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目的と手段

書き上げたことに満足して予約日時を間違えていました

ザールに手配してもらったのはまずは調合セット。『調合』に絶対必要な器具だ。道具無しで出来るわけがない。より上質なセットを使えば成果物に上方補正がかかるし、生産成功確率が上がる。手に入らなければ仕方が無いので、今回手に入るのは一番品質の低い普通のもので構わない。

材料である毒液と奇妙な液体と不思議な液体はこのところの討伐で揃っている。不思議な液体が5個しかないけれど、レベル上げで目当てとしている魔物を倒せば量を確保できる。むしろ他の素材の方こそ在庫を増やしておきたいところだ。ザールも可能な限り集めておくと言ってくれた。


わざわざ商人仲間に聞いてもらったのはこの辺りでレベル上げで目当てにしたいある魔物がいるエリアだ。日帰りでは難しい森にいると聞いた。レベルはあと1つなら450ほど経験値を溜めればすぐに上がる。

でもそれだけでは一番作りやすい高解毒薬でも成功率が15%くらいしかない。『調合』が上級スキルとはいえ、2レベル分のSPを全て注げばスキルレベルをMAXに出来る。それで成功確率はなんとか50%だ。


本来は今のデテゴに必要な高解毒薬は『調薬』スキルの領域だが、取得するには少し寄り道をし過ぎた。ここまで緊急事態が起きるのは想定外だ。『調合』で数を作って解毒薬を作っていき、質の良いものが偶然出来るように狙っていくしかない。

特殊スキルの『生産成功率100%』は失敗しないというだけで、目当ての物が絶対に出来上がるという意味ではない。失敗しないだけありがたいと思っておく。


レベルを2つ上げるためなら必要な経験値は合計で2500くらいだ。今までの経験則でいえば4日間くらい必要になる。それだと時間がかかり過ぎなので、可能な限り日数を短縮する。

それに『調合』で作り出すにしたってゲームのようにボタン一つ押して出来るわけでは無い。スキルを身に付けてもすぐに使いこなせなかったことから知識や技術をSPでドーピングしただけで練習時間が必要だ。素材を磨り潰して煮だして、途中に魔力を込めるなどの作業を実際に行う必要がある。

どれくらい磨り潰すとか、水の量や温度も分からない。魔力もどれくらい込めるとかやってみないと分からない。


デテゴの体力と精神力があるうちに間に合わなくてはいけない。万が一ザールの手配が回らなかった場合、自分の動きが最後の砦となる。なんなら先に完成させても良いだろう。

行動が早ければ早いほど、デテゴは助けられる。自分が原因で死なれるなど絶対に嫌だ。友人は助けたい。その後のことは後で考える。とにかく、デテゴが言っていたように順番に1つずつ取り組んでいくことにする。


「準備完了だ。行こう」


組合で依頼を受けるわけでは無いのでどこにも寄らずに門から外へ行く。


ザールに聞いて教えてもらった経験値が稼げる魔物と見込んでいたのはアーミーアント、直訳すると軍隊アリ。お察しの通り戦闘が始まって一定時間経過すると際限なく仲間を呼んでくれる。調整すれば無限戦闘が可能だ。報酬は大量の経験値である。

ゲームでは1時間くらいはぶっ続けでやっていた。それくらい戦えば十分に経験値は溜まるから次の効率の良いところまで話を進めていた。


アーミーアントの大きさは体高が40センチ、全長は1メートルに届かないくらい。死骸が消えてくれて良かった。残っていると長時間戦っていられないだろうなと思う。システムがゲーム準拠で良かった。仕様について疑問に思っては負けだ。

とはいえ、仲間を呼ぶ条件である制限時間内でに討伐しきれないとどんどん呼び続けるので中途半端な状態で手をだすと出現と討伐のバランスが取れない。現実では命をかけてやることだと言われるくらいには危険らしい。

危機的状況になれば逃げる以外の選択肢がなくなるが、逃げると経験値はゼロだ。戦闘を終わらせないと経験値を得ることも出来ない仕様なので。


ゲームでは10周を繰り返す中で他の蟻魔物も含めて、レベル上げに無数に倒してきた。正確には分からないが、あまり見たくないと思うほどには倒した。ステータスとしても問題無いから一番雑魚のアーミーアントくらいはどうにでもなるはずだ。

現実での移動時間を確認すると片道だけで10時間はかかる場所にあるとのことだった。戻ってからの調合時間を考えて、レベルアップに使うのは長くて一日と決めた。

アーミーアントがゲームと同じなら攻撃を受けることはほぼない。ゲームよりも一斉に飛び掛かられると手が2本では対応できるかという点で不安があると言えばあるが、他に効率の良いものが思いつかない。


ユーフラシアを出発し、道中に目に付いた魔物数体を倒しながら目的地である森林地帯を目指した。6時間ほど経過した昼過ぎには目的地に到着した。見込まれていた予定時間よりも4時間は早い。『走行』のスキルが地味に役立った。

