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男の一念、神獣も呆れさせる

お楽しみ頂けると幸いです。

「よし、デテゴ。予定変更だ。何か危険なことをしているみたいだから」


もしかすると無理しているかもしれないと思ったのでトワにも無理しないように厳命して先に送り出した。

いつもと順番が違うことに視線を泳がせていたデテゴだったが、ズバッと言った一言に隠しきれないと観念してくれたようだ。


「なんで分かった?」

「朱雀のところに行った時に教えてもらったんだよ。おかげで話半分で終わったよ。何かあれば教えてくれるだろうからいいけどさ」

「は~、まさか神獣様が心配して下さるとはな」

「いやいや、神獣が心配しるくらいなんだから相当でしょ。何してたの」

「口で言うよりも見せる方が早いな。とりあえずいつも通り連れて行ってくれよ」


命がけでやっているだろうに言い方が軽い。それがこの男の良いところでもあるけれど、今回はうまく隠されてしまった。納得するまでは今日は食いつかせてもらおう。

とりあえずは一緒に火山の火口付近にやってくる。周囲を見回したけど朱雀は姿を隠しているようだ。見てはいるんだろうけど。


「じゃあ、見せてもら…って、何してんだ!!!」

「燃えるとバレるから一切合切を脱いでたんだよ。俺が何をやっていたかを知りたいんだろう?」


先程までかっちり鎧まで着込んでいた男が外して普段着姿になっていた。止めなければ上半身裸になっているところだ。季節は冬で割と標高も高いためかなり寒い。魔物が出てきてくれた方が暖かくて良いくらいだ。


「えっと、つまりもしかして火魔法なり火耐性なりを手に入れたいってことか?」

「そういうことだな。つっても火魔法は取得したから後は火耐性だ。俺はスキルポーションでどうにかってことは出来ないみたいだからな。地道にコツコツやるしかないだろう」

「いや、だからって――」

「待て待て。きっかけのお前が言うなよ」


一気に真剣な顔に変わって指を一本立てて鋭く見据えられる。自分の何がどうきっかけと言われるのかが納得いかなかったが、黙るしかない。この後に普段しているだろうことを考えると余計に。


「まあただの嫉妬とも言えるし八つ当たりとも言えるだろう。この前のときに思い知ったわけだよ。邪獣人だったか?見た瞬間に敵わねぇって思っちまったからな。そこそこ強いつもりだったけど。本当に強いつもりで終わってたな。俺もその辺りの一般人と同じで逃げることでしか助けになってやれないってことにな、腹が立った。二度と同じことをくり返すことも嫌だからな。まあ火耐性を手に入れるには火に耐えるのが一番だからな。これくらい安いもんだ」


そう言われると何も言うことが出来ない。確かにあの邪獣人との戦闘は危険だった。どんな相手だろうと一定以上じゃないと一撃でやられてしまうものだが、あまりにも場違いな登場だったため相手が出来るのが俺だけだったから対応したに過ぎない。

でも数か月前に出会った、自分よりも弱かった子どもに頼るしかないとなると心境は複雑なのかもしれない。無茶な特訓、いや修行か。修行を積んでしまうことになるのも仕方ないのかもしれない。


とはいえ決して決して楽ではない。デテゴの言う通り安いものだとも思えない。


「火耐性を得るってどんなことやってるのさ」

「シンプルだよ。火魔法をひたすら受け止めるんだよ。とりあえずは腕や腹で受け止めるところからやってるけどな」


聞くだけで痛い。ダメージを受けるってそんなに楽ではない。火の精霊が多い火山でやる意味があるかどうかは別として、耐性は元から種族として備えているもので、後天的には中々取得が難しいはずだ。


「確信があってやってるの?」

「ん?いや、ここには火の神獣様がいるんだろ?俺が無茶をやっていたらなんかくれるかなって思ってよ」



は?


「いやぁ、そんな顔すると思ってたんだよな。あ…、あんまり言わない方が良かったよな?でもバレた時点で誤魔化すのも無理かと思ったんだよなぁ」


はぁ??


