決して物につられている訳では無い
銃刀法
セクハラ発言、暴言
胸くそ
差別発言
ありますご注意ください(まとめてざまぁアリ)
『』が通信機器での会話と日本語変換された会話の2つに使われています。
瀏蘭からおっかない話を聞いてから恐怖心がアイルビーバックしてきた都子は、暁明が帰ってきてからも頭から毛布を被ってなるべく存在を消していた
私は布団私は布団私は布団…
「ミヤコ?ミーヤーコ、出ておいデ?」
名前を呼ばれた瞬間、肩が震えたがここで逆らったら『こいつ俺に逆らったなムカつく』でパァンされそうだ。おずおずと毛布から顔を出すと、目の前に大きな肉まんが
「包子好き?ミヤコに買ってきたんだ」
ホカホカで湯気が立っているそれはとても美味しそうで、中の餡の香りが漂ってくる
キャビアではしゃいでいた時からかなり時間が経っていて今はもう昼食時だ。肉まんの香りが都子の胃袋を刺激し、思わず差し出された肉まんにかぶりついた
手で受け取って食べると思っていた暁明にとっては予想外だったようで、驚いた顔をしていたがすぐに愛おしいものを見るような眼差しで都子を見ていた
「オイシ?」
「おいひいでふ」
ふかふかの皮と噛み締める度溢れる肉汁がマッチしていて、とても美味しい、絶対高いところで買ったやつだ。1個700円とかするところのだ
ゆっくり味わって食べていると視線をやけに感じ、目線をあげる
バチッと音がするように目が合い、都子は思い出した。『お気に入り』から外れたら簡単に殺せる人間が目の前にいることを。
暁明は至って機嫌よく都子を見ていたが、都子にとっては蛇に睨まれた蛙。ただお腹は空いている、その上与えられた肉まんは極上品。目線を合わせながら恐る恐る肉まんにかぶりつく
うん、やはり美味しい
一瞬だけ緩んだ表情に、暁明は目の前のお気に入りを拾って良かったと思っていた。昔のお気に入り達とは違い、泣き叫んで暴れず、変に媚びたりせず、かといって過ぎたわがままも言わない
ただ美味いものには目がなくキャビアなどの高級品は少し苦手、素朴な料理が好きでキラキラした目で食を楽しんでいる。そして食事の時に向けられた裏のない純粋な笑み
今までにあったことの無いタイプに素直に可愛いと感じ、もっとドロドロに甘やかしたいと思ってしまう
それは犬や猫などの愛玩動物に近いような、全く違うような。
そんな感じなので暫くはそばに置いておくことにした暁明、またあの屈託のない笑顔を向けられたくて懐柔に勤しむのだった
「あ、あの、そういえば私の鞄は、?」
色々ありすぎて頭からスッパ抜けていたが、カバンを持っていたはずだ。もしかして捨てられた!?
「あるヨ、はいどーぞ」
そう言って見慣れた黒いハンドバッグが手渡された。礼を言って中身を見るとスマホにハンカチ、財布と安い化粧ポーチが入っていていつもの中身で安堵した
いや、こんな個人情報詰まっている鞄だから何かGPSなど入れられたりしているかもしれない。きっと私の名前もここから分かったんだ
中々鋭い考察をしている都子のスマホに突然ヴー、ヴー、とバイブ音が鳴った
画面に映し出された名前を見て都子は途端に青ざめる
〈島多部長〉
パワハラセクハラ、ハラスメントがつくもの全コンプリートしたような太った男。それが都子の上司だ
瀏蘭が退職の手続きをしたというのならどうして電話が来ているのだろう、そう思っている間もずっとバイブ音は鳴り止まない
数年で培われてきた社畜精神で思わず通話ボタンを押した。それがいけなかった
『おいやっと出やがったなこの役立たず!!お前が勝手に抜けたせいで仕事が増えたじゃねぇか!』
「す、すみません、すみません」
半泣きになりながら謝罪をする都子をじっと見つめる暁明。それは笑っているわけでも眉を潜めている訳でもない、ただ無表情に都子の持っているスマホを見ている。
『ちっ、辞めたならちょうどいい。お前今から会社来いよ』
