雑魚戦その2
お楽しみ頂けると幸いです。
年内最後なのに色々と不快な表現があるかもしれません。クズをボコるシーンは皆さん大丈夫だと判断しますけど。そして少し長いです。
少しだけ時間をずらす必要があったので、ゴーレムがアジトの入り口の見張りから見えるところに現れたところから事態を見守っていた。
「俺ってヤバい?」
「客観的に見て気づけるようになったのなら良かったよ」
演技だろうがうっすらと涙を浮かべて微笑むリセルの表情が少し痛い。そこまで言わなくても良くない?っていうかその涙も演技だよね。
少し冷たい気もするが、散々俺にやり過ぎないようにとか色々と注意をしてくれていたのはリセルだ。これくらいの小言は受け入れなければ悪いんだろう、たぶん。
暴れまわるゴーレムがヤバい。コトシュさんの指令通りに殴る蹴るだけしかしていないけど威力がハンパない。
えっと、なんていうかこの例えが一番ピッタリだと思うんだけど、プロレスラー対トマトって感じの戦いだ。
戦いにすらなっていないし、ここに戦闘に慣れている人だけで良かった。盗賊たちの末路の心配はしなくていいかな。最終的にはこれで処理してしまえることが分かった。
殴る蹴るでも危ないことが分かったので両方とも無しになった。歩くだけだ。アジトの洞窟は暗いのは暗いので、悲鳴と最初の襲撃を告げる言葉を信じて中からたくさん出てくる。
しかし、ゴーレムを見て固まる。そこへ近づいていくゴーレム。近づいて攻撃は受けるが精々表面が欠けるくらいだ。
あのゴーレムは見かけは土属性単体だし、一番力を注いでくれているのは土の精霊だ。骨格は俺がメタルマウンテンで手に入れた金属を骨格にしてるし、火精霊や水精霊の力が注げるように人体の構造を少し真似して肉付けてしている。
伝達系統は雷精霊が一番だろうと神経系のように張り巡らせているから動きも普通よりも速い。リセルが仲良くなった精霊たちも参加したがったので腕やら指やらに強く宿っている部分がある。ただの殴るの威力が大きかったのはそれも原因だな。
早い話が自分でも簡単には壊せないくらいの戦闘力があるってことだ。
単純に固いし力があるってこともあるけど、搦手が使えないのは一方的にやられる可能性があるからと思ってコツコツやっていたらやり過ぎたようだ。
「リセルのボディガードだと思ったらあれくらいやらないか?」
「ダンジョンと普通の盗賊退治を一緒にしたらいけないと思うよ。心配してくれるのは嬉しいけどさ。あとは土ちゃんをはじめ精霊さんたちの加減が難しいんだと思うよ。すっごく慌ててるのが伝わってくる」
「じゃあこれからは練習をがんばってもらった方がいいな」
「言ってくるだろうからそのときは私から言うよ。そろそろ行く」
「そうだな。あんまり出て来なくなったから行こうか」
ゴーレムだけに気を取られた盗賊たちは背後からトワに落とされ、糸太郎は縛り上げるというよりも掃除をがんばっていた。
予定では囮が暴れている間に潜入だが、完全に暴れるのは終了している。必死に逃げようとする盗賊たちを逃がさないように捕えていく。
さっき捕まえた盗賊たちも逃げることも襲われることもないように処置はしてきたけど、こっちまで連れて来て一緒にまとめておいてくれるだろう。
お互いに手を振る余裕を見せながら洞窟内へと侵入した。
☆ ★ ☆ ★ ☆
中に入ったことで『探知』スキルが使用できるようになった。ここが本拠地であることの疑いもないわけじゃないけど、当たりでは無いかなとは思う。
「思ってたよりも広いぞ。大きさだけなら小さめの村の1つくらいは入るかも」
「そう…みたいだね」
リセルの言葉の歯切れが悪いのは風の精霊から情報を得たところで聞いた情報だからだ。精霊たちの興味は人間とは違うから知りたいこと以外を伝えられる可能性もあるわけだ。
俺の場合は空間の広さや意識的に特定したものは見つけられるが、逆に言えば意識しないものは見逃す可能性がある。敵意あるものの場所を特定していれば大きく問題は無いけど。
何でも一長一短というところかな。全部を最初に把握する必要は無いし、第一の目的は人命救助だ。まずはそっちから向かうことにする。
「抜け道も無いし、盗賊の頭をやるには強いのがいるからこれがリーダーと考えていいみたいだね。とりあえずは人命優先で動くよ」
「了解」
