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今までの分をやり返そうと思います


「もうすぐね、星夜」

「うん」




 お母さんがカレンダーを見ては、ニコニコと意味もなく聞いてくる。

 私はそれに構う余裕がないから返事だけはした。


 その間にもお母さんはずっと楽し気だ。

 クリスマスが近くなって、街の飾りつけはイルミネーションに彩られている。子供の時にはワクワクしたし、1年が過ぎる程にどんどん派手になっている。

 ……思わず誰と競争しているのかと疑問になるが、綺麗なものが見れるのは良い事だと思う。




「毎年、聡君の家か私達の家でパーティーっぽくしてるけど。今年はどうするの? って聞くのも野暮ね。ふふ、彼氏とクリスマスデート。楽しんできなさいね」

「デートはデートだけど……。改めて言われると恥ずかしいから止めて」




 よしっ、最後の仕上げも出来た。

 失くすとマズいから、カバンにしまってと……準備よし!!!




「何時位になるんだ。あんまり遅いなら迎えに行くぞ」

「聡君がちゃんと送ってくれますよ。雰囲気を大事にしないと」

「……すまん。空気を読んでなかった」




 コホンと咳ばらいをしたお父さんが、恥ずかしそうに視線を逸らした。

 私が答える前に、お母さんが全部答えるのがな……。悔しい気はするけど、最近では聡に色々と教えているみたい。


 何を教えてるんだろう。

 好みなんて把握されてるし、これといって思い浮かばないんだけど。

 そんな考えを見抜かれたのだろう。お母さんは私を見て「楽しみにしてなさい」と言うだけだ。




「待ち合わせは10時なんだから。早く寝ちゃいなさい」

「はーい」




 ちゃっかり時間も把握されてる。

 聡に聞いたのか、もしくは聡のお母さんから聞いたのか。聡のお母さん、話すの大好きだから秘密が秘密じゃなくなるって嘆いてたな。


 聡のお父さんが、ね。

 サプライズを用意しているのに、何でか察知されてすぐに私のお母さんに言うんだ。

 嬉しくて楽しみにしてる。でも、1度もサプライズが成功していない聡のお父さんからしたら悔しいんだって。


 この間、お父さんと飲んでいた時にそんな事を零していた。

 泣きながらだったし、その空気に当てられたお父さんも一緒になって泣いてたな。変わらずの仲良しぶり。

 そう思うと、聡の察知能力の高さはお母さん譲りか。

 成程、逃げられない訳だと納得したよ。




「上手くいきますように……」




 自分の部屋に行き、服装とバックの最終確認。

 先を読まれていつも後手に回ってばかり。ちょっとしたやり返しも込めて、私は彼にあるプレゼントを用意した。


 驚いた顔とか照れた顔とか見た事ないから、見てみたいって思うのはしょうがない。

 明日は何とか成功させたい。


 そんな気持ちも込めて私は、明日のクリスマスデートが楽しみだ。

 案の定、寝坊してしまいお父さんに車で送って貰う始末。


 こんな彼女で、聡は本当に良いのだろうか。

 ショックを受けている私にお父さんは「頑張れ」と言って、背中を軽く叩いた。激励の意味もあり、大丈夫だと言われているのが伝わってくる。




「い、行ってきます!!」

「あ、ちょっと待て」



 お父さんの制止も聞かず、人が居ないのを見てドアを開けて出る。

 聡が焦った様子でいるのが珍しい。何でだろうと考えるのと、足が滑ったのは同時だ。




「あっ……!!」

「星夜!!」


 

 転ぶ。

 そう思った衝撃が来なくてちょっと焦る。え、と思い目を開けるとお父さんが倒れないようにと支えてくれた。代わりにお父さんが、転んでしまったが……。



「大丈夫ですか!?」

「あぁ、私は大丈夫だ。星夜は平気か?」

「うん……」



 聡が走って来て、私とお父さんに怪我がないかと聞いている。

 どうにか答える事が出来たが、慌てた上にカッコ悪い所ばかり見せている。



「私の事は気にするな。聡君、娘を頼むよ」

「はい」

「それじゃあ、邪魔者は消えとくね」

「ありがとう、お父さん……」



 待ち合わせ場所まで送ってくれて。

 そう言った私にお父さんは黙って手を振り、自宅へと戻る。


 あぁ……服は汚させてしまうし、いきなり気分が下がる。

 そんな私に聡は手を差し出して「まずは休もうか」と言って、前に誘ってくれた喫茶店へと向かうのだった。


 


「ほっ……落ち着く」



 遅刻した上に、慌て過ぎて失敗。お父さんに助けてもらわなかったら、この日の為にと用意した服が水たまりに濡れる所だった。

 お父さんの服を台無しにするつもりなんて無くて。

 ちゃんと周りを見てたつもりだったけど、本当に上手くいかない。


 マスターの淹れるコーヒーが美味しい。

 さっきまで気持ちは沈んでいたけど、落ち着くって言葉が零れた。



「それは良かったです。どうぞ、ゆっくりと寛いでくださいね」



 優し気に微笑んだマスターは、メニュー表を片付けながらそう言った。

 この喫茶店は聡がパンケーキが美味しいからと何度が連れて行って貰った事がある。部活が休みの日だったり、学校帰りにとよく寄っている。


 甘いものは好きだけど、バッチリ把握されており内緒でお店を探していたのだという。

 聡からのサプライズは成功してて、私のサプライズは成功してないのは不公平だと思うんだ。



「あれ、さっきまで笑顔だったのに何で睨むの?」

「……何となくよ」



 思わず恨めしいとばかりに睨んでしまった。

 向かい合わせて座る聡が不思議そうな顔をしていたが、答えるつもりはない。聡がカフェラテを飲みながら何処に行こうかと聞いてくる。



「寄りたいお店とかある? 今日はゆっくりしたいし、星夜のお願いなら何でも聞きたいし」

「ん~。聡とゆっくりしたい、かな」



 毎年なら私の家なり、聡の家でパーティーをしていた。

 2人でケーキを作ったりなどもした。クラスメイトのゆかりと大地君も誘った事もある。


 いつもと違うのは、私が聡の好意に気付いたからだろうか。

 彼はその前からだったようだし……。


 だから、クリスマスであるこの日――私はゆかりに相談した。


 好意に気付いたし、今までは幼馴染みとしてクリスマスを過ごしていた。けど、今回は違う。

 恋人になって初めてのクリスマスだ。今までのようにパーティーをして過ごすという訳にもいかない。


 い、今まで聡から貰ってばかりだったし。

 このクリスマスで、今までの分も含めて私からも何かしたい。ずっと私ばかりドキドキさせられるのは不公平だ。


 だからやり返す。

 そう言った私にゆかりは「あ、うん。無理だね」と諦めるように勧めて来た。……何故だ。



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