感動と帰還
書き貯めも少なくなってきたので、可能なら一日に朝と夕方で2回更新、無理そうならどちらか1回の更新をしていきます。良ければお付き合いよろしくお願いいたします。
呼吸を整えて、まずしたことは着替えだ。汗だくで血まみれで土ぼこりやら何やらでドロドロだった。『清潔』をかけるが、きれいになったところで装備していたものは全て使い物にならなくなっていた。
アイテムボックスから予備を出して全て着替えたが、革の胸当てと腕甲は予備が無かったので外した。着替えたことで多少さっぱりする。
「はあ…、疲れた。まずは」
ステータスを開いて確認する。
「レベルは8も上がってるよ。29か…。」
スキル画面を呼び出し、目的としていた『薬学』『調薬』を取得する。中途半端だった『風魔法』をMAXまで上げ、『連魔』は念のため1つだけ上げておく。
デテゴの件が解決してから必要になる『採取』を、最後に少しでも足しになればと『歩行』をMAXまで上げる。140Pほどは何かあったとき用に残しておく。中途半端だが、基礎スキルなら1つくらいは限界まで上げられる。
「これで少しはマシかな」
そう呟くと一目散に走りだす。少なくとも森を抜けるまでは止まるつもりは無い。『索敵』には何も反応は無いが、先程の戦闘にアサシンアントも混じっていたのでもう勘弁してほしいという気持ちしかない。
再度追撃をかけられたとしても、レベルが上がったことによる増えたSPのおかげでさっきよりも戦闘は勝てるだろう。色々と数字上の余裕も出来た。代わりに回復アイテムはほぼ在庫無し、装備はボロボロ。何よりも精神的に疲れた。
逃げる方角は着替えをしている間に確認していたら、やることは1つしかなかった。
「これ以上の戦闘は今日はごめんだ。でももう少し底上げしたらもう一回来て根絶やしにしてやる。ここら辺は危険地帯にも程があるよ。ザールさんも止めるはずだ。マジで殺す気かって話だ」
ザールは純粋な戦闘職では無いから、イレブンに言われた通りの情報を用意しただけだろう。イレブンも本気で危なかったとは口が裂けても言いたくはない。助かったからこその変なプライドの問題だ。
一目散に走って、しばらくして森を抜けた。だがそのまま森が遠くにうっすら見える程度のところまで走ってから足を止めた。そこでテントは出さずに毛布だけ出して寝ることにした。魔物避けの香だけはガンガンに焚いておいた。
なかなか眠る気にはなれなかったが、寝る体勢が整うとすっと意識を失った。体はそれだけ疲れていた。
数時間後、朝日の光を浴びたことで目を覚ました。
「う…、朝か。……日の出ってこんなにきれいだったかな」
当然初めて見たわけではない。ないのだが自分でも完全に不意打ちでそんな言葉が勝手に出てきたことに驚く。周囲を確認した感じでは、蟻たちは来ていないようだった。そういえば森の中でしかアリ類にはエンカウントしなかったなと思い出す。
その常識は捨てるのだともう一度思い直し、買い置きの食料を乱暴にかじりながら朝食にする。
「いつも食べてたものと同じなのに美味しいな…」
どこにでも打ってるパンにソーセージを挟んだだけだ。ケチャップも無ければ他に野菜が挟んであるわけでもない。手軽ではあるがもう少しこだわった方が良い気がして来た。それに今朝は1つでは足りない。
「まあ、数十日分買い込んであるしな」
『着火』で少し炙ると肉の焼ける香りが広がり、パンも香ばしくなる。
「何この食べ方。最高なんだけど。いくらでも食べられるぞ」
満足するまで食べると20個ほど食べてしまった。今までの自分がどれだけ体調管理や空腹に無頓着だったかが良く分かる。
もう少し食事も美味しいってことを感じたいなと思う。味覚強化なんて料理の成功率アップにしか関係しないから今まで上げたことは無かった。
味覚が上がればより美味しく感じることができるようになるのかも。それに自分でも料理をしてみるのも面白そうだ。余裕があるなら上げたいと思ってしまう。
今までに食事に満足すると、野営の片づけに入る。終わらせたら、ユーフラシアへを目指して走り出した。
行きよりも少しだけ早く街に戻ると、まず一番にデテゴが生きているかを確認に行った。
「イレブンか。まだ死んでねぇよ。………お前この2日間でなんか無茶してきてないか?」
「特に何も。無事なら良いよ。またね」
またデテゴにはレベルが上がったことを察知されてしまった。スキルなのかただの洞察力なのかは分からないが、油断できない。
無茶したのはその通りだ。下手にバレたくなかったので適当に誤魔化してさっさと部屋を出た。
