お願いというか懇願
─────暇だ
鬼塚都子、滞在5日目にして拉致監kゲフンゲフン、新しい生活に完全に慣れた。適応能力は高い方だと自負している
「しゃおみんさんっていつ頃帰ってきますか?」
「遅くとも明日の朝にはお帰りになるかと」
睡眠食事風呂トイレ以外ずーーーーーーっと都子の傍を離れないインテリ眼鏡の金 瀏蘭は片眉を上げて答える
都子を拉致った張本人、李 暁明がどこかに出かけてから早3日、その間の都子の待遇は金持ちのそれだった
起きればマッサージと美味しいご飯を貰い、終わったら最新ゲームから絶版になった本まで用意され、食事を取り、またゲームや本、食事、何人で入る予定なんだというくらいバカでかいジャグジーで風呂を済まし、全身マッサージして就寝
────1日目はよかった、もうこれ以上ないくらい幸せでグータラ生活バンザイとか思っていた。
2日目はちょっと物足りなくなっていた。待遇に不満があるという訳ではなく最高のものだったが、何か足りない
3日目にしてようやく気づいた。都子の内なる社畜根性が抜け切っていないから働いてないと落ち着いて居られないのだ
都子は生粋のオタクだが書籍は現物派、アニメより小説や漫画派、話をリピートする習性がついているため用意された本を大人しく読むのは別に苦ではない。
ただ、連日となると飽きてくるもので…まぁつまり何が言いたいのかというと
「暇…」
ゲームを下手くそなりにやってみるも、都子はゲームは観戦専門なのでこれもすぐにやめた
テレビもYouT●beもあまり見ないし…外はもちろん出られない。というか出たくない、お外怖い
仕事も退職手続きがされたというのならもうヤケクソにもなる。無事日本に帰ったら新しい就職先を探さねばならない。
帰れればの話だが
李暁明が都子を『お気に入り』として扱うのはいつまでなのか本人にしか分からない。解除されたら死刑待ったナシなんて、そこらの死刑囚より恐怖を味わっていると思う
まぁということなので第1目標は日本へ帰ることだけど、帰る前にお空からお迎えが来た時後悔がないように、やりたいことリストを作ろうと思う
─────5つしか出なかった時には生きる意味というかこのまま死んでも悔いないんじゃね?とか思ったがそんなことはいいんだ内容が大事だぞ都子
【やりたいことリスト】
ワンホールケーキ1人で食べる
推し活
もふもふな動物との触れ合い
今読んでる漫画終巻まで読破
美味しいものを食べる
しょ、しょっぺぇぇえ…我ながらしょっぺえぞ鬼塚都子
スマホのメモに記してみたが見れば見るほどしょぼい
宝石やブランド等特に欲のない都子は絞り出して絞り出してこれだ。5分の2が食というのはご愛嬌
リストをまとめたらあとは実行するしかない。思い立ったが吉日だ
この中で1番手っ取り早いのは美味しいもの。いつも美味しい食事を頂いているが、暇を持て余してる都子はいいことを思いついた
自分で美味しいものを作ろう。
瀏蘭に頼み、台所まで案内してくれた。これまたレストランでありそうな広い厨房、ここで作ってくれているのか、ありがたやありがたや…
さぁやるぞと食材をを探しに冷蔵庫を開けたらそこにあったのは既に完成されたオムライス
皿をとってみる。あ、あったけぇ〜〜〜
「リュウランさん…これなんですか」
「オムライスです」
見たらわかるわぁ〜
「いや、あの、なんで出来たてホヤホヤのオムライスが冷蔵庫に…?」
「作る過程までの余計な時間を取らせまいと急ぎ作らせました」
「キュー●ー3分クッキング…」
脳内で再生される「完成したものがこちらです」とか言ってるアシスタントのおねーちゃんの声
いやいやいや
「私が欲しているのはその時間です…食材を下さい」
「かしこまりました」
ものの10数分で用意された大量の材料。スパイスから珍味まで勢揃いだぁ
これなんて言うやつなんです?へ、へぇタロイモ…
彼にはゼロ100の機能でもついているのだろうか
社会人の都子は偉いのでそんなことは言わないが、悲しいかな、知的探究心には勝てないのでどこまで用意できるのか今度試してみようと思っている
都子が作ろうとしているのはズバリ、ただのおにぎりである
鬼塚都子、25歳、日々の糧はコンビニで済ますタイプだ。自炊なんて片手で足りる回数しかやっていない
そんな都子がいきなり手の込んだものを作れば結果は火を見るより明らか、ダークマターの完成だ
幸いにも米も炊飯器もあるし炊き方くらいは分かる
塩むすびもたまに食べると美味しいし、何より火は使わないので失敗しない
手際はそんなに良くないが、自己評価的には満点を与えてやりたい。スイッチを押して待つべし。
ティロリンテッテレテテッテーという軽快な音を聞いて早速蓋を開ける。うんうん、硬さもちょうどいいし私天才なのでは?
