友との別れ
ローゼンハイムの巨大な城壁の周りは幅100フィートの巨大な堀で囲われていた。前日の雨に露と濡れた緑の瑞々しい土手のほとりで、一人の兵士が甲冑のまま釣りをしていた。
昼休憩の際の交代勤務時にそのまま川釣りをするのが彼の日課だった。このたるんだ軍務態度にも誰も文句を言わなかった。都市の平和は誰もが確信していた。
彼のもとへ金髪の若者が土手を降りて歩いてきた。彼は釣り竿を脇に抱えていた。
「釣れてる?」若者は聞いた。
「全然」兵士は答えた。この兵士も同様に若かった。兜を脱いだ兵士の丸みを帯びた目鼻立ちはまだまだ少年の面影を残していた。
若者は兵士の脇に腰を下ろすと、兵士のエサ箱を勝手に漁りミミズをつまみ出し、針先にちょん掛けして水辺に放り込んだ。二人はしばらく水面を見つめていた。静寂のまま時は過ぎた。釣り糸の先の浮きはピクリとも動かなかった。
「突然だけどさ」金髪の若者は言った。「お別れを言いに来た」
「なに別れって」兵士の若者は答えた。
「仕事で遠くに行くことになった。たぶん一生の別れだと思う」
兵士は目を細めて若者を見上げた。友人の顔は逆光の影になり表情がよく見えなかった。
「仕事って?」兵士は訊いた。「お前って結局何やってるやつなの?」
金髪の若者は答えなかった。
「遠くってどこいくの」
「北のどっか」
「どっかって。唐突だな」
二人はしばらく押し黙った。兵士は水面を見つめたまま言った。
「まあ頑張れよ。達者でな、アラン」
「アランじゃないんだ」金髪の若者は語気を少し強めて言った。兵士はまた振り返って友人を見つめた。
「クリスっていうんだ。俺の本名」
「そっか」兵士は水面に向き直って言った。「クリス。きっちり覚えた」
「ありがとう」クリスは答えた「お前も達者でな」
兵士はうつむいたまま水面を見つめていた。視界の外で若者が立ち上がり芝を踏みしめ去っていく足音が聞こえた。やがて兵士が振り返ると、クリスの姿はもうそこにはなかった。