途中入り口の方に向かう援軍が動いていたのは天井の土を操作して隠れてやり過ごす。人命優先だからね。
進んだ先ではメタルマウンテンの入り口付近のように大きく掘られた広場に出くわす。ここが集会場になっているだけでなく、目的地に行くための分岐点にもなっているようだ。
隠れるところも無いから誰かいればすぐに分かるようになっている。用があるのはまずは捕縛された人が捕まっているところだ。
まあ隠れるところが無かったのと、残っている人数がほとんどいないくらいには入り口に向かってしまったので堂々と進むことにする。正面に見据えたところから走ってくる足音がする。
「だ、誰だ!?貴様ら!!こんなところまで来ているとは!」
男が一人出てきた。こうなることは一応予測済みだ。思ったよりも早いのは向こうもスキル持ちだったかな。自分たちのテリトリーの中で今まで気が付かないのはスキルが悪いかレベルが低いか疑うところだが、ちゃんと理由がある。出てきたのが牢屋の方だもんね。
「岩石弾」
男の一部分を抉るとそれだけで気絶してしまう。時間が無かったので念動魔法で動けないように四肢にも手を加えておく。後動くのは首と口くらいかな。治療して出血を止めておく。死なない程度にしておかないといけない。こんなもので死なれてはいけない。
抉り取った部分は地面の下に埋めておく。空気の通りが悪いところで燃やすわけにもいかない。あとで全員この刑には処しておこうか。
進んだ先には第一目標の牢屋がある。牢屋は2つに分かれていて、1つには4名の女性の冒険者らしき人たち、もう1つには2名の男性がいた。男性の方は身なりから判断して商人さんかな?
女性たちは手を後ろにされた状態で拘束されていて、男性の方は前の方でまだ拘束も緩い。もうイライラが止まらない。法律は一応あるんだろうけど、盗賊相手だから色々と不慮の事故が起こっても不問になるだろう。人権なんて主張するだけじゃ誰も守ってくれないような世界だし。
ここまで察知される可能性を考慮して抑え込んでいた魔力を多少解放する。
「助けに来ました。遅くなって申し訳ないです。まずは色々とあると思いますが治療させてもらいます」
牢屋の象徴とも言うべき牢を力づくで引きちぎって取り外すと圧縮してただの鉄の塊へと形を変える。そのままアイテムボックスへと放り込んでおく。
拘束具に関しても切り離してついていた跡を消し去っていく。
女性たちは俺が近づくことに震えながらも懸命に耐えていたから、改めてリセルから説明してもらった。近づかなくても念動魔法と余計にMPを消費すれば問題は無い。俺が苦労するくらいでデメリットなど無い。その間に俺は男性の商人さんたちと話をする。
「恐らく会長から何かしらの金を奪い取るつもりなのだろう。だが、数日水とパンだけ。光も無いのは厳しいものがあったが…。体に暴力を受けるだけなら安いものだ」
話を詳しく聞くと思った通りにザールさんの部下だった。男の生き残りは身代金を取れそうな彼ら二人だけだそうだ。盗賊の襲撃一度目に捕まった商人さんは多少衰弱がひどかったがそれ以外に身体の欠損も無い。
『空間接続』で確認すると問題無く使用できたのでユーフラシアへとすぐに送還する。ザールさんに持ち運びできる楔を渡しておいたので問題の無い男性2人を引きとってもらい、簡単に現状を伝えておく。
何も言わなくてもどんな目にあったのかについては聞いてくれるだろう。
空間魔法は便利だねって話をしたところでリセルに女性たちの方を確認する。
「まだ男は怖いって」
無理もない。男の俺には想像も絶する話だ。発狂せずにいられる時点で称賛、…いや言葉では尽くしがたいな。
「分かった。ひとまず獣人の村で匿うことは出来るか?あそこならフレンドビーたちもいるから静養するのに良いと思うんだが」
「私は構わないよ。この人たちが良いなら。ミケンダとかへの話は私がするから」
「ありがとう。助かる」
こっそりと全力の生命魔法で確認だけしておく。間違いなく大丈夫だろう。タイミングを見て伝えてもらうようにリセルから伝えておいてもらうようにこっそりと耳打ちだけしておく。
「イレブン、全員お願いするって」
「了解だ。じゃあさっきの男性たちはザールさんのところに送ったけど、彼女たちは獣人の村のリセルの家に飛ばすからこっちのことは気にせずにリラックスしていてくれ。粗大ゴミを本当に砕いてゴミクズにしてからおく」
