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盗賊討伐依頼

お楽しみ頂けると幸いです。

あと1カ月ほどで冬が終わる。そうなればいよいよ王都に向けて移動だ。待ちに待った武闘大会がある。それが終わればグレイブ村に手を入れるのと夏になる前には今度は青龍のところへと向かう。あとは時機を待つばかりだ。白虎と玄武に関しても目星だけは付いてるから一つずつこなしていこう。


さすがに鍛えすぎて普通なら武闘大会優勝は間違いないとデテゴとザールさんに判を押されている。まあ邪獣人を送ってきた『正人類統制教会』の例があるから油断せずにいくけどね。あれから邪獣人のことを聞いてもまだ探っている最中だとはぐらかされている。簡単に表に出て来ないことだと一方では理解できる。


もう一方で欠片も情報が無いなんてことはあり得ないことも分かる。まあ間違いなく嘘を吐かれているのだ。強さは認められているけど、相手が圧倒的に多数ということだろうか。別大陸の国を一つぶっ潰していることは言ってないから知らないんだ。気にせずに言ってくれて良いんだけど、二人が言わない方が良いと判断しているなら言ってもらえるまで待とう。


そんなある日のことだった。ザールさんから呼び出しが入っていたのでお店の応接室にお邪魔した。

見ない間に大きくなっている。横の店を買い取ったらしく物理的に広くなっていた。これは同じポーションを始めとした薬や生活に使える魔道具を扱っている他店はひっくり返せないだけの差になってしまったな。

それだけでなく店のある通りも買い取って武器や防具の専門店として提携したようだ。ザールさんの店をメインとしての商店街になっている。元から仲の良い人には優遇しているんだろうな。そのあたりの世界は俺には無理だ。物量作戦で何とかする以外思いつかない。


変化に驚きつつも通された応接室で大人しく用意されていた資料を読んで、呼び出し内容について理解する。

ちなみに待っている間に出されたお茶は緑茶だった。さすがザールさんのお店だ。俺の好みを把握してくれていた。そして読み終わるのとほぼ同時でザールさんが入ってきた。どこかで見てたのかと思わせるぐらいのタイミングだが、言ったところで微笑まれるだけなので言わない。


「お待たせしました」

「いえ、すごく良いタイミングでした。それにお茶も美味しかったです」

「とんでもありません。これから仕事を依頼するわけですからせめてもの心遣いです。受け取ってもらえて嬉しいですよ」


なるほど、友人扱いではないのか。これから仕事を依頼する側と受ける側ってことか。ちょっとどう変えれば良いか分からないけど。


「まあ何度か経験して覚えてください。今回の仕事は盗賊団潰しです。物資を横取りされてましてね」

「盗賊ですか」

「ええ。現状で2組襲われていますね」

「え?これには1件分しか書いていませんが」

「先程2件目の報告が来たのですよ。思ったよりも動きが遅くなってはいけません。これ以上ぬるい対応して盗賊にのさばられても面倒です。私の知る限り最高戦力の銀級冒険者パーティで叩き潰したいという指名依頼です」


こっわ。ここまでザールさんの店が大きくなるとこの冒険者の多く集まるユーフラシアの街の経済を支えていると言っても間違いじゃない。早めの対応ってやつか。


「では返事だけ先にもらえますか。代表さん?」

「あ、それはもちろん。やります」

「感謝します」


現在の俺の立場は銀級冒険者パーティの代表だ。個人的にも一応銀級扱いだ。扱いという言葉が付いているのは破竹のスピード過ぎるからだ。

武闘大会のついでに王都の本部で改めて審査を受けて認定されることになる。そのときに戦力として連れている者は同行することになっている。それはまあ問題無いので行くのだけども。


早くも銀級冒険者扱いになっているのは有望株だから逃がすなって意見と解決のためにとても力になってくれたと報告が本部に届いたからだ。異例の対応とも言える。

ユーフラシアでの積み重ねとマルクトでのごたごたを前線で活躍したという情報、他の冒険者の役に立つポーションや魔道具を大量に世間に供給したことを認められて銀級冒険者だと認定された。


