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天才の魔獣・秀才の魔獣 8

     8.

 実の所、別れてからの方が遙かに大変な出来事が待ち構えていた。


 皇帝陛下は、近衛騎士隊や兵部省・魔導省の直属部隊から、幾つもの追跡部隊を出した。


 殆どの部隊は成果なく帰還したが、魔導省直属部隊で最も素行の悪い『蒼炎の槍兵隊』だけは未帰還だった。


 リュースと戦って全滅したと信じたい。


 銀髪の若い魔導師ゲルドの疑いも晴れた。


 本人が頑なに否定していたので、牢屋に放り込まれて毎日泣いていたらしい。


 容疑を晴らしてもらったので、これまた泣いて喜んだ。


 フィスがアガベルケスを殺害していたことは、手口の再現ですぐに解った。


 そしてその動機は残されたフィスの荷物に入っていたの。


 なんとハズバーンの設計図、それも清書した本来の物と、清書前の下書きの物と。


 その下書きにはフィスのサインがあった。


 下書きのうちの幾つかは、例のあたしに似た字だった。


 あたしは推理した。


 アガベルケスはフィスの不正を知り、それをネタにしてフィスからハズバーンの設計図を取り上げた。


 単に取り上げたか、共同開発にするとか言っておいて、約束を反故にしたのか――そしてそれで揉めて、フィスはアガベルケスを殺害した――そんな所かしら。


 ほかにも制御クリスタルの発注で女装するのに使ったと思われる、女物の服や派手な髪飾りも出てきた。


 フィスは才能ある魔導師だった。


 実際にハズバーンを創り、アクベスバの計画が進むと独学でアクベスバ2も開発した。


 無能とは程遠かったはずなのに。




 これさえも些事。


 あたしはまず拘束された。


 厳罰も覚悟したが、拍子抜けすると呆気ない沙汰が待っていた。


 新設された魔獣研究所副所長のポストと、ガディ家が男爵への身分昇格。


 あたしに与えられたのはそれだけだった。


 フェルディナント皇子がエル王女を連れ出すと外聞が悪く、『フィスが唆しフェルディナント皇子とエル王女が手に手を取って逃げ出した』と主犯を誤魔化すことで外への宣伝にしている。


 あたしがその証人で、身分昇格は口止め料。


 異世界にまでリンゼータについて行かなかったことさえも、『異世界へ行く邪魔だと置いて行かれた』ことにしたら、全く咎められなかった。


 赤薔薇騎士隊はあたしが共犯だとは一言も言えなかった。


 下手な事を言えば自分達が何も気づかなかったことが問われるし、証拠も何もない。


 ただ、『アクベスバ2とリプクレスはディグベスバを圧倒する実力を持っていた上、エル王女がフェルディナント皇子の所に呼ばれて行ったため、巻き添えを恐れて手が出せなかった為に一方的に攻撃された』と庇ってあげたから、首の皮一枚で取り潰しだけは免れた。


 お陰であたしには全く頭が上がらなくなり、あたしには完全敬語。


 ミアさんは――流石メイド長。


 リンゼータが女王になれたら、養母である自分は貴族になる約束を皇帝陛下に取り付けていて、なれなかったことを揶揄して皇帝陛下を困らせた。


 そのためにまさかリンゼータ脱走にも、自ら一枚噛んでいたとは夢にも思われなかった。


 脱帽よね。


 あたしがリンゼータについて行けなかったことは、ミアには形だけなじられたが、彼女はこちらの心中察してくれていたので、お互い苦笑いした。


 カールとカレンは相変わらず元気がない。


 大きいなりで甘えん坊だから。


 キールはずっと見かけない。


 まさかついて行ったのかしら?


 魔導研究所魔獣部は、第2課長が第1課長を殺害し、あまつさえ第三皇子を傷つけた。


 研究費の横領・研究成果の秘匿・裏取引の常態化が明るみにされ、皇帝陛下はこれに激怒して魔導研究所において魔獣部を解散、独立して兵部省の直轄で魔獣研究所を創設させた。


 魔獣部の魔導師の一部が移籍(元魔獣部の残りは魔導研究所を解雇されたり転属になった)、魔導研究所の魔獣部以外の部署からも一部が転属になって、魔獣専門の研究所が設立し、この所長はなんとお父さま。


 褒美の意味のあったのかもしれないものの、ストレスで長生き出来そうにないわ。ハア。


 あたしだって開発部長も兼任させられてしまい、未だに信じられないわ。


 魔獣部で過ごしたような日常がやっと戻って来た。


 何段階もすっ飛ばした昇進で新研究所を切り盛りする立場になってしまい、リュースとはまた違った苦難の毎日。


 天災皇子から解放された一方、いなくなると困る天才皇子の頭脳。


 アクベスバの改良案が命令されても、天才が創った魔獣の改良なんて凡人の身では手に余る。


 ふふっ、卒業したのはあたしの方だったのかしらね。


 また徹夜した研究所の設計室で、朝日を見ながら感慨にふけった。


 違う空の下で、天才皇子と優しいメイドがどんな幸せを見つけたのか――


 いつかそれを聞かせてもらえる日を楽しみにして――


「リンゼータ、幸せを掴みなさいね!」


(完)


最後まで(または最後を……)読んで頂きましてありがとうございます。

宜しければ感想などを頂けますと、なお嬉しいです。

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