年下の成長は目を見張るものがある
お楽しみ頂けると幸いです。
気になったのでトワも困っていないのなら良いけどと断ったうえで現状が問題無いかを聞くことにした。
「問題ない」
「そうか。なら…いいや」
「でも、そろそろ見せてもいいかと思ってた」
ということで見せてもらうことにした。見せてくれるのはメタルマウンテンで構わないそうなので今回も一緒に付いていくことにした。
結局どんな戦闘法になるのかについては知らされないまま入ったが、一歩踏み入れた瞬間から俺の見学が始まったようだ。横にいるのは見えているが、存在感が見事に希薄になった。空気に溶け込んでいるというか。
メタルマウンテンは土精霊が多い。理屈は火山に火精霊が多いのと同じ理屈だ。別に神獣や大精霊がいなくても、同じ種類の精霊が溜まりやすいポイントは出来上がりやすいようだ。まあ精霊がここまで色んな所にいるゲームでは無かったから現実に変わったことによる追加点だろうけれど。
ただ、トワの気配が希薄になったのは別の理由だ。数多くいる土精霊に性質を似せているのではなくどこにでも漂う風精霊に近づけている。誰もが身近にいるのに注意を払わない空気に近づいたことで違和感を持たないのだろう。これは見事だ。
一人いれば役に立つスカウト・斥候などの役割を担うことが出来るだろう。この時点で十分に及第点である。でも今回はデテゴと同じで、戦闘法について見ることになっている。気配を隠しているのだから静かに見ていることにしよう。
近頃トワを一緒に行動していたフレンドビーたちがこっちだ合図を送ってくるので案内に従ってついて行く。たしかこの子たちも隠密系のスキルを持っているのだな。同じにおいに惹かれたのか仲良くなったみたいだな。
気分は若干父兄参観だ。子どもどころか彼女さえいたことがなかったのに。今じゃなくて過去の話ね。って話が早いわ!!
ゴホン!
さて、入り口の広場にはストーンゴーレムがいつも通りうろついているが、あれらは無視するようだ。俺が倒しても良いけど今日は参観だもんな。手は出すまい。
最近はずっとこもっていたこともあって、坑道の足元の不安定さなどまったく気にしない足取りで進んでいく。そういえば俺が歩く音しかしてないな。一応消すか。
一瞬だけトワがこちらを振り返る。
「どうした?」
声をかけて聞いてみたが、ますます不機嫌になる。なんで?
「べつに」
別にって顔してないじゃないか。言いたいことがあるなら言ってくれと言いたくなるが、やめておこう。ますます機嫌が悪くなりそうな気がする。
原因を考えながらついていくとアイアンゴーレムが後ろに発生したのを感知する。トワも気づいたようで、俺の前から後ろへと移動するようなので、当たらないように道を譲る。
眉間に寄っていた皺だけでなく舌打ちまでされてしまった。待って~?なんで~?
戦闘そのものは見事だった。
本来のトワなら隠れたまま攻撃を開始するはずだが、わざと気配を消すのをやめて姿を現した。きちんと視界に入って攻撃意思を見せてアイアンゴーレムが近づいてくる。
トン、と音を立てて跳ねたかと思うと坑道の地面・壁・天井を足場に跳ねながら接近する。しかし、これはアイアンゴーレムからは見えているのかな?とにかく機動性に関しては目を見張るものがあると言えるだろうことは確認できた。
問題は攻撃力だな。トワの使っているのはナイフや大きく言ってダガーくらいの小型の刃物だ。大型の上に金属で出来ているアイアンゴーレム相手ではあまり効果がなさそうだが、果たしてどんなもんだ?
観察しているとアイアンゴーレムの周囲を飛び跳ねて姿を見失わせると俺に見せるためか正面から近づいて、左肩に飛び乗る。両手を肩に触れさせると肩の部分が消滅していき、ゴトンと左腕が落ちる。
魔法を使ったことは分かるが、現象に関しては何が起こったのかよく分からなかったぞ?
俺の表情の変化に満足げな笑みを入れながら右腕を同じように落とし、背後に回って腰から腹の部分が消滅して上半身と下半身を分離させる。この時点でアイアンゴーレムは四肢を失って何もできないのだが、ダメージが無いみたいで倒せたってことにはならないようだ。
危険性が無くなったからか落ちていた右腕を拾ったトワは俺の方にぽ~んと投げてきた。呆れてしまうが、一応キャッチする。
「それ、あげる」
「あげるってなんだよ」
試しにやってみるけどっと、アイテムボックスに入ったな…。マジか。もしかして倒す前に切り離したらそれは魔物の一部では無くて資源として使用できるのか?
欠片が落ちたとしても戦闘中に拾う奴いないもんな。生物系の魔物だったら切り落とした時点で生命の問題だからいずれ消えるけど、ゴーレムはそうではない?
