05 決意とその影
全身全霊といったオスカルは伊達じゃない。彼の防壁の数は先ほどの比ではなく、次々と生み出されていく。攻撃の手も激しくなっており、防壁を生み出すと同時に礫を飛ばし、地面から鋭い岩を隆起させる。加えて、様々な位置に石柱を配置して目隠しや攻撃の起点にする。地形も操作して思うように動けないようにしたりと、さすがな魔法の腕前、戦術で追い詰めようとする。
しかし、ウィルはそれら全てを力で粉砕する。
次々と生み出される壁は障子を破るように突き破り、礫や隆起する岩はすべて体表の鱗に阻まれ砕かれる。石柱が邪魔しようと砕きながら進み、地形が変化しようとかまわず踏み込み、土を舞い上げながら突き進む。
その姿は、破壊の化身そのものだった。
あまりな戦いの様子に、もう一人の兵士は参加することすらためらう。
「すごいな。化け物だなんて言ったがまるで足りない!スサーナ、あそこで伸びているのを回収して君は下がっていてくれ。巻き込んでしまう。」
「ですが、オスカル様。危険で…」
「聞こえなかったのか。足手まといと言ったのだが。」
「……わかりました。ご武運を。」
もう一人の兵士は悔しそうな顔をして、最初に倒された兵士を回収に向かう。
「逃がさない。お前らは全員殺す。」
「行かせないさ。君の相手は私だ。」
オスカルが魔法を放つと、無数の黒壁がせり出していく。簡単に崩せるといえ、この数を超えて追うのは無理だろう。
クソっ、上手くいかない。力を開放したのに、まだ届かないのか。もっと、もっと体を変えて力を引き出さないと……。
…ズキッ、ズキズキズキッ
力を込めて、体をどんどん変えていこうとすると、突如頭痛が襲う。
(なんだこれ、邪魔をするな……)
『それ以上はダメだ。戻れなくなる。』
(…ちくしょ…う……ユア…)
あまりの痛みに耐えきれず、ウィルは気を失い、地面に倒れこむ。
「恐ろしい気配が強くなったと思ったが。まあいい、気を失っているうちに殺さねば。……っ!」
オスカルが魔法で生み出した剣を持ち、ウィルに突き刺そうとしたその時、こちらへ急速に近づく気配に気づく。
「気づかれたか。この子供を放置するのは危険だが、やむをえまい。」
(この少年の異常な力。人族でいったい何が。それにあの少女は何か気になる。幸いこの道具の定員には空きがあるな。)
オスカルは腰に装備していた魔道具をかざすと、空気に溶け込むように消えた。
――
「………はっ!」
ウィルは飛び起き、周りを確認する。いつも自分が眠っていた部屋だ。隣には心配そうな顔でこちらをのぞき込む父さんの顔があった。
「大丈夫か?森で倒れているのを連れて帰ってきたが。何があった?」
ウィルは今日起きたこと、ユアが殺されたこと、包み隠さず全てを父親に話した。ごめんなさいと謝りながら。
それを聞くと、いつも通り微笑みながら、
「……そうか、大変だったね。ウィルだけでも無事に帰ってきてくれてよかった。」
「でも、ユアが…。ユアの体は…?」
「おそらくあの岩の下だと思ったんだけど、たくさんの血の跡があるだけで、何も残っていなかったんだ。」
そんな…。まさかあいつら、ユアを連れて行ったのか、いったい何のために。……許せない。
「父さん、あいつら、許せないよ。」
あいつは言っていた。魔族の命を背負っていると。ならば、僕は復讐する。僕の幸せを奪った魔族に。もっと、もっと強くなって、必ず魔族を滅ぼしてやる。
「…そうだね。」
ウィルは悔しさと復讐心から強くなることを決意する。
そしてまだ幼いウィルは、いつも通りに微笑んでいる父親の不気味さに気づけなかった。
――
事件から数年後、父親セインとともに帝都で暮らし、ウィルは冒険者として活動していた。