メインディッシュからデザートまで~延長戦?
1つ勉強しました。パーティ料理にするよりも1つを掘り下げた方が飯テロになるって。まあ中途半端…、と予防線を引いたところでお楽しみ頂けると幸いです。
いや~、ちょっと引いた。いそがしくてあまり昼食を取れていなかった奥さんたちならともかく、男どもに子どもたちまで果物に食いついた。やっぱり獣人たちの嗅覚は鋭かった。奥さんたちからも言われた。
「これだけの香りだったら気づくのは当たり前だね」
「しかも、香りの時点でおいしいのが分かるからね。何とかして食べたくなるのも分かるね」
「だからと言って無理矢理に体を動かして食べるなんてね」
「しかも夕食のために再度動くんだものね」
「まあ子どもたちが何も言わなくても昼寝してくれたのは助かったね」
色々と感想はあったが、俺としても感想は同じだ。走るだけではもったいないからと狩りに行く獣人もいた。村の備蓄が増えるからミケンダは喜んでたかな。
「置いていたお茶が消化を助ける成分が入ってるんでね。どうしても苦しいって子には飲ませておいてください」
「あ~、助かるよ。うちの子が食べすぎちゃってね」
「飲み過ぎると逆に下すんで気を付けてくださいね。子どもならこのコップに一杯飲めば十分です」
「ありがとね。ちょっと行ってくるわ」
なんてやりとりをして少し休憩をした。正直これからの方が量は多いけれど、仕込みは済んでいるので十分間に合うのだ。むしろ時間のある時に作って出来立てのままアイテムボックスに入れっぱなしのものもある。
昼食の時のは一種のパフォーマンスだ。これからのも似た傾向で選んでいるのはあるけれど。
「さて、休憩も終了して始めるとしますかね」
「何を手伝えばいいかしら?」
「熱いんですけど、揚げ物をやってもらえると助かります。材料はこちらに準備してあるんで」
アイテムボックスの中から油やら食材やらを出していく。そのまま揚げられるものもあるが、野菜は獣人の村からの提供なのでそのままのものもある。
「じゃあ適度に量を見て揚げていけばいいんだね」
「揚げたのは置いといていいのかい?」
「大丈夫です。ちゃんと責任持って保管します。今回に関してはつまみ食いする奴にはキツイ罰を食らわせるんで」
姿は見えないが周辺の物陰から動揺した気配が漏れ出てくる。
多くは獣人の子どもたちの気配だが、2つほど人間の成人男性のものが混じっている。昼から酔ってるんじゃないだろうな。未成年が働いているというのに!
「何をするんだい?」
「夕食のパーティの間ずっと磔の刑ですね。皆が美味しそうに食べているところを見せて、ものすごく良い香りを吸い込めるだけ吸い込める特等席を用意します。ただし、食べさせません。拘束は俺が責任を持って行うんで任してくださいよ!」
自分的には凄くイイ感じに決まったと思ったんだが、奥さんたちはドン引きしていた。
「お昼だけでもすごく美味しい料理を食べさせてくれたのに、メインのパーティ料理は見てるだけ?」
「一口摘まむだけでそんな罰になるって重くない?」
「でも、一番がんばって作る子が言うんだもの。それに従うのが筋じゃない?」
「ちなみに、奥さんたちは支障が出ない程度に摘まんでもらって良いですよ。手伝ってくれるわけですし」
「「「「問題無いわね。始めましょう」」」」
労働の対価として特別待遇があるのは当然だろう。しかも量が多いということはそれだけ大変なわけだし。
「これはやめておいた方が良いな……」
「全くだ。容赦なくやるからな、あいつは。やめておいた方が身のためだぞ」
「え~…」
「やめた方がいい。あの顔のときのイレブンはやると言ったらやるぞ」
なんだ、俺の発言を引き出してやんちゃの子どもたちを止めようとしてたのか。
でも本当に二人は止めるためだろうか。まあ名誉のために追求するのはやめておこうか。
