八幡平へ
八幡平を目指して、いよいよ登山が始まる。
ホテル前のゲレンデの近くの登山道を
課長たちが作ってくれた足跡を
しっかりとたどりながら登っていく。
ゲレンデは次第に遠ざかり、
やがて見えなくなった。
次第に雪も深くなった。
先頭が立ち止まり、
「スキーに履き替えるぞー」と、声が聞こえた。
シーリングを付けたスキーに履き替えたが
ここからが大変だった。
山登りになれている人たちはスキーを逆八の字、
ボーゲンの反対のような形にしてどんどん登っていくのだが、
これが私には難しい。
体重のかけ方が悪いのか、エッジの立て方がいけないのか
片足を上げたとたんに滑って転んでしまうのだ。
その都度、しんがりを務める藤沢さんが、助けてくれる。
もちろん、二人ともスキーを履いているのだから、
抱き起すなどということはできないけれど、
「これにつかまりなさい」とストックを差し出してくれたり、
滑るのが止まるようにスキー板の向きを変えてくれたり・・・
先を行く4人は転ぶこともなく進んでいくのに
転んでばかりいる私と藤沢さんは、次第に引き離されていく。
私が焦って立ち上がろうともがいているのが分かったのか、
「ゆっくりで大丈夫ですよ。
もう少し先の所でみんな待っていてくれますから。」
と言ってくれた。
それからも、私は何度も転んだ。
登っている時間より転んでいる時間の方が長いのではないか
と思われるほどだった。
次に転んだ時、
起きようとして頑張ったのだが力が出ない。
へなへなとその場へ崩れこんでしまった。
藤沢さんから
「どうしました?」と声がかかる。
「立ち上がろうとしても立ち上がれないんです。
力が入らないんです。」
すると、藤沢さんは
ポケットから非常食の板チョコを取り出すと
無造作に包み紙と銀紙をむしり取って、
私に手渡した。
私は思わず板チョコに噛りついた。
すると、おかしなことが起こった。
また、私の中に起き上がろうという
意欲が湧いてきたのだ。
藤沢さんが差し出してくれているストックに
体中の力をゆだねて私は立ち上がった。
「もう少しで八幡平頂上ですから、頑張りましょう。」
その声に力をもらって、私は登り続けた。