詳細に関しては黙秘します
お楽しみ頂けると幸いです。
寒い。
結界を張ったのはご飯を美味しく食べるためだ。寒さを感じながらの方が酒がおいしいって話は聞いたことがあるので結界から出て勝手にするのは自由だ。
大体が温かいうちに食べてくださいねってものが多いから主催者としての配慮をしただけだ。どうも酒を好んで飲んだことが無いのでそっち周りの配慮は出来てない。
まあ深酒して前後不覚になる奴がいたらその時に考えるけど、幸いなことにそんなやつはいない。うっすら怪しいのはいたけど、沈黙させられてたしな。
「寒いね」
「そうだな」
リセルが話しかけてきたことに応える。一言でぶった切ってしまったのでまた沈黙、そして静寂。
もう少しなんか言うこと無いのか、俺!
連れて来たんならもう少し言うこと無いですかね。リセルさん!
……マジでどんな顔したらいいのか分からん。そして沈黙が痛い…!
あ~!整理しよう。
まあお互いに恩はある。
俺はあれっきり無いけど感情が暴走してどうでも良くなって暴れそうになったところを止めてもらった。
リセルはレベルが上がらなかったのを俺が魔石を捧げることで経験値を手に入れることが出来るようになった。そのせいかスキル取得も同じシステムだしな。
神獣たちを巡るのはある意味目的の無い俺にとってちょうど良い目的にもなる。なんとなくだけどゲームシステムは残ってるけどここは異世界なんだと思わせる。
異物である俺が好き勝手やったところで本来の流れなんて無いのかもしれないけど、知っていることが役に立つから状況は整えたい。メインストーリーさえ乗り切ってしまえば割と平和…でもないか。邪獣人が湧くイベントとかあるもんな。
「ねえ」
「ハイ!?」
全く関係無いところまで考えていたおかげで声が裏返ってしまった。
「また関係ないこと考えてたでしょ」
「ま~~~、うん。考えてた。お見通しだな」
「当たり前だよ。私ほどイレブンのことを見て考えてる女の子はいないよ」
「女の子…?」
ちょっと引っかかったので単語を呟いてしまった。瞬間、リセルの向こう側が揺らめいて見える。
「何か文句でも?」
「ナンデモナイデス!」
理解した。薙刀が毎果に勝てないのはこのオーラのせいなのだろう。ステータスを超える何かが存在しているのを感知した。これは全てをひっくり返す可能性があるわ。今度から気を付けよう。ついにリセルもこの迫力の使い手になったとは…。
「あ~。何となく、なんだけどね」
無双の迫力は霧散して連れ出してきたときの雰囲気に戻って話しかけてくる。
「このままついていっても良いよねって確認なんだ」
「それはもちろん。っつーか青龍に白虎に玄武と分かってる神獣は3体だけどもっといるかもしれないだろ?どちらかというと俺がついていってる感じだろ。俺の方が聞きたいよ。まだついて行っても構わないか?」
「もちろん!!」
ギリギリ言い終わるくらいに食いついて返事が返ってくる。紅い目がキラキラしている。ついでに頬も赤い。く…くちびるも。そ…その嬉しそうな顔を見せるな!
「なんで顔を背けるのさ」
不満げな声が聞こえる。俺の顔を覗き込もうと動く音がするのでその場で回転して背を向ける。
「やめろって!」
「だったらちゃんと顔を見せなさい!」
「イヤだよ!」
しばらくクルクルと回転していたが、ステータスが違う。俺の方が体を動かすことに関しては遥かに上だからな。諦めたリセルが少し離れたことを確認して安心した。まだ通常に戻るには時間がかかるので呼吸を整えよう。そして一言で乱された。
「まあ耳が赤いのは見えてるんだけどね」
「はあっ!?」
両手で耳を塞ぐが、慌てた瞬間にリセルが目の前に現れる。
「あ~、顔真っ赤だね。私もでしょ?」
「っ~~~~~~」
何でしょうかね。あの途切れないアントとの戦闘よりもすごく逃げ出したい感じがするんですけど。いや逃げないけどさ、一生かかっても慣れる気がしない。
「まあこれくらいにしてあげるよ。なんでそんな顔になるのかってことに関しては言われなくても察してあげる」
得意げな感じで微笑んでいる。くそっ!勝てる気がしない。
でも、まあいいや。
「じゃあせっかくだからこれ作ったからあげるよ。名前はスピリットグラブ。不思議なことに作ったらそう名付けた方がいいって思ったんだ」
そう言ってリセルが取り出したのは指抜きグローブだ。黒色をベースにしてあるけど、所々はしっかりとミスリル合金で仕上げられているから殴る時に威力を増してくれそうだ。指先が自由だから魔法を使うときの邪魔にもならなさそうだ。
「精霊が関係してたからそう感じ取ったのかもしれないな。これ付けてみていいか?」
「もちろんどうぞ」
今まで使っていたグローブは外してもらった指抜きグローブに付け替える。手触りも良いけど体全体の負荷が少し変わった気がする?