そんなわけで、作業の再開は大量の唐揚げや野菜の素揚げなどを準備の指示から始まった。おまけに人手も増えたので他にも増やすことにした。
サラダも大量だ。昼が重かった人に食べてもらうものがあっても良いだろう。それにスープも普段から獣人の人たちが飲んでいる味がある方が落ち着く人もいるだろう。
人間が好む味についてはさすがに夕食の調理は手伝うと手を挙げてくれた移民組に手伝ってもらうことにした。グレイブ村での仕事に宿を考えているそうで、ある程度の料理の技術や大量に作ることに慣れておきたいのだそうだ。
今回のはとても良い練習になるし、具体的にそこまで考えているならこれから資金は出すから好きなだけ練習してもらおうかな。他にもやりたい仕事が見つかったときに支援するからねというメッセージにもなるしな。
他にも昼のようにはしないが、米が欲しいとか、パンが食べたいとかもあるだろうから材料だけ出して手分けしてもらうことにした。
作りたいものを作ってくれたらそれでいいし、歴戦の主婦の経験値にスキル頼りの俺が口出しするのも大枠だけで良いだろう。
作業を進めていく中で会話も発生しているから俺が気を使う必要もないし、完全にお任せしよう。
良い発見をさせてくれたことに感謝しつつ、俺は自分の仕事に入る。
「『食材の宝庫』のウルトラ激レアドロップの大放出だ!」
出したのは魔豚・魔鶏の丸々姿が残った状態のものだ。丸々と言ってもすぐに調理に入れる状態だけど。魔豚に関しては処理をした上で中と外側の処理をして鉄棒に縛り付けてあるし、魔鶏に関しては既に下味は付けてあるし、腹にも米やら野菜や入れてある状態だ。
ドロップアイテムは通常倒した時点で既に食材としてそのまま使える状態でドロップすることが多いので姿が丸々残った状態で手に入ることは珍しい。
場合によっては運ぶことも出来ないので人によっては外れだが、俺にとっては凄まじく当たりだ。処理をしなければいけないという手間はあるが、豪快にやりたいときは十二分にメインとなる。
下準備に関しては俺が先にやっておいただけだ。時間がかかるのは量が多い鶏だった。自分の手と念動を使いながらやってみたが、同時並行で違う物をやるのは慣れが必要だ。最後には3つ同時並行で出来たけど。
良い訓練になったことを思い出しながら次の作業だ。事前に大きさに合わせて作っていた大きな鉄鍋ことダッチオーブンを取り出す。魔鶏に合わせてその数20だ。
まず切っておいた付け合わせの野菜を投入していく。次に鍋1つに1羽ずつ入れていく。仕上げに果実油をかけて香草をふりかける。
蓋をきちんと閉めれば適度に圧力のかかる状態だ。では調理に入ろう。
「とりあえずは結界を作りまして」
鍋20個くらいなら余裕で入る空間を区切る。
「次に熱魔法で高温状態になるように調節します」
火でも構わないけど、実際にダッチオーブンを使うときに難しかったのが上からの熱だ。火だとしたからだけになるからそこが少し難しい。
「そして1つずつ鍋を設置していきます」
自分の魔法でも自分でダメージを受けることはあるので念動魔法で慎重にだ。全部並べてしまえばあとはこのまま維持するだけだ。
「熱量としても火にかけているのをほぼ同じくらいにはなっているようだし、大丈夫だな。では次にメインディッシュにいこうか」
当然ながら豚の丸焼きである。こちらもやることはほぼ同じである。違うことがあるとすれば結界から前後の棒が出ているので気分的に外から回すことが出来ることだ。
便利なのは外から見ていても熱くないし、回すことで『肉を焼いてる』って感じを味わうことが出来る。ちなみに豚は5匹用意している。
鶏も豚も子どもが間違って近づかないように最低限の火の演出はしているので近づくことはない。あとは五感で出来上がりを確認するだけである。
