。で、まだ話は続いていた。
「俺は戦闘力なんて無いから戦闘が始まる時には隠れていたが、状況は聞いて把握していた。もうこうなったら逃げるしかないと思っていたら今度は外から敵襲だと聞こえてきたんだ。あと、あんた達には弓を使ってるそいつって言った方が分かるな。そいつとそいつらの近くにいたのは2軍だ。何があったか知りもしないはずだ。1軍とも言うべき側近たちは頭が全員殺してしまったからな」
話の大枠はこれで分かった。話し終わると疲れたらしく顔を下に向けて地面を見つめる。しかし、まあこれだけのことをやらかしてくれたもんだ。こいつのどうしようもなさに呆れが出てくる。
どうしたもんかと考えるがイマイチ決め切れない。いっそのこと聞いてみようか。
「本当のことを話して正当に処罰を食らうのと、隠していることを吐かせるための拷問を受けるのとどっちがいい?」
「え?」
何のことだという表情で、項垂れていた頭をあげて俺の顔を見上げてくる。とても貧相な顔だ。さっき戦闘能力なんて無いと言っていたが、たしかに副リーダーをやれるとは思えない体格だ。こいつは何を武器に副リーダーの立場まで確保したんだろうか。
今、俺に見せている騙しの手法だろうか。
それにさっき倒した賊頭の体格は見事だった。腕一本で気性の荒い男たちをまとめるであろうという体格、風格を持っていた。そもそもイビルウォーソードが両手剣だからそれなりの腕力が求められる。
見るからに力押しですと言わんばかりの男が、計略だけでのし上がった副リーダーに何も言わずに貴族の言いなりになるだって?逆じゃないのか?
とぼけた顔は見事だ。何を言われているのか分からないって顔をしている。けど目の動きが、指摘した時の心音が、俺の指摘にやましいことがあることを物語っている。何も言わないならさっさと暴いてしまおう。
「賊頭が貴族と交渉したってところは嘘だな。お前の策略だ。さっきの男が来てどうこうってのは本当だろうけど、イビル…じゃなかった呪いの剣で思い通りになるかと思ったらそうはならなくて賊頭が下剋上させまいと暴れたってところかな。だからこの盗賊団を裏から操作して良い様に操っていたのはお前だ」
「ち、ちがう!!」
「違わないね。噓つきの心音ってのは最初に大きくなって後は落ち着くらしいよ。今のお前が正にそれ。わずかにだけど嘘を言うときには左眉が上がる。今の違う、の時もね」
正解を示すかのように次第に脂汗をかき始める。
「ま、嘘か本当かなんてどっちでも良いんだ。犯人が死んだ奴にした方が生き残った者は軽く見てもらえるんだろうけど、代わりの生贄がいたらそいつを仕立て上げれば良いわけだし」
「なんだと!?どっちにしても俺が責任を取るってことか!」
「一番上が責任取れなくなったら、二番目が責任取らないとダメでしょ。そのために色々と優遇もされてきたはずだし。この事態を引き起こしたのはここに来ることにした人だけどそれは誰かな?」
もう嘘を吐き通すこともできなくなったらしく、膝を着く。
それに真実を言ったところで逃げられないよ。まずは復讐を受けて、俺の八つ当たり兼実験を生き抜いたところで、最終的にはザールさんの鉄槌を受けるんだ。今の段階で戦闘中に死んでた方がマシだね。
「さて、じゃあもう一人の黒幕だかその手がかりだかも捕まえて帰ることにしようか」
お読みいただきありがとうございました。色々と参考にさせてもらいました。許してください。