「は、え?」
『察することも出来ないとか本当にとろいな!!お前にかかる無駄金も無くなったんだ、残業代とか考えずにこき使えるってことじゃねぇか。だから早く来い!!さもないとまた髪でも引っ張ってやろうか、いやお前みたいなやつは教育が必要だから女としての武器を俺が使ってやろうじゃ』
ピッ
島多が話している途中で暁明はスマホを抜き取り、通話を切った。そのまま瀏蘭を呼んで何かを指示する
その顔は無表情だけど、確かに怒っているのは都子でも分かった
「ミヤコ、大丈夫、ココにあいつはいないヨ」
優しく、割れ物に扱うような優しい手つきで頭を撫でるこの人は、お気に入りを勝手に拾ってきて飽きたら簡単に殺しちゃうようなすごく怖い人で
でもこの時だけは、この一瞬だけはそんなこと無いのかもしれないと思ってしまった
鬼塚都子、25歳、彼氏いない歴=年齢。だから異性に対しての触れ合いがどこまで許されるか分からない。泣き顔は見せていいのか分からない
縋るものが欲しくて、それがたまたま目の前の男性で。泣き止むまで誰かにそばにいて欲しくて、その相手がたまたま今自ら抱きついた男性で
大きな手は子供のように泣きじゃくる都子の頭を疲れて眠るまでずっと優しく撫でていた
都子は目元が腫れても気にすることなく、やがて暁明の腕の中ですやすやと寝始めた
暁明はそれをまるで唯一を見るような甘い眼差しで目尻に唇を落とす。
『金瀏蘭』
『はい』
音もなく入室した瀏蘭は出来た部下だ。痒いところに手が届くようにこちらが望むものを既に手札として用意している
『都子の会社と上司』
『○○株式会社の子会社で環境は鬼塚様にとっては最悪とも言えましょう。上司の島多剛を筆頭に同僚複数名から仕事の5割を押し付けられ、毎日深夜で帰っているようです。島多剛は58歳独身、常日頃から鬼塚様の髪を引っ張ったり暴言を吐いたりしているようで。大方ストレス発散でしょう』
『ふぅん』
話を聞きながら都子を起こさないようにそっとベッドへ寝かせる
暁明はこれ以上ないほど不機嫌だ。なぜかは自分でもよく分からないが、『お気に入り』にちょっかい出されるのは腹が立つ
『日本への手配を。数日空ける。しばらくお前が都子を見ていろ、周偉を連れていく』
『かしこまりました』
バサりと上着を着て部屋から出ていくのを見届けて、日本への飛行機と車を手配する。周偉に電話をかけてボスの同行を指示しながら瀏蘭は思った
(ようやっと見つけてくださったか)
それが何を示し、意味するかは瀏蘭しか知らない
その日、都子の働いていた子会社は破滅の一途を辿っていた
「ごキゲンよう会社のミナサン」
絶世の美男というような顔立ちでカタコトの日本語を話す男性は極上の笑みを零しながら会議室に集めた社員に挨拶をする
「ボクは李暁明、覚えてくれなくてイイよ。ボク、キミたちに興味ないから」
部外者が一体ここになんの用だと、ほとんどの社員は思っていたが、すぐそばにいる親会社の社長が顔を青くしながら終始床を見ている様子にただ事ではないと察せる
「急だけどコノ会社はボクが貰いました」
は?とざわめく一同
「それに伴って何人かはリストラにあって貰いマス」
そして指名されたのは、都子に仕事を押し付けていた社員数名と、島多
「ちょ、ちょっと待てよ!!なんで外国人の、しかも中国人にそんなことを決められにゃいけないんだよ!」
不満を零した島多にリストラ対象になった社員たちも口々に文句を言う
数分その様子を見てまたニッコリ嗤った暁明は上質なスーツの内ポケットに手を入れてあるものを取り出す
「コレなんだと思う?」
取り出したのは黒い短銃。ただ、社員たちは平和そのものの生活で育っているのでそれが本物か偽物かは分からない
「どうせはったりだろ!本物なら撃ってみろよ!」
島多の偽物だ、という思考は早くも崩れる
パァン!!