魔道具に関しては正確を言えば半分以上ロイーグさんではあるんだけど、俺名義になっている。俺は口を出したことと材料を揃えたくらいだ。


「下手に世間に出たら俺なんか攫われちまいそうだからな。安全圏で好きなこと出来ているんだからこれ以上は望まないよ。荒事関係は全部イレブンに任せる」


と、漢気があるようなテンションで全く無いようなことを言われてしまった。この意見が通るのもこの王国で大きい方から数えた方が早い都市二つの冒険者組合からの後押しされているのが大きい。あとは大多数の冒険者に喜ばれているという点だろうか。

正直魔道具に関しては俺が作っているのか怪しいと言われているのは知っているが、一般家庭にも買える料金で販売している便利グッズの防寒具や魔道具が無くなっては一大事なので誰も何も言って来ない。


これだけだと俺がものすごく腫物扱いされているように感じるが、割と平和的に銀級冒険者の扱いになっている。

芋づる式にリセルも戦闘力として考えたときに銀級扱い、戦闘力次第でコトシュさんとトワも銀級になる。現状はコトシュさんが鋼級でトワが銅級だ。


「内容としても引き受けるのは問題無いようですし」

「では依頼書を持っていくついでに受理証も届けてもらいましょうか。その間に書いていない2件目についてお伝えしましょう」

「お願いします」


ザールさんが話し始めるといつでも飲めるようにとお茶のお代わりが注がれる。ザールさんが飲んでるのはメディさんが配合したブレンドの紅茶だな。香りに覚えがある。


「まず運んでいたのは2件ともグレイブ村に先遣隊として派遣している者たちへの追加物資です」

「先遣隊?俺たちでそのくらいしますよ?」


善意からの申し出だ。しかも盗賊に横取りされてしまうなら俺たちがやる方がいいと思ったのだが、ザールさんには首を横に振られてしまった。


「なんでもイレブン君に頼ってしまっては経済が動かなくなります。自分で全てをやるのではなく、ある程度多くの人を動かすことに慣れてもらわないといけませんね」

「あ、はい。すみません」

「気にしなくても構いませんよ」


自分のことだけ考えればそれで構わないが、仕事があることで生活が成り立っている人がいることも確かだ。周囲への気配りは足りなかった。ザールさんも怒っていたわけでは無いので話の続きをくれた。


「ただし、こんなに早くに盗賊が湧いてくることに関しては想定外です。運んでいた者にも護衛に付けていた冒険者にも悪いことをしました」

「それって、もう?」


可能性は低いのだろう。1件目の現場にも何も残っていないと書いてあったし。


「はい。襲われたであろう場所が特定できたのも血痕が残っていたからです。隠蔽しようとした痕跡もあるようで、人の準備にかなり周到ですね。生きていたとして何人が生かされているか、正直不明です」


ザールさんは良い人だ。いわば大会社になりかけている会社の社長みたいな人なのに、ちゃんと人の心配をしてくれている。前の世界では地位が上がると人の命すら金稼ぎの道具にしか思っていないようなやつをテレビで見ていたからな。


さて、生きる価値の無いやつには今日中に終わらせよう。


「分かりました。ユーフラシアとグレイブ村のどちらに近いですか」

「2件ともグレイブ村からの方が近いですね」

「それだけ聞ければ十分です。すぐに動きます」

「まだ確認することはありますが、くれぐれも気を付けて」

「ありがとうございます」


何をしに行くのかを伝える必要があるから拠点に戻ることにした。俺がザールさんに呼ばれたことは知っているからみんなが待機してくれていた。


「盗賊退治に行ってくるよ」

「一人で?」

「一人で十分でしょ」

「この……バカ!!」


リセルが確認してくるが、逆に俺が一人でどうにか出来ないような盗賊団なら危険極まりないとしか言えない。油断していた隙に脳天チョップを入れられてしまった。


「ダメだな。俺が行けないのは仕方ないとして戦闘できるメンバーは連れて行くべきだ」

「ロイーグの言うとおりだな。私、リセル、糸太郎、トワ、薙刀隊は同行する準備は出来ているぞ」

「福来はまだお留守番してようね」


ロイーグさん、コトシュさん、トワがさっさと段取りを決めてしまった。確かに表にいつもは使わない馬車が用意してあったから何事かなとは思ったけれど。俺だけで行くつもりだったのに…。