おもしろい仮説だ。笑みがこみ上げてくる。
「ゴーレムの頭、潰してくれる?」
「了解」
首を動かすことしかできないアイアンゴーレムの頭に触れるとさらさらと流れるように頭が削られていった。
分かったことは2つ。
1つ目はアイアンゴーレムだけかもしれないけど、首から、もしくは体から切り離した状態で倒すと切り離された部分が残る。時間が経過すると消えてしまうかもしれないので、色々と実験しておこう。
この場に放置、俺が持つ、アイテムボックスに入れる。結果は今日の帰りでのお楽しみにしよう。
2つ目はトワの攻撃方法だ。
「風化か。よく知ってたな」
「小さいころに砂漠に行ったことがある。風だけで全てがなくなっていく光景が怖かったしきれいだと思った。風魔法も得意だって聞いた時に砂漠のことを思い出した」
トワには珍しい長文の発言だ。3文も話すとは。帰ったらコトシュさんに報告してあげよう。心の中で溢れる涙をそっと拭き取っておく。
「なるほど。風っていうと研ぎ澄ますか圧縮することを考えるけど、なかなか良い使い方だな」
「褒められた」
ふふんと鼻を鳴らしている。少し気を良くしたようだ。
「生命体にやると怖いから無機物専用だな」
「ストーン、アイアン、シルバー、ゴールドまでは出来た」
「そうか」
シルバーとゴールドはもったいないと思うが、仕方ない。
「そうか。既に試してるんだな。切り離した部分も時間が経過すると消えるのか?」
「消える。2~3時間くらい」
「持ち運びは?」
「してない。そのまま置いてた」
「分かった」
一応全て消えるとしても、知識として知っておきたいと思うことではあるからな。知識はいくらあっても損はしない。
ふと気が付くとトワがじっと見ていることに気が付いた。そういえば特殊攻撃は見たけど、普通に攻撃するところも見ておかないといけないな。実験はまた今度にして移動した方がいいだろうか。
言おうとしたときに全く違うことをトワから聞かれてしまった。
「それより私も教えてほしい」
「何を?」
「気配の消し方、見つけ方。イレブンは上手だった」
ちょっと悔しそうにしていることから考えるとさっきの機嫌が悪かったのはそれが原因か。自分が得意だと思っていたことを俺が同じくらい出来たとすると驚くよな。
「構わないぞ。まず例を見せながらいこうか。気配の消し方だけどトワはどうやってるんだ?」
「風に同化する気持ちでやってる」
そう言って実際に気配を消したり戻したりを見せてくれる。たぶんスキルと魔法の両方を絶妙なバランスで使用してるのかな。魔法を使ってる気配はするが、目の前で見ていないと分からないくらいには微量だ。隠密を自称するにはこんなに大変なのか。
「俺が上手いとするなら多くのスキルの同時発動だ。隠蔽、隠形、忍び足、呼吸…。他にも少しだけ関係している物が結構あるだろうな」
「スキルレベルは?」
「全部MAXだ」
「…本当なんだ」
その言い方だと話には聞いていたけど、聞くまでは信じられなかったってところだな。スキルレベルの上げ方に関してはチートには間違いないので誇れたものでは無いが、身に付いた技術であれば使うことに躊躇いは無いぞ。
「上げただけで使えるかどうかは別問題だからな。感覚が追いついてくるまでがんばったのは確かだ」
「そうなんだ」
「だから、そこそこがんばったんだぞ?」
「ふ~ん。わかった。気配の見つけ方は?」
「同じかな。スキルの同時発動だ。使ったのは」
「それはまた今度で良い。スキルたくさんを一気に使うのは今の私には無理。もっと練習してから聞く」
そういえば『思考領域拡張』を手に入れてからやりやすくなったんだっけか。だとするとしんどいものがあるな。
「トワなら出来ると思うぞ。スキルと魔法を同時に発動させるのは既に出来ているからな。慣れが大事なんだと思わせてくれるな。もしくは得意だとか自分に合ってるっていう意識かな」
「……私ががんばってたから?」
「間違いないね。俺にも出来ないことが出来てるぞ」
「…ふふん」
自慢げに見せる笑顔を見せてくれたところで場所を変えようか。ストーンゴーレムなら俺が鍛えたミスリルナイフで切り刻むことが出来るので戻って通常攻撃の組み合わせを見せてもらった。そっちも問題無し。
完全に暗闇の状態でお互いに組手っぽいことをしてみた。普段は使わないスキルにも何か新しい発見があるかもしれないということが分かったからな。試しにやってみるのに良い機会だった。俺が遊び半分だったのが嫌だったようでかなりムキになって攻めてきたのでそれはそれで楽しめた。いや、楽しいっていったら余計に怒るか。
最後にはフレンドビーたちも入って来てとんでもない波状攻撃を仕掛けてこられたが何とか捌き切った。トワは完全に疲れてへばってしまって大の字で寝転がって大きく呼吸をしている。
俺は実験で放置していた四肢は消えた。アイテムボックスにずっと入れていた物は残っているが、途中で出して2~3時間放置していた物は今消えたことを確認した。
残るのは面白い話だが、予備知識くらいにしかならないな。あと残るのは消える前に加工して別のものに作り変えたらどうなるかってところだな。加工できるのかな?鋳つぶすことが出来るかどうかだな。それは帰ってからだ。
「スタ…ミナ…が、ちがい…すぎ…」
「そうだなぁ。これも経験と言えるかもしれないけどいくつか根拠はあるな。HPと頑丈の数値、3日3晩戦闘する経験、動き続けるように体力が続くようなスキルもあるから、かな」
「もっと…がんばる」
「無理するなよ~。……寝たか?」
割と満足そうな顔で寝ている。背に負ぶって帰ることにする。
弟子と言うには何かを教えている感じはしないけど、何かを教えるのが少し楽しかったような感じはある。部活の後輩にちょっとしたコツを教える感じ?
もしトワが承諾してくれるなら俺の夢も少し託してみようかな。俺よりも素質がありそうだし。
忍者ってやつ。
どうなったかはまた後日。
お読みいただきありがとうございました。




