春スキーの打ち合わせ
数日後、課長から連絡があった。
春スキーの打ち合わせをするので、
できれば君にも出席してもらいたいという。
打ち合わせの席で、課長の同級生だという
友人・安西さんと藤沢さんに紹介された。
安西さんには1か月後に結婚式を控えたフィアンセがいる。
3人とも身長が高かった。
まあ、よくも超身長の3人が集まったものだと思った。
一人だって、目立つのにそれが3人集まれば、
どこへ行っても目に付くだろう。
藤沢さんが春スキー行きの予定表のドラフトを作って
持ってきてくれていた。
1日目: 上野駅に集合
23:05発「寝台特急ゆうづる」に乗車
2日目: 東八幡平(花輪線)下車。 バスで八幡平ホテルへ
ホテル前のゲレンデで足慣らし程度をして、翌日に備える。
八幡平ホテル泊。
3日目: 東八幡平 → 八幡平 → ふけの湯
ふけの湯温泉泊。
4日目: ふけの湯温泉 → 大更(花輪線) → 盛岡
「寝台特急ゆうづる」に乗車
5日目: 上野駅にて解散
ゴールデンウィークには
アスピーテラインの除雪も完了して、バス便もあるのだが、
もちろん私たちは東八幡平から山を登り、
八幡平からはスキーで「ふけの湯」へ滑りおりる。
予定表のおかげで、計画はトントンと決まり、
何かあったらその都度電話で連絡をするということで解散した。
池袋迄帰路が一緒だった課長と共に銀座線に乗った。
ラッシュアワーが過ぎていたせいか、
2人並んで座ることができた。
しばらく、世間話が続いた後で課長が聞いてきた。
「そういえば、山中さんて、
どうして、誉め言葉や、好きとか、愛してるとか
言われるのが嫌いなの?」
「いやだ。課長さん、
さっきのビールがきいてきたんですか?
そんなこと聞くなんて。」
「いや、前から一度聞いてみたかったんだよ。
課の誰も理由は知らないっていうし・・・。
もちろん、無理にじゃなくて良いんだよ。
強制じゃないからね。」
「強制だなんて思いませんけど・・・。
だって、
若い頃には、まあ、番茶も出ばなとでもいうのでしょうかね。
その年頃には、そんなこと言われることが
たまにはあったんですよ。
私にだって。
でも、それが、本当なのかどうか分からない。
何のために言っているのかも分からない。
まあ、自分の気持が分からないのですから、
他人様の気持が分かるわけはないのですけれど。
読心術でも学ばないといけないのかもしれないと思いましたよ。
その頃は。
それからなんですね。
誉め言葉とか愛の言葉とかを聞くたびに、
何の意味があってこの人はその言葉を発しているのだろう?
と思うようになったのは。
でも、結局は分からないので、
とにかく、そんな言葉を軽々しく口にする人からは
遠ざかっておこうと思ったんです。
安全パイですよ。安全パイ。」
「なるほどね。
確かに、そうかもしれないね。
言葉と言うのは。
諸刃の刃というのか・・・、
ううん、難しいね。」
そして、考え込むように黙り込んでしまった。