軽く昼食と休憩を取ると森に入って『索敵』を使用しながらアーミーアントを探す。街から日帰りだと1日に30体くらい倒せば良い方だ。アーミーアントの巣が見つかれば1つで最低50匹はいるらしい。それで十分に元が取れる。2つも見つければ目標は余裕で達成できると考えていた。


「お、何かそれっぽいのがあった」


独り言が増えたなと考えながら近づくと既に警戒を見せるアーミーアントが列を成している。目に見える範囲には10匹ほど。とりあえず試しに全滅をさせてみて、区切りを付けるだけの殲滅力が自分にあるかどうかを確かめることにする。

万が一ポーションで回復するにしても隙を作りだしてからにしたい。試しに飲んだけど、結構苦かったので心の余裕を作ってから飲みたい。


まず生活魔法の『整地』を使う。木まで取り除くことは出来ないが足元の不安定さをなくすことで、二本足である自分の不利を無くす。相手は地面に付けるのが最低2本、最初は4本はあるので何もしないままだとこちらが不利だ。

これは可能ならばやっておけとアドバイスされたことだ。土魔法は無いけど生活魔法でも代用出来て良かった。森の中でも安定性の高い靴を改めて探す時間が惜しかった。


油断しなければ傷を負うことはないはず。ただ、実際にアーミーアントの顎の鋭さを見るとそこだけは注意が必要だなとは思った。

周囲の木の枝がところどころ切り落とされており、巣をカモフラージュするように隠されている。それだけの知能と経験を積み、実際に枝を切り落とす鋭さの顎を持っていると言われると視界外から不意打ちを喰らうと、危険なことになりそうだ。

ゲームに抑え込みなんて技は無いけど、現実には大量に圧し掛かられて動けなくなることもあるのだから。


「おっし、やるか!」


走って勢いをつけると飛び上がる。右足は一番前のアーミーアントの頭を、左足で同じように胸を踏みつぶす。殻の部分を狙っても一撃で倒すことが可能であることは確認出来た。殴る、蹴る、手刀、など思いつく限りの攻撃手段で何が効果的か、どこが急所かを確認していく。

最初の10匹は2分もかからず終了。戦っている間にも距離があるときは『整地』を使ったが消費したMPは『呼吸』のおかげで半分は自然回復している。継続ダメージを受ける蟻酸を警戒して『清潔』を使用し、更なる足場のために再度『整地』を使っておく。


そこで違和感から危険を感じ取った。


「うわ~、現実では地表に出ているのを倒すだけじゃダメで、巣の地表付近にいるやつがいたら戦闘継続判定なのか。思ってたよりも終了判定が厳しいな…」


だからと言って一度始めてしまったら、投げ出すことなど出来ない。現実では一回の戦闘に出現する数に制限などないようだ。そうなると巣にはどれくらいの数が潜んでいるのか…。


「やっぱり地道な戦闘が一番だな」


右拳を左の掌にパンッと当てて、自らを鼓舞する。そうしていると見えていた入り口以外にも後ろにも出入り口の穴が出来た。アーミーアントは外敵を囲むために巣の入り口を新しく作り出した。整地をしていなかったらすぐには見えなかった位置だ。

もしかしなくても結構な綱渡りになっているのかもしれない。慎重に行けば良かったという自分と、デテゴのことを思えば最短距離を進むべきだという自分がいる。


「どっちを選ぶかなんて今更だ!」


元から開いていた穴の方から出てくるアーミーアントの方が多かったのでそちらから相手をしていく。勢いが弱まるともう一つの穴の方から波のように押し寄せてくる。一気に潰すのは無理だと判断してアイテムボックスで目当てのモノを取り出す。


「丸太召喚!(本当はアイテムボックスから取り出しただけ)でぇ、薙ぎ払う!!」


先頭で近づいていた蟻を押しつぶし、後続を怯ませる。距離があるうちに巣穴の入り口に丸太をまっすぐ突っ込んでこちらから出て来ないように塞ぐ。撤去するにも時間がかかると信じておく。

新しく出来た入り口は急ごしらえのはずだから一匹ずつしか出られないような狭さのはずだ。塞ぐなら元から存在していた整備された穴を塞ぐ方が良い。

多少の時間稼ぎができているうちに片付けておきたい。『索敵』にはまだまだ地下から這い上がろうとしてくる動きを感知している。穴のごく近くまでの分しか感じられないのは、地面の下まで掴み切れていないからか、虫はそもそも探知しにくいからか。

短時間で終わらそうなんて変に焦ることの無いように自分に言い聞かせる。再度殲滅を始めるように、近場のアーミーアントを蹴り上げて頭を破壊した。

お読みいただきありがとうございました。

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他にも書いた小説です。短編だけでも時間潰しに良ければどうぞ。
私の魔法の使い方
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婚約破棄は構いませんが…、本当に私がそんなことをしたとお思いですか?私の本気は少々刺激が強いかと思いますけれど
https://ncode.syosetu.com/n1262ht/
― 新着の感想 ―
[気になる点] 成功率100%の特殊スキルなのに失敗しない効果ってどゆこと? 失敗しない=成功する じゃないの? 失敗せず、成功せず生まれたアイテムって何?
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