床が焦げる臭いと火薬の匂い。黒く小さい穴とカラン、と中身を失った筒状の小さな金属物が床に落ちる
誰もが本物だとわかった瞬間、悲鳴を上げてこの部屋から出ていこうとする
しかし扉は開かない。廊下側で周偉が扉を固定しているからであるが、混乱している社員には分からない
「ハハハ、このくらいで逃げるナンテ笑っちゃうネ」
そう言いながら必死に扉をガチャガチャ開けようとする集団に歩を進める
失神する者、恐怖で座り込む者、様々いるが暁明が目指すのは
「ひ、ヒィ!」
島多は尻もちを着いて後ずさる。目線は右手に握っている小さな凶器
「お前だけはユルサナイ。ボクのミヤコを怖がらせたんだ、今後太陽が見ることは無いだろうネ」
「み、みやこっ?」
パァン!
「ヒィ!」
「お前がミヤコの名前を呼ぶな」
ドスの効いた声で、島多の足の間に先程の焦げた穴が出来た
島多は、頭の中でミヤコという名前の知り合いを必死に探していた
思い出している中、社員の中から「まさか鬼塚、?」という言葉が聞こえて気が付いた
─────あの女が、あの女のせいで
「あの女が悪い!!仕事は勝手に辞める、女のくせに仕事を押し付けられても泣きもしない、見ているだけでムカつくあんな女は死ねばいいんだ!俺は悪くない!!どうせあの女の差し金だろ!?俺が倍の金を払う!だからそれであのクソ女を」
バキィッ
「あがっ」
固い靴の爪先で島多の顎を下から蹴りあげた。いきなりのことで軽い脳震盪になった島多は仰向けに倒れながら何が起こったのか理解が出来なかった
「関心するくらいどうしようもないクズだねお前」
こんな奴のせいで都子が泣く思いするのはとても不愉快だ
不意に後ろで青白くなって気が遠くなりかけていた親会社の社長に暁明は振り返って問う
「社長サン、この男この会社にイタっけ?」
「ぇ、」
「この会社にシマダっていう部長はいた?」
「い、居ません」
「ダヨネェ」
ニッコリと笑って正面を向いた時、それは無表情で感情が全く読めなかった
「1名様、ごアンナーイ」
その言葉と共に先程全く開かなかった扉からぞろぞろと黒スーツを着た男達が現れ、尚も喚く島多を連れて会議室から出て行った
どこへ連れていかれるかは分からないが、きっと死んだ方がマシというような生き地獄を送る羽目になるのだろう
次は我が身か、と都子に仕事を押し付けて甘い蜜を吸っていた社員は生きた心地がしなかった
「そんなに緊張しなくてもダイジョウブ、他はおうちに帰れるヨ」
その言葉を聞いて一斉に安堵した。次の言葉を聞くまでは
「100万元で許してあげる」
「げ、元?」
「あれ、日本じゃいくらだったっけ周偉」
「に、センマン、デス」
覚えたての日本語で日本円を言う背の高い男が人差し指と親指を伸ばして数を示す。そのとんでもない額に彼らは唖然とした
「まっ、待ってください、俺は島多部長に命令されて仕方なく、!」
「わたしもそうです!」
全員口を揃えて島多に責任を擦り付けようとしている様子はとても滑稽で、暁明は愉快に笑う
「デモ、やったんでショ?」
そう言われれば口を噤むしかない。膝から崩れ落ちて絶望の顔で各々泣き叫んだり謝罪したり白くなっていたりしていた
「ああ、他はいつも通り働いてイイよ。だいぶ人が居なくなるけど頑張ってネ?」
そう言って満足気に暁明は退室する
真っ先に思うのは都子の美味しそうにものを食べる様子で、早く帰りたいと無意識に思ってしまった
『飛行機の準備を。今日中に帰る』
『かしこまりました』
帰ったら都子にたくさん美味しいものを食べさせよう
そうだ、お土産に宝石の一つや二つ買っていったらどう反応するかな、と帰ったあとの都子のリアクションを想像して上機嫌になりつつある暁明だった
後にリストラにあった社員が不当解雇と2000万の不当請求を訴えたが、暁明は何も準備していない訳ではなく
長年の横領、都子に対する精神的苦痛によって請求したものであって正当な解雇と請求と認められ、名誉毀損によって訴え返されて結局金額を上乗せした状態で支払い命令が出されたのはまた別の日の話