プレゼント交換
喫茶店を出ても私の顔は赤いまま。
だって、だって……。別にあんな事しなくても良いじゃん。
恨めしそうにしている私とは違い、彼氏である聡はずっとニコニコしたまま。
反省してない。何を言っても動じないし、喫茶店の中が温かい雰囲気になっているのに気付いた。
暖房の温度だけじゃない気がする。
悔しい思いでいるとマスターがサッと新しいコーヒーを用意して置いてくれる。
しかも、デザートにと頼んだプリンも付いている。
「今度はパンケーキを食べようね。そしたら、リクエストに答えて食べさせ合いをしよう」
「し、しないっ……」
「えー。家だとよくやるじゃん」
「そんな事言わなくて良いの!!!」
頼んだプリンの味が全然分からない。
コーヒーの味も分からない……。くっ、全ての原因は聡の所為だ。
しかも、常連さん達がずっと微笑ましくされている。
これか!!! この暖かい空気を作り出したのはあの人達だっ。
「迷子になるとマズいから手、繋ごう」
「……しょうがない」
そう答える前にちゃっかり握ってるよ?
聞いた意味ないよね。でも、嬉しそうにされてるとそんな言葉も出てこない。
2人で歩く街中は、イルミネーションだけでなくお店の仕様も全部がクリスマス一色。幼い時はこのイルミネーションの色が綺麗で、良く立ち止まっていた。
すると、肩に寄りかかる様にして体重を乗せて来る。
ギョッとしつつも、どうしたのかと聞いた。
「クリスマス一色で綺麗なのは分かるけど、僕とデートしてる自覚ある? 外だけじゃなくて僕の事も見て欲しいな」
拗ねた様に言う聡が今までにない反応で……。
だからだろうか。なんか、可愛く見えてしまう。
嫉妬する所がそこなんだと思いつつ、自分に向いて欲しいのかギューッと抱きしめて来た。
「星夜のいじわる」
「ど、どっちが意地悪よ……。十分、聡の方が意地悪だよ」
「そう? どうせ今日が楽しみ過ぎて、寝れなかったとみる。遅刻するんだろうな、って予想はしてた。間違ってるなら訂正してよ」
「うっ」
まさにその通りなので何も言えない。
反論できないのを良い事に、聡はとても満足している。
その後は2人でショップを見たり、お母さん達にケーキを選んだりした。楽しい時間があっという間で、気付いたら外はすっかり暗くなっていた。
欲しいなと思う物や喫茶店での会計は全部、聡が払ってくれた。
思わず「でも」と言いそうになり、この位は当然だと言われる。
「彼女の笑顔を見る為なら何だってやるよ。今までのお年玉も貯めてるから、この位はさせてくれないと」
イ、イケメンが言うと何でもカッコいいな!!!
何度も思うけど、私が彼女で良いのかって思う。でも、そんな事を言ったら普通に倍返しされるから言わないけど……。
いや、1回言った事があった。
当然の如く甘い対応されて、2度とそんな事思わないさせようかなんて言うからね。嘘でも付かないと色々とヤバい事になってたと思う。
「あー、あー。着いちゃったね」
残念がる聡の声にハッとなる。
買って貰ったケーキを聡が持っていて、私とも手を繋いでいて楽しかった。
隣人だからすぐにでも会える。
でも、ちょっとワガママかなと思いつつ手を握り返す。
「星夜?」
そんな私の態度に、聡も不思議そうにしている。
言葉を待つ彼に――私は意を決して言った。
「もう少し、もう少しだけ……居たい……。ダ、ダメかな?」
「……っ。反則過ぎるでしょ、それ」
はー、と苦し気に息を吐く聡をじっと見る。
よく見れば顔だけじゃなくて耳も赤い。寒さで赤くなっているとは、私だって流石に思わない。
「ごめん、ただいま。それと僕達が下に降りて来るまで、上がって来ないでよね!!!」
迷った挙句、聡は私を家に上がらした。
買って来たケーキもお母さんに渡して、私の事を抱えて自分の部屋に入る。玄関にあった靴は私の両親のもあった。
去年と同じく聡の家に集まっているようだ。そう言えば、大掃除しててとても上がらせられないとお母さんが嘆いていた事を思い出す。
「ゆかりに誘惑でもして来いってとか言われたの?」
「えっ」
何でそんな事を言うのだろう。
一緒に居たいのは、私だけの想いだった……?
