アーミーアントとディスガイズアント
戦闘の描写って本当に難しいです。飛ばしても許してください
戦闘開始からどれくらい戦っていただろうか。上空にうっすら見える太陽の感じではそれほど時間が経っていないように見える。『索敵』に反応がなくなった。途端に周囲に魔石とドロップアイテムの硬い殻と不思議な液体が一気に出現する。
「危なかった~。思ったよりも長期戦になった…。クイーンアントまで出てきてないから残党はいるはずだけど、今は巣穴の外に出ると危険だと判断してくれたたみたいだな」
とりあえず『索敵』で頻繁に残敵を確認しながら回収していく。回収し終わって確認するとアーミーアントの討伐数が412体だった。いやいや、聞いていた数の8倍の数ってなんだよ。まだ残ってるみたいだし。
途中から戦闘専門のソルジャーアントも出現してきた。出るのが遅かったとしか思わなかったけど。こちらは倒したのは34匹だった。生活魔法の『冷風』を使用して微々たるものながら攻撃力を増し、殴り倒した。近くで見ると顎の動きが怖かった。ワラワラと一気に出て来るし。
数については魔石を収納し終えて数字で確認したからおそらく間違いは無い。普通に1日に探し回って討伐する魔物の14倍近い数を短時間で達成してしまった。想定よりも明らかに多い成果に良い意味で疲れが吹っ飛んでしまった。
「ゲームの時よりも現実だとよりテンションが上がるな。達成感もすごいけど中毒になりそうな予感がビッシビシだ…」
蟻たちを殴るときの感触は初めての感覚だったが、そんなものは今更だ。レベルは3上がったので既に目標は達成だ。帰るかどうかを悩んでしまう。予定通りにSPをふって少し考えてみる。余計に上がった1レベル分の200Pのうち、180Pを使って『薬学』をレベル8まで上げた。
これであと10まで上げれば『調薬』スキルも万全な状態で作成に取り掛かれる。どうせならその方が成功率も上がる。デテゴをより確実に助けられるようにしておく方が良い。成功確率を上げておくに越したことは無い。
そこまで考えると方針を続行で決定する。
「さて、移動の前に安全のための小細工もやっておく方が良いか」
『整地』を変則的に何度も使用して最初よりも増えた入り口の穴を塞いでおく。出来る限り穴を塞ぐことで脱出しにくいようにさせてもらう。ここから逃げるための時間稼ぎだ。
『水魔法』か『地魔法』が使えれば巣を丸ごと潰すことも可能だが、生活魔法で実行するには巣の広さが大きそうだ。何でも出来るようになるにはまだまだ道のりが遠い。最低限のことでさえまだ揃わない。
片付けが済むころにはもう少しで夕方に差し掛かろうという時刻になっていた。『整地』では思っていたよりも時間がかかった。
「よくみたら、あともうアーミーアント2匹倒せばもう1つレベル上がるんだな。惜しいよな。野営準備する前に気持ちよくレベルを上げておこうかな」
こういうときに少しイレギュラーなことをすると痛い目を見るものである。決戦前に結婚したすることを戦友に話すとか、やったか?って言うと倒せてないとか。
先程の巣穴から元来た森の外へと戻っていた。同じように歩いては何も見つからないので進むときよりは少し道をずらしている。定期的に『索敵』を使いながら歩いているが、何も見つからない。
「アーミーアントじゃなくても良いんだけどな。なんでこの森は他の生き物が何もいないんだろ?」
そのとき反応があった。
「あ、またアーミーアントの巣っぽいな。なんかさっきよりも大きい感じがする…?巣を潰すのは今からだと時間かかるな。これはさすがに場所を覚えておいて明日一番で…ってぅわっ!」
『索敵』に反応が無かった方向から何かが飛びかかってきたのを感覚だけでなんとか躱す。慌てて体勢を立て直して確認すると、蟻がいた。いや、目の前に見えているのに何もいないように感じる。
「アーミーアントじゃない!アサシンアント!?こんなところで!?」
本来なら王国から次の舞台である魔国に行ってから出現する魔物だ。王国のど真ん中に近い森の中に、方向でいえば魔国から遠ざかるように移動したにも関わらずあり得るはずの無い魔物が出現している。
気が付けばワラワラと周囲を取り囲まれていた。イレブンが気づいたことで隠していた敵意をむき出しにしてきた。最初から標的をイレブンに絞って取り囲んできたようだ。心当たりはさっき巣を潰したことだろうか。意外にも仲間意識があったことに驚くが、今考えることではないので考察は切り上げる。
事実としては、先程乱獲してきた巣のクイーンアントが今取り囲んでいるアサシンアント達の巣から巣立った個体、謂わば親戚の子という間柄だった。
アサシンアント達の言語が分かれば『うちの姪っ子に手を出してくれやがって!ぶっ殺してやる!』と言っていたことが分かっただろう。
蟻に人間と同じ感性があるわけでは無いので、正確なニュアンスは違うかもしれないが因縁があるということは確かだ。お互いの事情など通じることは無い。
事情であれば、イレブンだって命を救うために行っていることで、これから多くのことを成すために必要だと割り切って命を奪う自分を覚悟している。ただ、戦闘が終わるまでは考えないようにしているだけ。魔物を殺すのにいちいち罪悪感を持っていては正常ではいられない。
イレブンにはまだ弱肉強食であることの認識は弱い。まだ死にたくはないという気持ちと助けたいという思いで動いている。
ではお互いの事情はさておき、本来ならレベル30を超えたくらいで戦うことになる魔物の超大軍を相手に、レベル20の準備不足が一人で立ち向かう場面に戻る。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「アサシンアント達の進化前はディスガイズアントだよな。それは今から巣から出動してくる手筈なのね。そうすると!」
(合流される前に包囲しているアサシンアントが6匹?気配が読みづらいけれど、たぶん6匹で合ってるよな。1匹減らしてあと5匹!)