「デザインは私だけど、布部分は糸太郎にがんばってもらって作った布だよ。金属はイレブンからもらったものだけど、加工に関しては精霊たちに手伝ってもらってるから威力補助にも制限にも役立つと思うよ」
手を握ったり、簡単な魔法を発動する。使用した魔法は生活魔法だし、MPも抑えたのに十分攻撃に通用するレベルだ。一抱えほどの大きさの火の玉が発生する。
「なるほど、これはまたすごいものをもらったな。ありがとう」
戦闘に関する感覚のズレを調整する必要があるとはいえ、手に入る中で考えてもかなり性能が良いな。各属性の補助も入ってるし、攻撃防御に関しては物理的にも魔力的にも性能アップだ。
ものづくりに関してはどうしてもゲームの知識に引っ張られてしまって自由な発想が無いな。単純に作るだけでも良いんだな。また1つ固い頭をほぐしてもらったようだ。
「どういたしまして」
もらった俺よりもお礼を言われたリセルの方が嬉しそうなのはなんだろうね。では悔しいから俺も表情を変えさせてやろうか。
「じゃあこれは俺からだ。」
アイテムボックスから出したのはミスリルゴールドの腕輪2つだ。両手に1つずつ付けてもらう。効果としては俺がもらったスピリットグラブよりも2段ほど下がるが、ほぼ同じだ。
ただしゲームの中では制作できる中でもかなりおしゃれな見た目をしているものだったので、デザインとしてはとても良いぞ!こういうのは如何に自分を出さないかが大事だったりするんだ。
しかし、リセルが固まってしまっているのでどうしていいか俺も困ってしまう。
「まあ、気に入ってもらえたらいいんだが…」
「ち、ちがうよ。あまりに嬉しかったからちょっと固まっただけだから。すぐに付けさせてもらうね!」
「おう」
右手の方から付けるとかざして見ている。ふむ…。カメラが欲しい。
左手の方を付けようとして少しリセルが止まる。どうかしたのか?
「これ、付けてもらえるかな」
「……おう」
再度俺の手の中に戻ってきた腕輪の片割れをリセルの左腕に通す。自然と手を繋ぐ状態で止まる。お互いに目が合った状態で止まる。
よし、決めた。
「なあ、リセル」
「なに?」
「ひとつ許可を得たいことがある」
とても重要な確認だ。確認無しでは踏み越えてはいけない一戦だからだ。
「あの覗き魔どもを処理していいか?」
「いいと思うよ」
「ヤバイ!バレてた!」
「あれだけ緊張してればバレないと思ってたっす!?」
「俺は逃げるぞ!戦闘能力なんて無いんだから!」
「主にどつかれたら誰も耐えられないです!」
そうかそうか。ボケ担当が勢ぞろいだな。
「全員逃がさん。『覚醒』!!」
「ガッチガチの本気じゃねぇか!殺す気か!!」
「死ぬほどの目にあわせてやらぁ!!」
全速力で追いかける。まず元軍人を確保、次に新村長も鈍っていたようであっさりと捕獲した。
「ここからは多少手荒にしても問題無いな。死にたくなければ本気で逃げろよ」
「悪かったって!酒のノリだったんだよ」
爆発に紛れて何を言っているか聞こえてないことにした。
「主を覗き見するとは良い度胸だなぁ」
「いつ何時、何があるか分からないから陰から見守っていたんですぅ~~!」
「本音は?」
「何かこう熟す前の果実を齧ったみたいな感じでした」
「誰が甘酸っぱいんだ!?」
「今自分で言わせたのに~~!!」
先日作って気に入っていたハリセンで3連撃ほどお見舞いしておく。
縛り上げて広場の結界の上に乗せて放置しておく。見せしめになってもらおう。結界の外側だから寒いしな。
「まあしばらくはこんな感じでからかわれるのも仕方ないよね」
「そうだな」
周囲に誰もいないことを確認して二人で話すのに戻る。
「ちょっと行きたいところあるんだけど」
「どこ?」
「とりあえず空間接続で行けるところ」
「わかったよ」
ちゃんと夜のうちに帰って来てますとだけ。
お読みいただきありがとうございました。
自分にはこれが限界です。面白かったなって思ったらせめて評価かブクマをください!!
慣れない展開を書いて、何とも言えない何かに打ちのめされました。読むのはともかく、さらっと書いてらっしゃる作者様方はすごいなって思います。




