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期限と優先順位

本日3話目です。

本来は死ぬはずのデテゴの命を助けようと決めたところで、声が聞こえた。


「しょうもない顔してるんじゃねぇよ。ふたりとも」

「デテゴ…、目が覚めましたか。安心しました」

「耳元で、どっかのバカがいらん説明をしてる声が聞こえたんでな…。うるさくて起きちまったよ」

「それはすいませんね。心配してくれている子どもに不誠実をしたくなかっただけですよ。恥ずかしく思っているのは君だけです」

「くそっ。イレブンもそんな顔してるんじゃねぇよ。自分のツケが回ってきただけだ」

「…ツケですか」


まずは目覚めたことに心底ホッとする。しかしまだ顔色が悪そうだ。自分がこれから何をすべきかを気持ちを落ち着けて考えよう。

デテゴは俺もにぶったよなぁ…、引退も当然だなとか呟いている。状況をちゃんと理解するためにも事情を聴きたい。デテゴに聞いても話してくれなさそうなのでザールの方を向くと苦笑いをしていた。


「イレブン君にも話してしまいましょうか。この子は納得しませんよ」

「ハァー……。仕方ない…」

「ありがとうございます。ぜひお願いします!」


自分を傷つけられるよりも、知り合いに手を出されることにここまで動揺するとは思わなかった。手がかりが聞けるならどんなことでもする覚悟だ。


「この街を裏から支配しようとしていた闇稼業の組織に一人でケンカを盛大に吹っ掛けて、壊滅にまで追い込んだことがあるんですよ。街に迷惑かけたとか言って一人で出て行こうとカッコつけたんですよ。それが私と一緒に旅に出ることになった理由です」

「…は?」

「あいつらが堅気に迷惑をかけ倒してたからな。だからといってやり過ぎちまったのかなぁ。こんなことになるなんてよ。あとイレブンが潰したのはそのときの孫組織な」


一人でそんな大きそうな組織って潰せるのだろうか。この前自分も似たようなことをしたか。でも規模が違うのではないか?

想像は出来るけれど、派手なことをしていたことに驚きの声も出て来ない。個室でないとこんな話は出来ないな。

というか、この二人って思っていたよりもすごく大物な気がする。約100年後まで続く大会社の創業者とその人物の親友だもんな。やることも常軌を逸していて普通なのかな。


「というか、その組織の生き残りとかですかね。なんでその仕業って分かるんですか?」

「デテゴの部屋にその組織の家紋が付いたナイフがあったからですね」

「あと、組織の一員になれば体のどこかに刺青を入れてるみたいだな。あとから聞いた話だけどな。ボコってるときには見た覚えはない」


聞いてみると地下闘技場で取り上げたナイフにも付いていた変な文様のことのようだ。見せてみたらそれだと言われた。確かにこの刺青は見た覚えは無いな。眼に自信があるはずなのに見逃すとは。

悔しがっているとザールの目が光っていた。アイテムボックスがあると分かって直接見るのは初めてだったからのようだ。視線だけでここまで恐怖を感じさせるとは…。


「イレブン君、僕と本気で商売人の頂点を考えませんか」

「ザール、お前何しに来た。やめとけ」


そう言われて、恐怖の視線から恨みがましいような目に変わるザール。デテゴはイレブンの方へと向き説明する。


「イレブンにも前に言っていただろう。希少なスキルを持っている奴を囲おうとするやつがいるって話だ。こいつは無理だと分かって言っているからお前が一言断るだけで引き下がるが、本来はこんなもんじゃないからな。気を付けとけ」

「分かりました」


俺がいきなりアイテムボックスを使ったことが原因だったか。今後気を付けるようにしよう。

ザールを見ると、もうすっかりいつもと変わらない笑みを浮かべていた。


「さて、話を戻しましょうか。僕もそろそろこの街に戻ってきても良いだろうと思ったんですよ。私の見込みが甘かったことも今回の原因です」

「おいおい待て、間違うな。俺のやらかしが、今回の一件の原因だからな。前のもお前が無理矢理ついてきたんだからな。何でもかんでも俺から奪って行こうとするな。俺はとりあえず安静にしてるよ。あれもこれもと手を出してもうまくいかねえときは何ともならねぇ。迷ったときは1つずつだ」

「目を覚ませば、君はいつも通りですね」

「それで、俺は今どんな状況だ?」

「毒の消耗は一旦抑えているようですが、完全な治療には治癒魔法としても薬としても手に負えないレベルだそうです。君の体力が人並外れているから持ち直したと言って良いでしょう」

