レポート作成の助っ人を頼まれる
さらに時代は遡る。
私には苦い失恋の過去があった。
甘酸っぱさなど1ミリも入っていない苦いだけの過去。
苦い失恋の過去
あれは、大学3年もそろそろ終わりの頃だった。
親友の郁美が私を見つけると、
飛んでくるような勢いでやってきて言ったのだ。
「遥! 遥は須藤花子の歴史取ったよね。」
「ええ、2年の時、取ったわよ。」
「ねえ、ねえ、演劇部の部長が須藤花子の歴史、
落としちゃったんだって。
歴史って必須科目じゃない。
それなのに、落としっちゃったら、
今年卒業できなくなってしまうって、
パニックになってるのよ。」
「それは大変ね。」
「ねえ、助けてくれない?」
「助けてって・・・ どうすれば良いの」
「なんでも、救済措置で、
レポート提出になったのだって。
そのレポートが須藤花子のお眼鏡にかなえば
及第にしてくれるって。
だから、レポート書くの手伝ってほしんだけど。
もう、就職も決まってるから、
絶対に落とせないっていうから。」
「郁美は須藤花子とらなかったんだ。」
「あったり前ですよ。
須藤花子の歴史なんかとったら、百年目。
まず、3分の2は落とさされるって
相場が決まってるもの。
そんな危険なもの、誰が取るもんですか。」
「え? そんな話があったの?」
「みんな、知ってますよ。
知らないのは遥とか、ごく、少数」
「じゃ、その部長さん、どうして知らなかったの?」
「あ、彼はね。勉学にいそしむタイプじゃないから
勉強に関しては、ほとんどやる気なくて、
出席時間だって、どれもぎりぎり
須藤花子は女性だから、
きっと採点も大アマだろうと、
思ったらしいんだ。」
「ところが、実際はそうではなかったというわけ?」
「そういうこと。
就職は親のコネで、
もうずいぶん前から決まっているから、
卒業証書だけもらえばいいんだけど・・・って、言ってた。
だから、遥、何とかレポート作成、手伝ってあげて。」
郁代にそこまで言われれば、
「私にできるかどうか分からないけど・・・ 良いよ。」
と言うしかなかった
レポートの提出期限は三日後。
間に合うのかな?
私にできるのかな?
心配になってきた。
郁代は早速演劇部の部長に連絡を取って、
私に引き合わせた。
カフェテリアへ現れた部長は
郁代に紹介されると
「よろしくお願いします。
あなただけが頼りです。」
と言って、何度も何度も頭を下げた。
私はラブアフェアーズが得意ではない
と言うよりラブアフェアーズの才能が
欠落しているらしい。
ラブストーリーの映画を見ても
感動はするのだけれど、
そのヒロインに自分の未来像を
重ねることはできなかった。
夢ものがたり。
そう思われた。
現実には起こりえない、
だからこそ、感動するのだろうとも。
何がハンサムなのか
どこが男前なのか
ダンディとは?
イケメンとは?
何が何だかよく分からない
そんな私が言うのも何だが
多分、彼は女性にもてるのだろうな
そんな印象を受けた。
レポートの提出日は三日後に迫っている。
一刻も無駄にはできない。
「それでは、どこで、やりましょうか?」
そう聞いた。
すると、
彼は、
「困ったなぁ
僕、6時までアルバイトだから、
その後じゃないと時間ないし、
図書館も閉っちゃうし・・・、
ぼくんち、鎌倉だから、
まさか、君に来てもらうわけにはいかないし・・・
君んちへ行っても良いかなぁ?
そうしてもらえると助かるんだけどなぁ。」
思ってもいなかった話に私は言葉を失った。
無言の私に、
「ねぇ、頼む。一生のお願いだよ。
僕にできることだったら何でもするから、お願い!」
そこまで言われると
No.とは言えなかった。
それから一人暮らしの私のアパートの一室で、
レポート作成が始まった。
今まで、男子禁制の張り紙を
張っていたわけではないのに、
父親以外入ったことのない
我が家と言うより我が部屋へ
男性が入ることになった。