「前にゆかりと話していたでしょ。やり返すとかやり返さないとか」
「う」
「全部は聞いてないけど、なんとなくそう思った。僕ばかりサプライズが成功してるから、今度こそはとでも思った?」
うぐぅ、それを言われると……。
それもあるけど、一緒に居たいと思う気持ちに嘘はない。
「僕は十分、星夜に振り回されてるよ」
「う、嘘だぁ」
「ホントだし。今だって、今だって……僕も一緒に居たいって思ったんだ。まさか同じだと思わなかったけど」
そう言って聡は机の引き出しから長細い箱を取り出した。
綺麗にラッピングされていて、リボンがクリスマス柄になっている。
「クリスマスプレゼント。いつものとは違うから」
「ありがとう。……開けても良い?」
「良いよ。デート終わりに渡す気でいたし、玄関で少し待ってもらう予定だったんだ」
なのに私が一緒に居たいと言ったから予定が狂ったんだと。
慎重にラッピングを外していく。聡が緊張した面持ちで見ているのが分かり、私もちょっと手が震えて来る。
蓋を開けてみると、ネックレスなのが分かる。しかも、小さなピンク色の石が丸く加工されている。
「ほ、ほら、星夜の誕生日は10月でトルマリンって石なんだ。……誕生日にって考え付かなくてごめん。装飾品とか渡した事なかったし、付けたくなかったらどうしようかと思ったけど」
あぁ、どうしよう。
凄く嬉しい。気付いたら泣いている……。
そう言えば、誕生日には手作りケーキ貰ったんだ。プリンタルトだったから驚いたのを覚えてる。
「え、ちょっ。や、やっぱり苦手だった? 無理しなくて良いよ。身に付けて欲しいからとかじゃなくて、付けたら可愛いかなって思って。あー、でも、これ僕の勝手な願いか。でも――」
「ふ、ふふっ……」
急に慌て出す聡に思わず笑ってしまう。
いつも先読みして、私ばかりドキドキさせられるのに。こんなに慌ててるのはレアな気もする。
「違うの。嬉しくて……。まさかアクセサリーを貰えると思わなくて。しかも、誕生石まであるんだもん。驚くに決まってるよ」
「そ、そう? よ、良かったぁ」
ヘナヘナと体の力が抜けた様に、聡はペタンと座った。
緊張していたのだろう。凄く苦しそうに息を吐いては、深呼吸を繰り返す。
……なんか、失敗したな。
「聡。も、貰ってくれる?」
「ん?」
私が彼に渡したのはサッカーボールを模したビーズのストラップだ。
ギリギリだったし、透明な袋に入れただけでラッピングなんて出来ていない。凄く申し訳ない気持ちで一杯だ。
恐る恐ると言う気持ちがあり、渡そうとした手をひっこめようとした。
でも、それを聡が阻止する。
そのままひょいと私を抱え込むと「手作りなの」と聞いて来た。
「う、うん。料理も下手だし……。聡に勝てそうなのが、裁縫とか手芸しかないから……」
段々と自分の声が小さくなる。
プレゼントの差が……。手作りなんてと思いつつ、サッカー部で活躍する聡の事を思ってと一生懸命に作った。
「ありがとう。凄く嬉しい……。カバンに付けて良いよね? 勿論、学校のだけど」
「え、ダメ!! そんなに恥ずかしいって」
「えー。じゃあ部活のカバンに付けるよ。そしたら、試合してても星夜と居るんだって気持ちがあるから頑張れる」
「もっとダメ!!」
そんな公開処刑は嫌だ。
そう言えばクラスだけじゃなくて、部活の人達だって恋人が私なのを知っていると言われ言葉に詰まる。
このままだと聡のペースになる。
そ、阻止だ。また普通に負ける事になっちゃう。
「素敵なクリスマスプレゼント、ありがとう。最高の彼女だよ、星夜」
そんな私の行動は先読みされた聡に封じられる。
結局、部活のカバンに付ける事を譲らないまま終わった。年を明けて、冬休みが終わり学校に行くとゆかりがニヤニヤしていた。
「どうだったの、クリスマスは」
「見てわかんないの? 惨敗だよ、惨敗」
「でしょうね。いつも以上に、近いもんね」
「これ位、普通だよ。普通」
ギューッと抱きしめて来る聡に、私は参った。クリスマスを得てからの彼のアピールが強い。
そんな私達を見て、クラスメイト達は納得したような顔をされた。
「あ、そうだ。来年のクリスマス、予定が空いてる人いるか? 新婚が作ったケーキ美味いらしい。大地が証人だ」
「え、マジ!?」
「あぁ、新婚……。仲が良いし、夫婦って言われても何か分かるかも」
知らない所で来年の話をされる。
え、待って。何で新婚ってなるの!? 微笑ましそうに見ないで欲しいし、周りが無言で頷いでいるのが凄く恥ずかしい。
大地君が「ケーキ美味いし、料理も美味い」と横で言ってるんだけど……。
確かに不思議なんだよね。私、個人でやると失敗するのに聡とやると妙に上手くいくんだ。
どうにかお菓子作りは、私だけで作っても失敗しなくなった。
次は料理の方だ。……頑張らないと。
「あぁ、嫌な予感当たっちゃったよ。……来年は騒がしくなりそうだけど、楽しみが増えたね」
そう言って頬にキスしてくる聡に、クラス中から黄色い声が……。
嫌な予感って何?
ちゃっかり来年の予定も立ってる。そう言えば、聡のお母さんと私のお母さんが言ってた。来年は忙しくなりそうだなって。
私だけ把握してないんだけど、どういう事ですか!!!