ボウルにご飯を移し、海苔、塩、サランラップを用意
サランラップの上にご飯適量、塩適量そして包んでにぎにぎ…
海苔を巻いて完成〜!よし、この感じだとあと二つくらいで充分かな………
ここで気がついてしまった。炊飯器のご飯の量が異常なほどある。量なんて考えいなかった
このまま捨てることも出来ず、泣く泣く全部の米をおにぎりにしてちまちま食べようと瀏蘭にタッパーを頼もうとした時
「何してるノ?ミヤコ」
「ひぎゃっ」
明日の朝帰ってくるはずの暁明が都の背後に立って緩く腰に手を回している
「お、おにぎりです」
「フゥン、なんでミヤコが作ってるノ?ご飯オイシクなかった?」
最後らへんで変な冷気を放っている。ここで都子がそうですなんて言ったらその足で厨房の人達を殺しに行きそうな気がする
「い、いえ!手が暇だったのでお料理でもして気分転換〜なんて……あっ食べます?我ながらいい出来ではないかと思ってます」
「え?」
信じられない、と言いたげな顔にハッとする
「すみません!人の作ったおにぎりなんて食べたくないですよね〜!」
差し出したおにぎりを慌てて戻そうとすると、上からガっと都子の手ごとおにぎりを掴んだ
思わずヒェッと言った都子を気にすることも無くそのおにぎりを躊躇わずにかぶりついた
そして一時停止
『味ない…』
「なんて?」
母国語で話されて思わず聞いてしまった
「鬼塚様、塩を忘れたようですね」
「え!?うっそすみません!セルフ塩してください!」
と塩が入った箱ごと渡した都子に暁明は大笑いした
『ミヤコはなんて面白いんだ!ますます気に入ったよ!』
「え?え?」
「李暁明様は鬼塚様の行動にたいそうお気に召しました」
「おにぎり作って塩渡しただけで?」
「李暁明様は今まで『お気に入り』に与えたことはあっても与えられたことはありません。余程新鮮に感じられたのでしょう」
「金瀏蘭とオハナシしないで僕とオハナシしてよミヤコ」
右手でシッシと払う仕草をする暁明に察した瀏蘭はすぐにその場から姿を消した
それから1部塩が入ってないロシアンルーレットおにぎりを次々食べていく暁明はこれ以上ないほどご機嫌で、都子がさすがに食べ過ぎと止めるまで食べ続けていた
「あっミヤコにお土産かってきたヨ!」
現地の美味しいものかなとか思っていたが、ニッコニコで渡してきたのはバカでかいダイヤが中心を陣取ってるネックレス
飲みかけていたお茶がネックレスにジェット噴射するところだったアブネェ
「しゃ、しゃおみんさん、一応聞きますけどそちらは…?」
「ダイヤのネックレス!ミヤコに似合うと思っテ!」
思って!じゃない。こんなのつけてたら自分自身が付属品になる。展示物用の首周りだけのマネキンにも劣ってる自信しかない
というか宝石に興味無い……これ断ったらどうなるんだろ…
「あ、あとコノマエ買った包子も」
「あの美味しいの買ってきてくれたんですか!?」
食い気味に聞いた都子に暁明はやっぱり、というような優しい笑みを浮かべる
「ウン、ミヤコすごい美味しそうに食べてたカラ、沢山買ってきたヨ」
「わぁ!くれるんですか!?ありがとうございます、すごい嬉しい!」
反応の違いで『ダイヤはいらない』と言ってるようなものだが都子はそんなこと気づいてない
「じゃあこのネックレスは要らないネ!捨てちゃおう」
世界の全都子に衝撃が走った瞬間だった。要らないから捨てる?その明らかに高いネックレスを??おいおいやめてくれよ
「ままま待ってくださいしゃおみんさん、死ぬのはまだ早いです」
「?、死なないヨ?」
「いやそんな絶対高いネックレス捨てる時点で世界の女性達から命狙われますって!落ち着きましょう、とりあえずそれは返品するか金庫にぶち込んで下さい」
「そんな高くなかった」
「嘘言っちゃダメですよ私のお給料一生分合わせても足りないはずです。お値段は聞きませんのでお願いします返品か金庫にぃぃ」
都子の決死の願いを聞き入れてくれたのか渋々金庫に入れることにしてくれた
「可愛い僕のミヤコのお願いだからトクベツ」
眦に短くキスをしてニコニコしている暁明に、『特別』の意味をよく分かっていない都子は赤面して戸惑うばかりであった