これは結界クッキングはしばらく流行るかもしれないな。下準備は面倒だけどここまで大きいので無ければまたやろう。
さて、最後にとっておきの準備もするか。
☆ ★ ☆ ★ ☆
苦労して(?)調理した甲斐もあって晩も好評だった。というよりもお手伝いを申し出てもらったことが何よりだった。元は一人でもできるだけやろうとは思っていたけど、とんでもなく無理だった。
ただ戦うだけならいくらでもやれるが、料理となるとそれは無謀だった。あまり力任せにやると食材どころか調理道具がダメになってしまうから制限かかるし。そこそこ大変ではあるんだが。
「このローストチキンうっまあああぁぁぁっ!」
「酒のあてにするなら豚の丸焼きがヤバいぞ!どの部分も食える!酒も手も止まらん!」
「潰れるまで飲むぞ!」
酒の準備は勝手にしてくれというところだったので飲み始めている。既に神聖な雰囲気ではないが、楽しそうなことだけは非常に伝わってくる。
「あっちの2つは男どもの分だね」
「この豚ね、僕も焼くのを手伝ったんだよ~!」
「あらそうなの。すごいわね。…もぐもぐ。うん、おいしいよ」
回す必要性は無かったが、様子を見ていて自分もやりたいと言ってきた子どもたちには実際にやってもらった。出来に関係あるかと言えばそうは無いが、手伝ったという自信とあの笑顔は料理とは別に作り出せたものだ。格別の味に仕上がっていることだろう。
そして俺は久々の味を白米と一緒に楽しんでいる。舌の上でとろける甘さだ。多少魔物も含まれているのだろうけど見た目は全く変わらない。
「それは何を食べてるの?」
「リセルか。これはな、海鮮丼だ。魚の刺身とか卵を乗せてるんだ。米は酢飯にしてるから食べやすいぞ」
そう言ってまた一口ほおばる。目立つように食べているのだが、他に挑戦者が現れない。どちらかというと内陸にいる人間と獣人たちのため魚を食べる習慣はあっても生魚は忌避されているようだ。
もったいないなぁ。魚のおいしさを知らないなんて人生の3割は損してるね。酒にも米にも合うというのに。でも教えてやんない。さすがにこの人数に行きわたるほどの量じゃないから。
勧めなくても踏み越えてきた者にだけ分けてあげるんだ。あ~、おいし~。口の中でとろけるような甘味を感じる。酢飯がそれをさっぱりとして口の中で広がっていく。たまんねぇ~。
決めた。海釣りしてそのまま船の上で捌いて食べるとか、港に戻ってきたら海風に吹かれつつ炭焼きにして食べるとかしよう。寒い時期だからこそ美味しいものとかあるはずだ。
「魚か…、それって生でしょ?…あんまり食べたこと無いなぁ」
「川魚はダメだぞ。寄生虫が多いから生で食べたらヤバいことになる。これは海の魚だから生でも大丈夫だ」
「それはまぁ、また今度ね」
「おいおい。魚のことならまだまだ話すことがあるぞ。フレンドビーたち全員集合ってことは港町のダコハマリに送っていたやつらも来てるんだからさ」
「まあそれは後で聞くよ。今良いかな」
「わ、わかった」
いつもと違うリセルの雰囲気に俺も察するところがあった。皆で作った料理を思う存分味わうことも主催者としての義務だが、それとは別に用意しておいたものもあるんだ。
だが連れられて移動する最中、なぜか一言も話さないリセル。間が持たずに俺の方から話しかける。
「そういえばありがとうな。デザートまで考えてなかったからリセルが作ってくれて助かったよ」
「まあね。イレブンのことだから甘いものの準備なんて考えてないと思ったんだ。女もお腹いっぱい食べたいときはあるし、それが甘味だとより嬉しいんだから」
「俺はあれば美味しかったな。フィナンシェだっけ。じゅわっと口の中で甘さが広がるのが良かった」
「バターが多かったからかな。前にも同じこと言ってたよ」
「そ、そうか」
そう言われて着いたのは村の近くにある大木のところだった。
お読みいただきありがとうございました。