「じゃあ、大人しくしておいた方が良いか」

「ここにいれば定期的に治癒してもらえます。薬が手配できるか、治療できる人が見つかるまでは」

「……期限は?」

「3日くらいでしょうか」


デテゴは落ち着いて静養していてくれるようだ。最悪の場合の覚悟もしているようだが。色々な話を混ぜてくれたおかげで頭も少し冷えた。

これからすべきことを整理すると、1つ目は何と言ってもデテゴの完治、2つ目には犯人の特定と捕獲、それと3つ目はあるか分からないけど追撃を防ぐことだ。

デテゴの言う通り、全部を一人で出来るなんて考えてはいけないな。完治を優先させないと話にならない。どうせ安全に行くとしてもどれも必要と思われる人手も経験も俺には足りない。社会常識に照らし合わせるなら、まず頼るべきは警察組織みたいなものか?


「犯人を捕まえるってことは出来ないんですか?」

「例えば私に手を出せば、商業組合を敵に回すことになります。デテゴも本来なら冒険者組合の正式な職員として雇われていればその対象になったのですが…。通常通りの憲兵の仕事でしょう。心当たりがあるならともかく、確約してもらえるのは完治するまでの保護くらいでしょう」

「内示もまだだからな。本格的に動いてもらおうと思えばできるが、一応仮の話で止まってたもんでな。まぁどうするかは俺次第だな。まだ俺のこの状態はそんなに広がってないだろうしな。あ~、やっぱりきついから横になる」


内容が物騒でも、二人のやり取りは見ていて安心する。『俺』が心を開いていれば友人たちも…、いや今はよそう。


「意識が戻ったんなら少しは安心して良いでしょうね。私も無二の友人にここまでされて黙っていられません。犯人は見つけ次第物資的に殺しましょう。商人の戦争を見せてやりますよ」

「あ、イレブン覚えとけ。キレたら俺よりザールの方がこえぇからな」

「ザールさん、物理的な力が必要なら言ってください。率先して参加させてもらいますから」

「お前も同類だったか…」


二人の眼が暗く輝いていることに恐れを抱いたデテゴは笑いながら横になる。まぶたを閉じて一瞬見せた表情は険しい。そのままで良いから眠る前に、とザールはデテゴがどこで毒を体内に入れられたのかを確認するためにと前日までの行動を粗方確認する。

話を終えるとイレブンとザールは流石に眠ろうとする入院患者の周りで騒ぐわけにもいかず、退室することにする。ザールはデテゴから聞き出した行動歴を憲兵に犯人に繋がるのではないかと伝えに行き、厳重な警備を依頼する。そのあとはザール流の報復の準備をするらしい。薬の手配は既に終えている。店の準備などやっていられない。

イレブンは憲兵に話しているところを聞きつつ、自分に出来ることを考えていた。


(犯人の特定と捕獲は目の前に現れないと俺にはどうにも出来ない。だったら役に立てるのは万が一の時のための完治の手段と捕獲の一員となることだ。それならやるべき手配は…)


帰り道を歩きながらザールに2つお願いをする。1つ目はすぐに手に入るそうだ。この街に扱っている店があるので、連絡だけしておいてもらい使用するときまで店に取り置きしてもらうことを頼んだ。支払いも引き取りに行くときに必ずすると約束した。


「そんなことまで出来るとはデテゴの言う通り規格外ですねぇ」

「少し予定外のこととかが起こってしまっているので、もう少し余裕を持って出来るはずだったんですけど」

「冒険者、ましてや未来のお得意さんには余計な詮索はしませんよ。あと聞かれた情報はすぐにまとめましょう。くれぐれも気を付けてくださいね。大変危険だと聞いてますから十分に気を付けてください。正直もう少し安全に配慮した方が良いと思いますが」

「大丈夫ですよ。無茶はしません」


商人仲間に話を聞きに行き、メモを受け取る。実際は知識との照合を行うだけだ。生息地が変わっていて探し回ることになると時間のロスになってしまう。デテゴも意識はしっかりしているが、HPの問題ではなくいつまでも毒が体の中にある状態ではいつか抵抗する力も気力も失ってしまう。行きつく先は一つだ。

絶対にそんなことはさせない。たとえ自分勝手なエゴだとしても。そこから派生して何か不都合が起こるなら全て自分が解決するという覚悟を決めた。自分が楽しむのは、せめて自分の周りの善人が穏やかに過ごすことが出来るようになってからで良い。

お読みいただきありがとうございました。

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