考えている最中に1匹倒した。急所を突いて一撃死を狙うのではなく、確実にダメージを与えて倒すことにする。クリティカルが出れば御の字で、攻撃をかなり意識した状態で2回もしくは3回で確殺だ。
ただ、1匹に集中するとすぐに死角から襲って来ようとするから気が散って仕方ない。避けきれない攻撃もあるが、耐えられないほどではない。冷静を心掛けて囲んできていた6匹全てを倒しきる。
まだ遠方の蟻たちは戦闘範囲に入っているとは見なされなかったようで一旦戦闘終了判定のようだ。経験値が入ってレベルが21に上がる。魔石とドロップアイテムがも出たので拾えるものだけ踏んで接触、収納しておく。
一息つきたいが『索敵』の結果から考えるとここから始まるのは、大軍を活かした蹂躙劇のようだ。分かる範囲で既に30体ほどが近づいて来ている。少なくとも先程潰した巣よりも初動から3倍以上の軍勢だ。どう考えても多勢に無勢。レベル1のときのサイウサギがかわいく見える。
多数殲滅用の攻撃手段が必要と判断する。スキルを急いで確認する。今残っているSPはレベルが上がったものも含めて220P。物理的な攻撃手段だけではジリ貧になる。仕方ない。まだ対複数を想定していなかったのが原因だ。物理的な攻撃も込みで考えて1つのスキルに180Pを注ぎ込む。
習得したのは『風魔法』、吹き飛ばすのも良し、切り裂くのも良し。レベル8まで上げたことでMPの増減による出力の加減調整が出来るようにもなった。
「ついでに長期戦前にステータス確認っと」
>>>>>
ステータス
名前:イレブン 種族:変人 年齢:15
レベル:21
経験値:1424/6672
保有SP:40P
HP :331/360
MP :240/255
筋力 :111
頑丈 :81
素早さ:191
器用さ:81
魔力 :77
運 :21
攻撃力:116
魔攻力:77
守備力:108
魔防力:93
取得スキル一覧
○基礎
武術:格闘術(☆)
知識:運動学(☆)植物学(☆)薬学(8)
感覚:視覚強化(☆)聴覚強化(☆)嗅覚強化(☆)目利き(☆)虫の知らせ(☆)集中(☆)
技術:走行(☆)分析(☆)正確な動き(☆)作業が得意(☆)
戦闘:強打(☆)疾風(☆)精度(☆)受け流し(☆)体術(☆)練気(☆)呼吸(☆)
魔法:生活魔法(☆)魔力センス(☆)魔力放出(☆)風魔法(8)
○上位
索敵(☆)調合(☆)
○特殊
ステータス閲覧 アイテムボックス(MAX) ドロップ率上昇 生産成功率100% 装飾品装備増加 取得SPアップ
装備
主武器:丈夫な手甲
頭 :赤布のハチマキ
体防具:革の胸当て
上半身:綿のシャツ
腕 :革の腕甲
下半身:丈夫なズボン
足 :布の靴
装飾品:女神の腕輪
:ノーマルシンボル
:旅人のマント
<<<<<<
「確認終了!もうちょっと装備にお金かけても良かったかな。いや、想定外だ。仕方ない。地道に行くしかないね。じゃあ数を減らすための初手、景気よく先制攻撃!風魔法レベル8スキル『MP調節』で消費MPを倍にして、大『風球』!!」
背後からざわざわと近づいてくることを感じていたため、振り返りざまにディスガイズアントの大群に向けて景気よく放つ。着弾を確認したが、まだうまくいかなかったようで威力は思ったほどではなかった。
直撃した数匹は倒せていたが、着弾地点から円形に吹き飛ばされていた。すかさず吹き飛んで状況を把握される前に近くに飛んできたものには止めを刺しておく。数匹しか出来ずとも先程の魔法攻撃がイレブン対ディスガイズアントの群れとの開戦の狼煙であったことは間違いは無かった。
お読みいただきありがとうございました。