ちなみにデテゴはこの二日間で友人たちの来訪を受けて、ものすごくむず痒い思いをしていた。少し顔見知りになっただけのイレブンまでが必死になってがんばってくれている。みんなが何でもないような顔で来てくれるが、何とかしようと色々と動いてくれていることに感謝していた。
「これは生き残ったら、返す恩の量がおそろしいことになってるな…。いや、生きのこらないといけねぇか…」
誰にも聞こえてはいないが、全員が同じ気持ちでいる。
☆ ★ ☆ ★ ☆
イレブンはデテゴの顔を見たあとにザールの滞在宿に行ったがいなかった。ザールも何か出来ることをと動いているようだ。状況を確認したかったが、いないものは仕方ない。無事に帰っていると伝言だけお願いして宿を出た。
ザールも彼に出来ることをやっている。ならば自分も自分の出来ることを行うことにする。ザールに教えてもらった雑貨店へと向かった。目的は『調合』に必要な調合セットを買いに行くことだ。
街の中でも西側の壁に近いところにあると聞いた店へと向かう。見つけたが、外見は特に何てことの無い店のようだ。外からは中が見えないようになっている。
「看板も無ければ外からでは店の様には見えない。聞いた通り知ってないと入らない店だな」
鍵がかかっているわけでは無いので中に入る。誰も見当たらなかったので店員を呼ぶところからだった。
「すいませ~ん。ザールさんの紹介で来たんですが、どなたかいらっしゃいますか~?」
しばらく待ったが、誰も出て来ない。ここで空振りなのは、困るなと考えていると店の奥からガタゴト音がして人が出てきた。
「二日酔いで頭が痛いんだよ。悪いけどまた今度にしてくれないか?」
店の奥から声がした。判断するに女性っぽい。
「すいません。ザールさんの紹介で来ました。調合セットをお願いしたいんですけど」
「あ?ザールの?ちょっと待ってろ」
そう声がしてしばらくすると全身を灰色のローブを着た人が出てきた。ローブを被っていて分からないし目元も前髪で見えないが、ローブの口から茶色の髪が長めに出てきている。
女性かどうかはこの際関係ないから用件だけを済ませてしまおう。
「申し訳ないんですが、調合セットだけ買わせてください。手数料を多めに取ってもらっても構わないので」
「…ん?調合セット?あんたザールの言ってた少年か。それならすぐに渡してやるよ。ちょっと待ってな」
二日酔いとは思えない動きをして、奥に引っ込んでいった。
「二日酔いってあんなに早く動けたかな…?」
3分も待たないうちに一式を木箱に入れて持ってきてくれた。ゲームの時はアイテム一式という括り方をしていたが、一つ一つが何かの目的を持って使う道具だからこういうことになるのは確かだ。アイテムボックスに入れてしまえば同じだが。
「一式3000ガルだよ。払えるかい」
「安くないですか?相場よりもずっと安い気がしますけど」
「いいんだよ。中古品だし、人の命救うために何かしようとしている男に花持たすくらいさせな」
「えぇ…?」
納得しても良いのかもしれないが、何か良心が咎めることをしている気になってしまう。どうしようかと考えていると、店主の女性は再度付け加えた。
「だったら何か作ったものを買い取るから良い物持ってきな。相場よりも安く仕入れさせてもらうからさ。あたしの眼にかなう物を持ってきたらそれで許してやるよ。ポーションの見本でも渡しておくからさ。このくらいのレベルの物を持ってきな」
「分かりました。それなら可能です。しばらく色々と作るつもりなので持ってきます」
「あぁ。期待しないで待ってるよ」
調合セットだけでなく、練習用のポーションを作るために薬草など諸々を可能なだけ買い取っていく。根こそぎ買ってしまうと商売の邪魔になるが、可能なだけ買わせてもらった。
必要物を揃えると、冒険者組合に向かう。生産に使える部屋を借りて今日はそこに籠るつもりだ。どこにいるかを明確にしておけばザールも来てくれるだろう。
無事に部屋を借りることが出来た。ただ部屋と言うよりも小屋で、街から出たところにあった。危険物を作られたら困るからだそうだ。強くなることを考えたら街の外に家でも作って籠る方が良いのかな、とぼんやり今後を考えて準備を進める。
自分のことよりもまず状況の確認をしよう。デテゴがまだ治療院にいるということは、まだ解毒はできていないということだ。若干だが、顔色が悪かった。急いだほうが良さそう。
ならばひとまずの目標は高解毒薬。ただ、いきなり試してもまだスキルに慣れてないからおそらく成功はしない。
まずは体力回復系のポーションを作るところから始めよう。初心者にとってはそこそこ難度高めだが、どれくらいの品質が出来るかでSPでドーピングした実力かが分かる、物は試しだと素材と器材を揃える。
「さあ、始めるとするか」
お読みいただきありがとうございました。