「またイレブンが怒りすぎて大変なことになったら止めるのは私の役目だからね」

「無駄無駄。ついて行くことを認めなかったら全員ついて行くだけだって。俺じゃあ止められないからな。最初から連れていけ」


どうあっても同行を拒否することは出来ないようだ。素直に感謝しておくことにする。


「ありがとうございます。俺のワガママのようなものに付き合ってくれて」

「それもいつものことだな」

「イレブン、いつも好き勝手」


仲間の俺に向かっての信頼の仕方がどういった類のものか理解できた気がする。もう何も言わないけど。


「じゃあ行きましょう。ユーフラシアよりもグレイブ村の方が近いそうですから途中までは俺が飛ばします。襲われたのはザールさんのところの印を付けていたそうなんで確実に襲われますからね。はい、行きますよ」


追い立てて準備をしてすぐに出た。ロイーグさんには留守の間の色々を頼んだ。万花と毎果もいるから大丈夫だろう。見送りの時に「俺も考えないとなぁ」って言ってたのが引っかかるけど何でもないと濁されたのでそのうち話してくれるだろう。


そうして馬車を空で飛ばすことしばらく、大体中間地点くらいに到達したので周囲に誰もいないことを視覚的にも『探知』でも確認して道へと降り立った。地面に降りたら馬の目隠しを外す。


「皆さん、ここから普通に進みますよ」

「お馬さん、びっくりしてる」

「目隠しされている間に周囲の風景が変わってたらビックリするよね」


トワが馬の様子を気遣って(?)いるが、リセルがすかさずなぜ驚いているかの解説を入れてくれている。


「本当は四輪で進みたいんだけど目立つからな。盗賊が出て来るとは思えない。…そうなると俺たち専用の馬車もあった方が良いのか。牽引する馬も自分たち専用のが欲しいな。またテイムするか?」


独り言のつもりだったがまたリセルが拾ってくれた。


「私たちについて来れるような強い魔物が簡単に見つかるとは思えないけど」

「それを言うなら普通の馬で我々について来れるような胆力のあるものを見つける方が難しいだろう。本来の馬とは大人しいものだぞ」


リセルの言葉を今度はコトシュさんが拾ってくれた。話題に一度火が付くとそこからは色々と話し始めてくれるので途中で混じりつつ、馬を走らせる。薙刀隊も目立たずに行動できるステルスビーとアサシンビーが周囲を索敵してくれている。

こうなると余程の相手でなければこちらが後手を踏むことは無い。特に困ることも無くすぐに見つけられたと薙刀から報告が上がる。


「あのアサシンビーが見つけてくれました」

「俺の背後を取った子だな。相手の後ろを取ることに関しての才能は随一だな」


一応誉め言葉ですから。


「この馬車で進んでいけばあと5分くらいで通りがかる地点のようです」

「了解だ。相手の出方にも依るけど基本的には容赦はしない。一応言っておくけど全員叩き潰すつもりでいくからね。怪我したら俺が怒るからね」

「盗賊よりもイレブンの方が怖いね」

「私が一番弱いだろうが遅れを取るつもりは無い」

「無傷、余裕」

「主の命は無傷での制圧だ!皆の者、静かに意気を上げろ!!」


薙刀隊もビシッとポーズを取ることで了解の意を示してくれる。


「で、イレブンは武器持たないの?籠手とグローブだけ?」

「最近武器が壊れやすくってな。常に結界で覆ってないと壊れる武器って意味無いだろ?」

「ミスリル製なのに?」

「そう」

「こっわ」


腕力が成長しすぎたからか持ち手を握り潰すか、振る勢いが強すぎるのか刃こぼれがひどくなって手入れが面倒になってしまうんだ。最近は鈍器を使うか素手で戦っている。今日はやり過ぎないように素手でいく。籠手とグローブはあるけど。


じゃあそれぞれの準備も出来たところで一狩り行きますか。

お読みいただきありがとうございました。

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