脳がデテゴの発言を正しく受け取った俺がすることは1つしかなかった。アイテムボックスを起動して手を突っ込んで目当てのものを探り当てて握る。そして振りかぶる。


「こらぁ!!」


伝統のハリセンを取り出すとデテゴの頭に直撃する。バシィーンと思い切りよい音を立てる。


「おぉ。衝撃と音はあるけど全く痛くないな」


一発では意味が無かったらしい。


「言いたいことはそれだけか、この天然ボケ!!」


もう一発振り下ろす。


「いやいや。悪かったって」


しばらく気が済むまで続けたのは言うまでもない。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


「あ~もう、頭痛い…」

「まあまあ落ち着けって」

「マジでいい加減にしろよ…!」


ハリセンじゃなくて本気の拳を食らわせた方が良いだろうか。とりあえず現状では手ごたえが無いので諦める方向でいくことになった。


「結局はどうしたいのさ」

「俺がどういう構想を練ってたかったことか?火というか炎は威力が大きいことは確かだろう?剣に纏わせて一撃の威力を上げるだとか、炎を纏って剣圧を飛ばすとか色々と使い道はあるかと思ったんだよ」

「なるほど」


まあ火を使ったキャラクターなんかは『ホシモノ』に限らず古今東西のゲームや漫画に登場してるからな。いくらでもアドバイス出来るだろう。


「火魔法は使えるようになったんだったら少しは力になれるよ。それに属性金属を採掘しに行く予定は無かったけど、そういう事情なら行っても良いね」

「火属性の剣ってのなら使いづらいぞ?」

「火耐性を持っているような火山の魔物には攻撃が効きづらくなるってことでしょ?そのあたりは考えるから任せておきなよ」


事情を聞いてしまうと手助けしてしまいたくなるのは仕方がない。武器といくつか攻撃方法として使えそうなものをアドバイスすることにしよう。


「借りばかりで悪いなぁ」


そう言って背中をバシバシ叩いてくる。豪快な笑顔を見せているが、口から出て来ているのは自分に引け目があるかのような言葉だ。全くもって呆れるしかない。いい加減にしてほしい。


この世界に来てから初めて会った人間がデテゴとザールさんだ。二人がどういう思惑だったとしても関係ない。二人が助けてくれなかったら今の俺は無い。

命の恩人である二人ならばどんなことであろうと手助けするに決まっている。イチイチこんなことで借りだとか言うのはやめてもらいたい。


「まあ何かで返してもらうから。しっかり覚えておいてよ」

「お~、こわ」


既に鎧まで装着し直しているが、何かの寒気は感じたらしく腕をこすっている。好きにすればいい。俺は貸しなんて忘れるから。


その後に色々と見本を見せつつ練習をさせた。剣に火魔法を纏わせて振るう、圧縮という概念を覚えさせることで弱い火魔法でも威力の底上げを可能にする、手甲に火魔法を圧縮させて剣が使えない時の非常時の攻撃手段を教えた。


「炎で剣圧を飛ばすってのに関してはもう少し火魔法に慣れてからの方がいいね」

「たしかにそうだな。…それとよ。少し感覚が違った感じだあるんだよな」

「え?もしかして本当に火耐性を手に入れたとか言う気か?」


冗談のつもりで言ったが、本人の表情は真剣だ。うそだろ?という言葉を飲み込んで実際に鑑定してみると本当に発生している。


「本当に手に入れやがった…」

「マジか!!神獣様のおかげか!?」

「それは分からないけど…」


目の端に赤い鳥の羽根が見えた気がしたが、はっきりとは見えなかった。その時点で察することができるというものだ。


「まあ言わないでいた方が良いと思うよ。同じ手段で手に入るとも思えないし」

「それくらいは俺だって分かるよ。よし、今日から毎日朝晩の祈りを捧げることにしよう」

「喜ぶと思うよ…?」


確証は無いけど。それなら本人、いや本獣をみたことのある俺がその祈りの先になりそうな像でも作ってあげるとしようか。いや、造形関係はリセルの方が上手だな。帰ったら頼んでみる方が良いか。

デテゴが意気揚々としているので良しとすることにした。


余談が1つ。

トワの訓練も本人に任せてしまっているのはマズいのではないかと思って確認したら、ちゃんとリセルにコトシュさんに他の人に相談をしていた。

俺には突然見せて驚かせるつもりだったらしく、初お目見えまでは秘密だと言われてしまった。子どもの方がしっかりと相談できているのは喜ぶべきだろうか。


余談をもう1つ。

リセルに朱雀の像を頼んだら、わざわざ本物の羽根をもらってきてそれも造形に使って像を仕上げたものを作ってきた。

さすがのデテゴも受け取るには神々しすぎて無理だと受け取り拒否をした。そのうち出来るグレイブ村で飾ることにした。デテゴには別で作って渡すもので納得してもらったが、像には少しだけ火の大精霊の祝福が込められているらしい。

どちらにしても凄いものを渡しているが、まあ別にいいだろう。後天的に耐性スキルを手に入れたなど人間の中でも他に類を見ないだろうから。

お読みいただきありがとうございました。

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他にも書いた小説です。短編だけでも時間潰しに良ければどうぞ。
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婚約破棄は構いませんが…、本当に私がそんなことをしたとお思いですか?私の本気は少々刺激が強いかと思いますけれど
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