「分かった。イレブン。絶対に手加減してね。少しくらいはやり直さないとリラックスできないって人もいるから」
すごいな。そこまで強い意志を持っている人がいるのか。
「希望の通りにすることを誓うよ。既に跡形もなく、殺してしまった奴もいるけど基本的には生かしてあるはずだから問題無いと思うし。まあ何をしたって、盗賊の言葉なんて誰も信用しないよ」
しかもザールさんに逆らってこの国で生きていけるはずが無いよ。武力じゃなければ俺も敵う気がしないし。ザールさんについている過剰な武力が俺ですけど。
幻魔法で女性たちから俺の姿は見えないように注意して獣人の村へと送り届けた。あとはリセルがうまくやってくれるだろう。
外側も出てくるやつを掃除するだけの簡単なお仕事状態だし、仕上げに俺が奥に引っ込んでたリーダーとやらを無力化すれば終わりだ。さすがに状況が伝わったようで完全武装の状態で出て来ている。
広場に戻る最中も探知を続けていると異質な魔力を感じ取る。なんかすごく嫌な感じが漂ってきた気がする。これは気のせいではないよな…?魔物とも違うもっと気持ち悪い感じをものすごく濃くなるまで煮詰めた感じがする。
ここからは盗賊退治が目的に変更になるので荷物を引きずりながらさっきの広場まで戻る。手で持ちたくないから念動の手で顔面を下に押し付けながら引きずっている。足元を細かな棘状態にしているので汚い感じになっているけど問題無いだろう。うめき声が聞こえるのが耳障りだ。しかし、聞き逃してもいけない。防音が出来るように何か工夫できないか考えてみるのも良いかもしれないな。
色々と同時並行で魔法を使うのが面倒と言えば面倒だけど。福来がいれば肉球印を押して治癒魔法かけるだけで持続するから楽になるのにな。俺だとかけ続けないといけないのが面倒だ。まあ死なせないためには必要か。
まあ、一般的にはやり過ぎな光景なのは分かっているので、広場でかち合った向こうのリーダーには出会い頭で完全に敵認定されましたけどね。
「やってくれたなぁ!クソが!!」
そう言ってまだいた取り巻きが一応飛びかかってくる。部下が全員やられるまでふんぞり返ってる方が悪いと思うのは俺だけかなと考えてしまう。
近くにあったゴミをさすがに手で持って飛んでくる矢を受け、ついでに接近して来るやつに叩きつける。衝撃で矢が貫通してしまうが気を失っているので少しうめき声をあげただけだ。叩きつけた方も衝撃で気絶したので近い方から処理していこう。
約束があるから『手加減』は使っている。だから余程でないと殺しはしない。だけどはずみで死んでしまったとしても責任なんて知らない。
「だ、だらあああぁぁぁぁ!!」
それでも剣で攻撃してくる蛮勇の持ち主はいるもので、気合で俺の圧力を跳ね飛ばして向かってくる。それに続くのが3人ほど。後ろに怖いリーダーがいるもんね。
最初の蛮勇は褒めてあげたいので振り下ろしてきた剣を避けて手首を握る。そのまま握り潰して、持つ者がいなくなった剣を奪い取ったら剣の腹で思い切り叩く。
バギン!!
と、何か折れる音がしたと思ったら衝撃で剣も折れてしまった。ただの鉄ならそうなるか。
続いて来ていたのは槍持ちが2人だ。刺してきたのでわきに抱えて止める。そのまま持ち上げると手を離していなかったので男2人が持ち上がる。下に叩きつける時に槍の下に身体が来るように調節したので衝撃で脚の骨辺りがバキバキッといったみたいだ。止めで槍の柄が曲がるほど頭に叩きつけておいた。
最後の1人はどちらかというと暗殺が得意なシーフタイプだったみたいだ。目を見ると何か薬でもやっているのかと言いたくなるように目がキマッテいる。でもトワよりも下手だな。首元に伸びてきたナイフを柄を指で止める。驚く声をなんとか喉のあたりで止めたのは褒めよう。
ただ、プライドと実力が見合ってないね。このタイプは全身に何仕込んでるか分からない。腕を掴んで地面に3回ほど叩きつける。これで何を持っていても目と同じで全身の骨もバッキバキだ。
残っているのは弓を背負っているのとリーダーだけだ。でも盗賊のリーダーが持っている剣ってゲーム内で呪われた剣の代表格って言われてた一本じゃないですかね。
お読みいただきありがとうございました。




