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04 枷

「総員、少年の攻撃を警戒。一撃で昏倒される恐れがある。遠距離はなさそうなため、距離を保つように。少女の魔法は私が無力化する。」


 実力の差を見せつけた後でも、兵士長オスカルは油断せず、淡々と弱点を分析し仲間と共有する。


(クソっ、少しは油断しろよ。やばいやばい。腕のやつを使うか……いや父さんに止められてるし。でもこのままじゃ…。)


「お兄ちゃん!だいじょうぶ。私ももっと魔法頑張るから。」


「…そうだな。わかった。ふう…『限界身体強化(フルブースト)』!」


 ユアの決意に呼応して、ウィルは体の限界まで魔力を込める。その身体能力は先ほどの比ではなく、目視で追うのがやっとなほどである。


「恐ろしく速い。だが…」


「私が代わりに。『炎の壁(ファイアウォール)』プラス『氷の壁(アイスウォール)』」


 突如、兵士たちに続く道上に壁がいくつも出現する。壁に突っ込むわけにはいかず、立ち往生してしまう。


「…このように進路を封じてしまえば速さは怖くない。そして、止まったところを攻撃する。」


 兵士長オスカルがウィルに向けて岩礫を飛ばしてくる。それを避けながら敵へ突撃しようとするが、それを別の兵士が壁を張り食い止める。


「全然近づけない……、近づかないと攻撃出来ないのに…!」


「お兄ちゃん、私がなんとかしてみる。『水弾の雨(バレットスコール)』。」


「ほう。弾幕の量や密度はすごいが、この程度、私の魔法で撃墜…、なに?」


 瞬時にユアの魔法の意図を理解したウィルは、ユアの魔法の後ろに隠れながら敵へと近づくことに成功する。


「面白いが、まだ甘い。」


 しかし、ウィルの目の前に先ほど割り切ることができなかった黒い壁が何枚も現れる。そして地面が揺れたと思うと、ウィルの足元が割れていく。


「『地裂(アースクエイク)』プラス…。」


 ウィルは突如起きた地割れに飲まれ、逃げられなくなる。さらにウィルの頭上に岩が集まっていき、空を埋めていく。


「『岩屑顛落(メテオフォール)』、これで詰みだ。」


 視界を覆うほどの巨大な岩が降ってくる。


 やばい。これは避けられない。殴ってもあの大きさは無理だし、腕を変化させる時間もない、どうしよう……。


 ………ああ、ダメなお兄ちゃんでごめんな。少し自分が強いからって調子乗っちゃったからなあ、こんなことなら無理に森の奥なんて連れてこなければよかった。

 苦手だけど、魔法でユアが逃げられるくらいの隙、なんとか作らなきゃな。死ぬからかな。なんだか普段より冷静な気がする。これならうまくできるかな。よし、ユアに逃げること伝えて、ってあれ、ユア、なんでこっちに?


「お兄ちゃん!!!」


 必死な形相で駆け寄ってきたユアが風を起こしながらウィルのことを突き飛ばす。ウィルの視界には、安心して微笑むユアの姿が。


「ユア!!!!」


 急いで戻って助けようとするが、既にユアは岩につぶされている。


 そうか。さっきの風はユアが起こしたのか。ユアの力だと僕を突き飛ばすのは難しいと思ったのかな。さすがうちの妹、頭いい。


 ………違う、そうじゃない。ユアをすぐに助けないと。


「大丈夫だユア。こんな岩、すぐ壊して助けてやるからな。」


「…ありがとう、お兄ちゃん。でも大丈夫。」


「大丈夫って、なんで!」


「もうこっちの感覚ないんだ。だからお兄ちゃんは早く逃げて。」


「逃げるなんて、そんなの…。」


 …俺に体を治す魔法は使えない。確か父さんは村の人にそんな魔法を使っていた。どうしてあの時習わなかった。もし習っていればユアを助けられたかもしれないのに。どうすればいい。どうすれば。


 ユアを助けようとするウィルに石礫が飛んでくる。煩わしそうにその岩を避けると、冷酷な目でこちらを見てくる兵士が二人いた。


「これで一人、あともう一人だな。」


「……どうしてだよ。俺らは何もしていないじゃないか。なんでこんなことを。」


「これは戦争だ。お前たちを殺さないと、我々が殺されるかもしれない。我々の命だけじゃない。この任務の失敗は魔族の危険につながる。私はその命を背負っているんだ。」


 なんだそれは。魔族の命? 僕は、ただユアと、家族と一緒に平和な暮らしをしていただけなのに。これからも幸せに暮らしていたかっただけなのに。


 だから殺さなかった。最初に殴った人も殺さないように気をつけた。それ以降も殺さないで逃げられた時のことを考えて腕を変化させなかった。変化させると手加減ができないから。本当はもっと変われる。でもユアが怖がっていたのを知っていたから、ユアの前ではなるべく抑えていた。


 なのにこいつらはユアを殺した。僕から幸せを奪った。ユアはもう見ていない。ならもう手加減は必要ない。抑える必要はない。



 …………そうだ。


 ………こいつらを。


 ……殺そう。



『俺が替わってやろうか?』


(いやいい、こいつらは僕が殺す。)


 飲まれすぎんなよ、とつぶやくとそいつは内側へ戻っていく。



 殺す覚悟を固めたウィルは全身に力を込める。


「……なんだその姿は?異常な身体能力だったが、本当に化け物だったとはな。」


 ウィルの全身は青い鱗に覆われ、所々から白い毛が生えている。臀部あたりからは鱗に覆われた尾が伸び、先端は白い毛が覆われている。爪は鋭く伸び、この姿を表現するならば確かに化け物がふさわしい。


「化け物か。僕は今からお前らを殺す。だからそれで構わない。『限界身体強化(フルブースト)』。」


「それは困る。全身全霊をもって抵抗しよう。『黒壁(ブラックランパート)』。」


 魔物の枷は、今外された。

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